第l節 資 産 の 投 資 に 関 す る 開 示 義 務 第1款 判 例
(1) Freund v. Marshall
&
Ilsley Bank剖本判例は、投資に関する開示についてのリーディングケースである。年金基金 の受託者が制度に拠出する関連会社集団の無担保の約束手形に実質上すべて投資 したあと、会社が、自己の全資産を担保にして銀行借り入れを行った者に対し企 業の譲渡を行ったことにより、年金資産たる約束手形が支払われないまま破産に 至った際、受託者が開示義務違反にも問われた事件である。
判旨は、制度と会社がまだ支払不能に陥っていないときに加入者が自己を守る ために十分な売却の情報を与えられていなかったと認定し「事業売却に関するす べての事実を開示しなかったのは」信認義務違反となると判示した。
(2) Acosta v. Pacific Enterprises回
【事実の概要】原告は、 Pacific Enterprises社の完全子会社である Southern California Gas Companyの従業員であり、 Local132 of the Utility Workers Union of America, AFL‑CIO.の委員長である。原告は、 SoCalGas Retirement Savings Planの加入者として、 PacificEnterprises社の普通株の信託受益者で
もある。制度規約によれば、受託者であり信認義務者であり株主名義人でもある First Interstate Bankに指図することによって制度の自己勘定分の議決権を有
している。
原告は、 PacificEnterprises社と FirstInterstate Bankに同社および子会社 の種々の従業員給付制度の加入者名、住所、株式保有状況の開示を求めた。その 目的は、組合の地方役員を同社取締役に選任するための委任状勧誘を行うことで あった。同社はこれを法的義務がないこと、無いことは従業員のプライパシーを 保護しているとして拒否した。
そこで原告はそれらが受給者勘定にある同社株の議決権行使の判断資料として
必要であるとして、同社と受託者たる FirstInterstate BankをERISA404(a)に 違反するなどとして訴えた。
地裁は、制度に関する情報開示は、 ERISAに明定きれたものに限られ、州信託 法の広範な開示原則を組み込んでいないと判示した。
[判旨]ERISAの開示義務は、法に定められた文書の普及に限定されるものでは なく受益者の利益に為には更なる開示が必要となる場合があることは否定しない が、この普通法上の情報開示義務は、受給権と費用の支払いに関する条項に関す る限り、 ERISAの報告開示条項に矛盾せず、内容を変更しない限り ERISAの 信認義務に取り込まれたものである。
Acostaは、 First Interstate Bankが、個々の制度加入者所有の Pacific Enterprises社議決権付き株式のリストを提供する義務があると主張する。加入 者は、そのリストによって取締役会選任決議に、充分な情報を得た判断を下し得、
委任状勧誘することが保証されて初めて制度加入者の利益が守られ、この利益は、
ERISA立法目的上保護されるべき「利益」であるというo
しかし、「利益」は制度管理者または受託者から受ける金員のことを指し、会社 役員を選任するための議決権ではない。また当制度は、従業員持株信託ではなく
6つの投資選択肢から任意に選んで、投資を委ねる、株式賞与制度であり同社株を 取得することを内容とするのはその内1つのコースにすぎない。
また、 Acostaの主張を認めると次のような不都合が生じる。カルフォルニア州 会社法1600条では、株主とは株主名簿に登録した株主のみをいう。その株主だけ が名簿の閲覧ができ、さらに重要なことは、たとえそのような株主であっても ERISA上加入者とされる者を含む信託的実質所有者リスト得る権利を有してい ない点である。したがってその加入者が実質株主名簿を入手することができるな ら、それは、登録株主以上の権利を彼らに認める結果となる。 ERISAの条文も立 法の沿革もそのような結果をもたらすものとは思えない。
Acostaのリスト請求と、信認義務者に開示義務を負わせることを認めるため の受給権と費用支払いが適正に行われているかという点に関する開示条項との聞 には関連を見出し難い。
(3) Sweeney v. Kroger Co.剖
92 第3部 米国従業員退職所得法の開示制度の判例研究
[事実の概要】Kroger社従業員持株信託(以下、 KESOPと呼ぶ。)加入者であっ た元従業員が、同社普通株の価値に関する重要な情報開示を怠ったことは、信認 義務違反であるとして同社に対し集団訴訟を提起した。原告の雇用関係は、 1986 年末のレイオフのときに終了していた。
1988年7月、原告は、 KESOPで所有していた18株の普通株に替えて現金を受 領する機会が与えられ、 KESOPに株式売却を依頼し、市場で周年9月初めに同 株をKroger社自身が購入した。 9月28日にKESOPは、原告に一株あたり約36. 2ドルの約18株の代金約660ドルを支払った。
しかし、この売買の前、同年8月初め、 Haft一家が、同社取得または同社支配 に興味を示していた。
原告は、 Kroger社が、原告のESOPの株式を重要な事実を開示せずに取得し、
転売したのは、証券取引法およびその規則違反に加え、ERISA402条および404条 とコモンロー上の信認義務に反すると主張した。
