第 1 章 高齢者がんの特徴と評価
3. 高齢者でがんを疑ったときの診断的アプローチ・病期決定のための検査
(1)画像検査
Q1 高齢者がん患者の画像検査の実施にあたり、その適応・条件は何か?
A1 画像検査の益が、その害を上回るとき、検査適応がある。
【解説】
本邦は CT・MRI 検査などの画像診断機器へのアクセシビリティが他国に比べて高いことが利点 の一つであり1) 、必要な画像検査を必要なタイミングで行うことができることが多い。
画像検査の益が、その害を上回るとき、検査適応があると考えることができる。病変の検出や病 期決定が画像検査の主な益であるが、検査下流の治療やマネジメントの転換も含めて益を検討しな くてはならない。いくら画像検査の病変検出精度が高くとも、画像検査の結果が以後の診療方針に 影響を与えないのであれば(例:病気が見つかっても何の治療もしない)、その患者に検査適応はな いと考える。
また、画像検査の益を考える上で重要なのが、検査前確率(検査を受ける前の、その患者の「病 気がありそうな確率」)である。検査前確率が非常に低い、あるいは非常に高い場合は、検査を施行 しても検査後確率は検査前確率に準じた値にしかならず、検査の有用性は低い2) 。とある患者が肺 転移を有する検査前確率は、原発巣の状態によって異なるため、原発巣の状態に応じて検査適応が 異なる 3)。なお、検査が必要と考えられる検査前確率(検査閾値)は、画像検査の侵襲性や、検出 を目的としている疾患の危険性によっても変化する。例えば侵襲性の高い検査(カテーテル血管造 影など)の検査閾値は、侵襲性の低い検査(超音波検査など)の検査閾値よりも高くなり、診断の 遅れが生命を脅かす疾患(くも膜下出血など)を検出する目的の検査閾値は、そうではない疾患(変 形性腰椎症など)の検査閾値よりも下がる。高齢者の場合は併存疾患が存在することが多いため、
目的とする疾患以外の疾患の検査前確率も考慮する必要がある。
画像検査の害としては、検査の有害事象(造影剤アレルギー等)、被ばく、検査時間などの患者の 身体的負担などに加えて、間違った診断分類(偽陰性と偽陽性)によって起こりうる害や経済的負 担も含まれる。高齢者の場合は特に検査自体による身体的負担が若年者よりも大きいため、より慎 重な検討が必要である。逆に高齢者では被ばくによる影響が小児や若年よりも少ない。
最終的には個々の患者に対して、画像検査の益と害のバランスを総合的に考慮して適応を決める。
文献 1) OECD (2018), Computed tomography (CT) scanners (indicator). doi: 10.1787/bedece12-en
(Accessed on 5 August 2019)
https://data.oecd.org/healtheqt/computed-tomography-ct-scanners.htm
2) Medow MA, Lucey CR. A qualitative approach to Bayes' theorem. Evid Based Med. 2011 Dec;16(6):163-167.
3) 画像診断ガイドライン2016金原出版。第8章P514
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Q2 高齢者がん患者の画像検査の実施にあたって、その留意点は?
A2 検査の侵襲性を下げること、患者の心身状態・併存疾患に配慮すること。
【解説】
高齢者は若年者と比較して検査自体の負担が大きいため、できる限り非侵襲的な検査を選択する 必要がある。より低侵襲なモダリティ選択、検査時間をなるべく短くする撮影プロトコルの選択、
必要最低限の撮影範囲の吟味、等が重要である。
高齢者は腎機能,肝機能などの生理機能が低下していることが多く1) ,医薬品の副作用が発現し やすい傾向があることから,CT造影剤の添付文書にも慎重に投与するよう記載されている2) 。ま た,造影剤投与前後での腎機能の慎重な観察が必要である。また、血清クレアチニン値は腎機能障 害の指標として広く用いられるが、年齢、筋肉、性別などにより変動するため、高齢者では血清ク レアチニン値が正常でも、実際には糸球体濾過値(GFR)が低下 している場合がある。
MRI検査は一般的にCT検査よりも検査時間が長く、腰痛等により同一姿勢の長時間保持が難し い高齢者も多い。検査中の体動により画質が劣化すると診断能が下がるため、患者が耐えうる検査 時間・姿勢も含めて検査モダリティ・プロトコルを決定する必要がある。
高齢者は併存疾患が多いため、がんの術前検査であっても、重要な偶発疾患が発見されることが あるため、画像の読影に際しては、目的外の部位にも細心の注意を払う必要がある。
文献 1) Simona Detrenis et al. Contrast Medium Administration in the Elderly Patient: Is
Advancing Age an Independent Risk Factor for Contrast Nephropathy after Angiographic Procedures? J Vasc Interv Radiol 2007; 18:177–185
https://www.jvir.org/article/S1051-0443(06)00035-2/pdf 2) http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/7219412G1030_2_11
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(2)内視鏡検査
Q1 高 齢 者 が ん 患 者 に 対 す る 内 視 鏡 検 査 を 実 施 す る に あ た り 、そ の 適 応・条 件 は 何 か ?
