本節では重力場がない場合を考え,慣性系をとる.
図9 トロコイド 図10 一様で不変な電磁場中の粒子の運動
■慣性系での電磁気学の基礎方程式 Lorenz条件(168)を満たす電磁ポテンシャルAµ を考えると慣性系 では
Lorenz条件(168) :Aµ;µ= 0 → ∂µAµ= 0, Maxwell方程式(175) :Fµν;ν=−4π
c jµ → ∂νFµν =−4π
c jµ, (189)
電流密度の定義式(176) :jµ≡∑
a
eac
√−gδ(r−ra)dxaµ
dx0 → jµ=∑
a
eaδ(r−ra)dxaµ
dt (190)
となるから場の方程式
−4π
c jµ=∂νFµν=∂ν(∂µAν−∂νAµ) =−∂ν∂νAµ, ∴∂ν∂νAµ= 4π
c jµ (191)
を得る.慣性系での成分Aµ= (ϕ,A), jµ= (cρ,j)はそれぞれ
ϕ: スカラーポテンシャル, ρ: 電荷密度, A: ベクトルポテンシャル, j: 電流密度 と呼ばれる*16.
■慣性系での電流密度jµの意味付け 特殊相対性理論の文脈でρ,jの意味は次のように分かる.
ρ(r, t) =∑
a
eaδ(r−ra(t)) (∵jµの式(190)) (192) に対して∫
V ρd3xは領域V 内部の電荷の総和を与えるから,電荷密度ρはその名の通り電荷の密度を表す[4, pp.78–79].またρの式(192)と
j(r, t) =∑
a
eava(t)δ(r−ra(t)), va≡ dra
dt (∵jµの式(190)) (193) は連続の式
∂ρ
∂t +∇·j = 0 (194)
*16Gauss単位系でϕとAの次元は等しい([ϕ] = [A]).また[cρ] = [j]である.
を自動的に満たす(第6.5節参照) [4, pp.81–82] [17, p.195].これは電流密度jをその名の通り電荷の流れの 密度と見なすことを正当化する.ここで電荷の流れの密度とは,面積素ベクトルdSを持つ面要素を単位時間 に通過する電荷をj·dSで与えるベクトルjのことである.言い換えれば系が生成消滅しない点電荷で構成 されていることを電荷密度・電流密度の式(192),(193)は適切に表現しているため,電荷保存則すなわち連続 の式が満たされるものと解釈できる.一方で電荷密度・電流密度の具体的な表式とは無関係に,Maxwell方程 式(189):∂νFµν =−4πc jµの中に連続の式が含まれていることが次のように分かる[4, p.85].
∂ρ
∂t +∇·j =∂µjµ=− 1
4π/c∂µ∂νFµν = 0
最後の等号では添字µ, νについて∂µ∂νは対称,Fµνは反対称なので∂µ∂νFµν = 0となることを用いた*17.
■電磁場で書き表したMaxwell方程式 また電磁場の定義式(166):Ei =γijF0j,(167):Bi =−12ε√ijkγFjkよ り慣性系で電磁場は電磁ポテンシャルから
E=−1 c
∂A
∂t −∇ϕ, (196)
B=∇×A (197)
と導かれる(第6.5節参照) [4, p.54].このとき電磁場に対して
∇×E=−1 c
∂B
∂t , ∇·B= 0 (198)
が恒等的に満たされる(第6.5節参照) [4, p.74].またMaxwell方程式(189):∂νFµν =−4πc jµは
µ= 0 → ∇·E= 4πρ, (199)
µ= 1,2,3 → ∇×B= 4π c j+1
c
∂E
∂t (200)
と書ける(第6.5節参照) [4, p.84].
3.5.1 静電場・静磁場
電荷分布・電流分布が定常的であり,従って場Aµが時間変化しないとき,場の方程式(191):∂ν∂νAµ= 4πc jµ はd’Alembert演算子
∂ν∂ν =ηµν∂µ∂ν = 1 c2
∂2
∂t2 −∆, ∆≡
∑3 i=1
∂2
∂xi2 における時間微分の項が落ちてPoisson方程式
∆Aµ=−4π
c jµ ⇔
∆ϕ=−4πρ
∆A=−4π c j
*17 一般に添字α, βについて対称な量Aαβ=Aβαと反対称な量Bαβ=−Bβαに対してAαβBαβは AαβBαβ=∑
α>β
(AαβBαβ+AβαBβα) (∵α=β ⇒ Bαβ= 0)
=∑
α>β
Aαβ(Bαβ−Bαβ) = 0 (195)
となって消える.
