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2.中小企業の財務改善の進め方

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(1)経営の羅針盤としての決算書の有効活用

バブル経済崩壊後のデフレ経済の進行や、金融機関の貸出姿勢も担保優先主義から返済力 重視に変化する中で、中小企業もキャッシュフローや付加価値を重視した経営を求められて おり、決算書を活用した財務管理の必要性が高まっている。

(2)財務改善の手順

企業の現有体力・体質を表す貸借対照表をベースに自社の資金の使途と調達の問題点を把 握するとともに、経営指標の具体的目標を定めて改善を進めることが必要である。

(3)収益性の改善

代表的指標である総資本経常利益率を売上高経常利益率と総資本回転率に分解し、それぞ れについて、その水準と変化の要因を推定し、さらに詳細を分析することが必要である。

(4)生産性の向上

適正な労働分配率を維持しつつ、1人当たり人件費を高めるには、1人当たり付加価値、す なわち「付加価値労働生産性」を高めることが不可欠である。

(5)安全性―収益償還力の重要性

収益償還力(キャッシュフロ−)の重要性が高まる中で、負債過多の改善には、自社の資 金循環にかかる問題点の把握と、キャッシュフロー創出策が必要である。

中小企業の財務管理

−財務をめぐる環境変化と改善の進め方−

総合研究所上席主任研究員・

平井 昌夫

(キーワード)

財務管理、キャッシュフロー、収益性、生産性、安全性、収益償還力

はじめに

金融機関の不良債権問題や企業の過剰債務 問題から企業再生のための経営改善計画の必 要性が高まっている。右肩上がり経済の終焉 により金融機関の貸出姿勢が不動産担保主義 から経営力・収益償還力重視へ、実績だけで なく将来計画も重視へとシフトしている。ま た、財務をめぐる環境変化として、ディスク ロージャーの要請、グローバルスタンダード を考慮した会計制度の変化(「会計ビッグバ ン」)が進展している。これらは主に大企業に 大きな影響を与えている。しかし、中小企業 においても、厳しい環境下で財務会計ととも に管理会計を重視、活用するなどの対応が重 要となっている。

本稿では、財務をめぐる環境変化、中小企 業の財務面のアプローチからの経営改善の基 本的な部分と、管理会計の活用により戦略的 経営に成功している企業事例について述べる。

1.財務をめぐる環境変化

(1)グローバルスタンダードを考慮した会計 制度の変化(「会計ビッグバン」)

企業の経営状態は、いわゆる決算書(貸借 対照表、損益計算書などの財務諸表)によっ て表されるが、その決算書を作成するルール として会計基準がある。この会計基準は、国 によって異なる部分があり、企業活動のグロ ーバル化とともに、相互の違いを調整し、か なりの程度、統一されるようになった。

日本もこれまで独自の商法や税法などの法

体系の中で、会計基準を形成してきたが、グ ローバル化の一方で経済が長期低迷する中で、

相次ぐ企業の倒産や不良債権、粉飾決算など の問題から、企業の経営状態を的確に表す会 計基準やその監査体制の見直しが重要な課題 となってきた。

ここ数年間で、会計・監査のインフラ整備 に向けた多くの改訂作業が行われ、このよう な一連の改革は「会計ビッグバン」とも呼ば れる。その柱は、①資産計上の厳格化、②オ フバランス項目のオンバランス化、③時価評 価やキャッシュフロー重視、である。

未公開企業である中小企業の多くにとって は、「会計ビッグバン」の直接的影響は少ない。

しかし、金融機関はもちろんのこと取引先等 からも透明性・健全性の高い経営が求められ ており、会計制度の変化などにも注意を払い つつ、自社の財務分析を通して問題点を把握 し、経営全般の改善を図ることが肝要である。

(2)財務会計から管理会計へ―戦略性を増す 管理会計

会計には財務会計と管理会計がある。「財務 会計」とは、株主・投資家や債権者に対して、

経営成績や財政状態を明らかにするために証 券取引法や商法などの法律により規定されて いるものである。一方、「管理会計」は、企業 の経営者等の意思決定や業績管理に資する情 報提供を目的とした会計で、報告対象は、そ の企業の経営者・管理者である。管理会計は 企業価値を高めるために、経営者層が企業の 状況を把握するための手法であり、その内容

は、計画、コスト分類、コントロール、原価 計算、事業部制会計など広範囲に及ぶ。また、

管理会計は収益やコストの測定が前提となる ため、会計数値の記録、集計、報告が求めら れる。特にコストについては、費目別、工程 別、製品別、部門別などに集約するための原 価計算が重要となる。中小企業にとっても社内 の生産、販売などの様々なデータを活かした管 理会計の有効活用が重要であり、その場合に、

経営方針との関連で分析の目的・対象を明確 化し、その手法を選択することが肝要である。

本稿では、管理会計における基礎的かつ代 表的指標である総資産利益率(ROA)、キャッ シュフロー(キャッシュフローには狭義での 損益計算から生じる償却前経常利益と、これ に運転資金の増減等を加味した営業活動キャ ッシュフロー(経常収支)等の広義のものが ある)を中心に取り上げている。