A1 全 身 状 態 、 合 併 症 の 重 篤 度 に 応 じ て 個 別 に 扱 う こ と を 強 く 推 奨 す る 。
【解説】
世界でも未曾有の高齢社会を迎えているわが国では、高齢者に内視鏡検査を行う機会が増加して いる。しかし、高齢者は偶発症のリスクが高く、併存疾患を持っていることも多いため、適応判断 には十分な検討が必要であり、より安全でかつ有意義な内視鏡検査が行えるような工夫が求められ ている。米国消化器内視鏡学会の高齢者に対する内視鏡検査のガイドライン1)において、高齢者に 対するがんスクリーニングやサーベイランスの内視鏡検査は、全身状態や合併している疾患に基づ いて個別に扱うことを推奨している。本邦では、具体的な提言がないため、被験者のADL、経口摂 取の状況、基礎疾患の臨床経過および重症度、排泄の自立などの様々な条件を勘案した上で、個々 の内視鏡医が検査の実施を決定しているのが現状である。内視鏡診療においても高齢者の機能評価
(geriatric assessment: GA)や呼吸循環動態を評価したうえで、内視鏡検査実施の可否を判断し、
実施する場合は、侵襲度を考慮したうえで行うことが望ましく、今後の検討すべき課題と考えられ る2)。現時点では、高齢者の場合、内視鏡検査を行うことで、被検者のADLが低下し、基礎疾患が 増悪する可能性もあることを念頭に、安易な内視鏡検査の導入を避け、内視鏡検査の有用性を十分 に検討し、患者・家族に情報を提供、インフォームドコンセントに基づく承諾書を得たうえで検査 を行うべきである。一方で、食欲低下・つかえ感・頻回な嘔吐などの症状で消化管癌が強く疑われ ている場合、吐血・下血・黒色便といった消化管出血に伴う症状を認める場合には、リスクが多少 高くても、被検者のベネフィットを優先し、内視鏡検査を行うこともある。
参考1) 米国では、85 歳以上の超高齢者に対する大腸癌スクリーニングのための大腸内視鏡検査 は、利益が少なくリスクを増やすために推奨されていない1)。
参考2) 当院内視鏡部における高齢者に対する評価項目と対応
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文献 1) ASGE Standards of Practice Committee. Chandrasekhara V, Early DS, et al. Modifications
in endoscopic practice for the elderly. Gasrointest Endosc. 2013; 78: 1-7 2) 山本頼正, 西村 誠. どうする?高齢者の内視鏡診療. 第1版. 文光堂 ; 2019
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Q2 高 齢 者 が ん 患 者 の 内 視 鏡 検 査 に あ た っ て 、 そ の 留 意 点 は ?
Q2-1 内視鏡検査にあたって、高齢者の身体的変化に対する留意点は?
A2-1 加齢に伴う呼吸・循環機能の低下に留意し, 救急対応ができる準備をして内視鏡検査を
行うことを強く推奨する。
【解説】
高齢者は若年者と異なり加齢に伴う様々な身体的変化がみられる。内視鏡検査においては、特に 呼吸機能と循環機能の変化に留意する必要がある。加齢による呼吸機能の変化は、①機能的な肺胞 が減少することで起こる残気率増加、②肺活量、1秒量、1秒率、最大呼吸気量の低下、③肺拡散能 の低下などが挙げられ、それらに伴う呼吸機能の予備力低下が認められる。次に循環動態の変化は、
心係数、心拍数、駆出率の低下などがあり、高齢者では低酸素血症や高炭酸ガス血症に対する心拍 数の増加反応や運動負荷時の最大増加反応が減弱しており、ストレスに対する循環系の調節機能は 低下している1)。日本消化器内視鏡学会「内視鏡実施時の循環動態研究委員会報告」2)によると、鎮 静剤を使用した内視鏡検査において、SpO2が90%未満に低下した症例は、65歳以上で51%、65歳 未満で39.9%、血圧低下した症例は、65歳以上で19.2%、65歳未満で16.8%と報告されており、いず れも65歳以上で多くみられる。日本消化器内視鏡学会「内視鏡診療における鎮静に関するガイドラ イン」3)では、鎮静剤を使用した内視鏡検査において呼吸抑制・血圧低下による死亡リスクは
0.000024%と報告されており、高齢者の鎮静について、非高齢者に準じた鎮静薬を投与量に配慮し
て使用し、非高齢者以上に検査中および検査後の慎重な監視が求められると提唱されている。近年、
高齢者に対しても内視鏡検査時に鎮静剤を使用するケースが増えており、呼吸・循環動態のモニタ リングを行いながら、呼吸抑制に伴いSpO2が低下した場合には速やかに酸素投与を行い、代償性心 拍数増加作用が鈍く、循環血漿量が低下することにより血圧低下を認める場合には適切な輸液管理 を行う必要がある。更に、誤嚥や覚醒遅延、 転倒などへの注意も必要である。特に、ベンゾジアゼ ピン系薬剤は、過鎮静、認知機能低下、 せん妄、転倒、骨折、運動認知機能低下の危険性が高く、
錘体外路症状、遅発性ジスキネジアなどの有害事象発生リスクも報告されている4)。一方、内視鏡 検査時は一定の姿勢保持や長時間の臥位の継続が必要であり、血栓・塞栓症のリスクになる。日本 消化器内視鏡学会による消化器内視鏡関連の偶発症に関する第6回全国調査報告(2008年より2012 年の5年間)では、内視鏡検査数17,087,111件のうち、塞栓症は2件 (1件は死亡例)と報告されている5)。 内視鏡検査・治療を行うに際し、あらかじめ時間がかかると予想される場合には、弾性ストッキン グの着用や可能な限り体位変換を行う必要がある。また、内視鏡検査時は、飲食の制限もあるため、
高齢者は脱水になりやすく、血栓・塞栓症のリスク因子になるため、 検査前に十分な水分摂取する よう指導することも大切である6)。