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遠方における近似的なポテンシャル(3.4.1 Approximate Potential at Large Distance) 29

1.4 多重極展開(3.4 Multipole Expansion)

1.4.1 遠方における近似的なポテンシャル(3.4.1 Approximate Potential at Large Distance) 29

局所的な電荷分布から十分離れた場所からは電荷は点電荷と見なすことができてポテンシャルは近似的に

V ≈Q/4π#0rで与えられるであろう.(ここでQは電荷の総和である.)しかし,もしも電荷の総和が0であっ

たら遠方での近似的なポテンシャルはどうなるだろうか?

例題(Example 3.10):図1.17のように二つの点電荷±qが距離d離れて置かれている.このような電荷 配置を(物理的な)電気双極子(electric dipole)と呼ぶ.双極子から遠く離れた場所における近似的なポテ ンシャルを求めよ.

#$"!

!

#$"!

+q

r r+

r

−q d/2

d/2 θ

図1.17: 物理的な電気双極子

解答:点電荷+qからの距離をr+,点電荷−qからの距離をrとすると,ポテンシャルは V(r) = 1

4π#0

& q r+ − q

r '

(1.189) である.ここで余弦定理より

r±=r2+ (d/2)2∓rdcosθ=r2

&

1∓d

rcosθ+ d2 4r2

'

(1.190) である.遠方の領域r+dでは(d/r)2を無視して,

1 r± . 1

r

&

1∓d rcosθ

'−1/2

. 1 r

&

1± d 2rcosθ

'

(1.191) となる.よって

1 r+ − 1

r . d

r2cosθ (1.192)

となり,これよりポテンシャルは

V(r). 1 4π#0

qd

r2cosθ (1.193)

となる.

図1.18: 多重極子

このように,双極子のポテンシャルは遠方で1/r2に比例する.これは点電荷のポテンシャル∝1/rよりも 早く減少する.(点電荷を単極子(monopole))と呼ぶこともある.)ちなみに,大きさが等しく逆向きの二つ の双極子を合わせると四重極子(quadrupole)となり,ポテンシャルは∼1/r3となる.四重極子を二つ合わ せると八重極子(octopole)となり,ポテンシャルは∼1/r4となる.単極子,双極子,…などを総称して多 重極子と呼ぶ.図1.18では単極子から八重極子までの多重極子をまとめて示している.

θ q

r!

|r−r!zˆ|

P z

r θ

q

r! P z

r r−r!

(a) (b)

図1.19: z軸上に置かれた点電荷qが遠方に作るポテンシャル.

次に任意の電荷分布の場合に遠方での近似的なポテンシャルを求める系統的な方法を考えよう4.まず最初

に,図1.19(a)のように,z軸上で原点からの距離r!の場所に置かれた点電荷qが原点からの距離rの点P

(ただし,r > r!とする.)に作るポテンシャルが,rとθを使って V(r,θ) = q

4π#0

1 n=0

r!n

rn+1Pn(cosθ) (1.194)

と書けることを示そう.ポテンシャルがz軸周りの角度(方位角)φによらないことは明らかである.前節 の結果より,電荷が存在しない領域におけるポテンシャル(つまりLaplace方程式の解)が球座標表示でφ

4Griffithsのテキストには多重極展開の導出の詳細は与えられておらず,結果のみが与えられている.

によらない場合の一般的な関数形は(1.110)式で与えられる.点電荷が作るポテンシャルは無限遠方で0で なければならないことから,今の場合An = 0であり,したがって

V(r,θ) = 1 n=0

Bn

rn+1Pn(cosθ) (1.195)

である.ここで係数Bnを決めるために,点Pがz軸上にある場合,つまりθ= 0を考える.Legendre多項 式はPn(1) = 1であるから,

V(r,0) = 1 n=0

Bn

rn+1 (1.196)

となる.ところで,この場合のポテンシャルは

V(r,0) = q 4π#0

1

r−r! (1.197)

である.ここで

1 r−r! =1

r

&

1−r! r

'1

=1 r

1 n=0

&r! r

'n

(1.198) であることを使うと

V(r,0) = q 4π#0r

1 n=0

&

r! r

'n

(1.199) となる.(1.199)式を(1.196)式と比べると

Bn = qr!n

4π#0 (1.200)

を得る.(1.200)式を(1.196)式に代入すると,一般の角度θについてのポテンシャルの表式(1.194)を得る.

r q

P

r! θ

rr!

図 1.20: 任意の場所に置かれた点電荷qが遠方に作るポテンシャル.

