4. ソフトウェア開発プロジェクトの変動マネジメント手法
4.3. 進捗・コストの変動可視化手法(デイリーEVM 手法)
4.3.4. 既存の EVM 適用手法との特徴の比較
始めに、本研究で提案する変動可視化手法としての「デイリーEVM手法」の特徴を、既 存のEVMの適用方法と対比して表 4-1に示した上で、本手法独自の中核となる特徴と効果、
及び実現方法を述べる。表 4-1における「既存のEVM手法」は、一般的に実施されている、
EVMを週単位や月単位の進捗、コスト及びスケジュールの差異の分析に活用する方法を意 味している。ここでは、「デイリーEVM手法」の特徴の概要を比較項目ごとに説明し、それ ぞれの実現方法については後述する。なお、表 4-1の「デイリーEVM手法」の列に示す① から④は、図 4-3の①~④の各シートに対応している。
図 4-3 変動可視化手法「デイリーEVM手法」の全体像
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表 4-1 変動把握手法の特徴
№ 実施項目 既存のEVM手法 本手法
(デイリーEVM手法)
1 WBS作成 プロジェク毎に個別作成 標準的な詳細WBSのひな型を元
にした「WBSマスターシート」
(①)の利用により、過去のプロ ジェクトの知識や実績データの活 用が可能。
2 工数計画作成及び 修正
工程別、機能別、WBS別に個 別作成
・「WBSマスターシート」(①)に 規模や生産性等のパラメータを設 定することで、WBS別「基準工数」
を一括設定
・実績データを元に生産性等を見 直し工数計画の修正を適宜実施可 能
3 実績コストデータ 収集
人数、期間、勤務時間、発注金 額等を組み合わせて収集
実績工数の収集(②)のみによっ て作業コストを把握する方法であ るため、データの収集や蓄積が容 易
4 進捗率の計上方法 とデータの収集方 法
進捗率の計上は、固定比率法や 成果物の量の組合せ(プロジェ クト別)により、以下の各種方 法を元にプロジェクト固有の 方法で実施
・進捗率報告
・成果物の量の集計
・ヒアリング
・WBS別実績工数(②)や作業開 始・終了情報を毎日収集し、WBS の種別に応じて設定した進捗率計 上ルールにより、進捗率を自動計 上(①②)
・プログラム開発工程やテスト工 程では、ソースコード行数とテス ト実績を補完的に利用
5 変動可視化 プロジェクト毎に個別作成 出来高と実績工数から変動を可視 化するためのドキュメント(③④)
を自動生成
本研究で提案する「デイリーEVM手法」の中核となる特徴と効果は以下の3点である。
(1) 詳細WBSの標準化とWBS別工数計画の一括設定
表 4-1 の No.1 に示すように、過去のプロジェクト経験を元にした標準的な詳細 WBS のひな型から成る「WBS マスターシート」を利用することにより、計画策定時の WBS
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の粒度がプロジェクトマネジャーによらず標準化され、WBSの洗い出し漏れ等も防止で き、計画作成を効率良く行うことが可能となる。さらに、以下に示すように、WBS別の 計画工数をパラメータから一括で計算することや、進捗率を計上ルールに基づいて自動 的に算出することが可能となる。
また、WBS を標準化することにより、原因分析や対策検討を行う際に過去のプロジェ クトで蓄積されたデータや知識を活用することも可能となる。実績データを継続的に蓄 積することによって、他のプロジェクトで見積りや計画策定に必要な生産性などの統計 データを活用できるようになる。
(2) 基準工数の導入
工数の変動把握や進捗率の計算の基準となる、WBS別の所用時間の基準値としての「基 準工数」の考え方を導入した。この際、機能別、工程別の詳細WBSの単位で基準工数を 見積もり、設定するためには多大な労力を要するため、後述する基準工数の見積り式を 用いて一括して計算できるようにしておく。具体的には、表 4-1のNo.2のとおり、「WBS マスターシート」(図 4-3 ②)に基準工数の見積り式を組み込んでおくことで、機能別の 規模や標準生産性、担当者のスキル、習熟度などの各種パラメータを設定するだけで詳 細WBS別の基準工数を自動設定できるようにした。これにより、変動可視化のためのベ ースラインとなる機能別、工程別の工数計画を効率良く作成することが可能となる。ま た、工数計画の修正も容易に行えるため、パイロット開発や初期の開発作業等の実績デ ータを用いて生産性等のパラメータを見直すことにより、計画の精度を高めることが可 能である。
基準工数の算出根拠が明確であるため、実績データから変動の原因究明も効率良く行 える。
(3) 進捗率の自動計上
表 4-1のNo.4に示すように、事前設定した進捗計上ルールに基づき、主として実績工 数の入力を元に進捗率を自動計算するしくみを構築した。この進捗率自動計上の実現方 法や進捗計上ルール等については後述する。日々の作業工数や作業状況等のデータ収集
(図 4-3 ②)から進捗率自動計上(図 4-3 ①)及び変動可視化用の各種ドキュメント(図 4-3 ③、④))の生成までの一連の流れを作業プロセスに組み込み、各メンバーが毎日、
図 4-3 ②の「作業実績票」に実績工数を入力することで、工数や進捗率が自動的に集計 されるようシステム化した。毎日出力される変動可視化用のドキュメントによって日々 の変動を把握し、変動が大きい機能や人に対する重点的な監視や、変動の原因となる作 業の特定等を効率良く行うことが可能となる。
以上のように、「デイリーEVM手法」は、詳細WBSの策定、機能別や担当者別のマネジ メントのベースラインとなる基準工数計画の作成、実績工数収集、進捗率及び出来高の自 動計上と変動可視化の一連のプロセスを、従来と同等以下の運用負荷で毎日実行可能とす
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る手法である。これにより、精度向上と管理負荷の軽減を両立しつつ、毎日、詳細な粒度 で変動を可視化することが可能となる。この可視化されたデータを活用することにより、
変動の原因となる工程や人の特定、原因に応じたプロジェクトのコントロール等を効果的 に行える。また、実績データを元に生産性や習熟度などの各種のパラメータを見直すこと によって工数計画を必要な都度、修正することができるため、早い段階で計画の精度を高 め、正確な変動の監視やコントロールを行うことを可能とする。
このように、「デイリーEVM手法」は、3.3.1.で取り上げたKirmani (2017) が提案してい る三点の工数見積りの要件(概算と実績の差異が少ない、監視や開発のプロセスに役立つ、
個人レベルの詳細な工数見積り根拠の明確化)を満たしたものになっている。この考え方 に加え、工数計画作成の自動化、進捗率計上の自動化、変動可視化のシステム化等によっ て、詳細な粒度での変動の日次での可視化を実現することによって、変動の早期把握や変 動の原因分析等を効率良く行うことを可能としたものである。
次節で上記の仕組みの実現方法について具体的に説明する。