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精神科的治療

ドキュメント内 高齢者がん医療 Q&A 総論 (ページ 165-184)

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系薬剤と併用することはプラセボとの併用と比較してせん妄を有意に改善するか」について、無作 為化比較対照試験を行った 2。それによると、ハロペリドールとベンゾジアゼピン系薬剤を併用し た群では、せん妄評価尺度のスコアが有意に改善したと報告されている。この結果を踏まえると、

ハロペリドールの単剤投与で効果が乏しい場合には、そのような選択肢も考慮に入れる必要がある。

その一方で、せん妄に対してベンゾジアゼピン系薬剤を単独で使用することの有用性に関するエビ デンスは乏しく、むしろせん妄の発症リスクが増加する可能性を示唆する研究結果が報告されてい る 3。したがって、せん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の投与については、持続的な鎮静を目 的とする場合を除き、単剤での使用を避けるべきである。

2017年にAgarらは、「緩和ケアを受けている進行性かつ予後不良の患者のせん妄に対して、リス ペリドンあるいはハロペリドールを用いることはプラセボと比較してせん妄を有意に改善するか」

について、無作為化比較対照試験を行った 4。それによると、リスペリドンあるいはハロペリドー ル投与群では、せん妄評価尺度のスコアが有意に悪化し、また平均生存期間が短くなったと報告さ れている。本研究は、がん患者のせん妄に対する抗精神病薬の有用性を検証した唯一の無作為化比 較対照試験ではあるが、せん妄の重症度が低い高齢患者を対象としていることを考慮すると、これ をもって「終末期における高齢のがん患者のせん妄に対して、抗精神病薬を使用するべきではない」

と結論づけるのは早急である。ただし、本研究の対象者に近い患者では、リスペリドンあるいはハ ロペリドールの使用については慎重を期す必要があると考えられ、場合によっては非薬物治療を主 体として治療をすすめることが望ましい。なお、2015年にHshiehらは、「高齢患者のせん妄に対す る非薬物治療による複合的介入がせん妄の発症を減少させるかどうか」について、メタアナリシス を行った5。それによると、見当識を保つこと、早期離床の促進、聴覚/視覚補助、睡眠サイクルの 調整、補液といった非薬物的な介入により、せん妄の発症率や転倒率が有意に減少したと報告され ている。

がんの終末期におけるせん妄の薬物治療は、せん妄からの回復が可能かどうかによってその内容 が大きく変わる。せん妄からの回復が困難で、不可逆性せん妄と判断される場合は、薬剤による鎮 静が検討されることになる。持続的な鎮静薬の投与を行う際には、A.相応性 B.医療者の意図 C.

患者・家族の意思 D.チームによる判断という4つの要件を確認するプロセスが求められる6)。 本邦における既存のせん妄のガイドラインとして、日本総合病院精神医学会から「せん妄の臨床 指針[せん妄の治療指針 第2版](星和書店)が刊行されている。一般的なせん妄に関して、体系的 な文献レビューを行ったうえで、エビデンスと現場感覚の融合を目的とした実践的な内容となって いる。また、2019年2月に日本サイコオンコロジー学会および日本がんサポーティブケア学会か ら「がん患者におけるせん妄ガイドライン」が発表された。ぜひ参考にしていただきたい。

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文献 1) Oh ES et al. Delirium in Older Persons: Advances in Diagnosis and Treatment.

JAMA. 2017; 26;318(12):1161-1174

2) Hui D et al. Effect of Lorazepam With Haloperidol vs Haloperidol Alone on Agitated Delirium in Patients With Advanced Cancer Receiving Palliative Care:

A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318:1047-1056

3) Gaudreau JD et al. Psychoactive medications and risk of delirium in hospitalized cancer patients. J Clin Oncol. 2005;23:6712-6718

4) Agar MR et al. Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial.

JAMA Intern Med. 2017;177:34-42

5) Hshieh TT et al. Effectiveness of multicomponent nonpharmacological delirium interventions: a meta-analysis. JAMA Intern Med. 2015;175:512-520

6) 日本緩和医療学会 ガイドライン作成委員会. がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基 本的な考え方の手引き 2018年版. 東京. 金原出版; 2018

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Q2 認知症をもつがん患者の治療適応をどのように考えるか?

