4.1.1 r•-ポテンシャルの繰り込み
動機は、PISAの次の問題である:三角形の公園Ωのどこに街灯を置くべきか?
PISA の用意した解答は外心だったが、これに福岡大の柴田先生が異を唱え、公園の明るさの総量を最大にす る点もこの問題の解答になることを指摘し、これをΩの灯心と呼んだ。点xに街灯があるときの明るさの総量は
∫
Ω
dy
|x−y|2 で与えられるが、これはx∈Ω◦ のとき ∞に発散する。そこで、結び目のエネルギーの族を定義した ときの繰り込みを適用し、更に灯心を一般化しよう。すると、重心もこの文脈に自然に現れることが分かる。
以下, ΩをRm(m≥2)のコンパクト体(体(body)とは、その内部の閉包となること)で,境界は区分的にC1 級とする. 更に、境界はポテンシャル論では自然な仮定であるPoincar´e条件を満たすものとする。つまり、境界 のどの点の近傍でも、局所的にみて、ΩもΩcもその点を頂点とする、ある一定角以上の頂点角の錐を含む、と仮 定する。これは、一部の主張の証明に用いる技術的な仮定である。
VΩ(α)(x) =
∫
Ω|x−y|α−mdy (x∈Rm)
とおくと,これはα >0 のときwell-definedで, 0< α < mのときに(Ωの特性関数の)Riesz ポテンシャルと呼 ばれる. 上の積分はα≤0のとき1点からなる集合{x}上で発散する。ε >0に対して
∫
Ω\Bε(x)|x−y|α−mdyを 考え,これを 1
εの級数に展開し,定数項をとることにより,α≤0に対してもVΩ(α)を定義することができる.
約束 以下の公式ではα= 0のときは(実際はlogr = lima→01
a(ra−1)だが) α1rα = logr(r >0)と約束する.
(すると一般の場合の公式が特別な場合にも適用できる)
定義 4.1 Ωの(繰り込まれた)rα−m-ポテンシャルを
VΩ(α)(x) =
∫
Ω|x−y|α−mdy (α >0 orx̸∈Ω),
εlim→0
(∫
Ω\Bε(x)|x−y|α−mdy+A(Sm−1) α εα
)
(α≤0 andx∈Ω),
で定める. ただしA(Sm−1)を単位球面Sm−1の体積とする.
以下が成立する:
(1) α >0ならばRm上VΩ(α)>0.
α <0ならば VΩ(α)(x) =−
∫
Ωc|x−y|α−mdy<0.
(2) α≤0ならば x∈Ω (or Ω◦ c)が∂Ωに近づくとVΩ(α)(x)→ −∞(or resp. +∞).
(3) r=|x−y|として、
divy
(1
αrα−m(y−x) )
=rα−m.
より、Stokesの定理を用いると, VΩ(α)は∂Ω上の境界積分で表すことができる. 上の約束の下 VΩ(α)(x) = 1
α
∫
∂Ω|x−y|α−m(y−x)·ndσ(y), ここで、nはΩの外向きの単位法ベクトル。
Especially, whenm= 2,VΩ(α)(x) (α̸= 0) can be expressed by the contour integral along∂Ω by VΩ(α)(x) = 1
α2 I
∂Ω
(∇y|x−y|α)·n ds (α̸= 0)
= 1 α
I
∂Ω|x−y|α−2((y1−x1)dy2−(y2−x2)dy1) where sis the arc-length of∂Ω, andVΩ(0)(x) by
VΩ(0)(x) = I
∂Ω
log|x−y|(∇ylog|x−y|)·n ds
= I
∂Ω
log|x−y|
|x−y|2 ((y1−x1)dy2−(y2−x2)dy1).
これより 積分の収束,発散を気にすることなく,∂Ωの補集合上VΩ(α)の導関数やラプラシアンを求めること ができる.
(4) ∂ rα−m/∂xj =−∂ rα−m/∂yj =−divy(rα−mej)より
∂VΩ(α)
∂xj
(x) =−
∫
∂Ω|x−y|α−mej·
(5) 二階微分は、
∂2VΩ(α)
∂xj2 (x) =−(α−m)
∫
∂Ω|x−y|α−m−2(xj−yj)ej·n dσ(y) (35)
= (α−m)
∫
Ω|x−y|α−m−4(
(α−m−2)(xj−yj)2+|x−y|2)
dµ(y) (36)
で与えられる。ここで、(35)は(∂Ω)c上任意のαで成立し、(36)はΩc上任意のαで、Rm上α >2で成 立し、その範囲で連続になる。
(6) ∆x|x−y|α−m= (α−2)(α−m)|x−y|α−m−2となることから、α >2 またはx̸∈∂Ω かつα̸= 2ならば
∆VΩ(α)(x) = (α−2)(α−m)VΩ(α−2)(x).
