第2章 未刊の「高等学校学習指導要領数学科編」
第2節 「高等学校学習指導要領数学科編」の作成中断
1.作成中断の事実
驚くべきことに, 「在米史料」には,新制高等学校の「数学科編」の編集作業に関する記 録を見出すことが出来る.
1947年6月4日の「在米史料」 "CoursesofStudy forMathematics"(3) (次ページ)に注 目したい.この史料は,文部省教科書局の数学担当官であった和田a,中島b,青池cの3人
が, K.Mノ、‑クネスd, M.L.オズボーンeに呼び出され, CI&Eを訪問した時の記録である.
その全訳を示す.
上記の文部省の職員がCI&E教育課に呼ばれ,新制の中学校と高等学校の数学の教科課程の 長期的計画について話し合った.中学校用の1947年度の数学科学習指導要領は,すでに発行済 みで,編集者は,高等学校用の学習指導要領に取り組み始めていた.
今日,高等学校学習指導要領数学科編の作業は中断するという決定に達し,試験的,暫定的な 教材の開発に力を注ぐことはせず,今年の夏に長期的な教科課程の研究を始めるべきだと決定し
た.
この作業のために, 20人から25人の文部省外の教育者による委員会が組織される. CI&E 教育課の代表から,委員会には次の委員を入れるよう指示がなされた.
・大学の数学の専門家
a和田義信:当時文部省教科書局第二編修課. 1945年10月15日から在任.
b中島健三:当時文部省教科書局第二編修課. 1946年5月から在任.
c青池 実:当時文部省教科書局第二編修課.
d Kenneth M.Harkness :当時, CI&E Education Division Textbooks & Curriculum OfRcer (民間情報 教育局教育課教科書教育課程担当官) 1946年の夏から学習指導要領作成の最高責任者となる.
e Monta.L.Osborn :当時, CI&E Education Division Secondary School Officer (民間情報教育局教育課 中等学校担当官) 1946年6月GⅡQに入る.
・全種類の中等学校(旧制の男子の中学校,高等女学校,実業学校,青年学校,高等小学校) の女性教員を含む数学科教員の責任者
・教育心理学者
文部省職員は,現在,教科書の編集に携わっており,またその全員が6月15日から7月15 日までの間,学習指導要領の部局会議にも参加が予定されているので,このグループの第1回の 会議は,その後に設定される.和田,中島,青池は,ただちに委員の構成案をつくり,学習指導 要領委員会の委員長(まだアポイントはとっていないが)とそれを確認し,人選を最終決定する 前に署名官aに提出することになる.
この報告書の主題
は, 「長期的な教科課 程の研究」をするため, 新たな数学科学習指 導要領委員会の設置 を決定したことであ る.後の「在米史料」
によれば,この委員会
は, 1947年8月7日 に第1回会議が召集さ れ,以後会議が重ねら れている.目的は,算 数・数学の社会的実用 悼(social use)に基 づく次期の教科課程 の開発を行うことで あった.したがって,
この委員会の最終的 な成果となったもの は, 1951年の新「学 習指導要領」である.
また, 1948年10月 11日付けの「発学第
A T S T B エC 空言3)
ノi
/'盲Ⅶ1F・ 19且7
F凸芦eL,tl on DIvlslont CI虻 Sectまon i1
7&.野皿Al虹・ N^弘5t!王弘I ftfidむ一A9王肝▼ cons,土1"I 9r Cour宜‥ Or study 8dd tF:ttb‑k5 iTI JnatheぬtlcちBurFa‑, l}f TpXtbQOks,氾血st叩
エXmStrBJFrTl Of fdど芸霊喜…≡漕孟七宝評rf芸碧。監tfac.r血叫C・I・8nd丑●
l
<Th亡氾nistry缶f F‑,dtlC郎i叩翌‑QnnFl na皿fd曲oye yere call‑a ovpr也thp田ucatiorl Div生ston to dl占Ctt55 8 long‑range?rO軍学jPL ill thp zn&thE加七王c5 PrOgra皿Of s七udyL for細評・J, Chu卵kko 8d hto卵拙o●
The 194?̲48 cot)r.'e・ Of Study in壷t:hF・Ea七ic8 for the ch喝曲ko has さ止(ady bfPn声ub11sh戒† ‑dL th甘e¢Ln!・,iおrs hzJV亡begun.NOrk on a coursp nf 3ttldy王■or拙p kotQgakko.
