ここでは、農水産品の地域ブランド化に取 り組んでいる事例を紹介する。1つ目はすでに 全国的な知名度のあるブランド水産品の関あ じ・関さば(アジ・サバ、大分県漁業協同組 合(JF大分)佐賀関支店が主体)、2つ目は数 年前にブランド化に着手した山形県庄内地域8 町村の庄内ちゃまめ(枝豆、庄内たがわ農業協 同組合(JA庄内たがわ)が主体)、3つ目は都市 近郊での畜産品のブランド化に着手している 彩の国黒豚(黒豚、全国農業協同組合連合会埼 玉県支部(JA全農さいたま)が主体)である。
(1)関あじ・関さば(JF大分佐賀関支店)
大分県佐賀関町は人口約12,500人の漁業の町 であるが、この町で獲れるマアジ・マサバは
「関あじ」「関さば」(図表3)として地域ブラ ンド化され、新鮮さと味の良さは全国的に評
判になっており、農水産品の地域ブランド化 の典型的な成功事例である。ブランド化には 1988年頃から取り組んでおり、15年程度経過 している現在では十分に成果が得られている。
イ.地域条件等
アジ・サバは通常回遊魚で群れをなして泳 いでいるが、佐賀関町周辺のアジ・サバは回 遊せず一カ所に住みついているため、脂のの りがほどよく刺身で食べることが可能なほど、
品質が高い。
佐賀関町の魚場は速吸瀬戸と呼ばれる瀬戸 内海と豊後水道の分岐点に位置するため、潮 の流れが速く海底の地形が非常に起伏に富ん だ天然礁に恵まれ、餌となる生物も豊富に発 生している。さらに海水温度も夏冷たく、冬 暖かくなっている。こうした環境から周辺に 住みつくアジ・サバは適度に太り、身が引き 締まり、旨みと歯ごたえを生み出し、また年 間を通じて安定した品質を維持している。
こうした恵まれた環境を最大限生かすため、
1988年からJF大分佐賀関支店(旧佐賀関漁協、
2002年4月に大分県下27組合が合併、2002年度 水揚高約14億8,500万円、2002年度末旧佐賀関
図表3 関あじ・関さば
(出所)JF大分佐賀関支店ホームページ
(http://www.sekiajisekisaba.or.jp/)より
漁協組合員数853名)が中心となって、「関あ じ・関さば」の地域ブランド化に取り組んだ。
ロ.品質の保証
JF大分佐賀関支店では、最高の品質を保証 できるよう、以下の条件を満たして、漁協か ら出荷するアジ・サバのみに、「関あじ・関さ ば(1996年商標登録認可)」の商標を付与して 販売することとした。
・魚に極度の緊張感を与えることや傷つける ことを避けるため、網を使わず一本釣りで 漁獲したもの
・魚臭くしないために、餌として疑似餌かゴ カイを使用したもの
・人間の体温を魚に伝えず、さらに魚が暴れ ないようにするため、直接魚体に触れるこ となく計量・売買(「面(つら)買い」)さ れるもの
・その日に釣れた魚「新魚(あらいよ)」を落 ち着かせるため、一日網いけすにおかれた もの
・新魚の興奮を新魚以外の魚に伝えないよう にするため、釣日別に管理されているもの
また、偽ブランドを排除するため、以下の ような施策も講じている。
・出荷する魚に商標マークの入ったタックシ ールを一匹一匹に付ける。
・漁協から直接購入している飲食店に「関あ じ・関さば特約加盟店」の看板(漁協で看 板を製作し加盟店に貸与)を提示する(加 盟店には漁協から直送している)。
ハ.消費者認知度の向上
消費者認知度の向上のため、以下のような 施策も講じた。
・福岡中央卸売市場、北九州中央卸売市場、東 京築地魚市場、大阪中央卸売市場で、料理 店、デパート、マスコミ、地元出身者を招 待してキャンペーンを実施した。
・著名人に試食を依頼し、その評判をテレビ 番組、講演会等で話してもらうことを依頼 している。
・漁協自らが仲買人となり、関あじ・関さば を広くPRするため、県内のイベント出店や グルメ番組、雑誌の取材等に積極的に対応 している。
・漁協自らがホームページを開設し関あじ・
関さばを直売している。
・漁協隣接地に直営レストラン「関の漁場」
(活魚、一夜干しの直売所も兼用)を開設し、
消費拡大や観光客誘致を図っている。
・地元大学の先生に、他の魚との脂肪量やK値
(腐り具合)等の比較研究を依頼し、品質上 の優位性に関する具体的なデータを学会・
漁協のホームページ等で公表している。
ニ.費用と効果
こうした施策の費用については、たとえば 九州でのキャンペーンでは1回約200万円、東 京・大阪では500万円程度かかっており、トー タルで約2,000万円となっている。しかし、大 分県の1村1品運動の支援もあって、県庁から 1/2、町役場から1/4の補助金を得ることがで きたため、漁協の負担は全体の1/4の500万円
前後で済んでいる。
漁協等の努力によって魚価は高騰し、1988 年に一本250円(仲買人による取引価格)だっ た関さばは一本2,500〜3,000円と10倍以上に
(販売時点では一本(約600g)4,000〜5,000円)、 一本1,000円だった関あじは一本2,000円と2倍 に値上がりし、漁業者は価格競争に巻き込ま れることなく安定した収入を確保できている。
