5. JCM 方法論作成に関する調査
5.1 適格性要件
適格性要件を考える際に重要な論点は、
① 通常導入される技術より高い環境性能をもっていること、
② MRV を実施できるサイト、技術であること、また方法論で必要とされるデータが得られること
③ 日本技術が優先的に選ばれるものであること(スペックイン)
の 3 つだと考えられる。
① 通常導入される技術より高い環境性能を持っていること
適格性要件として「1.JCMプロジェクトとして登録されるためのプロジェクトの要件<提案プロジェクトの 妥当性確認および登録の評価の基礎≫」がある。※
※日本政府「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism (JCM))の最新動向」(p25)
このためJCMにおいても、CDMにおけるプロジェクトの追加性の担保と同等の要件を求められているも のと解釈することができる。
日本は、COPの補助機関会合である、SBSTAにおいて、JCMについての要件定義を提出しており、
その中で、JCMの適格性要件に、追加的な排出削減に寄与する技術であることを証明する要件を入れる ことをうたっている為、CDM と同様に、概念としての追加性を加味してプロジェクト設計をしなければならな い。
出所)SBSTA 38 Session、Item 12(a) of the provisional agenda
CDMにおける追加性証明の為には、代替シナリオを特定する必要がある。つまり、「何もしなければ、導 入予定技術よりも安易に選択されうる、炭素高負荷なシナリオの特定」を行うことが求められる。
JCMではそれらのシナリオを定量的、あるいは定性的に要件として描写して、チェックリスト化したものが、
適格性要件であると考えられる。
CDMにおける追加証明の際には、以下4つのポイントが存在した。
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表 28 CDMにおける追加性証明要件と代替シナリオ
(1)投資障壁 実施プロジェクトと比較して、財政的に現実性が高い代替シナリオにより、そ の排出量の増大を招くであろうこと
(2)技術障壁 先進性の低い技術による代替シナリオにより、実施プロジェクトで採用する 新技術のリスク(適用結果の不確実性や市場普及率の低さに起因する)を 低減するものの、その排出量の増大を招くであろうこと。
(3)一般的慣行障壁 一般的な慣行、又は、既存の規制的・政策的要件により、排出量が大きい 技術の実施を招くであろうこと
(4)その他の障壁 プロジェクト参加者が特定するその他の障壁(制度的な障壁、情報不足、管 理資源不足、組織の能力不足、資金不足、または新技術習得能力の欠如な ど)によって、プロジェクトがなかった場合には排出量が増大するであろうこ と
出所)地球環境センターHP(http://gec.jp/main.nsf/jp/Activities-CDM_and_JI-CDMglossary)
これらのCDMにおける追加性証明の要件と代替シナリオの表現方法は、そのままでは利用できず、一 度JCMにおける適格性要件の一般概念に置き換える必要がある。とくに投資障壁を用いた証明方法は、
JCMでは適さない。次ページでその解釈を詳述する。
また追加性証明の表現方式として、ベンチマーク方式と、主にスモールCDM等で活用されるポジティブ リスト方式が存在する。
表 29 追加性証明の方式
ベンチマーク方式 設計効率がxx (例えば、生産量/kWh) 以上のxx (製品/技術)の導入 等、平均的な同じアウトプットをもたらす他の(通常よく用いられる)技術と比 べて優れていることを証明する方式
ポジティブリスト方式 インバータ付きエアコンや電気自動車、蓄電池付き太陽光発電システム等 の追加的であることが自明な、特定の高効率製品/技術の導入を条件とす る方式(プロジェクト実施者による追加性証明が不要な方式)
出所)二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism (JCM))の最新動向P25を元にNRI作成
ポジティブリスト方式は、その技術・機器が当該国には存在していない、もしくは、明らかに先進的である ことが自明なもの以外は設定が困難である。本件の対象である OCC ラインは、各要素機器の機能や概念 そのものは途上国においても一般的であり、少しずつ技術的工夫を積み上げていくことによるライン全体と しての省エネであるので、追加的であることはよく検証しないとわからず、ポジティブリスト方式を導入するこ とは困難であると思われる。
よってベンチマーク方式に絞って、4 つのポイントごとに、本件でありうる適格性要件の候補を次ページ にて記載する。
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表 30 CDMにおける追加証明要件のJCM適格性要件への置き換え
※なお技術障壁におけるJCM適格性要件の概念への置き換えは意図的に飛躍を入れている。技術障壁における追加性とは、本来、導入が技術的に困難であ ることを示すだけの項目であり、高度な技術を採用しているかどうかは直接的には関係ない。(高度な技術を採用していても、導入が容易で追加性がない場合も ありえるので、原理的には高度な技術の採用を要件とすることはできない。しかし、二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism (JCM))の最新動向の P25では、意図的にその飛躍が行われているか、その分解能がないものと思われ、ここでは日本政府の見解に従い、上記のように記載している。)
