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プロジェクト停滞への対応

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 73-91)

第 3 章 クリーンダッカ・プロジェクトの事例分析

3.4 実行プロセス

3.4.3 プロジェクト停滞への対応

日本人専門家チームは、ときにJICAのプロジェクト担当者もまじえて、連日

全体改善に つながらな

全体改善に つながらな

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連夜の話し合いを続けた。そして、あるとき、収集・運搬を担当していた専門家 A氏から、区(ward)ごとに清掃事務所をつくり、そこを拠点に清掃員の作業環 境の改善をはかるというアイデアが提起された。2007年 9月、プロジェクトが 開始されて7ヵ月がたっていた。

A氏は、東京都清掃局に23年間勤務し、その間に廃棄物管理の専門家として JICAからインドネシアに 3年間派遣された経験を有する。その後、国際協力の コンサルタントに転身し、パレスチナで廃棄物管理プロジェクトを経験した後、

ダッカ市の本件に開発調査から参加した。WBA発案の背景には東京都清掃局で の経験が多分にあるが、それについてはこの後で追い追い見ていく。

WBAは、最終的には、区清掃事務所の設置、清掃員の作業環境改善、住民参 加を含む収集改善、運搬改善という 4 つのコンポーネントを統合的におこなう システムという形をとることになる。しかし、発案された当初のアイデアは、清 掃事務所を建設し、清掃員に安全具を支給するというもので、現状を打破するも のとして必ずしも説得力のあるものではなかった。だが、他にこれといった打開 策もない状況で、まずはやってみようという機運が高まった。

でもやっぱりこれやってみるしかないよなって、今のままいって も突破口はないので、だったら、じゃあ一回ためしてみて、とも かくシャッフルするっていうか、それでまずやってみて。それが 成功するかどうかって、正直わかんないんですけど、ま、でも、

もうそれは、ダメだったらまた違う方法を考えるしかないなって いう感じで…(JICA M氏, 2013年11月7日於東京)。

このようにして区清掃事務所の建設が始まった。これは、後に WBA と名づ けられることになる、4つのコンポーネントからなる収集運搬改善アプローチの、

第1のコンポーネントである。

(1) 区清掃事務所の建設

プロジェクト開始当時(2007年)、ダッカ市は90の行政区からなり、各区に 1人ずつ清掃監督員(CI:Conservancy Inspector)が配されていた83。彼らは、事

83 ダッカ市は201111月に南北2市に分割された。行政区は分割以前のものから3区増 えて、南北あわせて93になっている(北ダッカ市サイトhttp://www.dncc.gov.bd/; 南ダッカ 市サイトhttp://www.dhakasouthcity.gov.bd/ 201784日アクセス)。各区にCI1名ずつ 配置されている状況は変わっていない(北ダッカ市廃棄物管理局主任技官B, 20172 10日於東京)

試してみる

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務所を持たず,バイクにまたがっ て街中を走り、清掃員の作業を監 督し指示を与えるのが仕事だった

(図3-5参照)。その業務実態を反 映して、プロジェクト報告書のな かでは「清掃監督員」あるいは「清 掃監視員」と呼ばれていた。筆者が フ ィ ー ル ド ワ ー ク を お こ な っ た 2013 年には、後述するように彼ら の業務内容は大きく変化していた が、それでも昔ながらの清掃監督の 仕事は残っており、バイクにまたが って、喧噪うずまくダッカの街路で

大声をはりあげて清掃員に指図している姿を筆者も見かけた。

プロジェクトは、清掃監督員が行政の最先端で住民との接点になっているこ と、彼らのなかに若く優秀な人材が相当数存在することに注目し、彼らに清掃監 督以上の管理業務を担わせることを考えた。そのための「CIの活動拠点として、

そして市の廃棄物管理の最前線基地として」(JICA, 2011, p.6-1)の区清掃事務所 の設置であった(図3-10参照)。

区清掃事務所の設置は、のちに区の廃棄物管理の拠点形成と意味づけられる が、A氏のそもそもの発想は、机ももたずに仕事をしている清掃監督員に事務所 を提供することにより、彼らに清掃事業という仕事に誇りをもってもらうこと にあった。

たとえば CI がどういうときに奮い立つかとか、そういうことは 考えましたよね。どうしたら勇気を持つようになるかとか、誇り を持つとかね。(中略)東京都じゃ、職員を励ますっていうの?

上の人が、技術の話をちゃんとする、清掃の歴史の話をちゃんと する。こういうことの積み重ねで、清掃って結構いい仕事だと思 うようになったんだよね。福利厚生とかより、清掃事業に夢を持 ってもらうようにする。勇気が湧くようにする。それで清掃事務 所ですよ、発想したのが。そういうものでマインドを変えてやり たいっていう(A氏, 2013年2月16日於ダッカ)。

つまり、この段階での区清掃事務所の設置は、清掃事業の拠点形成や清掃事 業の統合といった発想ではなく、清掃監督員や清掃員に職業上のプライドを持 ってもらうこと、彼らのマインドを変えることを期待したものだったのである。

