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(2) 有用性と信憑性の関係の検討

ここまで有用性と信憑性という2つの概念で財務諸表監査が保証する財務諸表の信頼性 をあらわすことができるということを主張してきたが、ここからは有用性と信憑性をどの ような概念構成であらわすことが適切なのかを検討していく。

まず、有用性と信憑性を上下関係であらわしてみる。

しかし、有用性は財務会計領域の概念であり、信憑性は監査領域の概念である。つまり、

有用性と信憑性は隣接分野の概念なのである。このことから、有用性と信憑性は基礎とな る理論が異なるということがいえる。よって、有用性と信憑性は上下関係であらわすこと

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ができないのである。

以下、有用性と信憑性を上下関係であらわした場合における信頼性の概念構成を掲げる。

図14 上下関係であらわす有用性と信憑性

(図は筆者作成。)

次に、有用性と信憑性を重複関係であらわすことが考えられる。

しかしながら、この2つの概念を比較すると定義が重なり合う部分はないと考えられたた め、有用性と信憑性は重複関係であらわすことはできないことがわかる。

以下、有用性と信憑性を重複関係であらわした図を掲げる。

図15 重複関係であらわす有用性と信憑性

(図は筆者作成。)

そして、有用性と信憑性は、並列関係であらわすことが考えられる。

しかしながら、有用性と信憑性という概念を独立した形で並列に並べると、第1義的に財 務諸表に有用性が加わり、第2義的に信憑性が加わるという財務諸表の信頼性の保証の進行 過程を適切にあらわすことができない。

以下、有用性と信憑性を並列関係であらわした図を掲げる。

有用性 信憑性

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図16 並列関係であらわす有用性と信憑性

(図は筆者作成。)

さらに、有用性と信憑性は包含関係であらわすことが考えられる。財務会計領域の有用 性を監査領域の信憑性で包含する関係である。

財務諸表監査において保証される信頼性を包含関係であらわすと、財務諸表監査によっ て、まず財務諸表の有用性が検証され、その後財務諸表に信憑性が生じるという概念が財 務諸表に付与される順番を適切にあらわすことができる。

さらに、財務会計の理論と財務諸表監査の関係を考慮すると、財務諸表監査は財務会計 の理論に基づいて作成された財務諸表を補強する関係にあるため、信憑性が有用性を包含 する包含関係であらわすことが妥当といえるだろう。つまり、有用性と信憑性は包含関係 であらわしても矛盾が生じないのである。

以下、有用性と信憑性の包含関係を図で示す。

信憑性

統制

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図17 包含関係であらわす有用性と信憑性

(図は筆者作成。)

第3項 財務諸表監査の役割の二面性

ここまで財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性には2つの意味があることを論 じてきたが、ここからは「財務諸表の信頼性を保証する」という財務諸表監査の役割をあ らわす慣用句自体が二面的な意味を持つことを論証していく。

財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性に2つの意味があることから、「財務諸表 の信頼性を保証する」という財務諸表監査の役割自体を2つに分類することが可能になる。

そもそも財務諸表監査の「財務諸表の信頼性を保証する」という役割を一面的に捉えよ うとすることによって、財務諸表監査の役割は捉えにくいものとなっていたのである。よ って、財務諸表監査の役割を2つに分類し、財務諸表監査の役割の理解可能性を高める必要 がある。

まず、「財務諸表の信頼性を保証する」という財務諸表監査の役割を「財務諸表の信頼 性(財務諸表の質。本論文では財務報告の目的である有用性を指す。)を保証する」という役割と「財務諸 表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』の信憑性を指す。)を保証する」という役割に分 類する。

ここで、2つに分類した「財務諸表の信頼性を保証する」という財務諸表監査の役割をど のように捉えればよいのかを考える必要がある。本論文では、財務諸表監査の役割を2つに 分類する際に財務諸表監査の役割や必要性に対して多面的に考察が実施されている『コー エン委員会報告書』(THE COMMISSION ON AUDITORS' RESPONSIBILITIES[1978]“Report Conclusions and

Recommendations”)を参考にしていく。

『コーエン委員会報告書』[1978]の社会における監査人の役割という節では、「監査人の

信憑性

統制

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職能は財務情報に信頼性(credibility)を付与することであると説明されてきた。この考え方は、

監査意見の表明を強調する通常の財務諸表監査について述べられている監査の目的に合致 するものである。しかしながら、この考え方は、監査の根底にある目的、すなわち、その 社会的機能を識別していない。」と財務情報に信頼性を付与することに関して見解が述べ られている(THE COMMISSION ON AUDITORS' RESPONSIBILITIES[1978]1)。なお、ここで使用されてい る財務情報の信頼性を付与するという慣用句と財務諸表の信頼性を保証するという慣用句 における意味に違いはないものとして考察をすすめていく。

『コーエン委員会報告書』が財務情報の信頼性を付与するというだけでは識別できない 社会的機能は、本論文が提唱してきた「財務諸表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』

の信憑性を指す。)を保証する」という役割のことではないだろう。そして、『コーエン委員会 報告書』が財務情報の信頼性を付与するといった場合の信頼性は財務諸表の質を指すか定 かでない。

