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青銅轡の変遷にみる馬具の機能的変革

騎馬技術は草原地帯の遊牧集団に軍事の方面で圧倒的な優勢を与えてきた。騎馬技術 が普及すると、物質資料は遠くにも速く伝えられ、人間集団による長距離の短時間での移 動も可能になった。草原地帯東部においては、先の章節に述べたような青銅武器の展開の みならず、紀元前一千年紀以降に金属製馬具の機能性の変遷という点でも大きな変化がみ られる。本章は馬の制御に不可欠な金属轡を取り上げ、相関する機能的属性をもった諸型 式の時間的・空間的展開の様相を明らかにするものである。さらに、こうした金属轡の展 開の様相を明らかにすることにより、馬具の機能性の改良の過程も把握したい。

草原地帯東部における金属轡を概観するならば、長城地帯東部に位置する夏家店上層文 化の小黒石溝遺跡から銜と鑣を合わせて一体にした金属製の轡が少量発見された(第 6-1 図)。銜と鑣を合わせて一体にした金属轡は紀元前二千年紀の西アジアに類例がある。草 原地帯においても、こうした金属轡の銜の構造と類似する一枝銜がザラフシャン川ザルジ ャ・ハリーファ墓地から検出された [雪嶋宏一 2014]。ただ、銜と鑣に分離した金属轡に 比べれば、銜と鑣を合わせて一体にした金属轡が草原地帯東部にきわめて少ない。分析の 安定性から考慮するならば、本章ではこうした銜と鑣を合わせて一体した金属轡を触れな いことにする。また、孔の数とその方向からみると、中央の一孔と両側の二孔が垂直に異 なる方向に開けられている骨角製の鑣は草原地帯やヨーロッパで紀元前二千年紀末のも のとして知られているが、不明確な点が多いため、こうした骨角製の鑣の一種についても 除外した。

具体的な分析としては、川又正智氏の研究を参考しつつ、銜の分類は鑣との連結方式・

外環の形状・銜枝の形態という機能的属性の相関を踏まえて型式を設定し、工夫・改良の 跡を辿りながらより改良された型式ほど新しい型式と考え、型式の変遷の順序を想定した。

鑣の分類は銜との連結方式、形状全体から行う。以上のように分類した銜と鑣の諸型式を 設けたうえで、これらと連結方式との関係を調べ、銜と鑣の部品の組み合わせからなる轡 の型式を設定する。そのうえで相対年代が明確である中原系の青銅器といった一括遺物や 炭素年代測定の結果によって、金属製轡のセットの年代を推定する。さらに以上の編年に 基づいて各時期の轡のセットの分布を検討し、金属製轡の展開の様相を把握する。

第 6-1 図 銜と鑣を合わせて一体にした金属轡 1.小黒石溝遺跡採集 85ZJ:1 2.小黒石溝遺跡採集 85ZJ:2

第1節 型式分類

1. 銜の型式分類

(1) 属性変異の提示

銜は銜枝を馬の口中に食ませて馬の頬側に出る外環を鑣で頭絡に結び、手綱と繋いで馬 をコントロールする道具である[末崎真澄 2004](第 6-2 図)。つまり銜の基本的な機能 は外環で鑣に結んで固定し、銜枝で人間の合図を伝わるようにするものである。したがっ て金属製銜が有する属性の中から機能的目的に関連する連結方式・外環形状・銜枝形態と いう三つの属性を取り上げている(第 6-3 図)。

① 連結方式

鑣との連結方式を以下の三つに分類する。

結合式 棒状の鑣と革紐で緊縛するもの 嵌入式 銜の外環を鑣の中央の方環に通すもの 挿入式 棒状の鑣を銜の外環に通すもの

銜と鑣の連結方式は銜と鑣が連結している出土状況で推定した。結合式は有機物製の革 紐で鑣に結ぶものであるため、嵌入式と挿入式より結合式の有機物製の革紐は銜の外環と

よく擦れ合うことになるから、壊れやすくなるということが想定できる。したがって銜と 鑣の連結方式については、その改良によって結合式→嵌入式、挿入式という時間的な前後 関係を考えることもできる。ところが、アルタイでは鑣の中央に付いた突起や枝状を銜の 外環に差し込んで使用する連結方式も存在するが[Кирюшин, Тишкин 1998]、結合式・

嵌入式・挿入式の方が草原地帯東部で主体であることが、川又正智や張允禎が行った連結 方式の分類においても示される[川又正智 1994,2006,張允禎 2008]。したがってここ ではこの種のアルタイの連結方式を触れないことにする。

② 外環形状

鐙形 1 鐙形の環だけのもの

鐙形 2 鐙形の環の内側に小さい円環があるもの 凸字形 1 凸字形の環だけのもの

凸字形 2 円形の環の外側に小さい方形環があるもの 方形 方形の環の下部に突起があるもの

円形 円形の環だけのもの

これらの変異は鐙形(鐙形 1~鐙形 2)・凸字形(凸字形 1~凸字形 2)・方形・円形と いう四類に大別される。これらの大別の変異間には鐙形(鐙形 1)→凸字形(凸字形 1)・

