A Development of the Metadata Model for Video Game Cataloging
2. 音源からみる『ドラゴンクエスト』の音 楽の変遷
日本デジタルゲーム学会 第8回 年次大会 予稿集 Digital Games Research Association JAPAN Proceedings of 8th Conference
「交響組曲『ドラゴンクエスト』 」を再考する
尾鼻 崇
ⅰⅰ中部大学人文学部 〒487-0027 愛知県春日井市松本町1200 E-mail: ⅰ[email protected]
概要 日本のゲーム音楽の歴史は、岩崎(2014)や田中(2017)をはじめとする多くの識者によって紡がれてき たものの、複合的なファクターによって成立する『ドラゴンクエスト』シリーズに関しては不十分な点も多い。本 発表では『ドラゴンクエスト』シリーズの「音楽」を音楽学的テクスト分析や、ポピュラー音楽史、そして作曲家 研究という三点のアプローチから検討することで、その歴史的コンテクストを明確化することを目的とする。
キーワード 『ドラゴンクエスト』,すぎやまこういち,ゲーム音楽,オーケストラ, ゲーム音楽史
0. 序
ゲーム音楽というジャンルの定義は明確化されては いないものの、少なくとも商業レベルにおいてはそれ が認知されており、また産業的な成功も得ている。
日本のゲーム音楽(≒ゲームオーディオ)の歴史は、
岩崎(2014)や尾鼻(2016)、そして田中(2017)によ って、音源史もしくは音源利用のテクニックといった アプローチによって構築されてきた。その中で『ドラ ゴンクエスト』シリーズは「国民的大ヒットゲーム」
として扱われてきた反面で、オーケストラ志向やメデ ィアミックス、作曲家すぎやまこういちの存在など複 合的なファクターで成立していることから、その位置 づけが不安定なままであったと考えられる。
以上から、本発表は『ドラゴンクエスト』シリーズ の「音楽」を音楽学的テクスト分析や、ポピュラー音 楽史、そして作曲家研究という三点のアプローチによ って検討することで、その歴史的コンテクストを明確 化することを目的とする。
本予稿では、本発表が射程とする領域を整備する ために、『ドラゴンクエスト』シリーズおよびその 音楽の歴史とそれを巡る議論をまとめておきたい。
グ音源であり、それによって「PSG音源」や「FM音源」
とは異なり、ナマ楽器の音色に近しい音を用いること が可能となった。
このPCM音源の登場は、制作者が望む音色をゲーム 上で用いることが可能となったという意味で、ゲーム 音楽の価値観の変容に関与したことは間違いないだろ う。
その後、ハードウェアが「プレイステーション」、「プ レイステーション2」へと移行したことによって、ゲー ム音楽の位置づけが大きく変化することになる。その 最大の要因は、CD-ROMやDVD-ROMといった光メデ ィアをソフトウェア提供の方法として用いるようにな ったことである。光メディアはランダムアクセスが不 可能な上、長時間のディスク読み込み時間が必要とな るという点においてデジタルゲーム用のメディアとし て適切とは言い難いものであった。その反面として、
安価で大容量、そして生産スピードが速いという意味 においては、当時主流であった半導体型ROMの欠点を 大きく克服している。その結果、ゲームソフトウェア のメディアとして光メディアが主流となっていくこと は周知の通りである。
加えて、デジタルゲームのソフトウェアに光メディ アが用いられるようになることは、音楽聴取という点 において重要な意味がある。録音・再生技術が発明さ れ「ライブ」な「一回性」の音楽から、「録音・編集」
された音楽を「再生」するスタイルへと移行した19世 紀後半において、CDは音楽聴取の核であることは疑い ようがない。「ライブ」を再現するための録音音楽から、
録音音楽そのものを聴くことが音楽聴取となったため である。
音楽聴取の基盤となった CD というメディアをデジ タルゲームに用いるということは、原理上は「どのよ うな音楽でもゲーム中で再生が可能」ということを意 味している。ここに音楽メディアとしてのデジタルゲ ームという価値観が成立したといえるのである(とり わけPCゲームの場合、制作者の意図する再生環境を担 保するために、MIDIではなくCD-DA方式を率先して 用いている)。
3. 『ドラゴンクエスト』にみる映画音楽的特 徴
先述してきたテクノロジーの影響ないし制限と、制 作者の個性のバランス上でゲーム音楽のテクスチュア は構成されてきた。その様相は、『ドラゴンクエスト』
シリーズの音楽の変遷を概観していくことで明確とす ることが可能である。
『ドラゴンクエスト』の第一作目では、対位法やフ ーガといった手法を意識した音楽が多々見られるが、
これは少ない音数しか用いることができないファミリ ーコンピュータの制約と無関係ではないと思われる。
また、『ドラゴンクエスト』の洞窟の音楽では、階層が 下になるにしたがって、テンポや音高を変化させると いった手法がとられている。これはプレイヤーキャラ クターのゲーム内における状況をサウンド面からも提 示すると同時に、使用メモリを削減するという意図が あると思われる。
シリーズ第2作目では、メディアミックスや楽曲作 風の多様化がみられるが、それがより顕著にあらわれ るのがシリーズ第3作目である。第3作目のワールド マップは、現実世界の地図を模したものとなっており、
マップ中央付近には日本を想起させる「ジパング」と いう国が登場する。この「ジパング」で用いられてい る音楽が、日本の伝統音楽を彷彿とさせる音色や旋律 となっているなど、世界観を音楽面からも表現しよう とする傾向が強まってきている。
そして、1990年に発売されたシリーズ第四作目では、
テーマ曲が強調されて使用されている。同作は五章建 てとなっており、合計 6 名の主人公格の登場人物が存 在する。そして、これらそれぞれの登場人物の性格に 応じたテーマ曲が用意されている。ゲーム中はこれら の曲が使い分けられ、最終的にエンディングロールの 音楽ではこれらのテーマ曲の旋律がメドレー調で登場 する。このようにハリウッド映画音楽で好んで用いら れるスタイルがゲームでもとられるようになってきて いる。
スーパーファミコンにプラットフォームを移して開 発された第六作目では、テクノロジーの進歩の影響も
