• 検索結果がありません。

教科書の検閲一認可から発行まで

ドキュメント内 新制高等学校数学科の成立過程 (ページ 151-164)

第4章 教科書の編集・発行過程とCl&Eによる検閲

第4節 教科書の検閲一認可から発行まで

「表2 :新制高等学校用数学教科書,英訳原稿の情報」

教科書名 数学 数学 数学 数学

解析編(Ⅰ) 解析編(Ⅱ) 幾何編(1) 幾何編(2)

書名 Mathematics Mathematics

h4ATHEMAT

ⅠCS GEOMETRY

Geometry PartⅠⅠ

(英訳) Analysis(1) Analysis(2) Part1

Elementary Geometry

Analytical Geometry CⅠ&E認可

文字判読 1947年 1947年 1947年

APPROVED FORPROOF

不可能 8月25日 10月27日 10月27日 (June,1947)(17) Åug.25,1947 Oct.27,1947 Oct.27,1947

CⅠ&Eの K.M. K.M. K.M. K.M.

書名 Harkness HarkneSs Harkness Harkness

国立国会図書館

CⅠE(B)4622‑ CⅠE(B)4624 CⅠE(B)4627 CⅠE(B)4630

マイクロフィッシュナンバー EZI EZI

「表1」と「表2」を比較してみると, 『幾何編(2)』を除く3冊は, CI&Eの許可を得 てから1‑2ケ月後に文部省は検定・印刷をしていることが分かる.なお, 『幾何編(2)』

については,認可から印刷までの間に7ケ月も経過することになる.その理由については, 後に触れたい.

2.

『数学解析編(Ⅰ)』, 『数学解析編(Ⅱ)』の検閲と認可

1947年6月10日に,高等学校数学科の教科書原稿が提出されたことを,この日の「在 米史料」 "SubmissionManuscripts"(18)で知ることが出来る.和田がCI&Eのハ‑クネス を訪問し,教科書原稿を提出している.

1.和田は,第9学年の前期部分,代数・解析,幾何・統計の数学の原稿を提出した.同じもの が,中等学校事務官の事務所aに認可の賛同を得るためにすでに送られている.

原文は,

"

1. Mr.Wada submitted manuscripts for the firstterms of the 9thgrade,

Alegbra・Analytics (ママ),and Geometry‑Statistics. Same have been forwarded to the office of the Secondary School officers for concurrence in approval."

である.

第9学年(中学3年生)の前期部分のものに加えて, 「代数・解析」"Algebra・Analytics '',

「幾何・統計」 "Geometry‑Statistics" (傍点筆者)の2冊の教科書原稿が提出された旨が報 告されている.この2冊は,明らかに新制高等学校の数学教科書のものであるが, 「代数」

"Algebra"や「統計」 "Statistics"という表記は, 「発学第156号」の科目名にも,後に発行 される教科書名にも使用されていない.しかしながら,この時期に及んで,既決定の科目 とは異なる内容のものが提出されたとは考えられない.したがって,どの教科書の原稿が 提出されたのかを判断するには注意が必要である.このことについて,筆者は次のように

考える.

まず, 「代数・解析」という表記であるが, 「在米史料」では,教科名の「解析学」のこと を,単に"Analysis"としていたり"Algebra‑Analysis"あるいぼ̀Algebra・ Calculus"と書かれ ていたりする.したがって,この史料の「代数・解析」 "Algebra・Analytics"は,数学教科書

『数学解析編』と見て間違いない.事実,この『数学解析編(Ⅰ)』では,関数を中心に 内容が構成されている一方で,各所で方程式が取り扱われており, 「代数・解析」

"Algebra・Analytics"という名前で表現されることは相応しい・

一方,この史料の「幾何・統計」 "Geometry・Statistics"は, 『数学幾何編』の2冊のいず れの原稿とも考えにくい.なぜならば,約3ケ月後の9月18日の「在米史料」に, 「幾 何」 9月末に翻訳終了の予定」とあり, 9月23日の「在米史料」には, 「解析」はすでに 認可済みだが, 「幾何」は翻訳が済み次第提出する」という旨が報告されている(本論文, p.152.参照).したがって, 「幾何」の2冊の英訳は, 6月10日にはまだ完成していないは

a中等学校の事務官の事務所とは, CI&EのSecondary School officerオズボーンの事務所である.