方形という型式学的な前後関係を考えることができる。また、鐙形については、アムザラ コフ氏によって鐙形 1→鐙形 2 という型式学的な組列が想定されている[Amzarakov 2011]。

鐙形 1 の結び方は革紐を銜枝に巻き付けてから、革紐の両端を鐙形の環に通り抜けて鑣と 連結するものである。そのため有機質製の革紐と金属製の外環はよく擦れ合うことになる から壊れやすくなる。鐙形 2 の結び方は革紐を銜枝に巻き付けてから、革紐の両端を小さ い環に通して鑣と連結するものである。革紐と外環との摩擦が少なくなることから壊れに くくなると考えることができるならば、鐙形 1→鐙形 2 という想定が可能であろう(第 6

-4 図)。なお、凸字形については、卲会秋氏によって凸字形 1→凸字形 2 という型式学 的な組列が想定されている[卲会秋 2004]。両者の連結方式はいずれも鑣を銜の外環に差 し込むものだが、凸字形 2 は凸字形 1 よりもしっかり手綱に繋がるため連結の安定性が増 すと考えることができるならば、凸字形1→凸字形 2 という想定も可能である。

③ 銜枝形態

Ⅰ-1 無紋で断面が円形であるもの

Ⅰ-2 無紋で断面が方形あるいは半月形であるもの

Ⅱ 條捩じりがあって断面が円形であるもの

Ⅲ 細かい方形突起があって断面が方形あるいは半月形であるもの

これらの変異は銜枝の表面の文様によって無紋のもの(Ⅰ-1~Ⅰ-2)・條捩じりがある もの(Ⅱ)・細かい方形突起があるもの(Ⅲ)という三者に大別される。それらの変異の 間に直接的な型式学的変遷を想定することは難しいが、細かい方形突起がある銜枝は無紋 の銜枝に比べて馬の口唇部により強い刺激を与えるものと考えられる。この場合、Ⅰ→Ⅲ という変化の傾向を想定することが可能となる。

(2) 型式設定

鑣との連結方式と外環形態の相関関係(第 6-1 表)については、革紐で緊縛する連結 方式(結合式)の外環形状はおもに鐙形、銜を鑣に通す連結方式(嵌入式)の外環形状は 方形、そして鑣を銜に通す連結方式(挿入式)と外環形状の鐙形・凸字形・円形とが対応 するという関係が認められる。

鑣との連結方式と銜枝形態の相関関係(第 6-1 表)は、結合式・嵌入式の銜枝形態は 無紋のもの(Ⅰ-1~Ⅰ-2)あるいは細かい方形の突起があるもの(Ⅲ)となり、挿入式の 銜枝形態はおもに無紋のもの(Ⅰ-1)と対応するようである。

外環形状と鑣枝形態の相関関係(第 6-1 表)は、外環形状の鐙形・方形は無紋の銜枝

(Ⅰ-1~Ⅰ-2)あるいは細かい方形の突起があるもの(Ⅲ)と、外環形状の凸字形・円形 は無紋の銜枝(Ⅰ-1)と、それぞれ対応するようにみえる。

まず、鑣との連結方式で型式大別を設定する。革紐で緊縛するもの(結合式)をA型 に(第 6-5 図:1~5)、銜を鑣に通すもの(嵌入式)をB型に(第 6-5 図:6~8)、

鑣を銜に通すもの(挿入式)をC型に設定する(第 6-5 図:9~15)。

次に、A型・B型では銜枝の形態で型式細別を行う。A型・B型を無紋の銜枝(Ⅰ-1

~Ⅰ-2)であるAa型(第 6-5:1~5)・Ba型(第 6-5 図:6)と、細かい方形の突起 がある銜枝(Ⅲ)であるAb型・Bb型(第 6-5 図:7~8)にそれぞれ分けられる。C型 では條捩じりがある銜枝の数は極めて少ないため、型式細別は外環の形態で行う。すなわ

ち、C型を鐙形または凸字形の外環を付けるCa型に(第 6-5 図:9~12)、円形の外環 を付けるCb型に分類する(第 6-6 図:13~15)。

さらに、外環の形状の変遷で型式変化を設定する。Aa型・Ab型を鐙形の環(鐙形 1)

だけのAa1型(第 6-5 図:1~2)・Ab1型に、鐙形の環の内側に小さい環(鐙形 2)が あるAa2型(第 6-5 図:3~5)・Ab2型に設定する。Ca型を鐙形 1 ・凸字形 1 の環だ けの1型(第 6-5:9~11)、円形の環の外側に小さい環(凸字形 2)がある2型に設定 する(第 6-5 図:12)。

最後、型式の間の派生関係に関しては、B型は銜枝の形態でA型と細かい方形の突起 がある銜枝(Ⅲ)という属性を共有し、C型は外環の形状でA型と鐙形の環(鐙形 1)と いう属性を共有することがみられる。したがって、結合式のA型は最初の祖形として銜 を嵌入式のB型および、挿入式のC型という二つの方向に分岐することが想定される。

第 6-2 図 馬具および金属製銜の構造

第 6-3 図 属性変異模式図(1)