空7T.早dFCIsILln朋S rF8ehFd today that ・^・ork on ち.nr
・k:0毛ogskko cours=f Ftudy in m5位e血tエcs ‑Dill b亡己iscoJltlauf'd r五紙{r地色n
at七郎甲土1ng t・o軸;elop七pLl七8tiyeI ‑erEPnCy臼紙亡r181丘;王七甘aS de‑
cided th81: a long r己rAgF CllrrまculuLn 5t忘&Y S如芯王d bf盲卓gun th16 dV A Cozzmi伽p i‑I
,20
to 2ぎモducB軸z,a f至oD, Outside thpJYc・血t15ho
wiよユbp oFgとnlzed f蝿もhエS work. =t附Sきu占師出f丘by the rEPrf‑
s陀t8七三vps or th.宅如J1"tiion Divisioll払出thr Coins;iモtpe includpI uLIypESltlrs i
r 丑FPre押ntativps in fま戸Id of ‑th印at王es clf elk typf王Of gFCO藤一ry scl.lCQLs (tlSin6統F O1己dF5まgnBi:まons'boys血ddlE
ylOn)en zhthFTn8t3cき SPモC王聖1王sitS i■roLB
gまrn̲a tligh sch8OIs} voc轟tl‑On81 scihool= IyOllth h軸hpr rle畔entary 8CLIOO1写)ユ駅1甘ding so加ylOn)
をrf' CurrPtl七上y Fこ唱ag一札 schcols ).
きChqoユ..<. hま 七pachrrE;
Fぬc包もまonai
p王ユIng肝毛hprna七ic9 t苧池bo益8, and bpc8uS空色11 af地pn will parTtまcエ・
pQ土t iA純1‑恵一垂肘Of the rや亭ional coLd由軸cp$ On thp CDur如ぜ
s七udlJ tO bp heエd盲Ft甘押エ1ぎ如np̲and L>‑ July,七hf fifs七Bl{eting of
●
もh加古lOup Yまn btさet &t !"ZnP七i抑点ft押th<
ARD AO王EE w王u Bt8虎8t Once eO皿pi1ま一喝Z).I;Fnt&
chalrnatl (yptL tO be 克也呼甘i11 su如1t払i W▲‡姐.+ FAX▲8EI泣▲ I
慧転g!・i宗撃鮎
ヽ■
pr.chpt:態1.ng lt ,71th uzt押示f 8tudy
I
※ 「在米史料」 "Courses of Study for Mathematics"
448号」という通達により,中学校で行われた生活単元学習からの連続的要素を持った科目
「一般数学」が加えられたが,これは,この委員会の中間的な成果と見ることができる.
だが,この委員会の発足は, 1948年4月より後の数学科の改定をにらむものであり,本論 文で取り組む新制高等学校数学科の成立史と直接の関係はない.
この報告書で注目したいのは,その主題とは別の点である.この和訳の2行目には,
「中学校用の1947年度の数学科学習指導要領はすでに発行済みで,編集者は,高等学 校用の学習指導要領に取り組み始めていた. 」
"The 1947・48 Course of Study in matbematics丘)r the chugakko has already been published, and the compilers have begun work on a course of study for the kotogakko."
とある・つまり, 『学習指導要領算数科数学科編(試案)』が完成した後,高等学校用の学 習指導要領の作成が始められていたのである.しかし,
「今日,高等学校学習指導要領数学科編の作業は中断するという決定に達した.」
"The decision was reached today that work on the kotogakko Course of Study in Mathematics will be discontinued"
と明記されている.さらに,
「試験的,暫定的な教材の開発に力を注ぐことはせず,今年の夏に長期的なカリキュラ ムの研究を始めるべきだと決定した.」
〃rather than attempting to develop tentative, emergency materials; itwas decided that a long range curriculum study should be begun this summer."
と記されている.
この「在米史料」の記述から,新制高等学校数学科の成立に絡んで, 1947年6月4日の 時点で,次の事実を読み取ることができる.
① 「高等学校学習指導要領数学科編」は, 1948年度の新制高等学校数学科発足に向けて, 作成が行われていたこと.
