第 3 章 支持・緩和治療
13. 輸血
Q1 高齢者においては輸血の適応に違いがあるか?
A1 高齢者に特徴的な輸血適応はない。
【 解説 】 平成28年東京都輸血状況調査集計結果において年代別輸血状況が報告されており、70歳以上の 患者への使用が全体の56.8%を占めていた。この結果から輸血を必要とする患者の半数以上が高齢 者であることが示された1)。
厚生労働省が通知した「『血液製剤の使用指針』の一部改正について」(平成29年3月31日付薬 生発0331第15号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)では、慢性貧血に対する赤血球輸血の適応 には「一般的に輸血の適応を決定する場合には、臨床検査値のみならず臨床症状を注意深く観察し、
かつ生活の活動状況を勘案する必要もある。」と記載されている2)。一般的に活動度が低い高齢者に おいては貧血症状が発現しにくい状況が考えられるが、指針内の「固形癌化学療法などによる貧血 の項においては、トリガー値をHb値7~8g/dLとする」とある。「循環器系や呼吸器系の合併症があ る場合では、輸血を必要とする状況もあり得る。(中略)しかし、Hb値を10g/dL以上にする必要は ない」とされているため、高齢者においても若年者同様Hb値7~8g/dLをトリガー値として、10g/dL 以上とならない程度に患者状態を総合的に勘案して輸血することになる2)。
血小板濃厚液輸血については上記指針内に「血小板数、出血症状および合併症の有無により決定 する」とある。一般に血小板数が5 万/μL 以上では血小板輸血が必要となることはなく、活動性出 血時には血小板数 5 万/μL 以上に維持するように輸血することが推奨されている。ただし転倒など による外傷性頭蓋内出血の場合には血小板数10万/μL以上に維持することが推奨されている。また 固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には、血小板数が 1 万/μL 未満に減少し、出血傾向を 認める場合に、血小板数が1万/μL以上を維持するように血小板輸血を行うことが推奨されている。
なお癌や重症感染症などを基礎疾患としたDIC(Disseminated Intravascular Coagulation)では、血 小板数が急速に5 万/μL 未満へと減少し、出血症状を認める場合には、血小板輸血を考慮するとさ れている2)。
文献 1) 東京都福祉保健局. 東京都輸血状況調査結果.
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/k_isyoku/yuketsutyousakekka.html 2) 厚生労働省医薬・生活衛生局. 血液製剤の使用指針. 2017
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000161115.p df
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Q2 高齢者において注意が必要な輸血副反応は何か?
A2 輸血関連循環過負荷(TACO)である。
【 解説 】 アナフィラキシー、輸血関連急性肺障害(TRALI)、感染症等はすべての受血者に同程度に発生し得 るが、輸血関連循環過負荷(TACO)は、70 歳以上の高齢者であることが発症リスクの一つとされて いる1)。
高血圧を基礎疾患とした高齢者では、左室が心肥大あるいは繊維化により硬化し、左室収縮能は 比較的保たれていても、血液が十分左室に充満できない左室拡張能障害を来すことが最近注目され ている 2)。そのような患者においては通常の輸血療法でも相対的に循環過負荷となり得る可能性が あるためと考えられる3)。なお他のTACOのリスクとしては心機能障害、腎機能障害、輸血前から の循環過負荷、低アルブミン血症、低体重が報告されている4)。
上記リスク保有患者においての輸血時には輸血速度が1ml/kg/hrを超えないようにするべきとされ ている 5)。また輸血中から輸血後にかけての患者観察に努め、呼吸困難出現時には輸血を中止して 輸液に切り替え、アナフィラキシー、不適合輸血、TRALIを鑑別し、循環負荷の所見が認められれ ば、利尿剤の使用を考慮する。
文献 1) Fung MK et al. Technical Manual.18th edition : American Association of Blood
Banks.2014;682-683
2) 大西勝也. TACOの危険因子 ―左室駆出率が保たれている心不全(拡張性心不全)―.