これより、Laplacianの符号が分かる。
(7) 特に領域Ωが凸でx∈Ω◦ の場合には(実際はΩがxに関して星型ならばよい), Ω−xの radial function ρ:Sm−1→R+ を ρ(v) = sup{c >0|x+cv∈Ω} で定めると,上の約束の下
VΩ(α)(x) = 1 α
∫
Sm−1
(ρ(v))α dσ(v)
となる. 右辺のα倍は、 凸幾何学でLutwakのdual mixed volume of orderαと呼ばれている([L1, L2]).
領域をいくつかのパーツに分ければ,一般の領域に対しても,似たような公式を得る.
4.1.2 r•-中心
定義 4.2 VΩ(α)の最大・最小を与える点をΩのrα−m-中心と呼ぶ. 正確には
• α > mのときVΩ(α)を最小にする点,
• 0< α < m のときVΩ(α)を最大にする点,
• α=mのときlogポテンシャルVΩlog(w) =∫
Ω−log|w−z|dz を最大にする点,
• α≤0のとき VΩ(α)◦
Ω を最大にする点.
α=mのときVΩ(m)は定数関数Vol(Ω)になってしまうので、その代わりにlogポテンシャルを考える。これは、
∂VΩlog
∂xj
(x) =−
∫
Ω|x−y|−2(xj−yj)dµ(y) =− lim
α→m
1
α−m·∂VΩ(α)
∂xj
(x) となるからである。
例 4.3 (1) xGがΩの重心⇐⇒xG =
∫
Ωydy
∫
Ω1dy ⇐⇒
∫
Ω
(xG−y)dy=0
⇐⇒xは
∫
Ω|x−y|2dyの臨界点(実は唯一の最小点)で, r2-中心となる.
(2) 福岡大学の柴田先生の提唱する三角形Ωの灯心はr−2-中心となる.
(3) 特にΩが凸のときはradial center of orderαと呼ばれる(α̸= 0) ([HMP]).
定理 4.4 コンパクト領域には, 任意のαに対して,rα−m-中心が存在する.
4.1.3 Minimal unfolded region, heart
定義 4.5 v∈Sm−1に対し,vと直交する超平面の族を考え,超平面で領域を折り返す(図35). この操作を, 領 域のv方向に関して上の端から順次行い,折り返した部分が領域からはみ出たらそこで止める. このときの折り返 される側の超半空間をWvとする. U f(Ω) =∩v∈Sm−1WvをΩのminimal unfolded regionとよぶ. 領域Ω が凸の場合は、Brasco, Magnanini, SalaniらによってΩのheartと呼ばれ♡Ωと書かれる。
図35: Folding a convex set like origami
図36: A minimal unfolded region of an acute tri-angle is a quadrilateral formed by two tri-angle bisec-tors (bold lines) and two perpendicular bisecbisec-tors (dotted lines).
• U f(Ω) はΩの重心を含むのでU f(Ω)̸=∅
• U f(Ω) はΩの凸包convΩに含まれる。
• U f(Ω) は凸かつコンパクト
• Ωが凸でない場合にはU f(Ω)⊂Ωとは限らない(図37)
• U f(convΩ)⊂U f(Ω)(図38)
• Ωが凸で、あるk次元(アファイン)超平面Hに関して対称ならばU f(Ω)⊂H.
図 37: The minimal unfolded region (inner regu-lar triangle) of a non-convex set (union of three congruent discs whose centers are located on the vertices of the regular triangle)
図38: The minimal unfolded region of the convex hull consists of a point which is the intersection of lines of symmetry
未解決問題 4.6 Ωが凸ならばdiamU f(Ω)≤12diamΩか?
VΩ(α)の対称性から,解析のmoving plane method ([GNN])を用いると,以下が従う:
定理 4.7 任意のαに対して, Ωのrα−m-中心はΩのminimal unfolded region内にある.
