当研究グループでは,東北大学理学部物理や京都大学化研との共同で酸化物高温超伝導体のスト ライプ構造の研究を行なっている.SPring-8での実験から,いわゆる1/8問題の解決として提案された 電荷とスピンのストライプ構造に由来すると思われる非常に弱い超格子反射を発見した.その強度は 主ブラッグ反射の10-8という,通常では考えられないし,また通常では測定不可能なものであった.
また,当研究グループでは,岡山大学,東北大学理学部物理およびその他のグループとの共同で 有機伝導体の相転移の研究を行なっている.SPring‑8での実験から,θ‑(BEDT‑TTF)2RbZn(SCN)4および その類似物質の低温および高圧相の相転移の特徴を明らかにすることができた.
その他,原研放射光との共同研究によるBaVS3のMetal‑Insulator相転移が超格子の発生する構造相 転移であることも当研究室の低温X線装置の使用で初めて判明した.
【研究活動報告】 生体機能解析研究分野
(2001.1〜2001.12)教 授 ( 兼 ):服部武志 助 教 授:大坂俊明
助 手:柴田行男,伊師君弘 大 学 院 生:佐々木理志,田中和也
本研究分野は,研究所の統合・改組により4月1日付で科学計測研究所固体イオン計測研究部門赤 外分光計測研究分野から現研究分野に変更された.本分野では教職員の移動はなく,大学院博士課程 後期2年の佐々木理志は3月末に就職,同前期2年の田中和也は単位取得退学した.
本研究分野の2001年の主な研究活動は,遠赤外・ミリ波領域におけるコヒ−レントな放射に関する 研究とイオン伝導体の低エネルギー物性に関する研究の二つに大別される.
1.自由電子レーザー(FEL)の研究
短バンチ電子ビームによるPrebunched FELの動作特性を明らかにするため,理学研究科附属原子核 理学研究施設(核理研)の150MeV電子ビームを用い,開放型光共振器を電子軌道に沿って配置 し,コヒーレントな遷移放射のみを光共振器中にため込み,同調曲線や出力スペクトルを測定した.
遷移放射は軸対称な放射場を有するため,放射場と電子ビームとの相互作用は無視しうるほど小さい と考えられ,共振器中での放射場のコヒーレントな加算の効果を調べるのに適している.実験の結果,
共振器出力スペクトルをそれに対応する自発遷移放射強度と比較することにより,放射電場のコヒー レントな加算による光増幅を確認し,遷移放射の場合にもPrebunched FELが可能であることを実証し た.
さらに,大口径の平行平面型光共振器を用いれば広帯域な光増幅が可能であることに着目し,コヒ ーレントな遷移放射を用いたPrebunched FELについて,内径114mmの円筒対称な閉鎖型平行平面 光共振器を用意し,核理研および京大原子炉で実験を行った.その結果,開放型共振器に比較し共振 器性能が改良され,長波長側で顕著な光増幅を確認した.また,共振器出力のパルス幅依存性につい ても測定を行った.現在,共振モードやスペクトル幅,増幅度等について解析中である.
2.フォトニック結晶からのコヒーレントな放射の研究
誘電体を周期的に並べたフォトニック結晶の表面すれすれに高エネルギー電子ビームを通過させる と,クーロン場と結晶の相互作用により電磁波が放射される.その放射は,金属回折格子すれすれに 電子ビームを走行させる際に発せられるスミス・パーセル放射に類似している.しかし,金属格子の 場合にはサブミリ・ミリ波領域では金属を完全導体で近似できるため境界条件が簡単となり,クーロ ン場と金属格子の相互作用は比較的に単純である.また電磁波が金属内部に伝搬することも無い.そ れに対し,フォトニック結晶の場合には,クーロン場と結晶の相互作用が複雑となる.また,結晶表 面の境界条件により発生した電磁波は,結晶外部に反射されるのみならず,結晶内部にも屈折・伝搬 し入射面とは異なる表面から外部に伝搬して行くことも出来,スミス・パーセル放射に比較しその発 生機構がより複雑である.さらに結晶の周期性や誘電率を変えることにより発生する放射の波長や強 度を制御出来る可能性があり,応用上も興味ある放射である.