ずである.この時点で「幾何」の教科書の原稿が提出されていては,後の「在米史料」の 記述とは明らかな矛盾が生じてしまう.

したがって,ここで提出された「幾称統計」 "Geometry・Statistics"の原稿は, 『数学解 析編(Ⅱ)』のものである可能性が高い. 『数学解析編(Ⅱ)』には, 「統計と確率」という 章があり,統計学"Statistics"の内容が含まれており,この点では整合がとれる.

つまり,6月10日に提出された2冊の原稿は, 『数学解析編(Ⅰ)』と『数学解析編(Ⅱ)』, すなわち『解析編』の2冊の教科書のものと考えられる.前掲の「表1」 「表2」からも,

『解析編』の教科書が, 『幾何編』の2冊に先行して成立していることが分り,このように 考えるのが極めて自然である.

ここで, 『解析編』の認可から発行に至るまでの日程をまとめてみると,次の「表3」に なる.なお, ( )のある日付は, 「可能性が高い」と考えられる日である.

「表3 : 『解析編』の英訳原稿提出から発行までの経過」

教科書名 数学 数学

解析編(Ⅰ) 解析編(Ⅱ) 英訳原稿提出日

(文部省和田義信

‑CⅠ&Eハ‑クネス)

1947年6月10日 (1947年6月10日)(19) CⅠ&Eの試し刷り許可日

(ハ‑クネス) (1947年6月)(20) 1947年8月25日 文部省検定日 1947年8月19日 1947年10月21日 印刷日 1947年8月19日 1947年10月21日 発行日 1947年8月23日 1947年10月25日

どちらの教科書も,生徒に対して十分な供給量が印刷されたかは別にして, 1948年4月 の新制高等学校発足に間に合った.なお,これらの教科書は,新学制発足後の移行期間中 残存していた旧制中学校でも用いられた(本論文p.63左下参照).

3.

『数学解析編(Ⅱ)』に対するオズボーンの批評

CI&E が検閲に用い た『数学解析編(Ⅱ)』

の英訳原稿(21)は,国立国 会図書館憲政資料室所 蔵のマイクロフィッシ

CIE(B)4624 から CIE(B)4627までの4枚 に収められている.

CIE(B)4624 から第 4,5,6章(Cbapters4,5,6) が,続くCIE(B)4625の 終盤から第1,2,3章の順 で納められている.つま

り,順序が前後している 点に注意が必要である.

この英訳の冒頭には,

本論文pp.76・79で掲げた, 『数学解析編(Ⅱ)』に対する中等学校事務官のオズボーンによ る批評

rCOMMENTS ON TEXTBOOK ON "MATHEMATICS ANALYSIS" (2)J(22) を見出すことが出来る. (上図)この「在米史料」は,第2章でも取り上げたが,教科書の 認可に対する重要な史料であるので,ここでは,全文を和訳し,再び詳しく取り上げる.

第2章で見てきたとおり, CI&Eは,この教科書に「期限と条件」をつけて認可をした ことが読み取れる.この全文を訳出する.

教科書"数学解析編" (2)についての批評

この数学の課程は,大学進学希望でない新制高等学校の生徒が使用することは想定出来ない.

この年齢の生徒にとっては難し過ぎ,実用的な意義がない.ここに納められている内容の多くは, 新制の大学の下級段階(最初の2年)に値するもので,この種の数学が必要とされる専門的研究

に進もうとする生徒のためのものである.実際,非常に低いパーセンテージの新制高等学校の生 徒にしかその必要性が見出せないだろう.

新制中学校用として,新しいタイプの数学課程が文部省により編成中である.第7, 8学年の 教科書は,とりわけ高度に実用的なものとなる.第9学年は,実用的数学と新制高等学校の予科

のおよそ中間に位置付けられる.中学校の生徒が,このように高度にアカデミックで,実用的で ない大学レベル課程のための予科に時間を浪費することは考えられないことである.

