『概念書第
2号』
に お い て 質 的 特 性としての「信頼 性」が出現する。
用語の変化は ほとんど無い が、意味は変 化している。
用語に変化は 無いが、意味 が大幅に変化 している。
意 味 の 乖 離 が 始まる。
意 味 が 大 幅 に 乖 離 す る。
意 味 を 把 握 す る ことが難解な「社 会一般の信頼性」
は、意味が一致す る箇所があり、具 体性のある「財務 諸表の信頼性」と い う 概 念 と し て 把握される。
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(図は筆者作成。)
さらに、アメリカの概念フレームワークだけでなくイギリスの概念フレームワークにお いても信頼性の意味のパラダイム転換がみられた。アメリカだけでなく、イギリスでも信 頼性の意味のパラダイム転換が起きたということを説明できれば、この仮説の説得力が増 加するといえる。
1975年に公表されたイギリスにおける概念フレームワークの原点といえる『コーポレー
トレポート』によれば、質的特性としての信頼性(reliable)は「提示された情報は、利用者が 信頼性(degree of confidence)を寄せることができると評価可能な程度に信頼(reliable)できるもの でなければならない。検証可能ではない企業が提供する有用な情報が特定の状況で独立し て(independently)検証された(verified)場合、コーポレートレポートに含まれる情報の信頼性(credibility)が向上する。」と定義されている(ASSC[1975]29)。『コーポレートレポート』で述 べられている検証を実施する主体は財務諸表監査を実施する監査人のことであろう。なぜ ならば、検証(verified)に独立性(independently)が求められる場合、その仕組みを担保している のは財務諸表監査しか考えられないからである。よって、財務諸表監査が存在しなければ 質的特性としての信頼性は会社報告書に備わらないということになる。つまり、イギリス における最初の概念フレームワークと捉えられる『コーポレートレポート』においても財 務会計領域の信頼性である質的特性としての信頼性は財務諸表監査が実施されてはじめて 生じる監査領域の信頼性と同様のものだったのである。
次に1989年にICAEWが公表し、
ASCに提出したイギリスの概念フレームワークである『ソ
ロモンズレポート』をみていく。『ソロモンズレポート』をみると質的特性としての信頼 性が財務会計領域における信頼性と財務諸表監査が実施されてはじめて生じる監査領域の 信頼性という2つの意味をもちだしたことがわかる。『ソロモンズレポート』では、会計数値が会計担当者から独立した有資格の観測者(qualified
observer)によって検証されるならば、その情報は信頼できるものとなると言及されている(菊
谷[2002]57)。独立した有資格の観測者とは財務諸表監査を実施する公認会計士のことであろ う。この点から、財務会計領域の信頼性である質的特性としての信頼性は財務諸表監査が 実施されてはじめて生じる監査領域の信頼性と同様のものとして扱われていることがわか る。
しかし、『ソロモンズレポート』における質的特性としての信頼性には表現の忠実性、
包括性、検証可能性という下位概念が付け加えられることとなった。質的特性としての信 頼性の下位概念に財務諸表監査を必要としない質的特性が付け加えられたことにより、『ソ ロモンズレポート』における質的特性としての信頼性と財務諸表監査を必要としていた『コ ーポレートレポート』の質的特性としての信頼性の意味が乖離しはじめていることが判明 した。
そして、1999年にイギリスのASBが公表した『財務報告基準書』では、質的特性としての
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信頼性と第三者による保証や検証の関係とはどのようなものかという議論が重視されず、
質的特性としての信頼性の下位概念とは何かという議論が中心になっていった。『財務報 告基準書』における質的特性としての信頼性は財務諸表監査を必要条件としておらず、財 務諸表監査を必要条件としていた『コーポレートレポート』の質的特性としての信頼性と 完全に意味が乖離したといえよう。
イギリスの財務会計の概念フレームワークの流れをみていくと、そもそも財務会計領域 における信頼性である質的特性としての信頼性は、財務諸表監査があってはじめて存在す る監査領域の信頼性だったにもかかわらず、その点が軽視されていき、最終的に信頼性の 意味が財務諸表監査を必要としない信頼性にパラダイム転換したことが明らかとなった。
信頼性の意味がパラダイム転換したことは、帰納法が保持している問題点から科学的に 説明することができる。ここでは特にイギリスにおける質的特性としての信頼性の意味の パラダイム転換を前提に説明していく。質的特性としての信頼性があらわれた初期段階で は、質的特性としての信頼性は、財務諸表監査が保証して初めて生じるものであるといえ た。意味の乖離が進行している段階においても、質的特性としての信頼性は財務諸表監査 が保証して生じるものと捉えることができた。この段階において、帰納的思考法をとると、
将来出現する質的特性としての信頼性についても、やはり財務諸表監査が保証して生じる ものであるという予言が導き出せるのである。このような予言が普遍化し、質的特性とし ての信頼性の意味をもつ財務会計領域の信頼性と財務諸表監査が実施されてはじめて財務 諸表に生じる信頼性の意味をもつ監査領域の信頼性の意味が大幅に乖離しても財務会計領 域の信頼性と監査領域の信頼性が同一のものであるという考え方が主流になったのではな いのだろうか。
さらに、質的特性としての信頼性はその意味が変化し続けているにもかかわらず、信頼 性という用語は変化しなかった。信頼性という用語は信頼性用語ギャップという問題を引 き起こす程に多義的で抽象的な用語である。このような特徴のある信頼性という用語は理 論変化のダイナミクスを適切に捉えることができないのである。理論変化のダイナミクス とは、理論が作成され、その後理論が検証・評価を受けた後に修正されることにより、あ る理論が他の理論に置き換えられていくプロセスのことである(戸田山[2005]222)。
財務会計の概念フレームワークが修正され、質的特性としての信頼性の意味が修正され る毎に信頼性という用語自体を変化させなかったことが信頼性の意味のパラダイム転換を 捉えられないものとしたのである。つまり、信頼性の意味のパラダイム転換は、市場関係 者が認識しにくいものになっていたのである。
これまで、帰納法的思考が引き起こした監査領域の信頼性の意味のパラダイム転換とい う仮説を説明してきた。財務諸表監査が保証しているとされてきた信頼性が質的特性とし ての信頼性として把握されてきたことはすでにわかっている。そして、帰納法的思考が引 き起こした監査領域の信頼性の意味のパラダイム転換という仮説で説明すれば、なぜ財務 諸表監査が保証しているとされてきた信頼性が質的特性としての信頼性として把握される
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ようになったのかを適切に説明することができる。また、なぜ財務諸表監査が保証してい るとされてきた信頼性が質的特性としての信頼性に変化してきたのかを説明できる仮説は 他にない。よって、本論文では、帰納法的思考が引き起こした監査領域の信頼性の意味の パラダイム転換という仮説を信頼性の意味が変化したことの原因としていく。
第6節 財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性の検討 第1項 信頼性に期待されていた意味の探求
ここまで財務諸表監査が保証している財務諸表の信頼性はそもそも質的特性としての信 頼性ではなかったことを論証してきたが、ここからは財務諸表監査が保証している財務諸 表の信頼性に元来期待されていた意味は何だったのかということを探求していく。
まずは、社会一般の信頼性という概念から考察していく。