概念フレームワークにおいて忠実な表現と目的適合性は理論上切り離されて記述されて いるが、忠実な表現と目的適合性は実態的に切り離して考えることなどできないのである。
これまで、目的適合性も財務諸表監査が保証しているのかという議論をしてきたが、そ もそも忠実な表現と目的適合性は個別に測定できないのである。このことから、財務諸表 監査が忠実な表現のみを測定しており、目的適合性を測定していないという見解は成り立 たない。つまり、財務諸表監査が忠実な表現を保証している場合、財務諸表監査は目的適 合性を保証しているのである。よって、財務諸表監査は財務諸表の目的適合性を保証して いる。
第4項 有用性と財務諸表監査
財務諸表監査が財務諸表の忠実な表現及び目的適合性を保証しているということから、
財務諸表監査は財務諸表の有用性を保証しているという事実が導き出せる。この点をFASB
『概念書第8号』から説明する。目的適合性と忠実な表現という2つの基本的な質的特性を 備えていない財務情報は、たとえ補強的な質的特性を満たしていたとしても有用とはいえ ない(FASB[2010]BC3.10)。一方、補強的な質的特性を備えていなくても、目的適合性及び忠実 な表現という質的特性が備わっている財務情報は有用である(FASB[2010]BC3.10)。つまり、財 務諸表監査が財務諸表の忠実な表現および目的適合性を保証することを通じて、財務諸表 監査は財務諸表が有用なものとなっているという保証を監査報告書利用者に提供するので ある。
ここで、有用性は財務諸表の質的特性ではなく財務報告の目的であり、財務報告の目的 を財務諸表監査が保証しているという論理は支持できないという反論が予想される。たし かに、有用性は財務情報の質的特性ではなく、財務報告の目的であることは明らかである。
『IASB2010フレームワーク』における一般目的財務報告の目的における結論の根拠におい て、意思決定の際の有用性は財務報告の目的だと述べている(IASB[2012]BC1.27)。以下で当該 反論に対処する。忠実な表現と目的適合性を満たしている財務諸表は財務報告の目的(有用 性)を達成していることになる。よって、財務諸表監査は財務諸表の忠実な表現及び目的適 合性という質的特性を保証することを通じて、財務諸表が財務報告の目的(有用性)を達成し ているのかを保証しているといえる。すなわち、財務諸表監査は財務諸表の有用性を保証 しているのである。
第5項 補強的な質的特性と財務諸表監査
第5項では、財務諸表監査と補強的な質的特性との関係性を検討する。なぜならば、財務 諸表監査が補強的な質的特性を保証しているのかを明らかにしなければ、財務諸表監査が 財務諸表の有用性を保証しているという見解を打ち出せないのではないかという反論が予 想されるからである。なお、ここでいう補強的な質的特性は、本論文の論証と整合性を保
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つために『2006年討議資料』において掲示されている質的特性ではなく、IASB2010概念フ レームワーク及びFASB『概念書第8号』で掲げられている補強的な質的特性(比較可能性、検証 可能性、適時性、理解可能性)を指すことに留意されたい89
財務諸表監査が財務諸表の有用性を保証しているとは、財務諸表監査が財務諸表の補強 的な質的特性を保証していることをあらわしているのだろうか。この点をFASB『概念書第
8号』から説明する。目的適合性と忠実な表現という2つの基本的な質的特性を備えていな
い財務情報は、たとえ補強的な質的特性を満たしていたとしても有用とはいえない(FASB[2010]BC3.10)。一方、補強的な質的特性を備えていなくても、目的適合性及び忠実な表 現という質的特性が備わっている財務情報は有用である(FASB[2010]BC3.10)。よって、財務諸 表に補強的な質的特性が備わっていようがいまいが、財務諸表監査は財務諸表の有用性を 保証していることが証明された。
。
では、財務会計領域の変化に伴う監査領域における変化の必要性という視点から補強的 な質的特性と監査論の関係を検討していく。我が国には基本的な質的特性と補強的な質的 特性という区別がないため90
FASB『概念書第2号』において、財務情報はその他の質的特性
(補強的な質的特性とは目的適合性及び忠実な表現・質的特性としての信頼性以外の特性という重要な部分で同様である。)をごくわずかでも満 たさなければならないと述べられていたが、FASB『概念書第8号』において、財務情報は 補強的な質的特性を満たす必要がなくなった。この財務会計領域の変化を受けて、監査理 論は、財務諸表監査が財務諸表の補強的な質的特性を保証しているのか明らかにしなけれ ばならないという見解から財務諸表監査が財務諸表の補強的な質的特性を保証しているの か明らかにしなくても構わないという見解に変化した。よって、本論文ではこれ以上補強 的な質的特性を議論していかないこととする。