そこで,核理研の150MeV電子ビームを用い,ミリ波域での実験を開始した.実験には窒化珪 素の直径3mmの球を規則的に配列したフォトニック結晶を用いた.予備実験により放射の測定と大 凡の分散関係を確認した後,専用のサンプルチェンバーを作製し,12月に実験を行い放射の分散特 性や放射強度,ピーク幅等について実験を行った.実験結果は現在解析中である.
3.コヒーレントなミリ波円偏光の発生
電子蓄積リングでは,可視域およびそれより短波長域では,ヘリカルウィグラーを用いて円偏光を 発生させている.ヘリカルウィグラーによる円偏光発生のためには,電子エネルギーと波長・磁場周
期間に一定の位相条件が満たされる必要がある.しかし,赤外・遠赤外では,波長が長いため既存ヘ リカルウラーではその条件が満足されず,従って円偏光も発生できない.そこで,高エネルギー電子 の場合には磁場を使わなくても,電子ビームが金属箔を通過する際発せられる遷移放射や,金属境界 近くを通過する際に発せられる回折放射を組み合わせ,相互の偏光面と位相差を制御する事により円 偏光が発生出来ることを,京大原子炉のLバンドライナックを用いて実験的に示した.また,位相差 は,電子エネルギー,波長および遷移放射や回折放射の放射体間の幾何学配置で決定されることから,
幾何学配置を制御することにより偏光度の制御が可能となることを示した.
また,この研究の一環として,サブミリ・ミリ波域で使用可能な大口径ソレイユ補償板を作製し,
偏光解析に利用した.
4.イオン伝導体の低エネルギー物性の研究
イオン伝導体に関し2つの観点から遠赤外分光による研究を行った.1つは固体内を動くイオンを 駆動する振動モ−ドはどのようなものか,ということと,もう1つは伝導体を多くの欠陥を有する乱 れた系の固溶体とみたときに,ガラス的な物理的特性を示すかどうかを明らかにすることである.イ オン伝導体には構造的,化学的disorderと共に本質的に欠陥(空孔)があり,イオンはこの空孔を介し て固体内を移動する.それ故,空孔近傍の可動イオンのダイナミックスが伝導機構の解明にとって特 に重要な問題となる.本研究ではイオン伝導体であるセリア(CeO2)‑カルシア(CaO)固溶体の遠赤外吸 収とその温度変化を測定し,特に空孔近傍の可動イオンの関与した 空孔振動モ−ド の観測を試み た.また,乱れた系の固溶体は熱伝導や超音波的にガラス的性質を示すことが報告されているが,こ こでは上記固溶体が遠赤外的にガラス的振舞いを示すかどうも確認することにした.セリアは螢石型 構造で,単純でかつ固溶体においても同じ構造を維持するので,固溶体のダイナミックスの基本的性 質を明らかにする上で大きな利点を有している.
純粋なセリアおよびセリア‑カルシア固溶体の吸収を100 cm-1以下の遠赤外で精密に測定し,吸収係 数を求め,比較検討した.純粋なセリアでは低温で全体的に吸収が減少するものの,吸収構造は見ら れない.これにカルシアを添加すると振動数のほぼ4乗に比例する連続的な吸収と,低温で~63 cm-1と~
76 cm-1にピ−クを示す吸収が観測された.振動数の4乗に比例する連続吸収は音響モ−ドの全状態密度 を反映していることが分かった.一方,ピ−クを示す2つの吸収はモデル的考察から酸素空孔に局在し たその近傍の酸素イオン(可動イオン)の振幅の大きい 空孔モ−ド に因るものと考えられ,これ はいわゆるattempt frequencyを与えるイオン駆動モ−ドである可能性が示された.
ところで,固溶体が遠赤外的にガラス的性質を示すかどうかであるが,ガラスの遠赤外吸収の特徴 は前年までに明らかにしたように,1)振動数のほぼ2乗に比例する,2)ほとんど温度変化を示さない,
ことである.これに対し,固溶体の吸収は,1)振動数の4乗に比例し,2)大きな温度変化を示し,遠 赤外的にはガラス的ではないことが明らかとなった.この結果は超音波や熱伝導の既報告と全く異な っており,さらに研究する必要がある.
以上述べたように,イオン伝導体のイオン駆動モ−ドの観測,ガラス的振舞いの研究は緒についた ばかりであり,今後も続けて行く予定である.