例えば図35で点xが直線L上にあるとする。vをLと直交する方向ベクトルとすると、(∂VΩ(α)/∂v)(x)へのΩ1
の寄与とΩ1のLに関する鏡像Ω∗1の寄与がキャンセルし、Ω\(Ω1∪Ω∗1)の寄与は一定の符号でnon-zeroとなる ので、xはVΩ(α)の臨界点にはなりえないことが従う。
系 4.8 球体のrα−m-中心は任意のαに対して通常の中心である。
4.1.4 r•-中心の唯一性
rα−m-中心は必ずしも唯一とは限らない. 例えば,2つの円盤の非交和を考えると,αが大きい時にはrα−m-中
心は重心と一致するが,αが小さくなると,2つ(以上)現れる.
定理 4.9 コンパクト領域Ωのrα−m-中心は, 以下の条件のいずれかが満たされるとき唯一に定まる.
(1) α≥m+ 1.
(2) α≤1かつ領域Ωが凸.
(3) 次元mとαの関数φ(m, α)が存在して, Ωがある領域Ω0のδ-平行体Ω0+δBm={x+δv|x∈Ω0, v∈Bm} (δ≥φ(m, α) diam(Ω0))とあらわすことができる場合.
(Ω0が凸ならばφ(m, α)はαによらずmのみの関数とできる)
予想 4.10 領域が凸ならば,任意のαに対してrα−m-中心は唯一つ.
上の定理の(3)はこの予想がΩがある意味で球体に近ければ成立する、ということを主張している.
4.1.5 r•-中心の漸近挙動
Rm∋x7→maxy∈Ω|y−x| ∈Rの最小を与える唯一の点をΩのmin-max点,Rm∋x7→miny∈Ωc|y−x| ∈R の最大を与える点を max-min 点と呼ぶ. 鈍角でない三角形では、min-max 点は外心、max-min点は内心とな る。一般には、min-max点は唯一だがmax-min点は唯一とは限らず、medial axis(ある点と境界との距離を与 える境界上の点が2つ以上あるような点の集合)に含まれる。
図 39: medial axisとmax-min点の集合
定理 4.11 rα−m-中心はα→+∞でmin-max点に収束し,α→ −∞でmax-min点の集合の近傍に含まれる.
鈍角でない三角形のrα−2-中心をまとめると下のようになる。
α→+∞ 外心=min-max点
α= 4 重心
α= 0 灯心
α→ −∞ 内心=max-min点
未解決問題 4.12 r•-中心の話は、公園のどこに街灯を置くべきか、という現実の問題に端を発しているので、次 のように一般化できる(柴田先生の案)。街灯を置いて光量を最大にする、ということと、監視カメラを設置して 何かを見つける確率を最大にする、というのは数学的には同じ問題と考えることができる。
(1) 複数個の監視カメラを許す場合。柴田先生の案は、監視カメラの位置をプロットして、ボロノイ図を作り、各領 域はその中の監視カメラで監視するというもの。あるいは、定数C >0を固定してV(x) := min{C,∑
i|x−yi|}
または∑
imin{C,|x−yi|}を最大にする{yi}を求める、というのも考えられる。美術館問題を効率(有効 性)込みで考える問題と言える。
(2) 監視カメラが領域の境界にのみある場合。カミオカンデでカメラの台数が少ない場合に、いかに効率よくす るか、という問題である。
4.1.6 球体の最大・最小性
命題 4.13 (坂田繁洋)同じ体積を持つ領域の中で, 球体がM(α) の最良(最大(α≤m)・最小(α > m))の値を 与える.
Vol(Ω) = Vol(Bm) =⇒{M(α)(Ω)≥M(α)(Bm) (α > m) M(α)(Ω)≤M(α)(Bm) (α≤m) 等号はΩ =Bmのとき.
α >0のときΩのrα−m-エネルギーを下で定める:
E(α)(Ω) =
∫
Ω
VΩ(α)(x)dx=
∫
Ω×Ω|x−y|α−mdxdy. (37)
Steinerの対称化を用いたBlaschke, Carleman (m= 3, α= 2), F. Morganの議論より,
命題 4.14 同じ体積を持つ領域の中で,球体がE(α)の最良(最大(0< α≤m)・最小(α > m))の値を与える.
α≤ −1のときには,VΩ(α)の積分はΩの境界付近で発散するため, (37)はrenormalizationが必要である. m= 2, α=−2のとき,そのように得られたEは円盤で(最大ではなく)最小になる(系4.16).