また,小集団内におけるトラブルは,演技構成を話 し合う場面において多く発生していた.4年生の児童 は,「技」の同一性を「合わせる」ことと捉える傾向が強 かったため,技能レベルの高い児童が違うr技」を行う ことに対して,グループの仲間が抵抗感を示し,演技 構成がまとまらないことにつながっていた.教師が,
話し合いに適切な助言が行えたグループにはトラブ ルは認められなかったことから,この点について学級 全体に共通して理解を深める指導の必要性が示唆さ
れた.
(3)6年生と4年生の比較
1)技能的側面
4年生においては,開脚後転を除く7種目で,単元 後半において有意に向上した(図5−11).特にこのこと は,「前転」「開脚前転」「とび前転」「側方倒立回転」
で顕著であった.この傾向は,6年生でも同様に認め
られた.
集団演技の構成は,4年生と6年生で可能であるこ とが認められたが,その内実には,6年生と相違が認 められた.(図5−21,22)
すなわち,6年生においては,後転系のr技」は敬 遠する傾向が認められたが,4年生においては,後転 系の「技」を,全員が行う「技」として積極的に取りあげ ているグループが半数以上で認められた.この要因 は,『新しい発見』項目のrグループに関すること」の 記述内容から推察された.
すなわち,4年生では,r膝をしっかりのばすときれ
いに見える」「手をつかずに立っときれい」等,一人一 人の動き方に視点をおいてグループとしての美しさを 追求しようと考えていた.これに対し6年生において は,r全員がリズムに合わせると美しい」r歌詞の○○
の部分でみんなが手をつく」等,グループ全体でr合 わせる」ということに視点をおいた記述が多く認められ た.全員で合わせる「美しさ」を求めることに意識の高 い6年生は,頭越しの部分のある後転系の「技」は,
「合わせる」という面で問題があるので採用しなかった ものと考えられた.
換言すれば,集団演技における「美しさ」に対する 意識に学年差が存在すると考えられる.
2)情意的側面
rよい授業への到達度調査」r態度測定」rマット運 動に対する好嫌度」は,両学年ともに高い結果が得ら
れた.
しかしながら,4年生HS群女子においては,「価値」
尺度を高め得なかったことが,授業の成否をrアンバ ランス」と診断させた.
r価値」尺度を高め得なかった最大の要因は「話し 合い活動j項目点の低下によるものであった.「よい 授業への到達度調査」の『仲間との協力』項目の自由 記述にも,「意見を聞いてくれない人がいた」「話し合 うときに勝手なことをしていた」などの記述が認められ た.これらのことは,先行研究でも指摘されているよう に,態度測定の価値尺度を高めるためには,学習集 団の組織・運用が重要であることを示唆している9).
(個) 仲間との協力 30
25
20 15
10
5 0
2.『倒立からの前転』を学習過程に位置づけた効
果の検討
(1)技能的側面の学習成果 1)個人の「技』の変容
図5−4に示したように,HSR群の方が,単元後 に,「後転」を除く8種目で,HS群よりも技能得点は高 値を示した.
また,「とび前転」(HSR群:2.2±1.6→3.5±1.4点,
HS群=2.3±1.5→3.2±1.7点)「後転」(HSR群:2。8±
1.5→3,8±1.6点,HS群12.8±1.4→4.0±1.6点)「側 方倒立回転」(HSR群:3.5±L4→4.9±1.7点,HS群1 3.3±1.2→4.5±1。6点)の3種目で,単元を通して,両 群間に伸び方の相違が認められた。
「とび前転」を集団演技の中で演じた回数は,HSR 群の方が,HS群より多かった(図5−21).HSR群の児 童は,「倒立からの前転」の練習によって,「とび前 転」の着手の瞬間に重要と考えられる「手支持感覚」
を,より確かなものとして体得したことが影響している ことが考えられた.事実,集団演技でも,仲間が「横こ ろがり」や「側転」をする上を「とび前転」で跳び越す,
というようなr技」の組み合わせ方が,HS群よりHSR群、
で多く認められた.すなわち,集団演技の面でHSR群 における演技構成の幅を広げたことにおいても,「倒 立からの前転」の効果が認められた.