[判旨】ERISAの構造は、事業主が制度の信認義務者および事業主自身の二重の 能力を有し行動するものと構成きれている。事業主が制度資産を管理し投資しな い時は事業主の利益のために行動することを禁止されていない。 Hickman v. Tosco Corp., 840 F.2d 564, 568 (8th Cir. 1988) (quoting Phillips v. Amoco Oil Co., 799 F.2d 1464, 1471 (11th Cir. 1986), aff'g, 614 F. Supp. 694, 716‑17 (N. D. Ala. 1985), cert. denied, 481 U. S. 1016,95 L. Ed. 2d 500, 107 S. Ct. 1893 (1987)) きらに第8巡回区上訴審Port判決 (Portov. Armco, Inc., 825 F.2dat 1276.)に おいて、管理者が開示の制定法基準に従っている限り制度変更の早期開示をしな
くとも信認義務違反ではないと判示している。
また本件原告は、 KESOPの規約を了解の上それに則って株式を現金化したの であり、分配の受給権の不実表示を主張していないので、信認義務違反とならな し、。
注1 485 F. Supp. 629, Employee Benefit Case (BNA) 1989 (W. D. Wis. 1979)なお本判例の事実と開示以外の問題については拙著 iM&A時代の企業 年金保護
J
148頁以下参照注2 950 F.2d. 611 (9th Cir. 1991) 注3 773 F. Supp. 1266 (E. D. Mo. 1991)
原告は、 ERISAの開示請求に加え、証券法(1933年法の改正法)の開示と反詐 欺規定の適用を受ける「証券」として一定の従業員給付制度上の権利を主張し ている。従業員給付制度に関する証券には二種類、(1)制度における加入者の権 利(2)加入者が資産投資する、集団投資手段としての制度加入権がある。証券法 3条(aX2)では、加入者自身の拠出金が制度スポンサーの証券に投資されるので なければ、その加入権は、証券法上の登録を免除される。同法同条は、集団的 信託基金および保険会社の分別勘定の権利も登録免除している。加入者が自己 勘定の投資を指示することができるために確定拠出型制度が増加する傾向をと
らえ、 SECの投資運用部門は、証券法の次のような改正を求めている。すなわ ち(1)加入者が自己勘定の投資を指示する確定拠出制度のプールされた投資手段 における権利の登録(2)そのような加入者の上述投資手法に関する目論見書の交 付である。
第2款 検 討
(1)と(2)の判例は、程度の差こそあれ一定の場合に制度の投資に関する情報開示 の信認義務を認めている。 (3)の地裁判決だけは、 ERISAの開示規定に従えば、信 認義務者に対する開示請求が認められ得ると説示している。もし開示が、加入者 と受益者の利益保護のために重要で、、開示が制度信認義務者に不当な負担を負わ せるものでないなら、その信認義務を認めることは妥当であろう。 ERISAが定め る年次報告書及びその概要は、制度年度の終了後7ヶ月までは加入者と受益者に 制度の資産状況に関する情報を開示するよう要求していない点から、あらゆる場 合にタイムリーな開示を要するものではないことは明らかである。しかし、少な くとも開示が、加入者と受益者の利益保護のために重要で、、開示が制度信認義務 者に不当な負担を負わせるものでないなら、また、ERISAの明示する資産開示規 定に矛盾するものでもなければ、それを変更するものでもない場合信認義務を認 めることができょう。
個人勘定制度の信認義務者は、加入者と受益者が、投資成果に直接影響を受け
94 第3部米国従業員退職所得法の関示制度の判例研究
るため、投資に関する情報開示に留意すべきである。給料から差しヲ│いて資金投 資することを選択できる制度であるため、投資成果の低下のタイムリーな開示が なければ、加入者の利益を守ることができないからである。この型の制度が近年 増加するに連れ、訴訟の可能性が増してきている。桂凶
注1 個人勘定制度と異なり、確定給付制度では給付額があらかじめ予定されて いるため、投資成果が直接加入者と受益者の利益に影響を及ぼすものではない が積立不足が生ずる場合は問題が残る。これについては次節以下で論じる。
注2 労働省通達29C. F. R. 2550. 404c‑1 (bX2)では、投資の選択を認める制度の 投資判断を十分な情報を得て行える機会を加入者に与えるように求めている。
第2節 制 度 の 変 更 に 関 す る 開 示 第1款 判 例
(1) Porto v. Armco, Inc.注1
第8上訴裁判所は、制度内容の開示に関する信認義務者の義務が、ERISAの報 告開示に関する明示規定を補足することがあるか否かについて判断した。
【事実の概要】原告Portoは、 39年勤め上げた後1981年1月31日に Armco社を 退職した。同社の利潤分配制度は、従業員拠出部分とその50%相当の事業主拠出 部分からなっていた。退職に際し、原告は、従業員拠出部分に相当する資金を引 き出し Armco社拠出部分とその収益に関する部分については、五年間据え置く ことにした。この選択に際し原告は、据え置きすればその判断を撤回できないこ とが制度上定められていることを承知していた。
同年6月26日に Portoは、家庭の事情から据置部分の引き出しを請求したが、
制度から、選択したことの変更は許きれないとの通知を受けた。その間同社株は 確実に値下がり続けた。
1982年1月に同社は、内国歳入法の改正に促されて、今まで撤回不能で、あった 分配方法選択を撤回可能とする変更を行った。周年2月に制度管理者は、すべて の現従業員にこの制度変更を通知したが、原告を含め退職者には通知しなかった。