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ここでは、1990年代に金沢大学が取り組んだ地域交流の新しい動きについて、取り上 げておこう。

共同研究センターの発足

1993(平成5)年に設けられた科学技術相談室を継承・発展させ、1995年4月、共同

研究センターが小立野地区の金沢大学工学部の中に設置され、大学と地域との間の研究協 力の一層の充実、さらに全学的規模でそれを推進することが図られるようになった。すな わち、大学と民間企業・公的研究機関などとの共同研究の推進・技術相談・人材育成・情 報提供などを通じて地域社会との交流を深めている。共同研究センター建物は、1996年 12月末に角間地区に新築され、97年に小立野地区から移転した。

共同研究の受入数は、1991年に2件、92年に3件、93年に15件、94年に16件などと なっていたものが、99年には38件となり増加傾向を示している。各時期における石川県 ないし北陸地域の社会的関心の所在を反映したものとなっている。またこの数字は地域社 会から共同センターへの期待も、次第に高まりつつあるといって差し支えない。

なお共同研究センターの活動の詳細に関しては、『金沢大学50年史部局編』第16章を参 照願いたい。

環日本海地域との交流

1990(平成2)年11月、経済学部の金沢大学経済学会が金沢市にある地域振興研究所 の後援を得て、金沢市の姉妹都市であるロシア・イルクーツク市のイルクーツク国民経済 大学から、M.ジョーミナ教授(政治経済学講座主任)を団長に4名の研究者を迎え、「日 本海地域における開発と経済交流に関する日ソシンポジウム」を開催した。さらに、これ を機に経済学部の教官が中心的な推進役を担って、金沢に本部を置く環日本海国際学術交 流協会を発足させている。

環日本海国際学術交流協会の主導下に環日本海学会が1994年11月に設立され、翌95年 11月にはその第1回研究大会(金沢国際シンポジウム「環日本海の戦後50年―中国東北 部をめぐる歴史と現代の視点から―」)が金沢大学経済学部を大会事務局にして開催された。

この学会は環日本海地域を国内の日本海沿岸地域だけに限定せず、その対岸の朝鮮半島地 域・中国東北部・極東ロシア地域との学術交流、そしてその学術は人文社会科学にとどま らず、自然科学分野も含め学際的な研究の交流を目指して活動を続けている。さらに、各 地域の大学などの研究機関・研究者だけを組織するのではなく、民間企業の研究・調査機 関、行政機関の担当者、貿易団体などを加えて幅広い活動をすすめている。このような文 字どおり地域の学際的な交流の中心に座って、大学・研究者が果たす積極的な役割を今後 も追求する必要がある。

以上のような環日本海地域との交流の活性化は、地理的条件のみならず、1990年前後 の国際情勢の変動とも密接にかかわっていたと思われる。すなわち、中国の改革・開放路 線への転換(1979年)、韓国の民主化宣言(1987年)、ソ連の崩壊とロシア連邦の誕生

(1991年)、中国の経済発展の加速(1992年〜)などが環日本海地域諸国との交流促進に 影響を与えたと言える。

こうした点を金沢大学の立場からみると、環日本海地域交流は、まずその地域の研究機 関・研究者との交流推進に貢献した。金沢大学の大学間・学部間交流協定校を国別にみる

と、中国8・ロシア6・韓国6機関で、大学全体の約半分を占めている現状である。これ に伴って特に3国間の研究者の相互国の行き来が頻繁に行われるようになった。さらに研 究面だけにとどまらず、教育面の交流、具体的には留学生の受け入れの増加にも大いに役 だった。それは90年代の中国留学生の大幅増加、さらには地方国立大学としては際立って 多いロシア留学生の受け入れ状況に反映されていると言えよう。

50周年記念事業のなかでの地域交流

金沢大学は創立50周年記念事業の中で「地域社会への貢献」という事業趣旨を掲げ、い くつかの具体的取り組みを行った。そのなかで「地域交流シンポジウム」開催は代表的な 事業のひとつとして位置づけられて成果をあげたが、今後の大学の地域交流のひとつの方 向を示す企画として最後に紹介しておこう。

創立50周年記念事業全体に関しては次の6節に譲るが、この事業はその一環として大学 が地域に対してどのような交流活動を行うべきかの協議を行いつつ、進められた。そのた め学内各部局や学外の関係諸機関に対して「大学における地域事業に関するアンケート調 査」を実施し、その結果を事業担当委員会で検討した結果、次のような活動に取り組むこ ととなったものである。それは大学がイニシアチブをとりつつ各市町村の後援をえて、そ の地域に密着した課題に基づくシンポジウムを行うという企画であった。具体的には石川 県を全県的に俯瞰して、4つの地域(金沢市・白山麓地区・加賀地区・能登地区)が選定 され、次のような計画立案、そして実施のはこびとなった。

表9−9 創立50周年記念事業 地域交流推進シンポジウムの実施一覧

金沢地区 白山麓地区 加賀地区 能登地区

金沢市 河内村 加賀市 内浦町

5月14日(金) 6月13日(日) 9月26日(日) 10月16日(土)

健康とまちづくり

交流を通してのまちづくり

〜やさしい心を育むために〜 〜家庭教育の充実と見直し〜

金沢市文化ホール ウ ッ デ ィ ホ ー ル 加賀市文化ホール 内浦町福祉センター 教 育 学 部 助 教 授 医 学 部 教 授 教 育 カ ウ ン セ ラ ー

工 学 部 教 授 フレンドスペース顧問

福島  智 小山 善子 富田富士也 川上 光彦

法 学 部 教 授

同      左 同      左 同      左 井上 英夫

開放センター教授 開放センター助教授 開放センター教授 工 学 部 教 授

内田 忠平 浅野 秀重 内田 忠平 川上 光彦

日 本 体 育 協 会 公 認 育友会連合副会長 金 沢 市 教 育 次 長

ス ポ ー ツ 指 導 員 内浦町観光協会長

村田 善則 森  秀子

松平富士子

浅井 和平 子ども会育成連絡協議会

小学生リーダー会担当 青少年連盟副会長 う ら た 医 院 院 長 中園 久美

不動寺公民館主事 教育カウンセラー

宮口  優 浦田 哲郎 東 久美子

富田富士也 アトラクション

宝 生 会 ( 能 楽 ) 児 童 文 化 部 フィルハーモニー管弦楽団

(大学サークル) 「 舞 台 劇 」 「アンサンブル演奏」 「アンサンブル演奏」

250名 120名 926名 120名

講 演

この企画を実施するにあたっては、大学側と開催自治体との間でテーマはもちろんのこ と双方の講師、アトラクションといった点まで綿密な打ち合わせが行われた。そのなかで 学生も一部参加することにもなった。大学側が一方的にテーマを押しつけて実施したり、

自治体の企画に研究者が客となって登場するといった従来のシンポジウムとは違って、共 同作業としての成果をあげることができた。創立50周年記念事業としてはもっとも長い時 間を要した企画となったが、注目すべき活動として今後のひとつのモデルとなろう。また 実施対象地域が石川県内に限定されていたが、金沢大学の立場を考えると北陸3県に同様 のネットワークを拡大することも考えられるべきである。さらにこうした面での地域交流 事業を恒常的に行うことも、今後大学にとっては必要となるであろう。