ところで,r倒立からの前転」の練習過程をHSR群
に位置づけたにもかかわらず,「倒立前転」の成績に は,両群間で,ほとんど差が認められなかった.それ には,単元前半の個人の「技j練習の内実に要因が
あると考えられた(図5−4).
すなわち,単元前半,HS群の児童の約半数が,個 人の「技」において「前方倒立回転とび」を習得したい r技」として選択・練習していた(表5−7),その練習過 程において,足の強い振り上げと,倒立姿勢を保持 する動きを習得するために,ウレタンマットにホップ動 作から倒立をし,倒立姿勢の状態でそのまま倒れるこ とを行っていた.この練習の初歩段階では,倒立姿 勢が維持できず前転してしまうケースが多く見られ,
「倒立からの前転jを結果として練習していた。
すなわち,両群の「倒立からの前転」の練習回数に 相違は生じなかったことが,「倒立前転」の技能に両 群間に差を生じさせなかったものと考えられた.
これらの結果は,第皿章で作成した「技」の指導体 系において「倒立」を中核的技として位置づけること の考え方の妥当性を支持していると考えられる。
4年生においても,HSR群の方が,単元後にHS群
よりも多くの「技」で高値を示した(図5−11).
この傾向は,特に「倒立前転」(HSR群13.9±0.9 点,HS群:2.9±1。2点)においても認められた.
HSR群は,単元終了時の発表会においても「倒立 前転」を演技構成に取り入れていた(図5−22).
表5−7.個人の『技』練習で選択した「技』の時間別一覧 (注:HSR群31名,HS群32名)
HSR群 HS群
時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時
1云 0(人) 3(人) 1(人) 1(人) 1(人) 0(人) 0(人) 0(人) 0(人) 0(人)
汗脚1一 0 4 4 3 2 0 0 0 0 0
とび1云 0 3 7 5 6 2 2 1 0 0
嗣晶一 零
1
3113 2 1 0 5 2 2 3 3
ば 一
五
0 0 1 3 3 3 3 3 4 5
繧 閣
五
0 1 3 3 2 1 1 1 1 1
伸 繧云 0 1 0 1 2 0 0 0 0 0
側方倒立回転 0 0 1 1 1 10 7 4 0 0
ロンダード 0 2 5 2 4 2 2 5 8 8
前方倒立回転とび
0 4 7
1110 9 15 16 16 15
2)r技』における動作パターンの学習による変容 図5−18は,6年生の両群の前転の動作パターンの
学習による変容を示したものである.
前項では,平均値で両群の違いを比較し,HSR群 の方が技能を伸ばしていることを述べてきたが,ここ では,動作パターンの面からその要因を考察する.
HSR群の方がHS群よりも,単元後において,より 大きな回転力を生みだすために「膝を伸ばして前 転する」段階5以上に位置する児童の多いことが認 められた(段階5以上の児童:HSR群;単元前5名→
単元後23名,HS群;単元前2名→単元後9名),
この段階5は,「倒立前転」の「倒立」によって得 た位置エネルギーを運動エネルギーヘと変換して いく動きが,r前転」の後半部に生かされたものと 捉えることができる.この膝を伸ばした大きな前転 を習得することは,「開脚前転」や「伸膝前転」の習 得にも重要なポイントとなる.
すなわち,r倒立からの前転」の練習過程を学習し たHSR群の方が,膝を伸ばして行う発展性を含んだ 前転を習得する上で効果的であることが示唆された.
この傾向は,4年生においても同様に認められた,
図5−19は,6年生の両群の開脚前転の学習による 動作の変容を示したものである.