本年度と次年度,新制高等学校に在学する生徒は,このようなものにある程度対応した課程で 過ごしてきているので, 1947年度(23)と1948年度に限定して,この教科書の使用を認めること

にする.ただし, 1949年度用の新しい課程と教科書の準備は,ただちに始められなければなら ない.

この教科書の内容を植字することを許可する.だが,この本に掲載されている例と問題につい ては,植字の前に絶対的に正確な校正がなされるべきである.

モンタ. L.オズボーン 中等学校事務官

「解析Ⅱ」について,オズボーンは,

「この数学の課程は,大学進学希望でない新制高等学校の生徒が使用することは想定 出来ない.」

"This course in mathematics is no conceivable use to those students of new kotogakko who do not plan to go on to the daigaku.〟

と述べている.また,

「この年齢の生徒にとっては難し過ぎ,実用的な意義がない.」

"It is far too difficult for students of this age, and is in no sense functional."

としている.いかにも,アメリカン・プラグマティズムに立ち, 「教科課程は実用的である ことが望ましい」としてきたオズボーンらしい批評と言える.

さらに,オズボーンは,この「解析Ⅱ」は,

「ここに納められている内容の多くは,新制の大学の下級段階(最初の2年)に値す るもので,この種の数学が必要とされる専門的研究に進もうとする生徒のためのもの である.」

"Much that is contained herein belongs in lower section (firsttwo years)of the new

daigaku for those students who are golng into professions where this type of mathematics is needed.''

とし,

「実際,非常に低いパーセンテージの新制高等学校の生徒にしかその必要性が見出せ ないだろう.」

"A very smau percentage of students in the new kotogakko will actually丘nd a use

forit."

と記述している.次に,

「新制中学校用として,新しいタイプの数学課程が文部省により編成中である.第7, 8 学年の教科書は,とりわけ高度に実用的なものとなる.第9学年は,実用的数学と新制

高等学校の予科のおよそ中間に位置付けられる.中学校の生徒が,このように高度にア カデミックで,実用的でない大学レベル課程のための予科に時間を浪費することは考え

られないことである.」

"A new type of mathematics courses is being worked out by the Ministry of Education for the new chugakko・ Textbooks for the 7th and 8th grades, especially, will be high1yfunctional・ In the 9th grade, there will probably be a compromise between functional mathematics and preparation for new kotogakko courses. It is unlikely that students in the chugakko will have any time to waste in preparlng for the highly academic, no functional, university・level course such as this."

つまり,将来,新制の中学校から学年進行で入学してくる生徒には, 「実用数学」が浸透し ているだろうから,この「解析Ⅱ」には対応できないことを述べている.しかし,

「本年度と次年度,新制高等学校に在学する生徒は,このようなものにある程度対応し た課程で過ごしてきているので, 1947年度と1948年度に限定して,この教科書の使用 を認めることにする.」

"Since students who are in the new kotogakko this year, and those will be in the

new kotogakko next year have had courses

which to some extent prepare them for this sort of thing, this manuscript can be approved for use during 1947148 and 1948・49."

と教科書に使用期限を定め,さらに,

「1949年度用の新しい課程と教科書の準備は,ただちに始められなければならない.」

"However, work should begin immediately in preparation of new courses and new textbooks for 1949・50.n

と条件をつけてこの教科書を認可しているのが分かる.これは,数学科に新しく別の科目 を設置することを指示しているのである.すなわち, CI&Eは, 『数学解析編(Ⅱ)』に対

して, 「2年間」という「期限」と「新しい科目と教科書の作成」という「条件」を付けて

認可を与えたことが明らかになった.なお, 『数学解析編(Ⅰ)』に比べて, 『数学解析編 (Ⅱ)』は,翻訳原稿提出日からCI&Eの許可までに日数がかかっている(本論文, p.148

「表3」参照)・これは, 「期限・条件付で認可を与える」という決定がなされるまで,内 容の検討に時間がかかったことによると思われる.

ドキュメント内 新制高等学校数学科の成立過程 (ページ 151-164)