になる.これは特殊解
ϕ(x) =
∫ ρ(x′)d3x′
|x−x′| , A(x) = 1 c
∫ j(x′)d3x′
|x−x′| (201)
を持ち,式(196),式(197)によりここから導かれる電磁場は E(x) =−∇ϕ(x) =
∫ ρ(x′)(x−x′)d3x′
|x−x′|3 =∑
a
ea(x−xa)
|x−xa|3 , (202) B(x) =∇×A(x) = 1
c
∫ j(x′)×(x−x′)d3x′
|x−x′|3 (203)
となる(第6.5.1節参照).このように場が時間変化しないときには,場の方程式は静電場を決定する式
(202)と静磁場を決定する式(203)に分離される [4, pp.100–101,pp.116—117] [17, pp.220–223].式(202) はCoulombの法則と呼ばれ,電荷素片 ρ(x′)d3x′ または点電荷ea が位置xに電場 ρ(x′)(x−x′)d3x′
|x−x′|3 また は ea(x−xa)
|x−xa|3 を作ることを表している.これは基となるMaxwell 方程式(199):∇·E = 4πρが意味する ように,電荷は周りにわき出すような電場を作ることに対応する.式(203)はBiot-Savartの法則と呼ば れ,仮にj(x′)d3x′を電流素片と呼ぶことが許されるならばこれは電流素片j(x′)d3x′ が位置xに磁束密度
1 c
j(x′)×(x−x′)d3x′
|x−x′|3 を作ることを表している.これは基となるMaxwell方程式(200):∇×B= 4πc jが意味す るように(∂E∂t = 0),電流は周りに渦を巻くような磁場を作ることに対応する.
3.5.2 電磁波
電荷が存在しないときの電磁場の時間変化を調べよう.電荷が存在しなければjµ = 0なので場の方程式 (191):∂ν∂νAµ= 4πc jµは波動方程式
∂ν∂νAµ= 0 になる[4, pp.123–124].これは平面波解
Aµ =aµe−ikνxν, kµkµ = 0
を持つ(第6.5.2節参照).ここで複素定数aµは振幅である.これ以降Aµに限らず場の実部が実際の物理量 を与えるものとする*18.xµ= (ct,r), kµ=(ω
c,k)
と書くと Aµ=aµei(k·r−ωt),
(ω c
)2
−k2= 0 であり,これに対する電磁場は
E=E0ei(k·r−ωt), B=B0ei(k·r−ωt)
の形になる.これは同位相面k·r−ωt= constが波数ベクトルkの方向に進行する平面波を表し,波の伝播 速度(位相速度)|ωk|=cは光速に一致する.さらに
式(199) :∇·E= 0 → ik·E0= 0, 式(198) :∇·B= 0 → ik·B0= 0, 式(198) :∇×E=−1
c
∂B
∂t → ik×E0=iω cB0
*18このような扱いは波動方程式の線形性
0 =∂ν∂νAµ=∂ν∂νRe(Aµ) +i∂ν∂νIm(Aµ)
によりAµが波動方程式を満たせばその実部Re(Aµ)も波動方程式を満たすことから正当化される.
図11 電磁場の平面波 図12 磁場の時間変化が作る電 場の渦
図13 電場の時間変化が作る磁 場の渦
が満たされるので(第6.5.2節参照),平面波は図11のようにk,E0,B0がこの順に右手直交系を成す横波で あり振幅にはE0=B0の関係がある[17, pp.283–284].
この結果は次のように解釈できる.すなわち各時刻に各位置で図12のように式(198):∇×E=−1c∂B∂t に 従って磁場の時間変化から電場の渦が作られ,図13のように式(200):∇×B=1c∂E∂t に従って電場の時間変 化から磁場の渦が作られる[18].これは第3.5.1節において静電場と静磁場がそれぞれ独立に電荷分布と電流 分布から生み出されたのとは対照的に,物質が存在しない場合にも電場と磁場はお互いを生み出しながら波と して空間を伝播することを意味する[17, pp.272–273].このような波は電磁波と呼ばれる.光の正体である.
ただし図11では場の振動方向が時間的・空間的に一定であるような直線偏光を描いている.しかしながら 平面波の式
E=E0ei(k·r−ωt), B=B0ei(k·r−ωt)
は一般には楕円偏光を表す[4, pp.129–131].楕円偏光とは波の伝播方向をx軸にとったときに,電場ベクト ルの先端がyz面内で楕円
Ey=b1cos(k·r−ωt+α), Ez=b2sin(k·r−ωt+α) を描く場合を言う.
• このとき磁場ベクトルも同様に楕円を描く.