CDMにおける
追加性証明の要件 CDMにおける代替シナリオ JCMにおける適格性要件の一般概念への置き換え 要件としての具体例
(1)投資障壁
実施プロジェクトと比較して、財政的に現実性が高い代替シ ナリオにより、その排出量の増大を招くであろうこと
・導入予定の技術は、市場での他の代替機器・技術の平均 価格より高価であり、一般的な競争プロセスの中では導入す ることが困難であること
・○○$/生産t以上の技術であること
・プロジェクトIRRが○○%以下であること
(2)技術障壁
先進性の低い技術による代替シナリオにより、実施プロジェ クトで採用する新技術のリスク(適用結果の不確実性や市 場普及率の低さに起因する)を低減するものの、その排出量 の増大を招くであろうこと。
・導入予定の技術は、市場での一般的な他の代替機器・技 術よりも導入するのが技術的に困難である、高度な技術を 採用していること
・市場占有率が5%以下の技術であること
・設置に○○日以上かかること
・導入技術が○○kwh/生産t以下の電力 使用量であること
(3)一般的慣行障壁
一般的な慣行、又は、既存の規制的・政策的要件により、排 出量が大きい技術の実施を招くであろうこと
・規制的、政策的要件によって、導入予定の技術の競争優 位性がなくなっていること(エネルギー価格が安い、環境汚 染物質規制が緩い)
・省エネ・省資源よりも優先度の高い(=生産拡大など)があ り、導入予定の技術の競争優位性がなくなっていること
・使用燃料が○○$/t以下であること
・排水を○○トン/生産t以下に抑えること
(4)その他の障壁
プロジェクト参加者が特定するその他の障壁(制度的な障 壁、情報不足、管理資源不足、組織の能力不足、資金不 足、または新技術習得能力の欠如など)によって、プロジェク トがなかった場合には排出量が増大するであろうこと
・情報不足により、外部からの働き掛けがなければ導入予定 の技術が入りえなかったこと
・導入予定技術を使いこなす為の人員体制が整っていない こと(フォローアップ体制がない等)
・当該国で、導入前例がないこと
・一年に○回以上、導入技術の専門家が 立ち入りが導入ラインのチェック、改善を実 施できること
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本件でありうる適格性要件の候補の中から、今回は前頁赤色の要件、3つを取り上げることとした。
その理由は、以下の2点の考え方に基づく。
1. 投資障壁の追加性要件を設定すると、企業活動によるコスト削減がなされない場合があるので、その 可能性は排除すべき
2. 他の外国企業を排除し、日本企業の技術が選択されるようにすべき
1.については、導入価格が高止まりすることはホスト国側にとって望ましいことではないので設定すべきで ある。
一方、2 について、すなわち、冒頭で述べた③日本技術が優先的に選ばれるものである要件かどうかは、
重要であると考える。手間のかかる方法論を、コストをかけて開発する事業者は、そのコストに見合った対 価を得るべきであり、適格性要件の中で日本技術(もしくは自社技術)が必然的に選択されうる要件設定を すべきである。
以上2点の理由から、本件OCCラインにおいて、設定すべき適格性要件をピックアップしたところ以下の3 つの要件となった。
導入技術のエネルギー効率が○○kWh/生産t以下
OCCラインを製造している有力企業は、相川鉄工を含め主に4社である。ドイツのVoith社、オーストリア
のAndritz社、アメリカのKadant社が存在する。
他にも台湾メーカーや、中国メーカー等も存在するが、エネルギー効率が良いのは、先進国に所在するこ の4社である。
明確に、日本企業だけが残るように適格性要件を設定すると、OECD のアンタイド条項に抵触する可能性 があるため、廉価で、明らかに低効率なメーカーが入りうる余地を消すという足きりの意味で本要件を設定
すると 140kWh 程度以下と設定するのが妥当である。(現地 Fajar社含む、現地製紙メーカーへのヒアリ
ングに基づく)
なお留意すべきは、この要件はあくまで、バリデーション審査を可能にするための、スペック値に対する要 件であるということである。(実際は稼働率や歩留まりが影響し、どれだけ最新の機器であってもエネルギー
効率は140kWh/tを大きく上回ってしまう。)
排水を○○トン/生産t以下に抑えること
相川鉄工のOCCラインの排水量は9トン/生産tであり、他社に比べると少ないといえる。他社の平均値は およそ 11 トン程度であり、10 トン程度を上限値にすれば、中国、台湾等の廉価メーカーを排除することが 可能である。(トン数は現地Fajar社含む、現地製紙メーカーへのヒアリングに基づく)
一年に○回以上、導入技術の専門家が立ち入り、導入ラインのチェック、改善指示ができること 相川鉄工は、インドネシアにおいて現地の商社(サンコスモ社)と契約しており、そのサンコスモ社が代理店 機能を担っている。サンコスモ社は月に一度Fajar社を訪れて、機器の状況についてヒアリングを実施して おり、また、相川鉄工の技術者も3カ月に一度は現地工場を訪れ、機器のチェックを行っている。
このような現地に密着した丁寧な、アフターフォローを実施できる競合他社は非常に少なく、この要件を設 定することで、他のメーカーを排除することが可能である。