ここまで質的特性としての信頼性そのものを検討してきたが、ここからは質的特性とし ての信頼性の下位概念に含まれている質的特性をみていく。
まずは、質的特性としての信頼性の下位概念の中で検討の必要性が少ないものをとりあ げる。本章は質的特性としての信頼性と忠実な表現の比較検討を目的としている。よって、
質的特性としての信頼性と忠実な表現において内容が概ね被る概念は比較をする意味が少 ない。そこで、比較する意味の少ない概念は検討していかない。
FASBの『概念書第2号』の質的特性としての信頼性の下位概念であった表現の忠実性と
『IASC1989フレームワーク』の質的特性としての信頼性の下位概念であった忠実な表現は 合同プロジェクトにおいて忠実な表現に統合された。その結果、合同プロジェクトでは質 的特性としての信頼性は忠実な表現に置き換えられた。合同プロジェクト前に存在してい た表現の忠実性及び忠実な表現は、内容が概ね被る概念である忠実な表現として残ってい るため検討していかない。また、同様の理由から中立性と中立、完全性と完全を検討して いかない。
さらに、『IASC1989フレームワーク』の質的特性としての信頼性の下位概念であった実 質優先性は、新概念フレームワークにおける忠実な表現に含まれているので、検討してい かない(IASB[2010]BC3.26:財務会計基準機構[2012]BC3.26)。
では、『IASC1989フレームワーク』において質的特性としての信頼性の下位概念であっ た慎重性を検討していく。慎重性に関しては、①意思決定に有用かという判断の基準を用 いて検討してく。なぜならば、慎重性は資産と利益を過小表示するという特性を持ってお
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り、運用面に関して問題がないことは明らかであり、経済現象と整合性があるかという点 と関連性が少ないからである。なお、FASBの『概念書第2号』では慎重性の記述がなかっ たものの、慎重性に類似した特徴をもつ保守主義への言及がなされていた。
予備的見解では、慎重性及び保守主義を質的特性に含めていなかったが。そこで、予備 的見解に対するコメントレターでは、慎重性若しくは保守主義を取り入れることを推奨す るコメントが届いた。そのコメントを送付したのは貸付者である銀行(例えば、CL78:Basel
Committee on Banking Supervison 等)が多い傾向にあった(中山[2013]125)。企業が慎重でない会計処理を
した場合、利益が増加することによって企業内の資金が株主に流れることになるが、銀行 は債権回収の観点から資金の株主への流出を避けたいところであろう。
しかし、慎重で保守的な会計処理を企業が実施した場合、資産を過小表示したその後の 利益の過大表示に繋がることになる。そもそも慎重な会計処理は経済的実質を歪めて捉え るものだと考えられるし、中立な会計処理を阻害する会計処理である。新概念フレームワ ークにおいては、慎重な会計処理以上に中立な会計処理の方が重要とされている。よって、
慎重性は銀行等の債権者にとって有利な概念であるが、経済的実質を捉えきれず、中立な 会計処理を阻害するという理由から情報利用者の意思決定に有用な概念とはいえないだろ う。
ここまで慎重性を検討してきたが、ここからは検証可能性と検証可能性の配置換えを検 討していく。検証可能性だけ他の質的特性と異なり2面的に分析をしていく理由は、今回の 新概念フレームワークにおける検証可能性の変更が今後の財務諸表の方向性を大きく変え ることになるからである。
まずは、検証可能性そのものを検討していく。検証可能性は会計情報への恣意性の介入 や測定値のばらつきを最小とすることを求める概念である(中山[2013]51)。この検証可能性を
3つの判断の基準でみていく。
第1に、①情報利用者の意思決定に有用かという判断の基準から検証可能性をみていく。
検証可能性は旧概念フレームワークにおいて財務諸表を有用なものとするために必要な質 的手特性として位置付けられており、新概念フレームワークにおいても検証可能性が存在 するのならば財務諸表の有用性を高めると位置づけられている。新・旧概念フレームワー クにおいても採用されており、会計情報への恣意性の介入や測定値のばらつきを最小とす る働きを持つことからも、検証可能性が有用性を高めることは確かであろう。
