第 1 章 序 論
6.2 侵食リスクの評価について
ここでは,本研究で得られた結果を整理し,それらを踏まえた侵食リスクの評価手法について考 察する。
6.2.1 本研究で得られた結果
2016 年 8 月の豪雨災害によって十勝川水系音更川の上流区間で発生した急激で大規模な河道変 動を事例として河岸侵食の特性等について検討を進めた。これらの成果より,堤防の侵食リスク評 価を検討するうえで,以下のような知見を得た。
① 2016年8月出水に関する現地で得られたデータ
・ 一連の洪水のうち,第4波目の洪水により短時間のうちに急激かつ大規模に河道が変動し,
一連区間において左右岸交互の7箇所もの堤防決壊に至った。
・ 出水前後で水路の平均幅や侵食した範囲の最大振幅は大きく拡大したが,蛇行の波長につ いては顕著な変化は確認されなかった。
・ 決壊した堤防は,ピーク水位時には存在して機能を発揮し外水氾濫を防いだが,その後,流
量が減少する過程において侵食を受け決壊に至った。
・ 当該区間の多くの箇所には低水護岸が設置されていたが,出水後には大部分が損壊してお り河岸を保護する機能が失われていたと考えられた。
② 今般の音更川上流区間の河道の変動に関する数値解析による検討結果
・ 河道沿川の侵食リスクの評価に資することを目的として,流量ハイドログラフ形状の違い が河道の変動特性に及ぼす影響について数値解析により検討を行った。数値計算(iRIC Nays2D)モデルでの再現計算について,痕跡水位や堤防決壊の位置,決壊に至るまでの時間 経過等の結果より,十分な精度であると判断した。
・ 流量ハイドログラフについて,流量規模は同じであるがピーク流量に至るまでの生起時間 が異なる場合の検討結果より,堤防決壊の位置や川幅の変化についてはどのケースも類似 する結果を得た。しかし,破堤に至るタイミングについては違いがあり,特に,ゆっくり増 水するハイドログラフ形状の場合は,流量ピークに至る前の増水期に堤防決壊に至るとい う実河川では危険側となる結果となった。
・ 流量ハイドログラフについて,ピーク流量の流量規模が異なる場合(将来の洪水量想定)の 検討結果より,流量規模の大きいケースほど侵食領域の幅が大きくなり侵食リスクが高ま ると考えられた。ただし,2016年8月の実績洪水流量の1.5倍以上のケースでは,流路が 複列・網状の形態に移行し,侵食領域の幅の拡大割合は抑制される結果となった。このこと から,音更川上流区間については,侵食領域の幅が拡大する最大幅の推定が可能と考えら れた。
③ 寒地土木研究所の水路を用いた水理模型実験
・ 水理模型実験では,低水護岸が設置されている場を対象に,護岸背後の高水敷の侵食特性 について検討を行った。実験の結果より,流量規模が大きくなると高水敷上の掃流力が増 大し,高水敷を含めた水路全体が複列・網状の様相を呈し,護岸背後の高水敷での洗堀・堆 積が進行すること,音更川のような比較的粒径の小さい石礫河川では出水時に低水路に土 砂が堆積しやすく,これが低水路と高水敷の比高差を小さくすることで高水敷上の掃流力 を増大させやすいこと,低水路と高水敷間の流れの流入および流出部から侵食が始まり,
高水敷上の河床変動が堤防ラインにも及んで堤防決壊を招きかねない状況となり得ること が確認された。
6.2.2 侵食リスクの評価について
本研究で実施した侵食リスクの評価のイメージ図を図6-1に示す。本研究では,実績洪水につい てドローン等の新技術も活用することで,出水前後だけでなく,出水途上における河道の変動状況 等,多様なデータを収集することが可能であると分かった。これまで手に入り難かった出水途上の 様々なデータが取得できるようになったことから,侵食現象の進行過程も含めた河道の変動特性を
推察し,これを基に,現地で発生した侵食現象について再現性の確認を行ったうえで,気候変動の 影響も視野に入れた様々な外力(流量ハイドログラフのピーク時間の早遅や流量規模の大小)を想 定した数値解析を行うことが出来た。第3章および第4章では,それらの結果を総合的に考察する ことで,対象区間の侵食災害の特性や侵食災害が及ぶ可能性のある範囲を推定するなど,侵食リス クの評価に向けた取り組みの実例を示することが出来たと考えている。具体的には,下記のとおり である。
(1) 当該対象区間の侵食リスクについては,ハイドログラフ形状により出水ピーク前に堤防決壊 に至るケースとピーク後に決壊に至るケースがあり得ること。
(2) 気候変動による流量増大を想定した場合にも侵食領域が拡大する最大幅は,270m 程度と推 定され,音更川上流域の当該区間の堤防間隔が約200m であることから,堤防ラインから堤 内側に 70m 程度までの範囲は侵食リスクを有する区域であると考える必要があること(但 し,流路全体が移動するような現象は対象とせず現流路を基本とした侵食領域の拡大である こと,および,同一横断面において左右岸の堤防の両方は決壊せずに,一方の堤防は決壊を 免れることを前提とした)が明らかとなった。
(3) こうした複数のシナリオを用いた数値解析を用いて,急勾配の石礫河川における出水時の土 砂移動を考慮した流路変動特性とそれに伴う侵食リスクをある程度評価可能であることを示 すことが出来た。
図6-1 急流河川の急激で大規模な河道変動による侵食リスク評価のイメージ図
今般の研究は,十勝川水系音更川上流区間を対象とした限定した条件下で行った侵食リスク推定 の試みである。急流河川一般に適用するためには,今後,現地データの取得については項目・頻度・
精度及び手法等のより充実を図ること,数値解析については他の河川条件における再現性・適合性 の確認を行うことなど,一般化できる手法の確立に向けて更に様々な調査・研究すべき課題に取り 組む必要があることは述べるまでもない。しかしながら,急勾配河川における将来的な侵食リスク を検討するにあたり,どのようなデータを用い,どの程度の再現性をもって評価を行うことが出来 そうか,ある程度の道筋を示すことが出来たのではないかと考える。今後,河岸や堤防を侵食災害 から防護するための対策工法の計画や整備,更に河川沿川の土地利用や防災対策をより実効性のあ るものとしていくために,本研究はその1ステップとして位置づけられるはずである。