、以下ではFASBの見解に限定して議論を展開していく。
FASB
において『概念書第8号』が公表されるまで、会計情報の質的特性はFASBの『概念書第2号』に記述されていた。FASB『概念書第2号』では、基本的な質的特性とその他の質的特性と いう区別が存在していた。そして、FASB『概念書第2号』において、財務情報が有用であ るためには、財務情報は各特性をごくわずかでももっているものでなければならないと述 べられていた(平松[2002]78)。
第6項 考察
本章の主張がなされている第3節では、財務会計領域の変化に伴う監査領域における変化 の必要性という判断の基準を駆使してきた。当該判断の基準を駆使して、国際的な概念フ レームワークと監査理論の対応、忠実な表現と財務諸表監査、目的適合性と財務諸表監査、
89財務諸表の補強的な質的特性と対比されるものに財務諸表の基本的な特性がある。財務諸表の基本的な質的特性とは、
IASB2010概念フレームワーク及び『概念書第8号』に規定される忠実な表現及び目的適合性を指す。
90我が国討議資料概念フレームワークでは、会計情報の基本的な特性として意思決定有用性を掲げている。また、意思決 定有用性を支える特性として意思決定との関連性と信頼性が存在する。そして、一般的制約となる特性として内的整合 性と比較可能性が存在する。
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有用性と財務諸表監査及び補強的な質的特性と財務諸表監査を検討していった。そして、
財務諸表監査が保証している質的特性は忠実な表現及び目的適合性であることが明確にな った。忠実な表現と目的適合性を満たしている財務諸表は財務報告の目的を達成している ことになる。よって、財務諸表監査は財務諸表の質的特性を保証することを通じて、財務 諸表が財務報告の目的を達成しているかについても保証していることが導き出せた。すな わち、財務諸表監査は財務諸表の有用性を保証しているのである。
ここまでの考察により、財務諸表監査が保証する財務諸表の質が明らかになった。しか し、ここで新たな問題が浮上することになる。財務諸表監査の役割をあらわす財務諸表監 査は財務諸表の信頼性を保証するという慣用句における信頼性は財務諸表の質だけなのだ ろうかという点である。なぜならば、財務諸表監査が保証する信頼性を財務諸表の質だけ であらわそうとすることにより、財務会計とは異なる観点から財務諸表監査が財務諸表利 用者に保証している信頼性をあらわすことができないからである。よって、財務諸表監査 が保証している信頼性は財務諸表の質だけなのかという点を明らかにすることが今後の課 題となる。
第5節 むすび
本章はまず、会計情報の質的特性と財務諸表監査の関係に関する先行研究をあげた。こ こでは、財務諸表監査がどのような財務諸表の質を保証しているのかに関して先行研究を 簡単に分類した。先行研究に見解の相違が生じているのは、考察が行われた時代が異なる こと及び各々の先行研究が検討の前提としている概念フレームワークの種類が異なるから であるということを明確にした。さらに、財務諸表監査の財務諸表の質保証に関する先行 研究においても信頼性用語ギャップが生じていることが明らかとなった。
次に財務諸表監査と財務会計の概念フレームワークの関係をみていった。ここでは、合 同プロジェクトで質的特性としての信頼性に指摘された問題点を『2006年討議資料』にお いても共有していることを明確にした。よって、我が国概念フレームワークにおいても質 的特性としての信頼性を忠実な表現に置き換える必要性が生じていることを明らかなった。
このような経緯があり、本論文では『2006年討議資料』を検討の前提とせずに『IASB2010 フレームワーク』(及び『概念書第8号』)を検討の前提とした。そして、質的特性としての信頼 性が財務諸表監査に与える問題点を明らかにした。さらに、財務会計領域における会計情 報の質的特性の変化に伴って、監査領域においても財務諸表の質保証に関する理論面にお いて変化の必要性が生じていることを述べてきた。検討の前提が整った後は、忠実な表現 と財務諸表監査、目的適合性と財務諸表監査、有用性と財務諸表監査及び補強的な質的特 性と財務諸表監査の関係を検討していった。
そして、『IASB2010フレームワーク』(及び『概念書第8号』)を検討の前提とした場合、財 務諸表監査が保証している質的特性は忠実な表現及び目的適合性であることを明確にした。
忠実な表現と目的適合性を満たしている財務諸表は財務報告の目的を達成していることに