ただし、これまで多くの先行研究で支持されてきた「財務諸表の信頼性(財務諸表の質。本論 文では財務報告の目的である有用性を指す。)を保証する」という財務諸表監査の役割だけでは財務 諸表監査の社会的機能を適切に認識することはできないと本論文は考える。

しかし、本章で言及してきた「財務諸表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』の信 憑性を指す。)を保証する」という財務諸表監査の役割では財務諸表監査の社会的機能を認識 することができる。財務諸表監査の「財務諸表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』

の信憑性を指す。)を保証する」といった場合の信頼性は、財務諸表監査が実施されたことによ り財務諸表に生じる安全性の意味合いを持つ信頼性を意味する。この信頼性(社会一般の信頼性。

本論文では『ASOBAC』の信憑性を指す。)の保証が財務諸表監査の社会的機能である。

もちろん、財務諸表監査には様々な社会的機能が考えられるが、その中でも財務諸表監 査の本質的な社会的機能は「財務諸表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』の信憑性を 指す。)を保証する」で説明ができると考えている。

そこで、本論文は財務諸表監査が実施されることにより財務諸表に安全性の意味合いを 持つ信頼性が生じることになる財務諸表の信頼性(社会一般の信頼性。本論文では『ASOBAC』の信憑 性を指す。)の保証を財務諸表監査の社会的役割と分類する。

財務諸表監査の役割の1つの側面が社会的役割であるとしたが、「財務諸表の信頼性(財務 諸表の質。本論文では財務報告の目的である有用性を指す。)を保証する」といった場合の財務諸表監査 の役割は財務諸表監査の機能そのもの、すなわち、財務諸表の質保証そのものを意味する。

この財務諸表の質保証こそが財務諸表監査の仕組みを極限まで凝縮してあらわしたものな のである。

そこで、本論文は財務諸表監査が実施されることにより財務諸表の忠実な表現、財務諸 表の目的適合性及び財務諸表が財務報告の目的である有用性を備えていることを保証する ことになる財務諸表の信頼性(財務諸表の質。本論文では財務報告の目的である有用性を指す。)の保証を 財務諸表監査の機能的役割と分類する。

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以上みてきたように、本論文は財務諸表監査の役割の理解可能性をあげるために、財務 諸表監査の「財務諸表の信頼性を保証する」という役割を社会的役割と機能的役割の2つに 分類した。

第4項 本論文が創設した仮説の概要、限界及び課題 (1) 本論文が創設した仮説の概要

『財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性の検討』では、財務諸表監査の役割で ある「財務諸表の信頼性を保証する」という慣用句における信頼性概念を検討の対象とし ている。先行研究ではこの信頼性を財務会計領域の信頼性概念であらわしてきた。ここで は説明上、財務会計領域の信頼性概念をAとする。財務会計領域の信頼性Aとは、財務会計 の概念フレームワークに定められている会計情報の質的特性や財務報告の目的である有用 性のことを指している。

しかしながら、財務会計領域の信頼性Aは国際会計基準審議会(IASBのことを指す。以下省略。)

及び米国財務会計基準審議会(FASBのことを指す。以下省略。)における共通の概念フレームワー クを構築する合同プロジェクト(以下、合同プロジェクトと省略する。)の結果として2010年に変更 された。そのため、財務諸表監査が保証する財務諸表の信頼性に関するこれまでの先行研 究の見解では、合同プロジェクトの信頼性概念の変更に対応した研究が十分なされている とは言えない状況にあった。

そこで、本論文の目的を財務諸表監査が保証する財務諸表の信頼性に関して、先行研究 を渉猟すると同時に、合同プロジェクト後の概念をとりいれて検討することとした。

また、先行研究では財務諸表監査が保証している財務会計領域の信頼性A以外の信頼性の 研究が十分なされているとは言えない状況にあった。財務諸表監査が保証する財務諸表の 信頼性を財務会計領域の信頼性であらわすと、財務諸表監査を受けていない財務諸表にも 信頼性Aが存在し、財務諸表監査を受けた財務諸表にも同様の信頼性Aが存在することにな る。つまり、財務諸表の信頼性を保証するという慣用句における信頼性Aは、財務諸表監査 を必要条件としていないのである。このような経緯があり、財務諸表監査を受けた財務諸 表にのみ存在する信頼性があるのではないだろうかという問題意識が生じたのである。

このような問題意識から、本論文は財務諸表監査を必要条件とする信頼性に監査領域の 概念が当てはまるという仮説を創設することにした。なぜ監査領域の概念があてはまるの かというと、財務諸表監査を必要条件として発生する信頼性は監査領域以外に存在してい ないのではないだろうかと考えたからである。ここでは説明上、監査領域の信頼性概念をB とする。この仮説では、財務諸表監査が実施された結果、財務諸表の信頼性Bが保証される ことになる。つまり、財務諸表監査が実施されなければ、財務諸表の信頼性Bは保証されな いのである。

以下では本論文の内容を具体的に説明する。まず、財務会計領域の信頼性の意味や使用 される場面を整理した。次に、財務会計領域の信頼性Aの中でもとりわけ重要な質的特性と