相まって、従来とは一線を画し、「物語」と直接的に関 わる音楽が強調されるようになっていく。例えば、有 機的な「物語」とサウンドの相互作用を目指すために、
「ライトモティーフ的」な手法が用いられる。『ドラゴ ンクエスト6』では、「悪のモティーフ」と名づけられ た短いモティーフが、「ライトモティーフ的」な方法に 基づいて多用されている。
4. むすびにかえて
『ドラゴンクエスト』は大ヒットタイトルであると 同時に、作曲家すぎやまこういちの存在も相まって、
ゲーム音楽史を編さんする上でも核として扱われるこ とが多い。その反面で、『ドラゴンクエスト』の音楽は、
80 年代の他のゲーム音楽とはその価値観において若干 の距離を持つ、いささか特殊な位置づけにも置かれる。
その理由として、多くのデジタルゲームの音楽の評 価において、音源技術やメモリの用法、ゲームの機能 性というキーワードが主軸となるのに対し、『ドラゴン クエスト』は西洋音楽、オーケストラが軸となり、作 曲家の作家性が突出していることが理由として挙げら れる。当時のゲーム音楽作曲家の大半が、実質的な作 曲家としてのキャリアをゲームにおいてスタートさせ ていたことから鑑みても、グループサウンズや CM 音 楽、アニメ音楽などでキャリアを積んできているすぎ やまは異色であると言わざるをえない(坂本龍一や久 石譲のように特定のナンバリングタイトルのみに参加 するのではなく、すぎやまはシリーズタイトル全てに 全面的に関わっている)。その意味で、『ドラゴンクエ スト』をゲーム音楽史にどのように配置するかを再考 することは、ゲーム音楽という枠を超えて、音楽とい うジャンル全体を理解するためにも重要なタスクとい えるだろう。
主 要 文 献
[1] Bordwell, David,Thompson, Kristin Film Art. (New York:Random House. 1986)(=2007 飯岡詩朗他訳
『フィルム・アート―映画芸術入門』名古屋:名 古屋大学出版会).
[2] Chion, Michel、Gorbman, Claudia Audio-Vision:
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and Non-Linear Aspects of Video Games Audio," in Essays on Sound and Vision, Stan Hawkins and John Richardson(eds.) 2007. (Helsinki: Helsinki University Press),pp. 263-298.
[4] Collins, Karen Game Sound: An Introduction to the History, Theory and Practice of Video Game Music and Sound Design. (Cambridge: The MIT Press. 2008.) [5] Turino, Thomas (2008). Music as Social Life: The
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[6] Salen, Katie&Zimmerman, Eric(ed.) Rules of Play The Game Design Reader. (Cambridge: The MIT Press
2005.)(=2011 山本貴光訳『ルールズ・オブ・プ
レイ:ゲームデザインの基礎』東京:ソフトバン ク出版).
[7] Sterne, Jonathan (2003). The audible past : cultural origins of sound reproduction. Duke University Press.
[8] Sterne, Jonathan(ed.)(2012). The Sound Studies Reader.
Routledge.
[9] 尾鼻崇(2016)『映画音楽からゲームオーディオへ』
晃洋書房
[10] GSライダーズ(1988)『GS倶楽部―1コイン組曲 をアーキテクチャーする!』ソフトバンククリエイ ティブ
[11] すぎやまこういち(2009)「世界に愛されるドラゴ
ンクエスト」『世界に愛された日本』撃論ムック vol.281,pp.132-137.
[12] すぎやまこういち(1980)『やさしい作曲入門』日
本文芸社
[13] すぎやまこういち(1981)『すぎやまこういちの体
験作曲法』毎日新聞社
[14] スクウェア・エニックス(2016)『ドラゴンクエス
ト 30th アニバーサリー すぎやまこういちワーク ス~勇者すぎやんLV85~』スクウェア・エニック ス
[15] 田中治久(2017)『チップチューンのすべて All
About Chiptune: ゲーム機から生まれた新しい音
楽』誠文堂新光社
[16] 富田英典ほか(2007)『デジタルメディア・トレー
ニング』有斐閣
[17] 表象文化論学会(2015)『表象』(9) 月曜社
[18] 増田聡、谷口文和(2005)『音楽未来形』洋泉社
[19] 谷口文和、中川克志、福田裕大(2015)『音響メデ
ィア史』ナカニシヤ出版
[20] 渡辺裕(1998/2012)『聴衆の誕生 - ポスト・モ ダン時代の音楽文化』春秋社
ゲーム
(1) 『ドラゴンクエスト』,エニックス,1986.(FC) (2) 『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』,エニックス,
1987.(FC)
(3) 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』,エニッ クス,1988.(FC)
(4) 『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』,エニッ クス,1990.(FC)
(5) 『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』,エニックス,
1992.(SFC)
(6) 『ドラゴンクエストVI 幻の大地』,エニックス,
1995.(SFC)
(7) 『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』,エニ ックス,2000.(PS)