第二章 青銅短剣の展開と地域間関係
第1節 型式分類
1.型式分類
従来の大別分類では柄頭の属性が重視されてきたが、ここでは鍔の形態に注目し鍔形態 のみを対象とした型式分類を試みたい。大別分類では、一組列に含まれる型式群からなる 通時的な様式を見出すことができる。ここでは柄と鍔が区別されるかによって青銅短剣は おもにカラスク式銅剣とアキナケス式(akinakes)銅剣に分けることができる(第 3-2 図)。いわゆるカラスク式短剣は柄と鍔が区別されず、剣身基部を切り込むような形で鍔 が形成され、鍔が剣身と垂直方向に広がるものである。アキナケス式銅剣は柄と鍔が区別 され、剣身基部に切り込みを持たず、鍔が剣身に対して斜めに付いて心葉形になるもので ある。さらに、具体な鍔の形状によってカラスク式銅剣とアキナケス式銅剣に対してそれ ぞれ細別分類を行う。結果としては、順にA類からD類までの4型式に分けることがで きる。
第 3-2 図 青銅短剣の大別分類 1.カラスク式銅剣 2.アキナケス式銅剣
A類:柄と鍔が区別されなく、剣身の基部に切り込みを持たず、方形の鍔部が剣身の外 側に延びて翼形となるものである(第 3-3 図:1-3)。カラスク式銅剣としてA類を典 型的なカラスク式銅剣と積極的に結び付けるのはミヌシンスク盆地の採集品があげられ
る(第 3-5 図:1)[Членова 1967]。こうした銅剣は柄にスリットが入る典型的なカラス ク式銅剣の特徴を持ちながら、本論のA類のような翼形の鍔が認められることから、鍔 の形態からみると本論のA類は典型的なカラスク式銅剣から派生したものと考えられる。
B類:柄と鍔が区別されなく、剣身の基部に切り込みをもつものである(第 3-3 図:4
-6)。鍔の形状によって、B類をa・bという二つの型式に細分することができる。Ba 型は剣身の基部に棒状の鍔が浮かび上がるが、棒状の鍔の下に切り込みの状態が残ってい るものである(第 3-3 図:4-5)。八木聡氏が中国北方B類銅剣としたものに相当して いる[八木聡 2014]。剣身の基部に切り込みをもつ鍔の形状からみると、本論Ba類は典型 的なカラスク式銅剣と結び付けられる。また、剣身の中央部に柱状の脊をとおすBa類は 同じく典型的なカラスク式銅剣に類似している(第 3-5 図:4)。Bb類は剣身の基部に 小さい突起があって鍔をなし、切り込みが小さく目立たないものである(第 3-3 図:6)。
本論のC1類(第 3-4 図:1)と比較すれば、ある程度に両者の鍔の形状は類似するもの の、Bb類の鍔が柄と区別されない。高濱秀氏が中国北方C類銅剣としたものに相当して いる[高濱秀 1982]。剣身の基部に切り込みを持て鍔となるのからみると、本論Bb類は同 じく先行する典型的なカラスク式銅剣と結び付けられると考えられる[高濱秀 1982、八木 聡 2014]。
C類:黒海北岸のスキタイのアキナケスと似た形を呈する古式アキナケス式銅剣である。
典型的なカラスク式銅剣の形態に対して、C類は、柄と鍔が区別され、剣身の基部に切り 込みを持たなく、鍔の全体が鍔の両側の部分を結んで心葉形となるものである(第 3-4 図:1-5)。環頭や傘形(キノコ形)から変化した一字形の柄頭は典型的なカラスク式銅 剣との関係を示しているが[高濱秀 1999、松本圭太 2013]、柄と鍔が区別される鍔の形態 からみると、C類は典型的なカラスク式銅剣から脱却し、古式アキナケス式銅剣と呼ばれ ることができるだろう。また、柄頭の形態は本論B類と同様に一字形や猪の装飾がある が、B類の一字形の柄頭の下に小さい孔を開けていなく、猪の装飾は脚を垂直に伸ばして 爪先立つものであり、これらの柄頭の形態はB類と相違している。
D類:柄と鍔が区別され、剣身の基部に切り込みを持たなく、鍔の両端がやや反り上が る八の字形となるものである(第 3-4 図:6-7)。八の字形の鍔は古式アキナケス式銅 剣と比較が可能である。鍔の形状からみると、D類が本論C類の地域と交流の中で出現 したと考えられる[八木聡 2014]。鍔の形状の類似から、本論C類の影響を受け、D
類が
古式アキナケス式銅剣に繋がると考えるべきである。第 3-3 図 カラスク式短剣の型式分類
(1.A1 類 2~3.A2 類 4~5.Ba 類 6.Bb 類)
第 3-4 図 アキナケス式短剣の型式分類
(1~2.C1 類 3~4.C2 類 5.C3 類 6.D1 類 7~8.D2 類)
2.型式変化
以上の4型式に、諸属性の変化で型式の変化をとらえられるのはA類、C類、D類が ある。
A類:鍔や柄頭からさらにA1類・A2類に分類できる。A1類は鍔がやや外へ広がり、
柄頭が一字形をなすものである(第 3-5 図:2)。A2類は方形の鍔が非常に外へ広がり、
柄頭が台形のキノコ状をなすものである(第 3-5 図:3)。A1類→A2類の変化では鍔や 柄頭が肥大化する変化が認められる。
C類:鍔からさらにC1類・C2類・C3類に分類できる。C1類は鍔が八の字形に近い 形をなすものである(第 3-5 図:7)。C2類は鍔が心葉状となるものである(第 3-5 図:8)。柄頭の形態は双鳥首、環首、棒状がある。柄の表面には1-3本の沈線を施し、
あるいは長方形の透し孔を開いている。C3類は心葉状の鍔の下が括れなくて崩れてきた ものである(第 3-5 図:9)。柄頭の形態はC2類と同様に双鳥首や環首、棒状の装飾も 含める。したがって、C1類→C2類→C3類の変化では鍔が肥大化してから衰退する変化 が認められる。
D類:柄頭からさらにD1類・D2類に分類できる。D1類は柄頭が同心円状をなすも のである(第 3-5 図:10)。柄頭には明瞭な縁があり、縁の中は小孔がめぐる。同心円状 の中央にも小孔を開けている。D2類は同心円状の中央の小孔が広がって双環状に近い形 をなすものである(第 3-5 図:11)。柄の表面には双頭のS字形の夔龍文、鹿など草食 動物の脚を前後から折りたたむもので飾られることがある(第 3-4 図:8)。したがって、
D1類→D2類の変化では、柄頭が同心円から双環状へ変化する過程が認められる。