第4章 教科書の編集・発行過程とCl&Eによる検閲
第3節 教科書編集過程
導要領」のものなのか「教科書」のものなのか,これだけでは判定することが出来ない.
ただ,学習指導要領作成と教科書の編集に対して,明確な線引きがなされず作業が行わ れたことは前にも触れたとおりである.したがって,新制高等学校数学科の教科内容の最 初の部分の概要が, 1946年12月17日にはまとめられ, CI&Eに提出されたということを 物語る史料として注目したい.新制高校の数学科の構造が,この時期にまとまろうとして いたのである.
2.教科書原稿の遅れ
1947年2月20日付けの「在米史料」 "Schedule of Printing for Textbooks"(12)には,読 し刷りの承認が得られた教科書の「ゲラ版」が,文部省教科書局から提出される予定日が 書き留められている.この史料には,小学校から高等学校までの教科書のうち,計34冊分 の日付が書かれている.そのうち,小・中学校の算数・数学科の教科書と,高等学校の教 科書に関する記述を和訳する. (括弧内は筆者の補足)
この部署の要請に答えて,教科書局は,試し刷り承認済みの教科書のゲラ版を提出する予定日 を報告した.
小学校:算数5年上3/5, 6年上4/20, 3年上3/10 (他10冊算数以外略) 中学校:数学1年(日付なし) (他10冊数学以外略)
高等学校:国語読本3/15 理科表3/5 地理3/10 物理4/10 (高等学校用は,この4冊のみ)
1947年2月頃の「在米史料」には,このように教科書の印刷に関わる報告が数多く見ら れる.新制高等学校の教科書についての記述も見られるが,そのうち,数学科のものは一 切見出すことが出来ない.それは,教科書原稿が遅れていたからである.
教科書執筆者の死去があったことも,原稿遅れが生じた理由の1つであった.それは, 1947年3月17日付けの「在米史料」 "MathematicsTexts"(13)の第5項目で確かめられる.
5.上級中等学校の数学教科書を書くために出版会社に雇われていた大学教授が死去したた め,別の著者に連絡が取れるまで,原稿の準備が遅れる.
原文は,
"5・The university professor who had been employed by the publishing company to
write the texts for the Upper Secondary has died and this will delay the preparation oftbe manuscripts until another compiler can be contacted."
である.
次に,新制高等学校数学科の教科書印刷に関する記述がある1947年5月22日付けの
"Regular Weekly Conference"(14)を見てみたい.この史料の全訳を示す.
1.和田は,初等学校の数学編集者として最近教科書局に入った青池を紹介した.
2.新制高等学校用の数表の冊子を復刻とする問題が再度持ち出された.署名官は,委員会に 3ケ月前a (ママ)に,紙の不足のため,現行の形態の復刻印刷をすることは認めないと言った ことを振り返った.完全な表でなくても,適切なものにして数学の教科書そのものに組み入れる よう指示がされた.委員会は,かつて出版されていた数表を参考にしてすでに作成済みであるの に,指示どおり行えば,数学教科書の原稿の提出が遅れることになると言った.それでもなお, 彼らは教材を編集しなければならない,さもなくば,紙が欠乏しているので,数表を全くなしに
してしまうかのどちらかだ.
3.代数・解析の教科書は,当初3冊に印刷する予定であったが,そうではなく2冊に印刷す ることになった.
4.幾何の教科書は, 2冊ではなく1冊に印刷される予定である.
「2」では, 「数表」の「復刻,別冊」の問題が再現されている.ここで,最終的に「数 表」に関してはCI&Eの意向に沿った決着がなされる.既に原稿が完成している「数表」
を精選し,各教科書の巻末に組み入れるため作り直さなければならないことを,和田は, 原稿の提出が遅れることの理由としているのである.
「3」と「4」に注目したい.
「3.代数・解析の教科書は,当初3冊に印刷する予定であった(15)が,そうではなく2 冊に印刷することになった.」
"
3 ・ The Algebra‑Analysis text
will be printed in two instead of three volumes an originally planed."
「4.幾何の教科書は, 2冊ではなく1冊に印刷される予定である.」
"4 ・ The Geometry textbook will be printed in a slngle volume instead of two
a 「3ケ月前」とあるが,約2ケ月前の3月17日に同様のことが和田に告げられている.本論文pp.138・139.
volumes."
とある.
この時点で「代数・解析」 (Algebra・Analysis)は, 2冊の教科書となり,実際に発行さ れた『解析編』 2冊と同じ冊数になった.しかし, 「幾何」 (Geometry)は,ここでは, 「2 冊ではなく1冊に」となっており, 『幾何編』が2分冊となる最終的な決定にはまだたどり 着いていない. CI&Eも文部省も,教科書印刷用の紙不足に苦慮していた(16).深刻な紙不 足に少しでも対応するために,冊数を抑えることになったのだと思われる.