• 検索結果がありません。

(1) 侵害物品の没収、廃棄などの処分

WTO 協定は、管轄当局が通関保留措置以外に侵害物品の廃棄またはその他の処分もで

きる権限をも有するものと規定している( TRIPS 協定第 59 条) 。一方、関税法は、商標権

および著作権を侵害する物品の通関保留の手続に関する規定を設けてはいるが、侵害物品

の没収、廃棄などの処分については、なんら規定を設けていない。ここで、関税法が WTO 協定に違反しているものでないかという疑問が提起されうる。しかし、 TRIPS 協定は、管 轄当局という表現を使っており、必ずしも「税関」をして廃棄などの処分の権限を有する ように求めているものではないために、関税法が協定に違反するとは断定できないのでは ないかと思われる。なぜかというと、韓国では、後で述べるように、税関ではなく、貿易 委員会によっても、不公正貿易行為調査及び産業被害救済に関する法律の適用により、知 的財産の侵害物品の廃棄処分を命ずることができるからである。関税法において、侵害物 品の通関保留以外に没収または廃棄などの処分に関する規定を設けていないことについて は、 現行法の下で税関に対して侵害物品の没収または廃棄などの処分の権限を付与しても、

司法機関により著作権または商標権の侵害を構成しないと判断された場合には、輸出入申 告者に回復のできない被害が生じうるという点を考慮したのではないか

48

、と推測する

49

(2) 輸入者と権利者との間の調停手続

税関内に当事者、つまり輸入者と権利者との間の調停判断を行う機関は存在しない。た だし、特許庁に産業財産権紛争調停委員会、情報通信部にコンピュータ・プログラム審議 調停委員会、文化観光部に著作権審議調停委員会が其々存在し、法院への提訴の前に両当 事者の合意により調停を行うことが可能であり、 法院に直接提訴し争うことも可能である。

いずれにしても法的な司法判断は、法院(裁判所)の判断にゆだねられている。

(3) 税関における権利侵害の判断と司法判断との関係

輸出入申告された物品と申告された商標権との権利侵害可否の判断については、税関当 局内では、専門的に判断するような部署が存在せず、その判断のために必要と認められる ときには商標権者をして商標権に対する専門家または検査施設を提供するように求めるこ とができるものとしている(関税法施行令第 242 条)程度である。したがって、税関での 準司法的な判断は、商標権を明白に侵害したかどうかについての判断に留まり、具体的か つ司法的な判断は法院の判断に委ねられていると言えよう。その意味においては、税関に おける行政判断と法院による司法判断とは独立に行われるもので、互いに影響しあうもの ではなく、全く別の関係にあるものと理解される。

また、税関長は、商標権の申告者に輸出入申告事実を通報した物品または通関保留され た物品に対して知的財産権の利害関係人、輸出入業者から知的財産権の侵害如何を判断す るための検査及び見本採取の要請がある場合は、営業秘密の保護など特別な事由がない限 りこれを許容すべきであるとしている(知的財産権保護のための輸出入通関事務処理に関 する告示第 3-8 条) 。

(4) 裁判所の仮処分申請の手続と税関での貨物の通関手続きとの関係

48丁相朝「関税による知的所有権の侵害物品の取締り」『創作と権利(創刊号)』世昌出版社(1995)。

49参考までに、現行の刑法は、犯罪行為に提供しまたは犯罪行為により生じた物件について一般的な没収を規 定しており、著作権法と商標法においても没収及び廃棄に関する規定を設けている(著作権法第91条第2項、

第3項、第101条および商標法第65条第2項)。かかる規定により司法機関が侵害物品の廃棄などの処分を 行うことができるようになっているため、WTO協定を違反していると判断することはできないであろう。

韓国の民事訴訟法上、仮処分

50

は、争いのある特定物に対する引渡し請求権などを保全 するための係争物に関する仮処分と、争いのある権利関係に対して臨時の地位を定める仮 処分という二つの種類に分けられている

51

知的財産権の侵害事件において侵害行為の禁止を求める仮処分は、債務者に不作為の義 務を課す満足的な仮処分であり、臨時の地位を定める仮処分に属する。特許、実用新案、

商標、意匠など知的財産権の侵害の禁止を求める仮処分の請求権者は、当該権利の所有者 または専用実施権者であり、通常実施 ( 使用 ) 権者には禁止請求権は認められていない。仮 処分の管轄は、原則として本案訴訟につき管轄権を有する法院に属する

52

法院によって保全命令が下されると、 債務者は異議申立てを行うことができる。 しかし、

異議申立てを行うとしてもすでに発した保全処分命令の執行を停止させることはできない。

異議申立てが為されると当事者は指定された弁論期日に法院へ出頭することとなる。そし て、債権者は債務者に対して訴訟を提起するよう命令することを法院に申請することがで きる

53

仮処分申請中、貨物の留置が可能かどうかについては、権利者はこの保留期間内に法院 に廃棄命令を得るための本案訴訟を提起するのが通常であるが、これは、本案提訴のある 場合、通関保留を継続できるからである。この際、本案訴訟ではなく、仮処分を申請する ことも可能であるが、これをもって本案訴訟を提起したものと看做して、通関保留が継続 できるかは定かでないが、少なくとも 10 日以内に命令を得るのは困難であるのが実情で ある。

