3. 石炭輸送インフラの実態と開発動向
3.1 New South Wales 州
3.1.1 鉄道
(1)New South Wales州における鉄道事業の構造
NSW州における石炭輸送に関する鉄道事業の構造は、図 3-1に示すとおりである。
Transport Administration Act 1988 (NSW)
法令
NSW Country Rail Infrastructure Authority
監督機関
Pacific National
Above Rail QR National Xstrata
Australian Rail Track Corporation
Below Rail
図 3-1 New South Wales州における鉄道事業の構造
2010 年 7 月 1 日に NSW 州政府の機関として発足した Country Rail Infrastructure Authority (CRIA) が監督機関となっており、根拠法はTransport Administration Act 1988
(NSW) (修正後) である。いわゆる上下分離の構造となっており、かつ鉄道施設の運営会社
と、運行会社の間には資本関係は持たせていない。これらにより、前身の州営企業であっ たRail Infrastructure Corporation (RIC) の機能を代替している。
Hunter Valley の鉄道インフラ (below-rail) は CRIA が保有するが、連邦が保有する Australian Rail Track Corporation (ARTC) に60年間の運営委託契約がなされており、
ARTCが2004年より鉄道インフラの整備・運営を担っている。
Hunter Valley 石炭輸送網では、主に 2 つの運行会社 (above-rail) が存在し、Pacific
Nationalが8割程度の輸送シェアを保っており、残りの大部分はQR Nationalにより運行
されている。
この他、いくつかの石炭会社が独自の列車を運行している。2009年9月にはXstrata Coal がFreightliner Australia (Freightliner Group Limitedの子会社) と契約を結び、2010年 下旬から独自の石炭輸送の運行を行うと発表した。Xstrataが機関車・貨車をUGL Railよ り購入し、メンテナンスは鉄道車両の製造も行う複合エンジニアリング企業であるDowner EDI に委託している。Downer EDI は、Newcastle 付近に鉄道車両工場を有しており、
Xstrataはabove railビジネスへの進出にあたって、メンテナンス工場を新設しなくても構 わなかった。Pacific NationalがQueensland州に進出した際に、メンテナンス工場の新設 が必要だった事例と比較すると、Newcastleにおけるabove railの参入の方が障壁が少な かったと考えられる。Xstrataによると、above railビジネスでの競争環境を整備するよう な意図があり、参入したとのことである。
(2)Pacific Nationalの事業概要
NSW州の石炭供給網において、Pacific Nationalは州全体で輸出される石炭の92%の輸 送を行っており、残り8%の大部分はQR Nationalが輸送を行っている。Pacific National の石炭関連事業は地域により3つに大別される。Hunter Valley内の炭鉱をNewcastle港 へ接続するNorthern Coalでは、 17の石炭会社に対して石炭輸送サービスを提供してい る。NSW州内の南部と西部に位置する炭鉱をKembla港へ接続するSouthern Coalおよび
Western Coalでは、輸出に加え、国内の発電所、製鉄所用にも石炭輸送を行っている。
Pacific Nationalは石炭輸送のため、2,350両の石炭専用貨車と100台の機関車を保有し ている。NSW州では1編成あたりの貨車数は、一般的に北部で53両、南部で45両である。
NSW州内で 36編成を保有しており、1 編成あたりの石炭輸送量は2,800 トンから8,600 トンであり、年間の輸送能力はおよそ9300万トンである。
Pacific NationalはASX(豪州証券取引所)に上場する鉄道輸送会社のAscianoの完全 子会社である。Ascianoのセグメント別売上高、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却 前・その他償却前利益)は表 3-1 に示すとおりである。2010 年における石炭関連事業が
Ascianoの売上げに占める割合は、2010年では23.5%であった。
表 3-1 Ascianoのセグメント別売上高・EBITDA [千AUD]
セグメント 売上高 EBITDA
2010 2009 2010 2009
石炭 672,641 527,531 217,565 147,401
Intermodal (州を越える輸送) 819,000 885,446 212,315 189.339
コンテナ 721,357 743,904 200,623 217,396
一般貨物 682,101 696,461 121,905 126,036
全社経費・消去 (35,950) (43,044) (28,724) (24,974)
Asciano連結 2,859,149 2,810,298 723,684 655,198
(3)Australian Rail Track Corporation (ARTC) の概要
Australian Rail Track Corporation Ltd (ARTC) は、連邦政府 が所有するbelow railの 保有、整備、メンテナンスを担う企業である。ARTC は現在 4 つの州 (SA 州、VIC 州、
WA 州、NSW 州) において、13,000km にわたる州間鉄道の管理を行っている。その他、
ARTCはNSW州のHunter Valley石炭輸送網 (311km) や、同州内におけるその他の地域