点電荷がz軸上に限らず任意の場所にある場合について(1.194)式を拡張するのは容易である.図1.20の ように,点Pの位置ベクトルrと点電荷qの位置ベクトルr!のなす角をθrr! とすると,点Pにおけるポテ ンシャルは

V(r) = q 4π#0

1 n=0

r!n

rn+1Pn(cosθrr!) (1.201)

となる.この表式を

V(r) = q 4π#0

1

|r−r!| (1.202)

と比較すると,(|r−r!|)−1はr > r!のとき以下のように展開できることがわかる5. 1

|r−r!| = 1 n=0

r!n

rn+1Pn(cosθrr!) (1.203)

5(1.203)式はLegendre多項式の具体的表式を求めるために用いることもできる.|rr!|1= (r2+r!22rr!cosθrr!)1/2 r!/rで直接展開して展開係数を(1.203)式と比較すればP(cosθrr!)が得られる.このことから,|rr!|1Legendre多項式の母 関数とも呼ばれる.

P

r

r! θrr!

!

r−r!

図 1.21: 局所的な電荷分布ρ(r)が遠方に作るポテンシャル.

電荷が分布関数ρ(r)にしたがって局所的に分布している場合を考えよう.(図1.21)位置rにおけるポテン シャルは

V(r) = 1 4π#0

! 1

|r−r!|ρ(r!)dτ! (1.204)

で与えられる.ここで展開式(1.203)を使うと,

V(r) = 1 4π#0

1 n=0

1 rn+1

!

r!nPn(cosθrr!)ρ(r!)dτ! (1.205) となる.展開の最初の数項を具体的に書き下すと

V(r) = 1 4π#0

(1 r

!

ρ(r!)dτ!+ 1 r2

!

r!cosθrr!ρ(r!)dτ!

+1 r3

! r!2

&3

2cos2θrr!−1 2

'

ρ(r!)dτ!+· · · )

(1.206) となる.(1.205)式のように,ポテンシャルを1/rのベキで展開することを多重極展開(multipole expansion)

と呼ぶ.第一項(n= 0)は単極子(monopole)項(∼1/r),第二項(n= 1)は双極子(dipole)項(∼1/r2),

第三項(n= 2)は四重極子(quadrupole)項(∼1/r3),第四項(n= 3)は八重極子(octopole)項(∼1/r4),

と呼ばれる.多重極展開の0でない最低次の項はは遠方での近似的なポテンシャルの表式を与える.

1.4.2 単極子項と双極子項( 3.4.2 The Monopole and Dipole Terms )

電荷の総和がゼロでなければ,多重極展開(1.205)の主要項は第一項の単極子項である.

Vmon(r) = 1 4π#0

Q

r (1.207)

ここでQ==

ρdτは配置された電荷の総和である.(1.207)式は物理的には,局所的な電荷分布が遠方から は点電荷と見なせることを意味する.

もしも電荷の総和が0であれば単極子項は0になり,主要な項は第二項目の双極子項となる.(もちろん,

双極子項が0にならない場合に限る.)

Vdip(r) = 1 4π#0

1 r2

!

r!cosθrr!ρ(r!)dτ! (1.208)

ここでr!cosθrr! = ˆr·r! であることを用いると,双極子項は Vdip(r) = 1

4π#0

1 r2ˆr·

!

r!ρ(r!)dτ! (1.209)

と書ける.ここで双極子モーメントを

p≡

!

r!ρ(r!)dτ! (1.210)

によって定義すると,(1.209)式は

Vdip(r) = 1 4π#0

p·ˆr r2 = 1

4π#0

p·r

r3 (1.211)

と書ける.

図1.22: 物理的電気双極子の双極子モーメント

N 個の点電荷からなる系の場合,電荷密度はρ(r) =AN

i=1qiδ(r−ri) (r!iはi番目の電荷の位置ベクト ル)であるから,双極子モーメント(1.210)は

p= 1N i=1

qir!i (1.212)

となる.図1.22のような±qの点電荷からなる物理的双極子の場合,双極子モーメントは

p=qr!+−qr!=q(r!+−r!) =qd (1.213) となる.ここでd=r!+−r!は負電荷から正電荷へ向かうベクトルである.これを(1.211)に用いると,物 理的双極子のよるポテンシャルの双極子項は

Vdip(r) = 1 4π#0

qd·ˆr r2 = 1

4π#0

qdcosθ

r2 (1.214)

となる.ここでθはdとrのなす角である.これは先に求めた近似的なポテンシャルの表式(1.193)と一致し ている.(1.193)はあくまで物理的双極子のポテンシャルに対する遠方での近似式であり,実際のポテンシャ ルは多重極展開の高次の項(四重極項,八重極項,…)を含む.一方,(1.211)式のポテンシャルを「純粋な」

双極子(“pure” dipole)のポテンシャルと呼ぶ.「純粋な」双極子は,物理的な双極子においてp=qdを一 定に保ちながらdを無限小にすることによって得ることができる.