東京のロー カルナレッ

図3-5 清掃監督員(CI)たち

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一方、ダッカ市側は、停滞していたプロジェクトに当初計画にない新たな動 きが出てきたことに興味を抱いた。それが、小さくとも事務所を建設するという ものであれば、反対する理由はない。ダッカ市側も区清掃事務所の建設を歓迎し た84

(2) 清掃員の作業環境改善

清掃事務所と同時にA氏から提案されたのは、清掃員の作業環境の改善であ る。当時、約8,000人の清掃員がダッカ市全域の道路・公園・排水溝の清掃にあ たっていた(図3-11参照)。清掃員は、その職業を理由に社会的な偏見・差別に あっていたが85、それにも関わらず、90%の清掃員が清掃労働を続けたいと考え ていた。その理由として、彼らは、清掃員コロニー(cleaners colony)という住居 を与えられていること、ならびに副業に従事する時間が確保できることをあげ ている(三宅, 2008)。

副業に従事する時間が確保できるというのは、彼らが、朝、自分の割り当て 場所を2~3時間清掃するとすぐに帰ってしまっていたからである。点呼もおこ なわれず、作業の確認もされず、十分な作業をしているとはいえない状態であっ

た(JICA, 2012)。また、清掃員の衛生および安全に対する認識はきわめて低く、

生ごみを素手であつかうなど、不衛生な労働環境で働いていた。また、夜間の作 業中に交通事故にあうことも少なくなかった。

A 氏の提案は、こういった清掃員の作業環境を改善し、彼らが安全かつ衛生 的に安心して作業できることを目指したものである。具体的には、作業マニュア ルの配布、安全具の支給、研修の実施などである(JICA, 2011)。安全具とはマス クや手袋、長靴などで、清掃員各人に配布し、区清掃事務所には清掃員用の救急 箱も設置することが提案された。

実はここでも、A 氏の思いは清掃員に誇りをもってもらうことにあった。清 掃作業の環境改善をおこなうことで市やプロジェクトが清掃員を重視している という姿勢を示し、それによって清掃員たちに、「俺たちが町をきれいにしてる んだって、肩で風きって歩ける」(A氏, 2013年2月1日於ダッカ)ようになっ てもらうことにあった。だが、このような「精神論に予算なんてつかない」(A

氏, 2013年5月23日於東京)ため、清掃員の作業環境改善は、表向きには、そ

84 ダッカ市役所内の一部には、清掃監督員のような低い職位に個室に近い事務所を提供す ることに反対する意見もあった。しかし、JICAがプロジェクト予算で建設することに対し て積極的に反対するには至らなかった。なお、この後、ダッカ市が独自に市の予算で清掃 事務所を建設する動きも見られた。

85 イギリス植民地時代にインドから清掃人カースト集団がベンガルに連れてこられたの が、バングラデシュの清掃人集団の始まりである。そのため、長らくヒンドゥ教集団がダ ッカ市の清掃員枠を独占していたが、農村から流入してきた貧困なイスラム教徒の参入に より、今日では数的にイスラム教徒のほうが上回っている(三宅, 2008)

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れを通して彼らの職業意識を向上させ、ひいては作業効率を向上させることを 意図するもの(JICA, 2011)とされた。

このようにして、区清掃事務所の建設と清掃員の作業環境改善で始まった新 しい動きは、最小行政区である区(ward)を単位として進められたことから、

WBA(Ward-Based Approach)と名づけられた。そして、WBAのなかで、区清掃

事務所の建設はWBA1、清掃員の作業環境改善はWBA2とされた。

(3) 収集改善

続いてWBAに取り入れられたのは、PDMの成果2として当初から計画され ていた収集改善、すなわち住民参加の促進とごみ収集業者のサービス改善であ る。開発調査で発想され、事前調査でPDMの成果2に位置づけられた「区単位 廃棄物管理」は、“ward level community-based solid waste management”という英 語タイトルが示すとおり、住民参加促進のコンポーネントであり、WBAとは異 なるものであった。しかし、収集改善も清掃監督員が中心となって進めていたた め、清掃監督員の仕事をひとつにまとめる意味もあり、収集改善がWBA3 とし て取り込まれた。

バングラデシュには、環境保護法(2010 年)やコンポスト推進法(2006 年)

は存在するが、日本の廃棄物処理法に相当するような、固形廃棄物管理に関する 国家レベルの体系的な法律は存在しない。ダッカ市の廃棄物管理に関する法と しては、ダッカ市条例(The Dhaka City Corporation Ordinance)(1983年)の第78 条があるだけである(JICA, 2003)。この第78条によって、ダッカ市では、家庭 ごみは家人がごみ集積所(ダストビンあるいはコンテナ)(図3-6,3-7参照)ま で持っていくことになっている。すなわち収集(1次収集)が住民の責任であり、

ごみ集積所を設置することと、集積 所から埋立地までトラックなどで ごみを運ぶこと、すなわち運搬(2 次収集)が市の責任となっている。

しかし,条例が周知されていないた め,収集も市の責任と考えている住 民が多く、これが住民がごみを道路 などに投棄することの遠因になっ ていた(佐藤・岡本, 2005)。

ただし、住民がごみを集積所ま で持参するといっても、それは集積

所が適切な位置に設置されている 図3-6 ダストビン

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 73-91)