鉄道 (651km) の管理を行う。ARTC が管理を行う鉄道の配置は図 3-2 に示すとおりであ
る。
図 3-2 ARTCが運営を行う鉄道の配置
2010年6月期のARTCの売上げはAUD 6億481万であり、継続事業から得られた純利 益(net profit)はAUD 9426万であった。
ARTCは、Hunter Valley地区を中心に鉄道網の拡張投資を続けており、2008年12 月 13日に連邦政府が発表したNational Building Packageの一環して、2009年7月にAUD6 億7800万、2010年5月にAUD 8億8900万の資本注入が行われ、設備投資資金にあてら れている。ARTCは2010年1月18日に豪州の大手銀行からなるコンソーシアムとの間で、
総額AUD 5億5000万のシンジケートローンの調達も発表した。
連邦政府、ARTCへのヒアリングでは、当面ARTCを民営化する意向はなく、連邦政府 は設備投資に必要な資本の提供は行うとの意向を示しており、鉄道会社が民営化された
アクセス権の
売却権利 リースされた路線 所有する路線
QLD州とは状況が異なっている。なお、複数の石炭会社に対し、ARTCの投資が十分か否 かのヒアリングを実施したが、多少の投資のタイミングの遅れは指摘されたものの、基本 的にARTCは必要な投資はしているとの評価がなされていた。
(4)石炭輸送ネットワーク 1)石炭輸送ネットワークの概要
New South Wales州の石炭輸出港はNewcastle港とPort Kembla港の2箇所があり、
それぞれ Hunter Valley コールチェーン、及び Southern and Western コールチェーン
(Kembla港接続鉄道)を形成している(図 3-3)。
これら2つのコールチェーンに含まれる鉄道、港湾の概要は表 3-2に示すとおりである。
Hunter Valleyコールチェーンの石炭は、Hunter Coalfield、Gunnedah Basin、Western Coalfieldの3箇所で生産される。これまでは主にNewcastle港に最も近いHunter Coalfield における石炭生産が多かったが、今後はGunnedah Basinを中心としたより奥地の炭鉱開 発が進む予定である。
Southern and Westernコールチェーンの石炭は、Western Coalfieldで生産されている。
石炭輸出ターミナルは、Newcastle港に2つのターミナル運営会社が3つのターミナル、
PWCS Kooragang、PWCS Carrington、NCIGがある。さらに、PWCSが4つ目のターミ ナルの新設を検討している。Port Kembla港には、Port Kembla石炭輸出ターミナルの1 つのみターミナルがある。当該ターミナルの拡張は検討されているが、Port Kembla 港に おいてはターミナル新設の計画はない。
なお、NSW州の二つの港湾のうち、主にNewcastle港で深刻な滞船問題が発生しており、
一般的にValleyコールチェーン側の課題が大きいと考えられている。背景には港湾の拡張
が遅れていたことと、石炭会社と港湾のキャパシティーの契約形態に問題があったことな どが挙げられるが、これらの問題は解決される目処が立ってきている。
そこで本節では、Hunter Valley鉄道網、Southern and Western鉄道網のそれぞれにつ いて、その概要や課題について詳細を記述する。
Sydney Newcastle
Singleton
Port Kembla Wollongong GUNNEDAH
BASIN
GLOUCESTER BASIN
SYDNEY BASIN
OAKLANDS BASIN
Bomaderry Goulburn
Kandos Dunedoo
Ulan Bylong
Muswellbrook Narrabri
Gunnrdah
Oaklands
NSW NSW NSW
GUNNEDAH HUNTER NEWCASTTLE WERTERN GLOUCESTER SOUTHERN OAKLANDS
Coal Terminal Future Terminal COALFIELD
GUNNEDAH HUNTER NEWCASTTLE WERTERN GLOUCESTER SOUTHERN OAKLANDS
Coal Terminal Future Terminal COALFIELD
Lithgow
Albury
Moss Vale
PWCS T4 Newcastle Coal Infrastructure Group
PWCS Kooragang PWCS Carrington
図 3-3 New South Wales州の石炭輸出港湾と鉄道網の立地
出所)NSW Department of Primary Industries, Mineral Resources Division
表 3-2 New South Wales州における石炭用鉄道網と港湾の拡張予定
地域
石炭用鉄道 石炭用港湾
鉄道網名
拡張計画 [年
MT] 港湾名 石炭輸出
ターミナル 名
拡張計画 [年 MT]
鉄道網
別 港湾 別
ター ミナ ル別
港湾 別
Hunter Coalfield
Muswellbrook-Newcastle 港(輸送能力はHVCCC発表の上記 区間のスループットを採用)
約149 (2010)
約149 (2010) 約170 (2012) 約195 (2013 Q1) 約210 (2013 Q2)
Newcastle 港
PWCSKooragang
88(2009)
113(2009) 143(2010) 198(2012) 228 ~ 293(2016) 241 ~ 306(N/A) 約170
(2012) 約195 (2013 Q1) 約210 (2013
Q2) 120
(2012)
Gunnedah Basin
Gunnedah Basin Line ( 輸 送 能 力 は Murulla – Muswellbrook line の港湾側の 数値を採用)
約20 ( 2010) 約25 (2011) 約30