(5) 通関保留要請による担保の提供

関税法によると商標権者または著作権者が担保を提供し、 通関保留を要請した場合には、

特別な事由がない限り税関長が物品の輸出入免許を保留すべきであると規定している ( 関 税法第 235 条第 5 項 ) 。また、同施行令によると権利者の担保提供により通関保留が要請 された場合に商標権または著作権を侵害した物品であると認められる場合に輸出入免許を 保留すべきであると規定している(関税法施行令第 239 条第 1 項) 。したがって、同施行 令によると担保提供がある場合でも権利侵害が認められることを条件として通関保留をす べきであるという厳格な要件が加えられているものと解することができ、これに相応した 関税法の規定と矛盾しているのではないかという疑問も提起されうる

54

。 このような問 題点は、現行の関税法が商標権と著作権の侵害物品の通関保留とその他の処分に関する要

50仮処分は、債権者が管轄法院に申請書を提出して、法院が裁判を通じて仮処分の認定の可否が決定されるが 仮処分の裁判において求められる立証の程度は、本案訴訟におけるような厳格なものではなく、簡単な疏明資 料に基づき法院の保全命令を受けることができる。

51最高法院HP参照(http://www.scourt.go.kr/suit/prvsnl_szr_dspos/prvsnl_dspos/index.html)。

52同上(上記URLは2005年3月31日時点のもの)。

53知的財産情報センター『知的財産権侵害物品取締り ガイドブック(韓国編)』(財)日本関税協会(1994)、71 頁。この場合、法院は、債権者に一定期間内に訴訟を提起すべき旨命令を行う。法院が指定した期間内に債権 者が本案訴訟を提起しない場合には、法院は、債務者の申請によって仮処分を取り消すこととなる。一方、法 院によって仮処分の命令が発せられると、債権者は同命令の下した日または送達日から14日以内に執行しな ければならない。その場合、仮処分の執行は、裁判所の執行官を通じて債務者から係争物を引き取り、別途保 管して仮処分命令の趣旨を公示するなどの方法で行うこととなる。

54前掲「関税による知的所有権の侵害物品の取締り」『創作と権利(創刊号)』世昌出版社(1995)。

件を明確に規定していないことから由来する結果でもあり、また担保の性格が被害補償の ためのものかどうかを不明に規定した結果でもある

55

、といえる。当時の立法者もそこま で区別して考えてはいなかったのではないかと推測することができよう。

(6) 職権による通関保留措置の可能性(特に、著作権の場合)

関税法は、商標権の場合には商標権者の申立てによる通関保留のみならず、職権による 通関保留も可能である旨規定しているが、その反面、著作権の場合には著作権者の申立て による場合にのみ通関保留が可能であると規定している。このような違いにより著作権侵 害物品の税関での水際規制が困難ではないかという問題が提起されうる。

著作権侵害物品の通関保留に関する手続が著作権者の申立てを前提とするのは著作権法 上の親告罪の規定が存在するからであると理解されている。これに対して、著作権法上の 親告罪規定は、刑事罰を前提とした規定であり、現行の関税法上では輸出入免許の保留と いった措置を刑事罰とみることが困難であるため、税関による通関保留措置を著作権者の 申立てがある場合に限定すべき理由はない

56

、と主張する見解がある。

TRIPS 協定は、加盟国をして知的財産権者の申立てにより税関手続のみを義務づけして

おり、あくまで職権措置の採択は、加盟国の裁量に委ねていることを鑑みると、現行の関

税法が TRIPS 協定に違反しているとはいえない。

(7) 担保の被害補償への活用可能性

関税法は、輸出入免許または免許保留の決定と同時に担保または逆担保を常に担保提供 者に提供するようにし、被害者の補償のために活用されていない、と指摘がありうる。こ れに対して、現行関税法が、輸出入の免許保留を申請する著作権者または商標権者に担保 の提供を求め、通関保留の申請の濫用を阻止している、結果的に輸出入者が保護されてい る。これは、 TRIPS 協定における「被告と管轄機関を保護し通関保留措置の濫用防止」す るための供託金制度に符合するものといえる。

II .貿易委員会による知的財産権の侵害物品に対する規制 1. 規制根拠

(1) 対外貿易法第 39 条

対外貿易法は、対外貿易を振興し、公正な取引の秩序を確立し、国際収支の均衡と通商 の拡大を図ることにより国民経済の発展に資することを目的としており(第1条) 、直接不 正な輸出入の規制となる法的根拠は、不公正な輸出入行為の禁止についての第 39 条であ る。同規定は、次の行為を禁止している。つまり、貿易取引者は、 (1) 国内の法令又は交易 相手国の法令により保護される特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・著作隣接 権・プログラム著作権及び半導体集積回路の配置設計権を侵害する物品を輸出又は輸入す る行為、 (2) 原産地を虚偽で表示した物品又は原産地の表示を損傷し、又は変更した物品を 輸出又は輸入する行為、 (3) その他輸出入秩序を阻害するおそれがある行為であって、大統

55同上。

56同上。