• 直線偏光はb1= 0またはb2= 0の場合として含まれている.
• b1=b2の場合を円偏光という.
円偏光において電場Eと磁束密度Bは,座標系(時間の原点を含めて)を適当に選ぶと
E=a
cos (kz−ωt) sin (kz−ωt)
0
, B=a
cos(
kz−ωt+π2) sin(
kz−ωt+π2) 0
(204)
という形に表される [4, pp.130–131].よってz軸上の各点に分布する電磁場ベクトルE,Bの先端は図14のよ うに常螺旋を描く.そしてベクトルE,Bはz= constの水平面内で回転する.この様子は床屋のサインポールに 似ている.
床屋のサインポールでは赤と青の螺旋が中心軸の周りに高さ一定の面内で回転しており,その結果として赤と青の 縞模様が上昇していくように見える.(これは弦の質点がその場で振動する結果,波動が弦の方向に沿って伝播す ることと比較される.) x軸正の方向をサインポールの正面とすると,より正確には図14に示した正面の中心線 と,螺旋との交点が上昇する.すなわち正面方向の方位角はϕ= 0であり,常螺旋の式(204)においてベクトルの 指す方向の方位角が
kz−ωt= const(= 0), kz−ωt+π
2 = const(= 0)
図14 円偏光と床屋のサインポール
を満たすような座標(高さ)zが時間とともに増大する.ここで上昇速度は
˙ z=ω
k
であり,これは式(204)の位相が一定となる条件から得られたものだから,位相速度と呼ばれるのはもっともで ある.
特に円偏光に対してはその時間発展(204)がMaxwell方程式に従うことから,上昇速度は
ω k =c でなければならない.すなわち電磁波の位相速度は光速cである.
もちろんk,E0,B0がこの順に右手直交系を成すことや振幅の関係E0 =B0は,その導き方から分かるよう に楕円偏光に対しても正しい.
真空中の任意の電磁波はあらゆる波数ベクトルkに対する平面波E0ei(k·r±ωkt),E0ei(k·r±ωkt)を重ね合せ て得られ(ωk≡c|k|),
E(r, t) =
∫ d3k (2π)3
(E+(k)ei(k·r+ωkt)+E−(k)ei(k·r−ωkt) )
, B(r, t) =
∫ d3k (2π)3
(B+(k)ei(k·r+ωkt)+B−(k)ei(k·r−ωkt) )
(205) と表される(第6.5.2節参照).ただし振幅E0,B0と異なり,Fourier成分E±(k),B±(k)は(電磁場)×(長さ )3の次元を持つ.これは次の事情による.空間を1辺Lの立方体領域V と見なすと周期境界条件の下で場は E(r, t) =∑
k
E(k, t)eik·r,k= 2π
LnとFourier展開される(nは整数を成分とするベクトル).L→ ∞の極 限で展開係数E(k, t)から波数空間の体積要素d3kがくくり出されて
E(r, t) = ∑
k
E(k, t) eik·r
↓ ↓ ↓
E(r, t) =
∫ d3k
(2π)3E(k, t) eik·r
(206)
と積分に移行する(第6.5.2節参照).
3.5.3 任意に運動する電荷の作る電磁場
最後に,任意に運動する電荷の作る時間変化する場Aµに触れておく.定常的な電荷分布・電流分布が電磁 ポテンシャル(201):
ϕ(x) =
∫ ρ(x′)d3x′
|x−x′| , A(x) = 1 c
∫ j(x′)d3x′
|x−x′|
を作ったのに対し,電荷分布・電流分布が時間変化するときの電磁ポテンシャルAµはある意味で第3.5.2節 の波動的な性格を兼ね備えたものとなる.すなわち場の方程式(191):∂ν∂νAµ=4πc jµは
ϕ(x, t) =
∫ ρ(x′, t− |x−x′|/c)d3x′
|x−x′| , A(x, t) = 1 c
∫ j(x′, t− |x−x′|/c)d3x′
|x−x′| (207) を特殊解に持つ(第6.5.3節参照).これは遅延ポテンシャルと呼ばれ,電荷分布・電流分布の時間変化に伴っ て時刻t′ ≡t− |x−x′|/cに位置x′ の電荷素片ρ(x′, t′)d3x′, 電流素片 j(x′, t′)d3x′ から発生した電磁 波が光速cで伝わり,時刻tで位置xに電磁ポテンシャルρ(x|x′,t−′x)d′3|x′,1cj(x|x′,t−′x)d′3|x′ を作ることを示唆してい る[4, pp.178–180] [17, pp.287–288].