第 1 章 序 論
3.2 音更川上流で発生した河道変動
十勝川支川の音更川上流(道管理区間)は,流域面積約500km2,勾配1/120程度,堤間約200m,
砂混じり礫の河床材料で構成される河川であり,当該区間の上流には発電用の糠平ダムが 1956 年 に建設されている。ここでは,音更川上流域において一連区間の左右岸7か所に亘って堤防決壊し た区間を対象(図 3-1)とし,出水前後の現地データを用いて河道の平面形状の変化および河床変 動量についての検討を行った。
3.2.1 平面形状の変化
図3-2に,当該区間近傍の士幌観測所の水位と流量(暫定値)データを示す。また,図3-3に今 般の出水前後における当該区間内の河道の平面形状変化が分かる写真を示す。図3-2および図3-3 を比較すると,今般の出水前の河道(図3-3-①, 2016.8.7撮影)は,樹林が繁茂した河川敷地内に おいてある程度の蛇行は確認できるものの,既設の護岸も相まって比較的安定した河道の様相であ った。一方, 4波目の出水後にドローンにより撮影された写真(図3-3-③,2016.9.15撮影)では,
大規模な蛇行流が発生するとともに流路幅が拡大し,左右岸交互に7箇所に及ぶ堤防決壊にまで及 んだ河道の変動が明瞭であり,大規模な河道の変動が発生し一連の河道災害が発生したことが確
認できる。そこで,既往最大出水が発生する直前である3波目の後の写真を確認すると(図
3-3-②,2016.8.24撮影),当該区間では河岸侵食が確認でき流路幅の若干の拡大や蛇行発達の兆候が見受 けられるものの,まだ堤防まで至るような蛇行流の発達や河岸侵食は確認できない。このことから,
当該区間の大規模な河道の変動は4波目の出水によって短期間に急速に発生したことが明らかであ る。
出水による河道諸元(平面形状)の変化について,撮影された3ステージの写真を用い,堤防が
図3-2 音更川士幌水位観測所水位ハイドログラフ(北海道開発局提供,暫定値)
[2016年8月7日~9月18日,図中の日付はと図3-3に対応]
図3-3 更川上流区間で発生した急激で大規模な河道変動のステージ毎の空中写真
① 2016年8月7日撮影(Google map)
② 2016年8月24日撮影(北開水工コンサルタント所有の衛星写真)
③ 2016年9月15日撮影(北開水工コンサルタント提供,UAV撮影画像)
堤防決壊箇所 四十号橋 上士幌橋
SP4100
200m
SP7800
400m 0
Flow
①出水前 2 0 1 6 .8 .7撮影 (Google-mapより)
② 出 水 途 上( 4 波 目 襲 来 前 ) 2 0 1 6 . 8 . 2 4撮 影( 北 開 水 工 コ ン サ ル タ ン ト 所 有 : 衛 星 写 真 )
③一連の出水後 ( 最大波の4 波目 襲来後 ) 2 0 1 6 .9 .1 5撮影 (北開水工コンサルタント)
ほぼ直線で一定の堤防間隔(約200 m)であることから,左岸堤防を基線として左右岸の河岸と主 流線の位置(写真の水面等から推定)の変化を計測した。図 3-4に,①出水前,②3 波後,③出水 後の計測結果(左右岸の河岸位置,及び主流線位置)を順に示す。また,図3-5にこれらの結果を 重ね合わせた結果を示す。
結果より,いずれの図からも河道の平面形状の変化は3波目までは小規模な変化に止まっている
図3-4 ①出水前,②3波後,③出水後の左右岸の河岸位置および主流線位置
図3-5 出水による河道諸元の変化, 上) 左右岸の河岸位置の変化,下)主流線の位置の変化 横軸は測線番号を示す,
(測線番号と縦断距離との対応,および各測線での詳細な計測値はAppendix3-1参照)
ことが分かる。しかし,4 波目の出水によって,流路は急激かつ大規模に拡大し,河岸・堤防の決 壊が急速に進行したことが河道の諸元の変化として確認できる。主流線位置については,出水前は 単列蛇行流路の様相であったが,4 波目の洪水後は複数本に分岐したことが分かる。これは,河道 内の流路が植生の消失と共に拡幅したため,流路の一部がかつてのような複列砂州形状に戻ってい ると推察される16)。
表3-1に,図3-4および図3-5を計測した際の当該区間における水路幅および最大振幅の変化量 を示す。表3-1に示すように,定量的な水路平均幅は ① 63m → ② 85m (1.35倍) → ③ 160m (2.54 倍)まで変化した。本データから,4波目の出水により急激に拡大が進んだことが分かる。蛇行流路 の最大振幅幅についても,① 152m → ② 211m (1.39倍) → ③ 298m (1.96倍) と,水路平均幅と同 様に4波目により急激に拡大している。主流線の蛇行の波長については,出水前については必ずし も明瞭ではないが,出水後は概ね700m 程度であり,3波後と4波後でほぼ同程度の波長であった と判読され,顕著な変化は確認できなかった。
3.2.2 河床変動量
図3-6に,出水前後の河床変動量を示す。出水前のデータはH25年度のものを利用している。図 より,堆積場所と侵食場所を確認すると,低水路への主な堆積(2 m 以上)は堤防決壊が生じた区 間の近くに集中しているように見える。これは,出水中に河岸から供給された土砂は比較的近くの 砂州に堆積したことを示すものと考えられる。
表3-1 水路幅と最大振幅の変化
図3-6河床変動量コンター図
(開発局提供データ利用,出水前はH25年度データ, 2016年8月洪水後のデータは暫定値)
3.2.3 低水護岸の破壊,痕跡水位
図3-8に音更川上流区間における出水後の河岸付近の様子の分かる写真を示す。今般の災害では 低水護岸が設置されていたが,その大部分が流失・損壊していたことが確認されている。このこと は,低水路河岸に護岸が存在しているにも関わらず,それを乗り越えてあるいは破壊して堤防決壊 に至ったことを示すものである。この点については,後半の第5章にて改めて検討を行う。
図3-9に音更川上流区間における左右岸の決壊を免れた堤防の痕跡水位を示す。現地での痕跡水 位調査では,当該区間におけるピーク水位は堤内地盤より1.2~1.6 m程度上昇していたものの,外 水氾濫は発生していないことが確認されている。このことから,決壊した堤防はピーク水位時には まだ存在して機能を発揮しており外水氾濫を防いだと考えるのが妥当である。流量ピークを過ぎた 後については,音更川の既往研究報告12)13)14)などから推察すると,水位の低下とともに河道内の土砂 堆積が進行し,固定砂州の発達に伴って流れの蛇行性が強まり堤防の侵食および決壊に至るという プロセスであったと推察される。しかし,これらの既往報告の大半は音更川中下流域を対象として おり,流量低下がなぜ蛇行発達を促すのかについて,本プロセスを明らかにすることは未だ課題し て残されている。そこで,次節では音更川当該区間をモデルケースとし,流路変動を再現する数値 解析を実施することで非定常流量下における流路の変動のプロセスについて考察した。
図3-8 当該区間(一部)のUAVによる写真(低水護岸の流失)
a) 四十号橋前後を上空からUAV撮影した写真, b) 当該地区のUAV斜め写真
図3-9 痕跡水位調査結果((株)北開水工コンサルタント提供),
図中の矢印は図3-4と図3-5の表示区間を示す