第 2 章 先行研究レビュー
2.5 開発途上国都市部のごみ問題
2.5.1 開発途上国都市部のごみ問題
先進国、開発途上国を問わず、都市部のごみ問題は深刻な状況にある。2012 年の世界銀行の情報によると、全世界の都市部で毎年13億トンの廃棄物が発生 し、2025年には22億トンになると予想されている。低所得国のごみの増加率は、
今後20年間で2倍を超えると見込まれている。全世界で廃棄物管理に費やされ るコストは、現在の年間2,050億ドルから、2025年には3,755億ドルになると予 想され、廃棄物管理コストの上昇率は開発途上国で最も急激で、中所得国では4 倍に、低所得国では5倍になると見積もられている。低所得国の市(cities)の廃 棄物管理予算は、いずれの都市においても、つねに市の予算の最大の部分を占め ている(World Bank, 2012, pp.vii-ix)。
このように、都市部でのごみ問題はとりわけ開発途上国で深刻であるが、当 該国の政府およびそれらに対して支援をおこなう先進ドナー国の努力にもかか わらず、長きにわたって改善の様子を見せていない。開発途上国の資源循環や廃 棄物政策に関する研究をおこなっているマーチン・メディナは、開発途上国の都 市のごみ問題を以下のように記している。
それらの都市では、ごみの収集・運搬・処分に市の実行予算の 30~ 50%を投じているにも関わらず、50~80%程度のごみしか収集されて いない。収集率は、たとえば、カラチ 33%、ヤンゴン 40%、カイロ 50%といった状態である。そして、収集されたごみの90%は開放埋立
(open dumping)されている。収集されないごみは、空き地、公共の
場、池、川などに捨てられるか、あるいは家の裏で燃やされる。通り や街路わきに積みあがったごみは、雨が降ると流れて側溝をつまらせ、
周辺を水浸しにする。池や川に投棄されたごみは生態系を破壊する。
埋立地はメタンガスを発生して火災や爆発をひきおこし、浸出水は飲 み水や生活用水を汚染する。ごみをあさる鳥、ねずみ、蠅などが周辺 住民に病気を媒介する。有機物の分解には数十年を要するため、埋立 地の将来の他用途への転用はきわめて難しい(Medina, 2010, pp.1-2)。
開発途上国の都市部のごみ問題がこのような状況になっている理由を、桜井
(2000)は、都市廃棄物管理セクターにおける外在的問題、外在的でもあり内在 的でもある問題、内在的問題の3つに分類し、外在的問題としては、急激な都市 化、公共教育・住民参加の不足など3項目、外在的でもあり内在的でもある問題 としては、未熟な地方自治制度、清掃事業における人材不足など10項目、内在
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的な問題としては、都市清掃事業の組織体制の弱さ、短・中・長期計画の欠如な ど5項目、合計18項目をあげている。
この18項目からもわかるように、ごみは「社会を写す鏡」(桜井, 2000, p.41) であり、社会の様々な課題と複雑な関係を持っている。多くの場合、ごみ問題は 環境問題であり、健康問題であり、貧困問題であり、また人権問題である(OECC, 2004)。このように広範多岐にわたる問題に対して、個々の課題に個別に働きか けていては問題の解決はおぼつかないという認識が広まり、1990 年代以降、統 合的廃棄物管理(ISWM: Integrated Solid Waste Management)といった考え方が先 進国では主流になってきた(Marshall & Farahbakhsh, 2013, p.995)。
1970年代に始まった近代的廃棄物管理のアプローチは、技術的な問題を技術 的に解決するというものであったが、統合的廃棄物管理は、廃棄物管理を環境、
社会、経済といった面から包括的に考え、それらのバランスをとりながら統合的 に問題にアプローチするというものである(White, Franke & Hindle, 1995; van de Klundert & Anschutz, 2001; Morrissey & Browne, 2004)。具体的には、3R(発生抑 制、再利用、再資源化)、収集、運搬、処理(焼却)、処分までの一連の要素を、
環境保全、社会的受容、経済性などを考えながら、統一的に運営管理することを いう(IGES, 2007; UNEP, 2016)。
しかしその実践は容易ではない。統合的廃棄物管理は、コストを抑制しなが ら、環境への影響を低減させるために、システムを構成する様々な要素すなわち 廃棄物、発生源、処理方法などを統合させた、市場志向で、柔軟で、継続的に改 善されていくシステムでなくてはならない(McDougall et al., 2001)。また、その システムは、それが適用されるコミュニティの居住者の視点を取り入れた、技術、
文化、政治、社会、環境、経済、組織などの地域の現状と、その地域が目指す廃 棄 物 管 理 の ゴ ー ル に あ わ せ て 、 個 々 に デ ザ イ ン さ れ な け れ ば な ら な い
(McDougall et al., 2001; van de Klundert & Anschutz, 2001; Kollikkathara, Feng &
Stern, 2009; World Bank, 2012)。このような実践の難しさからか、開発途上国の廃
棄物管理に対するドナー諸国の支援アプローチに統合的廃棄物管理が積極的に 取り入れられている様子は見られない。したがって、依然として、多くの開発途 上国の都市部では、桜井(2000)があげた18項目のうちのいくつかをとりあげ、
それらに対する個別の改善を目指すというアプローチが続いている。そのため 現状はメディナが描写した状況と大きく変わっていない。むしろ、「状況は極め て切迫しており、パラダイム転換が必要とされている」(ESCAP, 2015, p.5)状況 である。