開脚前転においても,両群とも,上位のパターンに 移行していることが認められた.
しかし,HSR群の方がHS群よりも,単元後におい て,立ち上がりの場面で有効に働くより大きな回転 力を生みだすためにr膝を伸ばして前転する」段 階5以上に位置する児童の多いことが認められた
(段階5以上の児童:HSR群;単元前4名→単元後23 名,HS群;単元前6名→単元後16名).
この段階5は,「倒立前転」の「倒立」によって膝 を伸展させることへの意識が高まり,r開脚前転」の 後半部に生かされたものと捉えることができる.こ の膝を伸ばした大きな前転を習得することは,「伸 膝前転」の習得にも生かされていることが認められ
た.
すなわち,r倒立からの前転」の練習過程を学習し たHSR群の方が,膝を伸ばして行う発展性を含んだ
r開脚前転」を習得する上で効果的であることが示唆 された,この傾向は,4年生においても,同様に認めら
れた.
さらに,いずれの学年の「側方倒立回転」にも,「前 転」「開脚前転」と同様に,「倒立からの前転」の練習 を組み込んだ効果が認められた(図5−20).
6年HSR群
6年HS群馨 前転の運動様式 単元前 単元後 単元前 単元後
7 薩艘食ふ鐵麟
6 垂疲瓶談謝蝋蚤
口5 壷趣ε濃壷齢
ム蝕ム企*
□□
△△企《含 ムム
*
ロロロ
4 盤蹄蹴懸鍵 田 ロロo
呂ロ□□。
■Oム3 鹸狸璽蟹鐘軽
■■2 歪嚢蝕艘璽鉦藍.
O ■口■1 鍵譲塵》蓮笠轍
OO○□△・ 10人
□△■ 5人
・△_ 1人
段階点平均
(点)
3.9
4.71 3.81 4.09
撮準偏差
0.94 0.69 0.58 0.82
図5−18.前転の動作パターンの学習による変容(6年)
l5‑19. r,f ] t o) = l J: b4 / /o) E (6 F)
15 20 ll l !I t l 20)= I J; l( / ‑:/a) E *(6fF)
3)集団演技における「技」の頻出度
6年生の両群が単元終了時の発表会で演じた
「技」の総計は,HSR群の方がHS群よりも高値を示 した(HSR群:822回,HS群:711回)(図5−21).
また,「バランス技」と「ジャンプ技」の合計数と
「前転」を除く他の「技」の総数も,HSR群の方が多 く演じられていた(「バランス技+ジャンプ技」HSR 群:196回,HS群:75回,「前転を除く総数」:HSR 群1484回,HS群:332回),
この「バランス技」と「ジャンプ技」は,児童の演 技構成において,「技」と「技」のつなぎや方向転 換のために行うケースが多く認められた.それら は,立位によって行われる場合が,ほとんどであ る.つまり,「バランス技」や「ジャンプ技」を行って いるHSR群の児童は,HS群の児童よりも,r技」に 入る前の体勢が高くなっている場合がより多いと考 えられる.それは,「立位から膝を伸ばして回転す
る」段階以上のr技」を行いやすくすることにつなが るものであるといえる.すなわち,HSR群の方が,
前述したr前転」の段階5以上の運動パターンのよ うな膝を伸ばした大きなr技」ができるようになった ことが認められた.
r倒立前転」の演じられた回数は,両群間で伸び同 様に違いは認められなかったが,その内実には違い
が認められた,
HS群の児童は,手倒立からの前転のみを「倒立前 転」として行っていたのに対して,HSR群の児童は,
「評価基準表」に示したすべての倒立から前転を行っ ていた.このことは,「技」の指導体系が,児童に受け 入れられたことを示していると考えられる.
図5−22は,4年生の両群が,単元終了時に発表 会で演じたそれぞれの「技」の総数を群別に示した
ものである.
(回》
900 800 700 600 500 400 300 200 100
0
3379