3. 先行研究の検討
3.5. 進捗管理手法
3.5.1. EVM
EVM (Earned Value Management) 手法は、プロジェクトマネジメントにおいて進捗状況の
把握、管理を行う手法の一つである。作業の状況を金額などの価値に換算したEV(Earned Value:出来高)という概念で把握する。進捗状況(出来高、スケジュール)とコストを一 体として統一的な尺度で把握することができ、計画と実績の差異や変動状況、傾向の分析、
コストの予測等に利用することができる。以下に詳細を示す。
3.5.2 EVM による進捗やコストの把握
プロジェクトを計画通りに推進するためには、モニタリングとコントロールが重要であ る。EVMは、プロジェクトを出来高(EV: Earned Value)とコストの両面で統一的に管理す ることにより、プロジェクトの進捗やコストの状況を把握する手法である。
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図 3-7に、PMBOKの知識エリアや手法との関係を示す。図のように、コミュニケーショ ンマネジメントの知識領域のほか、タイムマネジメント、コストマネジメント、調達マネ ジメントとの関係がある。また、IPA(2004)によると、EVMは、スコープ(範囲)、スケ ジュール、コストなどプロジェクトの計画をベースラインとして設定し、そのベースライ ンを基準として状況をモニタリング及び分析するという視点から、プロジェクトマネジメ ントの基本原則を取り扱う統合的な性格を持ち合わせている。
EVMは、1967年に1967年に米国防総省の調達規則の一部として制定されたC/SCSC
(Cost/Schedule Control System Criteria) が元となっている。その後、1993年に、「クリントン・
アドミニストレーション」として国家赤字の見直しが行われ、その際に国防省においても プロジェクトのパフォーマンス測定や報告手法が見直され、調達規格が「国防省調達規則 5000.2-R」として改訂された。これがEVMの始まりである。1998年6月には米国ANSI/EIA
#748-98「アーンドバリュー・マネジメントシステムに対する産業界のガイドライン」が公 開され、政府調達のプロジェクトの前提条件となっている。英国ではAPMガイドライン、
オーストラリアでは、オーストラリア規格AS4817-2003がEVMの規格として相次いで発行 されている。日本においても、2003年に経済産業省情報処理振興事業協会により「EVM活 用型プロジェクトマネジメント導入ガイドライン」が公開されるなど、EVMの導入が推奨 された。これを受け、EVMを導入している企業が増加した。図 3-8に、EVMの概念図を示 す。
図 3-7 プロジェクトマネジメントにおけるEVMの位置付け
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EVMでは、図 3-8に示すPV(Planded Value:計画値)、AC(Actual Cost:実績コスト)、
EV(Earned Value:出来高)の値を基礎として、現在のプロジェクトの状況分析と将来の予 測を行う。各作業に対応した価値を金額等で表したものである。EVは、その作業を実施し たことによって得られた価値であり、作業完了時には設定されていたPV 値と同じになる。
例えば、PVが10の作業を20のコストをかけて完了しても、EVは10となる。ACとは、
その作業を行うにあたり、実際に必要となったコストの実績値である。
EVM を適用するためには、まず、計画段階においてプロジェクトの作業を管理可能な単 位に細分化するめ、通常、WBS (Work Breakdown Structure) を作成する。次に、各作業に対 応した価値としてのPV、作業別のスケジュール及びコスト計画を決定する。計画時のPVの スケジュールとコスト計画は同一になる。コスト計画を作成するためにはプロジェクトメ ンバーを確定する必要があるため、プロジェクトの実施体制を計画する。プロジェクトの モニタリング時は、作業の状態に対応したEVとACを計上する。
表 3-7に、これらのEVMで使われる主要な値や指標の一覧を示す。EVMでは、このよう にPV、EV、ACの三つの基本尺度を用いて、スケジュールとコストの進捗を計画、把握す る。
現時点の状況を分析する指標として、SV(Schedele Value:スケジュール差異)、CV(Cost Variance:コスト差異)、SPI(スケジュール効率指数)、CPI(コスト効率指数)がある。
将来の予測に関する値として、EAC(完了時コスト予測)、ETC(残作業コスト予測)、
VAC(完了時コスト差異)等がある。
