宮下:クEマグロの種苗生産に関する研究
1.卵発生過程を観察するとともに,発生速度,解化所要時間および鮮化率に及ぼす水温の影 響を調べ,次の結果を得た。卵内発生の各段措は一般硬骨魚と大差なく,水温24'Cの条件下で 産卵32時間後から解化した。 50%以上の正常勝化率を示した水温範囲(鮮化隈界水温〉は21.2
‑‑‑29.80C,最高正常鮮化率および最低奇形率を示した水温は250C付近で、あったことから,クロマ グロ卵の最適鮮化水温は250
C
付近と推察したc2 .
発生に伴う卵の生化学成分と酵素活性の変動を謂ベ,次の結果を得た口発生に伴う卵の 水分,全窒素およびリン脂質含量に変化はなかったc 遊離アミノ酸含量は発生に伴って僅かに減 少したが,タンパク質含量は徐々に増加した。卵割初期の主要構成成分であるトヲグヲセライド (TG)含量は,嚢経後期以降急激に減少し,解化直前には初期の 113に達したことから,主に TG を卵発生中のエネルギー源として消費することがわかったD アスパラギン酸アミノトランスフエ ラーゼ¥アラニンアミノトランスフエラーゼ,クレアチンキナーゼ¥乳酸デヒドロゲナーゼ、およ びアルカリフォスファターゼなどの活性の変動から,クッパー胞出現前後に器官の分化および形 成が促進されることが示唆された。IIL仔稚魚を鏡脊して,発育に伴う外部形態の変化,消化器官の形成と酵素活性の変動,並び に体頓IJ第の発達と酸素消費量の変動を調べた。
1.初期発育に伴う外部形態の変化を調べ,次の結果を得た己解化イ子魚の平均体長 (BL)は 2.83 m mで, 20 S
e I
(10.6 m m BL)まで、の成長はマダイと大差なかったが,以後,顕著に速くなった。鮮化仔魚は約4mmBLまでに,マグロ属の前屈曲仔魚に特有の黒色素胞パターンを発 達させた自マグロ類仔稚魚を同定する上で形態上の特徴として役立つ赤色素胞は 4.63m m BL で躯幹部背側後部に,以後,尾鰭鰭膜,下顎および下尾骨にそれぞれ出現したが これらは体長 19.72mmまでにすべて消失した。顎歯は5‑‑‑6mmBLで出現した。頭部の蘇は,おおよそ7mm BLまでに発達し, 38mm BLまでに消失した。脊索末端の屈畠は 6‑‑‑8m m BL (10日齢前後) で認めた。鰭条数は 10m m BL (20日齢前後〉で成魚と再数に達し稚魚期へ移行した。鱗の出 現は27mmBLで始まった。棒各部の相対成長は, 3‑‑‑4倍の成長屈折点を持つ多相アロメトヲー で,前期仔魚から後期イ子魚への移行期,脊索末端の屈曲期,後期イ子魚から稚魚への移行期に,そ れぞれ成長屈折点の集中が認められ,生理生態学的な変化が示唆された。
2. 稚魚から若魚における外部形態の発育過程を調べ,次の結果を得た。稚魚期以降の絶対 成長(平均体長)は,既往の種菖生産魚種の何れに比べても著しく速く, 29司齢, 32.5 mm; 50
日齢, 140mmとなり,串本海域で毎年8月を中心に採捕される幼魚の体長200‑‑‑300 m mに達す るのに要する時間は約2.5カ月であることが分かった。魚体各部の相対成長は,それぞれ体長 80‑‑‑100 m mの聞に成長屈折点が集中してみられ,これ以降多くの蔀位で体長に対する比率が一 定となり,成魚のそれにほぼ等しくなることが分かつた。またこの頃,サパ型魚類の特徴で、ある 小離鰭の独立および尾柄主詮起縁の発現が観察され,遊泳行動にも大きな変化が認められたこと などから,体長80‑‑‑100 m mが稚魚期から若魚期への移行期に当たることが分かつた。なお,こ の時期を中心iこクEマグロに特有の突進遊泳による衝突死が激増し,一大減耗期を呈した。また,
200mm BLには尾柄高の体長に対する比率も成魚とほぼ等しくなり,遊泳行動にも変化がみら れたことから,未成魚期への移行期に当たると推察された。
3. 初期発育における泊化器官の発達と消化酵素活性の変動を調べ,次の結果を得た。鮮化 後36時間目までに各臓器が形成され, トリプシン様酵素およびアミラーゼ、活性は摂餌開始後成
‑149一
近大水研報 8号 (2002)
長に伴い増加した。脊索末端の屈曲期(1
0
日齢頃〉までに腸の回転が完了,噌頭歯および食道 の粘液結胞が分化し,以後,胃富嚢,胃腺および幽門垂が形成され始めた。ペプシン様酵素活性 は胃腺の形成に伴って増加し, postflexion期から稚魚への移行期にかけて胃の機能および幽門垂 が著しく発達した。1 1
から2 6 S
齢にかけて,体長に対する紅門前長の比が著しく増加したこと から,消化系は脊索末端の窟曲期までは主として質的に発達し,それ以降は量的な発達が伴うことが示唆された。
4. 遊泳の原動力となる体側筋について,稚魚類から若魚期
( 2 3 . 1" " ' ‑ ' 1 5 6 . 0 mm
BL)における 発達過程を調べ,次の結果を得た。血合肉(赤色筋〉および普通肉(白色筋)の体積は,成長に イ辛って指数関数的に増加したが,相対成長式には, ともにきOmm
BLで1
つの成長屈折点を有 し,それ以降有意に高い割合で増加したc 全筋体積に対する赤色筋体積の割合は 8""'‑'9%とほぼ 一定で,クロマグロは早い時期から高速巡航遊泳型の筋肉を獲得することが分かったc 赤色筋お よび白色筋識経断面積はともに成長に伴い増加し,いずれも250mm
BL付近で,それぞれ未成 魚とほぼ同水準に達した。5 .