(2012) PWCS
Carrington 25 (2009) 約40
(2014) PWCS T4
(新設予定) 30~95 (2016) 約45
(2015)
NCIG Coal Export Terminal
約10 (2010) 約230
(2016) 30
(2010)
Western Coalfield
Ulan Line
(輸 送 能 力 は Bengalla – Muswellbrook line の港湾側の 数値を採用)
約45 (2010)
532012
66(N/A) 約60
(2012) 約125 (2014) Western
Coalfield
Main Western Railway
Line 旅客共用のため
石炭用輸送能力 は 明 示 さ れ な い。輸送能力に は余裕あり。
PortKembla港
PortKembla CoalTerminal
18(2008) 18 (2008) 24(N/A)
South Coast Line 24
(N/A) Mossvale – Unanderra
Line
出所)QLD州政府、Ports Corp of QLD、BHP Billiton Mitsubishi Alliance、Gladstone Ports Corp Ltd
2)Hunter Valley鉄道網
Hunter Valley鉄道網は、図 3-4に示すとおりNewcastle港に接続する鉄道で、北は
Gunnedah、西部のUlanまでの計450kmにわたる。大きく分けて、(A) Newcastle港から Maitland、Singletonを経由し、Muswellbrookまでの間、Muswellbrookから2方向に別れ、
(B) Gunnedah Basin Line、及び (C) Ulan Lineで構成されている。
図 3-4 Hunter Valley鉄道網の概要図 出所)Hunter Valley Coal Chain Coordinator (HVCCC)
これまで、Newcastleコールチェーンの最大のボトルネックは鉄道よりも、港湾の拡張が 遅かったことにあった。ただし、2010年にCFA(Capacity Framework Arrangement、詳 細は後述)が導入されたことにより、表 3-3のとおり急激に港湾キャパシティーが倍増され ることがここ1年ほどで決まったこのため、鉄道が数年後に鉄道のキャパシティーが一時的 に不足するのではないかとの懸念が強まっている。
表 3-3 Newcastleの2ターミナルの拡張計画 年 港湾合計
[MT]
運営会社別内訳 [MT]
PWCS NCIG 備考
2011 140 110 30 NCIG の浚渫に時間がかかるた め、実際には124MT程度
2012 約160 127.8 30
2013 195.5 142.5 53
2014 208.5 142.5 66
出所)現地関係者ヒアリング
もっとも、ARTCにおいても上記の港湾拡張に対し、およそ25%の余裕輸送能力を持たせ た上で鉄道を拡張する計画は有しており、連邦政府から追加の資本注入を受けるなど財務 面でも投資の準備を整えている。詳細は後述するが、Singleton近辺が混雑しており、
Minimbah Bankの3線化、MinimbahからNewcastle側のMaitlandまでの3線化などを行う。
その間、MuswellbrookからUlan, Gunnedahに分かれた先の単線部分に離合線を多く設定 するといった対応が主になる。また、Gunnedah以降の単線部分においても、Watermark、
Caroonaなどの一部勾配が急な箇所は複線化も実施する。この結果、鉄道輸送能力と港湾の 輸出能力の関係は図 3-5に示すとおりとなり、十分な鉄道輸送能力が確保される絵を描いて いる。
図 3-5 Hunter Valleyコールチェーンの鉄道と港湾の輸送・輸出能力見通し
出所)Hunter Valley Coal Chain Coordinator
① Muswellbrook-Newcastle Ports (Trunk Line)
図 3-6は、Trunk Lineの主な輸送能力の拡張ポイントを図示したものである。
①Minimbah 3線化
③ Nundah Bank 3線化
② Minimbah–Maitland 3線化
Maitland
Newcastle Muswellbrook
Singleton
Minimbah Bank Nundah Bank
複線
複線
4線
図 3-6 Trunk Lineのボトルネックと主な対策
まず、現在生産を行っている炭鉱の多くはSingleton周辺にあり、炭鉱からの支線との合 流地点が多いことから、混雑している区間である。これら区間は既に複線化は終わってい るが、勾配が急なNundah Bank、Minimbah Bank、Allandale bankの3地点が、運行速 度が落ち、かつ支線との合流があることからボトルネックになると考えられている。
このことから、まず①のMinimbah Bank Third Trackプロジェクト(2010年6月供用 開始)において、急勾配箇所の3線化が行われた。当該プロジェクトは3つ目の路線を敷 設するにあたり、勾配が緩やかになるように新しい経路で敷設を行い、運行速度も向上さ せている54。
今後は、②のMinimbah – Maitland間の複線区間を全面的に3線化することで抜本的な 輸送量を増強することが検討されてており、2012年の供用開始を目指している。ただし、
その間には旅客鉄道の駅(Branxton, Greta, Lochinvar)があり、複線の両サイドをはさむ ようにプラットフォームが設置されているため、単純に 3 線化すると駅を作り直す必要が ある。従って、駅周辺のみは複線で残すなどのアイデアが検討されているとのことであっ たが、2010年11月のヒアリング時点では着工されていなかった。この区間にはAllandale bankと呼ばれる急勾配区間が含まれているため、3線化が遅れると、輸送上のボトルネッ クとなるのではとの指摘が現地石炭会社よりあった。