図 3-8 EVM (Earned Value Management) 手法の概念図
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表 3-7 EVMの主要な用語
略語 正式名称(日本語) 意味
1 WBS Work Breakdown Structure プロジェクトの作業を、スケジュールと進捗が
把握可能な単位まで詳細化し、階層構造で表し たもの。
2 EVM Earned Value Management プロジェクトの進捗やパフォーマンス、予測な
どを、出来高の価値(通常は金額換算)によっ て把握・管理する方法。
3 BAC Budget At Completion
(完了までの予算)
完了までの予算もしくは予定コスト。
4 PV Planned Value
(出来高計画値)
現時点までに完了した作業に対して、割り当て られていた出来高(価値)のこと。
5 EV Earned Value
(出来高実績値)
現時点までに完了した作業に対して、元々割り 当てられていた出来高(コスト)のこと。
6 AC Actual Cost
(コスト実績値)
作業を行うために実際に要したコスト。
7 SV Schedule Variance
(スケジュール差異)
SV = EV - PV
ある時点における計画値と出来高の差異であ り作業をスケジュール面から見た差異を示す。
8 CV Cost Variance
(コスト差異)
CV = EV - AC
ある時点における出来高と実績コストの差異 を表す。
9 SPI Schedule Performance Index
(スケジュール効率指数)
SPI = EV / PV
各作業のスケジュール面から見た効率を示す。
10 CPI Cost Performance Index
(コスト効率指数)
CPI = EV / AC
各作業のコスト面から見た効率を示す。
11 EAC Estimate At Completion
(完成時総コスト)
現時点で見積った完成までの総コスト。
計算方法には、下記の複数の方法がある。
EAC = AC + (BAC-AC) / CPI
EAC = AC + (BAC-AC) / CPI × SPI
(出典:情報処理振興事業協会「EVM活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライ ン」を元に加筆、修正)
主な指標について、以下に説明する。
46 (1) SV (Schedule Variance)
SVは、ある時点における計画値と出来高の差異であり、作業をスケジュール面から見た 差異を示す。値がマイナスの時は、計画よりもスケジュールが遅れていることを意味す る。
(2) CV (Cost Variance)
CV は、ある時点における出来高と実績コストの差異を表す。この値がマイナスの時は、
予定よりもコストが増加していることを意味する。
(3) SPI (Schedule Performance Index)
SPI < 1の場合は、進捗の効率が予定よりも低いことを意味する。
(4) CPI (Cost Performance Index)
CPI > 1の時は、生産性の効率が予定よりも低いことを意味する。
(5) EAC (Estimate At Completion) 完成時の総コストの予測値である。
これらの指標を活用することにより、計画と実績の差異の把握や予測を定量的に行うこ とが可能となる。ただし、木野(2011)が指摘しているように、詳細な分析を行ったとし ても、計画以上の精度で結果を得ることはできない。したがって、計画の質を高めること が必須であるとされている。
また、プロジェクトは、「個別性」の特性により計画段階においては不明確な点が多く、
「不確実性」の特性により実施段階において予定外の出来事や変更が発生することが多い。
このため、プロジェクトの実施段階においては、スケジュール変更を余儀なくされること が頻繁に発生する。スコープやスケジュールが変更となれば、それらに伴い体制の変更が 必要となることもあり、必要に応じて計画の見直しを行うことが必要となる。
なお、木野(2011)は、「EVMの各種の値は、差異や傾向を表す指標であり、傾向が悪 いことがわかっても、何が問題であるかまでは示されない。」と述べている。
本研究では、一つのWBSの粒度を数時間程度の詳細なものとすることで、EVMの適用方 法を拡張し、日々の進捗や工数の変動の可視化と、スケジュール遅延等の原因分析への活 用を可能とするための方法について提案する。この際、工数計画の作成を自動化する仕組 みを取り入れることによって、スケジュールやスコープの変動が発生した際の計画の見直 しを容易に行えるようにする。