• 検索結果がありません。

(1) 質的特性としての信頼性の保証

ここでは、財務諸表監査で保証される信頼性が質的特性としての信頼性であるという見 解を参照する。

AICPA[1996]は財務諸表監査と質的特性としての信頼性の関係を「伝統的な監査および証

明業務は主として信頼性の評価を通じて情報の質を改善することに焦点が当てられてきた。

対照的に目的適合性に関する問題は制度レベルで扱われてきた。」と認識している

(AICPA[1996]Relevance Enchancement Assurance Service:福川[2002②]43)

すなわち、AICPA[1996]は財務諸表監査が、有用性を支える質的特性としての信頼性と目 的適合性という質的特性のうち79

また、鳥羽

[2000]は、財務諸表監査が質的特性としての信頼性を保証しているという見解

を掲げている。鳥羽[2000]は、「経済的情報としての財務諸表の有用性(usefulness)は、会計

、目的適合性は財務諸表監査の証明業務とは関連が薄く、

質的特性としての信頼性が証明業務との関連が強いことを述べている。AICPAの見解から、

財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性を保証しているということがわかる。

79『概念書第2号』における質的特性の構成を参考に述べている。

91

情報は市場関係者の経済的意思決定に適合するものでなければならないこと(目的適合性)、 会計情報は、それを必要としている関係者に適時に提供されなければならないこと(適時性)、 そして会計情報は信頼し得るものでなければならない(信頼性)という三つの情報特性を統合 した概念である。そして、会計情報全体としての有用性は、三つの情報特性が保証されて、

初めて担保される。」と述べている(鳥羽[2000]222-223)。ここで用いられている有用性、目的 適合性、適時性及び信頼性は、会計情報の質的特性のことである80。財務諸表に目的適合性、

適時性及び信頼性が備わらなければ、財務諸表は経済的情報となりえない。なぜならば、

会計情報に有用性があるとは認められないからである81

そして、鳥羽[2000]は目的適合性、適時性及び財務諸表監査が財務諸表の信頼性を保証す るという役割が財務諸表監査でまず重視されると述べている

82

以下、財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性を質的特性としての信頼性とする 見解を図で掲げる。

。ここでは、財務諸表監査が 質的特性の信頼性のみを保証しており、他の質的特性を保証していると言及していない。

図5 財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性を保証しているという見解

(鳥羽[2000]222-223頁より作成。)

財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性を保証しているという見解の中でも 質的特性としての信頼性の構成要素である忠実な表現、中立性を財務諸表監査が保証して いるという見解に対する反論は先行研究上見当たらない。

80なぜ会計情報の質的特性を指していると断言できるのかというと、ここで引用した鳥羽[2000]の文章は、1980年にFASB

(Financial Accounting Standards Board)が公表した『概念書第2号』(Statement of Financial Accounting Concepts No.2)に おける会計情報の質的特性(Qualitative Characteristics of Accounting Information)を参考に作成されているからである。

81『概念書第2号』における質的特性の構成を参考に述べている。

82鳥羽[2000]は「財務諸表監査においては、財務諸表の作成過程で入り込む可能性のある作成者側の意図的な操作や誤謬 によって、財務諸表が著しく歪められている可能性―これを「情報リスク」という―がある合理的な水準にまで引き下 げられていることを確かめることを通じて、当該財務諸表の信頼性を保証する、という役割がまず重視される。」と述 べている(鳥羽[2000]223)。

保証 財 務 諸 表

監査

92

しかしながら、質的特性としての信頼性は、合同プロジェクトにおいて忠実な表現に置 き換えられたため、当該見解は現在の合同プロジェクトの見解を考慮して再検討する必要 がある。また、『概念書第2号』の質的特性としての信頼性の構成要素としてあげられる検 証可能性を財務諸表監査が保証しているのか、『IASC1989フレームワーク』の質的特性と しての信頼性の構成要素としてあげられる完全性を財務諸表監査が保証しているのかとい う点については本章の次項以降で明らかにしていく。

また、鳥羽[2000]では上述した見解であったが、鳥羽[2011]では、「財務諸表監査におい て公認会計士が関与する情報の質は信頼性であるが、目的適合性に関与することはあるの だろうか。」と質的特性としての信頼性だけではなく目的適合性に関しても述べられてい る(鳥羽[2011]120)。以下では目的適合性と財務諸表監査の関係をみていく。

(2) 質的特性としての信頼性と目的適合性の保証・有用性の保証

財務諸表監査が保証する信頼性は、質的特性としての信頼性のみではなく(質的特性としての)

目的適合性も含まれている、若しくは含める必要があるという見解が存在する。当該見解 を示した監査論者は内藤[2003]と福川[2006]である。内藤[2003]と福川[2006]の見解における 最も大きな相違点は、財務諸表監査が財務諸表の有用性を保証していると捉えているのか

(内藤[2003]の立場)、財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性及び目的適合性を保 証していると捉えているのか(福川[2006]の立場)という点である。つまり、両者は財務諸表監 査が質的特性としての信頼性及び目的適合性を保証している(若しくは保証する必要がある)とい うことを主張しているのだが、異なる視点から財務諸表監査が保証する財務諸表の質を把 握しているのである。

ここで、財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性と目的適合性を保証してい るという見解と財務諸表監査が財務諸表の有用性(質的特性としての信頼性と目的適合性)を保証し ているという見解に相違が生じた原因を掲げる。この点を福川[2006]は、「監査における信 頼性を、財務諸表の特質としての信頼性とは別に、監査独自の立場から規定することは、

同じ学問領域(広い意味での会計学)において同一の用語が異なる意味をもつことによって無用 の混乱を生ぜしめる虞がある…」と述べている(福川[2006]284)。ここで言及されている財務 諸表の特質としての信頼性とは概念フレームワークに掲げられている質的特性としての信 頼性のことである。つまり、財務諸表監査が有用性を保証しているということを広義の信 頼性を保証しているというようにあらわすと、会計学上信頼性という用語の混乱が生じる ということである。

このような経緯があり、財務諸表監査が財務諸表の質的特性としての信頼性と目的適合 性を保証しているという見解及び財務諸表監査が財務諸表の有用性(広義の信頼性、すなわち質的 特性としての信頼性及び目的適合性)を保証しているという2つの見解が存在しているのである。

なお、内藤[2003]は財務諸表監査が財務諸表の有用性を保証しているとは断定しておらず、

その可能性があるかもしれない若しくは財務諸表の有用性を保証する必要があるというよ

93