A2 認知症も、他の老年症候群同様に、予想される生命予後と比較し、がん治療により生命予 後の改善が期待できるか否かで判断する1)

【 解説 】 認知症は、

・正常に発達した知的機能が持続的に低下する(知的障害を除く)

・複数の認知機能障害がある

・その結果、日常生活や社会生活に支障を来している

の3点を満たし、かつ意識が清明である(せん妄のような意識障害ではない)状態を指す。

認知症は、認知機能障害や関連する症状が進行性に変化する、余命を規定する疾患である。認知 症の代表的な疾患であるアルツハイマー型認知症の場合、診断されたときからの平均的な余命は、

約 4-6 年である。認知症の場合、認知症が直接の死因になることは少なく、多くの場合は、誤嚥を 中心とした感染症を理由として死亡する。そのため、悪性腫瘍ほど生命予後は精密に予測すること は難しい。しかし、重度の認知症(言語機能が崩れ、コミュニケーションが困難な段階)では、誤嚥 が顕在することも多く、平均的な生命予後は6か月から1年と見積もられている。

認知症も、他の老年症候群同様に、予想される生命予後と比較し、がん治療により生命予後の改 善が期待できるか否かを参考に、本人の意向を踏まえて決定する1

中等度の認知症では、日常生活動作(ADL)にも障害が生じ、保清(口腔ケアや入浴)や食事の摂取 に障害が生じるほか、アパシーにより身体機能が容易に低下するリスクがある。加えて、入院によ りせん妄を合併するリスクがある。このような、身体機能・精神機能低下のリスクに対して、家族や 訪問看護等による人的支援や、服薬管理、スマートホンによるスケジュール管理などでどこまでリ スクをカバーできるかで治療の適応を判断する。

軽度の認知症では、手段的日常生活活動(IADL)は低下し、服薬管理や金銭管理は難しくなってい る一方、身の回りのことは維持できているため、家族も医療者も認知症にり患していることに気づ かず、見落とされていることがある。がん治療を開始して、せん妄を発症したり、予測をしていなか った脱水やアドヒアランスの障害が生じる場合には、認知機能障害を改めて精査する。

文献 1) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®) Senior Adult Oncology

Ver.2 2017

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Q3 高齢者の意思決定能力の評価はどのようにするか?

A3 理解と認識、論理的な思考、表明の4要素で評価することを推奨する。

【 解説 】 患者が妥当なインフォームド・コンセントを与える能力がある(意思決定能力)かどうかを評価 することは、インフォームド・コンセントの倫理的ならびに法的な必要条件であり、担当医の役割 である。

4要素モデルとは、Appelbaum、Grissoらが、諸国の法令や判例のモデルを包含する形で提唱し たモデルである。意思決定能力を、選択を表明する能力、理解する能力、認識する能力、論理的な思 考の4つの機能的な要素で構成しており、最も汎用性の高いモデルでもある1

わが国においては、医療における意思決定能力評価の判断基準について明示されてはいないもの の、2018年6月に公開された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援に関するガ イドライン」では、4要素に基づいて意思決定能力を評価し、支援を行うことが記載されている1)

通常の診療場面では、意思決定能力評価は、主要な説明を終えた後に、面談の一環として口頭で 尋ねる形式で行われる。一般には、担当医がどのような説明を行ったか、その説明に対して患者自 身がどのような理解・判断を示したか、その反応を担当医がどのように理解し、最終的に意思決定 能力をどのように判断したかを記載する(その後の意思決定能力をめぐるトラブルを防ぐうえで重 要である)。また、意思決定能力の評価は、適切なインフォームド・コンセントの手続きを確保し、

患者の権利を尊重する手続きであることから、非公式な同意と協力依頼の上での実施で十分である。

意 思 決 定 能 力 の 評 価 が 詳 細 に 求 め ら れ る 場 面 で は 、 半 構 造 化 面 接 法 で あ る MacArthur Competence Assessment Tool-Treatment (MacCAT-T)を用いることが望まれるが、通常診療では、

そこまでは不要である。

また、Mini Mental State Examination (MMSE)などの簡易認知機能検査は、評価の解釈をする 上で有用であるが、意思決定能力評価の代用にはならない(認知機能と意思決定能力は全く別の概念 である)。

4要素とは以下の点が含まれる2

・選択を表明する能力: 本人の意向を言語的・非言語的に表明する能力である。臨床的には「選択 を実行するために十分安定している(意向が一貫している)」ことが重要で、複数回の確認を通し て意向が変わらないことで確認する。

・理解する能力: 本人に開示された情報を理解・把握する能力である。

・認識する能力: 患者に開示された事実を、実際に自分自身の置かれた状況に適用する能力であ る。その中身は大きく2つあり、

①自分が診断された疾患にかかっていることを認識している

②疾患と応じた治療の選択肢の結果を自分自身の状況に照らして認識していることを含む。

ドキュメント内 高齢者がん医療 Q&A 総論 (ページ 165-184)