第2に、②の会計が対象とする経済現象に整合性があるかという判断の基準から検証可能 性をみていく。検証可能性は取得原価評価が望ましい会計情報を有用にあらわすという視 点でみた場合経済現象に整合性があるといえる。一方で、公正価値評価が望ましい会計情 報を有用に表すという視点で見た場合、経済現象に整合性があるといえない。
第3に、③概念が運用可能かという判断の基準から検証可能性をみていく。検証可能性の 定義は単純明快で理解に困ることはなく、十分運用可能な概念であるといえる。
検証可能性を3つの判断の基準でみていくと、公正価値評価が望ましい経済現象と整合性
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がないという箇所以外に問題がないことがわかった。
ここまでは検証可能性そのものの分析をしてきたが、ここからは検証可能性の配置換え を対象に分析をしていく。旧概念フレームワークにおいて検証可能性は質的特性としての 信頼性の下位概念であったが、新概念フレームワークにおいて検証可能性は補強的質的特 性へと配置換えされた。新概念フレームワークでは、補強的質的特性を満たさなくても財 務諸表に有用性があるということになっている。この配置換えは、検証可能性が財務諸表 の有用性を高めることになるものの、財務諸表に検証可能性という質が備わっていなくて も問題はないという位置づけに変更されたことを意味する。
合同プロジェクトにおける検証可能性の位置変更は、財務諸表の有用性を高める働きを する検証可能性の影響力を低めることになったのは間違いないだろう。この検証可能性の 位置変更に関して様々な指摘がなされてきたので、その論点をみていく。
検証可能性の位置変更について国田[2009]は、忠実な表現の構成要素から検証可能性を分 離した場合、経済事象を忠実に描写するという問題と会計上の測定の問題は別の問題とし て捉えられることになると指摘している(国田[2009]97)。
さらに、検証可能性の位置変更について『ASBJにおける合同プロジェクトの公開草案に 対するコメント』77
そして、検証可能性の位置変更に対して、日本公認会計士協会は、「検証可能性を徹底 すると情報が除外され情報量が減少する可能性もあるが、検証可能性は会計情報が表現し ていることについての保証を与えるものであり、表現の忠実性の構成要素と考えるべきで ある。」とコメントしている(CL55:JICPA、日本公認会計士協会[2008]3)。
では、質的特性としての信頼性を忠実な表現に置き換えることに反対し ており、検証可能性を質的特性としての信頼性の下位概念に残す必要があるという主張が なされている。検証可能性の位置変更に対して『ASBJの公開草案に対するコメント』では、
「これまで検証可能性は、信頼性を支える下位概念として、測定値である会計数値のバラ ツキ(ノイズ)や偏り(バイアス)をできる限り小さくする機能を果たしてきた。これは投資家 の会計数値に対する信頼を確保することに役立ってきた。仮に、検証可能性を基本的特質 からはずし、補強的特質に格下げすることになれば、現行と比べて会計数値のバラツキや 偏りは拡大することになる。これは投資家の会計数値に対する信頼を低下させることにな り、会計情報の意思決定有用性を減少させることになる。また、表現の忠実性の下位概念 には中立性、重大な誤謬がないことが挙げられているが、中立であること、重大な誤謬が ないことを確認するためには、それらの判定基準となる検証可能性が必要である。」(企業 会計基準委員会[2008]8)と見解を示している。
772008年には合同プロジェクトから「財務報告に関する改善された概念フレームワーク」という公開草案が掲示されたが、
ここではこの公開草案に対するASBJのコメントを検討していく。このコメントとは、ASBJの中に設けられた基本概念 ワーキング・グループによって検討され、ASBJがその内容を承認している。このコメントの正式名称は『公開草案「財 務報告の概念フレームワーク改訂案第1章財務報告の目的及び第2章意思決定に有用な財務報告情報の質的特性及び制約 条件」に対するコメント』であるが、本論文では『ASBJにおける合同プロジェクトの公開草案に対するコメント』と省 略していく。