関あじは年間約3億8,000万円、関さばは約3 億5,000万円程度の水揚額だが、地域ブランド 化に成功していなければ、関あじは1/2、関さ ばは1/10程度の年間水揚額になっていたはず である。つまり、関あじの約1億9,000万円、関 さばの約3億1,500万円の合計約5億円の年間水 揚額は、地域ブランド化によって上積みされ た経済効果分といえよう(2002年度の年間水 揚額14億8,500万円の約34%を占める)。
さらに関あじ・関さばがテレビなどのマス コミで取り上げられる機会が増え、観光客が 増加している。大分県観光動態調査によれば、
ブランド化着手時点の1988年には佐賀関町へ の観光客数は年間約16万人であったが、2001 年には約30万人とほぼ倍増した。増加分の年 間14万人の観光客は地域ブランド効果分とい え、観光客が平均2,000円程度の飲食や買い物 をしたとすれば、町内に年間2億8,000万円の経 済効果が創出されていることになる。
これをあわせると、地域ブランド化によっ て年間約8億円の経済効果が発生している。こ れは、キャンペーン等に要した費用をはるか に超える額であり、佐賀関町の1999年の商業 年間販売額(小売業+卸売業、商業統計調査)
76億円の10%以上に相当する。地域ブランド 化による経済効果の大きさがうかがえよう。
ホ.今後の展望・課題
2001年からは、佐賀関町役場、地元の大分 のぞみ農協、商店街と共同で、地元向け関あ じ・関さば祭りを開催している。こうしたイ ベントによって、周辺市町村からの観光客が 増加することになり、地域の小売業や飲食業、
バス・タクシー等にも地域ブランド化の効果 がこれまで以上に波及していると思われる。
なお、県内の別府や湯布院、近隣の黒川な どの有名温泉地と連携した観光コースづくり への要望が寄せられているが、現状では町内 に収容可能な飲食等の施設が不足しているこ とが課題となっている。現在、大型の飲食施 設づくりが検討され始めているが、実現すれ ば、今後観光客がさらに増加し大きな効果が 期待される。
(2)庄内ちゃまめ(JA庄内たがわ)
山形県北西部の庄内地域は米を中心に野菜・
果樹などが生産されるなど、農業が盛んな地 域であるが、この地域で採れる枝豆は豆粒が 大きく、その品質・味の良さは以前から近隣 の市場関係者等では高い評価を受けており、JA 庄内たがわでは枝豆の地域ブランド化に取り 組んだ。
イ.地域条件等
庄内地域に広がっている庄内平野は、西は日 本海に面し、北に鳥海山、南に月山があり、南
北には最上川と赤川が縦断していて土壌が肥 沃な上、日照も豊かで寒暖の差が大きく、夏に は北東から乾燥した風が吹くという枝豆づく りに最適な自然と気候に恵まれた地域である。
元来、庄内地域の枝豆は慣例的に「だだち ゃ豆」と呼ばれ、他地域産と区別されていた が、1997年に庄内地域のあるJAがだだちゃ豆 の商標使用権を得て、枝豆の販売を始めた。こ のJAでは、品質向上はもちろん、テレビCMを 有効に利用するなど、積極的に宣伝に取り組 んだため販売量が増加したが、その影響でそ の他の周辺地域では、だだちゃ豆の名称が使 えなくなり枝豆の販売量に影響した。
そこで庄内地域の7町1村(温海町・余目町・
立川町・藤島町・三川町・羽黒町・櫛引町・
朝日村)を管内とするJA庄内たがわ(2000年 度取扱高19,146百万円、2001年度末組合員19,419 人、図表4)では、2001年から農家の所得向上 と枝豆消費の拡大、地域活性化を目的に、管 内の枝豆のブランド化に取り組み始めた。
庄内地域では減反政策に伴う米作からの転 作が課題となっているが、枝豆は作付面積が
大きく転作作物として有望であるため、そう した点からもJA庄内たがわでは、重点作物と して取り組んでいる。
ロ.品質の保証
高い価値を保証するため、JA庄内たがわで は以下のような厳しい生産・出荷基準を設け、
これを満たした枝豆にのみ「庄内ちゃまめ」の 商標を付与して販売している。
・枝豆では土づくりが重要で、転作1年目の田 や砂地の畑には作付けしない。
・畑には、豆がタンパク質と炭水化物を十分 引き出せる適量の有機質肥料・たい肥(植 物質・畜ふんを発酵させた完熟たい肥)を 施す。
・種子はJA庄内たがわの「採種圃」という専 用の畑(専門管理員7人)で色・形の良いも ののみを厳選して使用する。
・収穫時期は8月から9月であるが、枝豆は暑 さに弱いため、収穫は夜明け前の午前3時か ら朝7時までに行う。
・収穫後はすぐに氷水に浸し鮮度を保ち、夕 方に農協へ搬入し冷蔵で出荷する。
・農薬は病害虫が付きやすい開花期以外は一 切使わない。
・JA担当者・農家の代表者等による検品、検 査で不良品は排除、B品は加工用にする。
ハ.消費者認知度の向上
消費者認知度の向上のため、以下のような 施策を講じている。
・2001年の収穫期には、販売促進のため生産
(出所)JA庄内たがわホームページ
(http://www.ja-shonai.or.jp/)より
図表4 JA庄内たがわ