2.中小企業の財務改善の進め方

(1)経営の羅針盤としての決算書の有効活用 右肩上がりの時代には、事業規模を拡大す ることが利益増加につながったが、経済が成 熟化し、ニーズが多様でかつ変化が大きい時 代には、量から質へ経営指標の転換が進んで いる。ところが、中小企業では今なお売上高 を重視している企業が多く、また、決算書が 税務申告や金融機関からの借入れのための資 料を主目的として作成され、経営目標の明確 化、利益管理の手段として十分に活用されて いないのが実情である。デフレ経済下で質の 経営が求められる中、中小企業の経営のポイ

ントは、決算書をベースに、①利益やキャッ シュフローを生み出す法則を知り、②それを 計画や方針として具体化し、③実践し、④結 果をコントロールする、ことである。その意 味で、決算書は戦略的に重要な経営の羅針盤 であり、財務強化に不可欠である。同時に、当 然のことながら正確であり、信頼に足るもの でなくてはならない。

また、一般に、中小企業では、社員にさえ 決算数字を公開しないところが多いが、これ からは、次に述べる理由によりガラス張りの 経営が必要であろう。すなわち、自社の経営 の現状や見通しが示されなければ、なぜ何を どのようにするのかが明確でなく、社員にと って先行き不安要因でもある。経営者が社員 に対して、企業の現状や課題を示し、社員一 人ひとりの役割を明確にすることで、企業に 求心力が生まれ、社員の力が発揮される。

一方、金融ビッグバンに伴い、銀行再編な ど金融業界も様変わりし、貸出姿勢は担保優 先主義から償還力重視へ、それも実績から将 来に向けた返済力が重視される方向へと転換 しつつある。資産価格が一貫して下落し、担 保割れが続くような状況では、従前に増して 貸出金回収の財源としてキャッシュフローが 極めて重要であることは言うまでもない。こ のため、金融機関は融資先の決算書以外の経 営者の経営力、すなわち定性要因も十分に考 慮するが、基本的に企業は取引金融機関に定 期的な決算書の提示と具体的な業績見通しな ど経営方針の説明が必要である。

こうした状況を踏まえて、以下では、決算

書をベースとする経営指標面から財務改善の 手順、収益性、生産性、安全性について改善 の進め方のポイントを述べる(注)1

(2)財務改善の手順―貸借対照表は企業体力 を表す

一般に貸借対照表よりも損益計算書に関心 のある経営者が多いと言われる。しかし、損 益計算書は1年間の経営の結果を表したものに すぎない。これに対して貸借対照表は企業が 創業以来蓄積してきた力量、現有体力のすべ てを示しているという意味で重要である。た とえば、借入金過多、過剰在庫や遊休資産へ の資金の固定化といった構造問題の把握がで きる。こうした過去の積み重ねから出来上がっ た体質は一朝一夕には修正できないが、具体的 な目標を定めて計画的に改善していくことが 重要である。そこで、貸借対照表からみた財務 改善に向けてのポイントをみてみる(図表1)。

貸借対照表の右側は資金の調達(源泉)、左

側は使途である。右側の調達は、企業の資金調 達力を量と質の両面で表している。これをみ る場合、まずは買掛金や支払手形など個別の科 目でなく、どこから資金を調達しているかとい う調達先の分類が重要である。すなわち、①企 業間信用調達(買掛金や支払手形、いわゆる 買掛債務)、②金融調達(短期・長期借入金、

割引手形)、③引当調達(引当金)、④自己調 達(資本金、各種積立金)の4つに分類される。

一方、左側の使途は、「流動資産」「固定資 産」「投資」という資産の保有形態、つまり資 金使途を表している。したがって、調達構造 については、その構成比や時系列での変化を 把握するとともに、使途である資産の内容・

性格(運用の目的・回収の期間)と調達との バランスからみた今後の方向、経営指標(流 動性比率、固定比率、自己資本比率など)の 具体的目標を定めていくことが必要である。特 に、有利子負債による金融調達と、自己資本 による自己調達のバランスが重要である。

また、調達と使途の金額は一致するため、使 途側を小さくすれば、調達側の数字も小さく なることを意味している。要するに、貸借対 照表の使途側をいかに少なくしていくかが、企 業をスリム化し、贅肉を落として身軽な体質 にしていく鍵を握るのである。そのためには、

貸借対照表の左側の資産内容をよく吟味して 無駄を排除し、これにより有利子負債も削減 する。その結果として、次に述べる使用総資

(注)1.財務分析の手順と各種経営指標(財務比率)の見方などについては、信金中金総合研究所の旧版企業経営情報No. 11「中小 企業の財務分析」(その1)〜財務諸表による収益性の見方〜(1999年6月)、同No. 14同(その2)〜財務諸表による安全性の見方

(99年8月)、同No. 15同(その3)〜財務諸表による生産性、成長性の見方〜(99年10月)、同No. 10「中小企業にも望まれるキ ャッシュフロー重視の経営」(99年5月)を参照

 (資金の使途)  (資金の調達) 

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