② 「高等学校学習指導要領数学科編」の編集作業は, 1947年6月4日時点で中断され, 刊行には至らなかったこと.
③ 1948年度に発足させる新制高等学校数学科は,あくまでも,試験的"tentative",暫定 的"emergency"なものであるとしたこと.
高等学校の「数学科編」の編集は1947年6月4日に打ち切られ,刊行されるには至らな
かった・その後, 「数学科編」に相当する刊行物・通達も発行されることはなく, 1948年4 月の新制高等学校発足を向かえることになるである.したがって,新制高等学校数学科の 成立は「試験的・暫定的」なものであり,高等学校の数学科の内容を決定づけた刊行物は, 後に発行される「数学の教科書」,
『数学解析編(Ⅰ)』,
『数学解析編(Ⅲ)』,
『数学幾何編(1)』,
『数学幾何編(2)』
の4冊の他に見出すことは出来ない.これら
は検定教科書ではあるが, 「中等学校教科書 株式会社」発行の1種類のみ(1種検定)で
ある.それゆえ,この検定教科書は数学科の 成立にとって重要な意味を持つのである.
2.作成中断の理由一散科書検閲時のCl&Eによる批判一
高等学校の「数学科編」の作成が中断された背景には,何が存在したのであろうか.
第1章で見てきたとおり, 1946年12月に, CI&Eと文部省により,新制高等学校の教 科課程に関する議論がなされた.その際, CI&Eは, 「単位制(Unit Credit System)」と
「総合制学校」 (Comprehensive School)の構想を大きく打ち出した.これは,高等学校を,
より「大衆的な学校」として新設しようとするものであった.それに対し,文部省は, 「学 年制,カレッジ準備課程」に強いこだわりを見せ,旧制高等学校のような「アカデミック
なエリート学校」の教科課程を画こうとする.しかし, CI&Eはこうした日本側を厳しく 批判し,退けたのであった.
筆者は,こうした「対立」が,学校構想のみならず数学教育理念においても存在し, 「学 習指導要額数学科編」の作成中断に少なからず作用したと見る. 「在米史料」からそのこと を示す事実を取り上げてみよう.
「在米史料」には,教科書原稿の英訳が存在する.これは,検閲を得るためにCI&Eに
提出されたものである.新制高等学校用数学教科書『数学解析編(Ⅱ)』 (以下『解析編(Ⅱ)』) の英訳(¢の冒頭には, 1947年8月25日のオズボーンによる「批評」,
"COMMENTS ON TEXTBOOK ON "MATHEMATICS ANAL:YSIS"(2)'' が添付されている.次ページに掲げたものがそれである.
『解析編(Ⅱ)』の認可に際して, CI&Eが「期限と条件」を付したことを,次のように 見出すことが出来る.まず,
「この数学の課程は, 大学進学希望でない 新制高等学校の生徒 が使用することは想 定出来ない.この年齢 の生徒にとっては難
し過ぎ,実用的な意義 がない.ここに納めら れている内容の多く は,新制の大学の下級 段階(最初の2年)に 値するもので,この種
の数学が必要とされ る専門的研究に進も うとする生徒のため のものである.実際,
非常に低いパーセンテージの新制高等学校の生徒にしかその必要性が見出せないだろ う.」
"This course in mathematics is no conceivable use to those students of new kotogakko who do not plan to go on to the daigaku. It is far too difficult for students of this age, and is in no sense functional. Much that is contained herein belongs in lower section (firsttwo years)of the new daigaku for those students who are going into professions where this type of mathematics is needed. A very small percentage of students in the new kotogakko will actually丘nd a use丘)r it."
とあり,続いて,
「新制中学校用として,新しいタイプの数学課程が文部省により編成中である.第7, 8
学年の教科書は,とりわけ高度に実用的なものとなる.第9学年は,実用的数学と新制 高等学校の予科のおよそ中間に位置付けられる.中学校の生徒が,このように高度にア カデミックで,実用的でない大学レベル課程のための予科に時間を浪費することは考え
られないことである.」
"A new type of mathematics courses is being worked out by the Ministry of Education for the new chugakko・ Textbooks for the 7th and 8th grades, especially, will be highly functional・ In the 9th grade, there will probably be a compromise between functional mathematics and preparation for new kotogakko courses. It is