卵期から若魚期までの或長に伴う酸素消費量 (kI) の変動を調べ,次の結果を得た。卵期 の M は,クッパー胞出現期から心拍開始期にかけて急激に増加し,鮮化直前にはそれまでのお よそ8倍に達した。癖化後の魚体重当たり Mの変動は4相のアロメトリーを呈し,前期仔魚か ら後期仔魚への移行期,脊索末端の題曲期,および稚魚類にそれぞれ成長屈折点が存在した。M
は魚体重の増加に伴って稚魚期まで高い割合で増加し,以後,緩やかに増加した。若魚期におけ るMおよび致死酸素濃度をブリと比べたところ,前者で約3倍高く,後者は 1ml/ 1以上も高い ことがわかった。
N. 稚魚類から若魚期にかけて頻発する衝突死による減耗の防除対策に資するため,遊泳力 に関する外部諸器官の発育過程と遊泳行動の変化を調べるとともに,衝突による骨格の損傷と死 亡状況から衝突多発期を調査し,その原因について検討したc
1. 遊泳速度と遊泳推進力に関係の深い尾鰭の形状の変化,並びに鰐御詑力に関係の深いそ の他の鰻および尾栴主隆起縁の発達過程を調べ,次の結果を得た。(1)推進力に関係の深い尾鰭 の形状は,発育に伴って体長
160mm
までに急速に高速巡航遊泳型を獲得した。その間,尾鰭振 動数が減少するにもかかわらず遊泳速度は速くなり,尾鰭の発達経緯と一致した。また,突進速 度が既往の他魚種のそれに比べて2 " " ' ‑ ' 3
倍速いことを明らかにした。( 2 )
これに対し,揚力獲得 に重要な尾柄主隆起縁は7 0 " " ' ‑ ' 1 0 0 m mBL
で発現し,200mm BL
までに急速に発達した。また,遊泳制御能力iこ関係の深い抱の鰭,特に,胸諸および腹鰭は,
1 6 0
祖m
BLでも発達途上にあり,各務定部位の体長に対する割合が,成魚のそれに等しくなるのは
2 0 0 " " ' ‑ ' 2 5 0mm BL
であること が分かつた。すなわち,稚魚期から若魚類のクロマグロの遊泳能力は,高い推進力を獲得しながらも,制御能力が未発達な時期であることを明らかにした。
2 . 3 0 " " ' ‑ ' 1 2 0 S
齢までの減耗状況を調べ,次の結果を得た。クロマグ、ロは僅かな環境変化に対 して驚得反応,すなわち,突進遊泳を行い,水権壁に衝突するのが頻繁に観察され,多くの死亡 魚の脊柱と副蝶形骨に損傷を認めたことから,衝突が直接または間接的死密であることを認めた。この現象の頻発期間は
3 0
日齢(50mmBL)
頃から,6 0
日齢(300mmBL)
までで,稚魚期か ら若魚期に相当することが分かつた。この時期に突進遊泳.衝突が多発する原国の 1つは,前節 および第E章で明らかにした発育過程から総括し,遊泳制御能力の未発達な時期にみられるクロ宮下:クEマグロの種菖生産に関する研究
マグロ特壱の現象によるものと推察した。
v .
クロマグロ種苗の量産実験結果から,現状での生産過程を集約的に示し 各飼育過程で用 いる水槽,用水,並びに環境,館料系列および疾病などについて検討を加えた。大きな減耗期は,1 0
日齢項までの初期,以後,稚魚前期にかけての共喰い,および稚魚期から若魚期にかけての 突進遊泳による衝突死の3段階にわたって存在することが明らかになった。3 0 " " ' 4 0
日齢( 4 0 " " ' 7 0mm
BL)の沖出し時期から始まり,クロマグロの大量種苗生産を阻んで いた第3減耗期の衝突死は,突進遊泳の起点から,その持続距離もしくは衝突回避体勢を得る地 点までの距離内に水槽壁あるいは生賛網が存在することにあると考えたc その最大の京国が,第 彊章および第N章で明らかにしたように,遊泳制御能力が未発達な発青段措であることによると 推察したことから,クロマグロ種苗量産化のための沖出し用網生賓の大きさは,衝突頻度低減の ために直径30m
以上が必要であることを明らかにしたc本研究で生産したクロマグロ種苗を用いてその青成を図ったところ,網生賓のサイズを大きく するに従って生残率は高くなり,