2.5.2 ごみ処理の流れ
廃棄物管理分野における国際協力の状況は次項で概観するが、その前段とし
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て、開発途上国における一般的なごみ処理の流れをここで見ておく。なお、本論 文で対象とするごみ処理は家庭からの一般ごみを対象としており36、産業廃棄物 や医療廃棄物は対象としていない。
先進国、途上国を問わず、都市部における、家庭を主な発生源とする一般ご みの管理は、通常、収集・運搬・処理・処分といった流れをたどる。各家庭から のごみを地方自治体等によって定められた集積所に搬入するプロセスが「収集」
であり、これは 1 次収集とも呼ばれる。集積所に集められたごみを中間処理施 設(焼却場、堆肥化施設など)あるいは最終処分場へと搬送するプロセスが「運 搬」であり、これは2次収集とも呼ばれる。そして、廃棄物を、最終処分場に搬 入する前に、焼却したり堆肥(コンポスト)にしたりするプロセスが「処理」で あり37、最後に、運搬された廃棄物や、処理施設で焼却処理された灰などを最終 処分場に搬入して埋め立てるプロセスが「処分」である(Zurbrügg, 2002; Wilson et al., 2012)(図2-2参照)。
このうち、収集プロセスは住民の責任範囲になっていることが多い。しかし、
特に途上国においては、そのことが住民に周知されていなかったり、ごみ集積所 が適切に配置されていないなどといった理由から、1次収集が適切におこなわれ ないことが多く、そのため、家庭ごみの各戸収集をおこなう民間サービスが多く の途上国の都市部で生まれ普及している。この民間サービスは、リヤカーや自転 車つきリヤカー、ロバなどを使い、各家庭を訪問してごみを収集し集積所まで運 ぶ有料サービスであり、バングラデシュではヴァンワラ(van wala)、エジプトで はザバリーン(zabbaleen)(van de Klundertand Lardinois, 2016)、インドネシアで はトゥカンローク(tukang loak)(環境省, 2014)、タイではサレーン(saleen)(環
図2-4 開発途上国都市部の廃棄管理の流れ(Wilson et al. (2012)より筆者作成)
36 ここには小規模な商店や事務所からのごみも含まれるが、記述を簡潔にするために、家 庭ごみをもって代表させる。
37 開発途上国には処理プロセスを有しない都市も多く、その場合、ごみはごみ集積所から 直接、最終処分場に運搬される。
収集 運搬 処理 処分
(1次収集) (2次収集)
家 庭
ごみ集積所
(コンテナ、
ダストビン)
中間処理施設
(焼却場、
コンポスト)
最終処分場
(埋立地)
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境省, 2014)と呼ばれている。このような活動を始める者が住民のなかから出て
くることから、この種の活動を住民活動(community-based initiative)と呼んでい る先行研究もあるが(Ali & Snel, 1999; Bhuiyan, 2004)、ごみ収集業者は、住民と 行政の狭間(ニッチ)に商機を見出した事業者であり、小規模事業( micro-enterprises)として民間事業者に分類する(Ahmed & Ali, 2003)のが妥当である と思われる。
収集・運搬・処理・処分のなかで、多くの開発途上国では、収集・運搬が廃棄 物管理の最優先事項になっている。これは、「政治家、行政、市民において、生 活圏である町から廃棄物を排除することに関心が集約される」(OECC, 2004, p.22) ためである。そのため、収集・運搬に廃棄物管理における最も多くの費用が費や されることになる。道路・側溝・公園等の清掃を含めると、廃棄物処理費のほとん どが収集に費やされている(桜井, 2000; OECC, 2004; JICA, 2009; World Bank, 2012)
38。したがって、収集・運搬プロセスに最適なシステムが導入できれば、大きな 改善効果が期待できることになる(JICA, 2009)。
しかし収集・運搬の改善は容易ではない。なぜなら、「その改善策は機材の購 入など、物理的な手当てのみで解決することができるケースは非常に少なく、時 間と手間のかかる制度・社会システムの改善がその前提条件となる」(OECC,
2004, p.22)からである。つまり、収集・運搬の難しさは、個々の家庭やコミュ
ニティとそれをとりまく街路網や交通網など、社会のソフト面とハード面が複 雑に入り組んだ地域社会において実行されることに起因している。収集・運搬が 個々の社会状況に大きく依存しているために、個々の状況に応じた仕組みを工 夫する必要があり、そのため、汎用性の高いモデルを構築しにくいのである39。
このことは、開発途上国に対するドナー諸国の支援にも反映されている。た とえば、処理では破砕・圧縮処理施設、焼却施設、堆肥化施設の導入や有価物の 回収が、処分では衛生埋め立て(sanitary landfill)の導入が一般的におこなわれ ている。しかし収集・運搬では、収集車両の増強や中継基地建設の他は、地域の 実情に合った収集・運搬方法を見出すことそれ自体がプロジェクトの目標にな っていることが多く(JICA, 2009)、具体的で汎用性の高い改善モデルが見当た らないのが現状である。
38 「途上国清掃事業では、労働者の数からいっても、また経費の面からいっても街路清掃 の占める比重がすこぶる大きく、都市によってはたとえばリオデジャネイロ市のように、い ずれも5割を超えている」(桜井, 2000, p.42)。
39 「廃棄物管理は実際のところすぐれて個別的かつ特殊的な背景を持つ問題であり、普遍 的かつ一般的な解決策を単純に求めることはできない」(JICA, 2005a, p.9)。