医学の歩み. 2015;253:649-653
3) 田崎哲典、他. TRALI, TACO鑑別診断のためのガイドライン. 日本輸血細胞治療学会誌. 2015;61:474-479
4) 日本赤十字社 医薬品情報ウェブサイト.輸血情報1707-155 http://www.jrc.or.jp/mr/relate/info/pdf/yuketsuj_1707-155.pdf
5) 岡崎仁. TRALI・TACOの鑑別診断と予防対策.医学の歩み. 2015;253:654-658
123 Q3 高齢者の輸液で気をつける点は何か?
A3 水分投与量、電解質投与量である。
【 解説 】 身体全体の水分量が一般成人は 60%であるのに対し、高齢者では 55%程度に低下するとされて いる。一方細胞外液量は一般成人では20%に対し高齢者は25%であり、差し引きの細胞内液量は一 般成人40%対高齢者30%で、細胞内脱水に陥りやすい傾向がある。従って輸液実施時の安全許容範 囲が狭くなる1)。
また高齢者では腎機能および心機能が低下しており、一日水分投与量は一般的に30~40mL/kgと されているが、輸液時は尿量を確認しながら体液貯留に留意する必要がある。
電解質維持量は一般的にNa 1~2mEq/kg/日、K 0.5~1 mEq/kg/日とされている2)。高齢者では 加齢による腎血流量低下と共に濃縮能、希釈能も低下するために電解質異常が起こりやすいことに 留意する。
なお輸液で栄養分を補充する必要がある場合には、日本静脈経腸栄養学会が作成した静脈経腸栄 養ガイドライン3)を参照されたい。
また高齢者においては持続点滴すること自体が不安感を増強させ、夜間等にせん忘を来たし点滴 抜去が起こりうることも留意しておきたい。
文献 1) 飯野靖彦. 一目でわかる輸液.第3版.東京.メディカルサイエンスインターナショナル;
2013.16-17.78-79.
2) 丸山一男. 手術期輸液の考え方―何を・どれだけ・どの速さ.東京.南江堂;2005.121-124 3) 日本静脈経腸栄養学会. 静脈経腸栄養ガイドライン.第3版.東京.
照林社;2013.385-392
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麻酔総論
高齢者がんの麻酔で留意すべきことは何か?
はじめに
高齢者は、様々な生理機能や臓器機能の低下を持ち合わせ、基礎疾患を併存している1)。高齢者 の呼吸器、循環器、腎臓・肝臓、代謝・内分泌、脳神経、体温調節系といった主要臓器の生理機能は、
変化の始まる時期や程度については個人差があるものの、加齢とともに低下していく 2)3)。高齢者 のがんの手術に対する麻酔では、身体的予備能の低下からリスクが高まる。
Ⅰ.高齢者の特徴
<呼吸器系>
高齢者の呼吸機能では、肺活量、一秒率、肺拡散能が減少し、機能的残気量、死腔が増加する。
理解が不十分で指示に従えず、呼吸機能検査が正確に施行できない高齢者もいる。咳嗽反射や嚥下 機能が減弱するため、喀痰の排出が低下し、周術期の無気肺、肺炎のリスクが高い。加齢に伴う中枢 神経系の活動低下により、低酸素血症、高二酸化炭素血症に対する換気応答性が低下しており、麻 酔薬により助長される。
<循環器系>
加齢に伴い、動脈硬化による末梢血管抵抗の増大や心臓弁の硬化が生じ、収縮期血圧は上昇する。
左室負荷は増大し、左室壁は肥厚し、左室収縮・拡張能は低下する。刺激電動系は変性し、β受容体 の感受性低下が起こる。冠動脈硬化のため、虚血性心疾患や不整脈のリスクが高まる。圧受容体反 射機能の低下や交感神経活動の亢進がみられ、手術室入室直後の手術台で測定した血圧は加齢とと もに増加する4)。周術期は、平常安静時の血圧を保ち、循環変動を小さくし、心不全の原因となるよ うな過剰な輸液は避ける。
<腎臓・肝臓系>
高齢者では、動脈硬化による腎血流量の低下や尿細管の委縮に伴い糸球体濾過率は減少する。骨 格筋の減少によるクレアチニン負荷の減少と腎でのクレアチニンクリアランスが相殺されるため、
血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、潜在的腎機能低下例は多い。抗利尿ホルモンの反応 性の低下、ナトリウムの保持能の低下、尿濃縮力の低下による脱水や電解質異常、薬物による腎機 能障害を引き起こす。重篤な腎機能障害では、高カリウム血症や肺水腫の合併症を引き起こす。加 齢に伴い、肝血流量の低下がみられる。慢性肝炎や肝硬変を合併していることがあり、術後に肝不 全を引き起こすことがある。加齢により、腎排泄薬物や肝臓代謝の薬物ではクリアランスが減少す