第2章 解析手法
2.4 進化戦略の数値解析
2.4.2 進化戦略による振動モデルを用いた数値解析
表2.1 建物の振動パラメータ
建物 スウェイ ロッキング
質量/回転慣性 m1=439.5 t/(m/s2) m0=1.288 t/(m/s2) I0+I1= 41.54 × 103 tm2/(m/s2) 水平剛性/回転剛性 k1T =400.1 10× 3t/m kST =5.545 10× 3t/m kRT =125.7 10× 6tm
減衰定数 h1T =3% hST =5% hRT =5%
以下,地表(GL)での加速度(入力地震動)と,建物自体の変形による変位dB,ロッキングによる変位dR 及びスウェイによる変位dSが観測により得られていると仮定して,各変位から各部の剛性と減衰の推 定を行う。これらの観測値は,上記の変数の正解値を用いて線形応答解析によって求める。
実際の計算では下式に示すように,k1,kS,kR,h1,hS及びhRの6つのパラメータの正解値(k1T,kRT,
T
kS,h1T,hRT及びhST)に対する比の常用対数をとり,最適化対象の変数x=( ,x x x x x x1 2, 3, 4, 5, 6)として採 用する。
T 1 log (10 1/ 1 )
x = k k , T
2 log (10 R/ R)
x = k k , T
3 log (10 S/ S)
x = k k (103)
T 4 log (10 1/ 1 )
x = h h , T
5 log (10 R/ R)
x = h h , T
6 log (10 S/ S)
x = h h (104)
進化戦略では,何らかの方法で,探索中のパラメータの適合度を判断しなくてはならない。ここで は,数値解析による各部の応答変位の,観測された変位との一致度を適合度とし,適合度を示す関数
f( )x は以下の式で与える。結局最適なパラメータの探索は,この関数の最小化問題に帰着する。
f f f
f f f
2 2 2
B B B R R R S S S
2 2 2
B B R R S S
( ) ( ) ( )
( )
( ) ( ) ( )
s o s o s o
T T T
o o o
T T T
w d d dt w d d dt w d d dt
f w d dt w d dt w d dt
− + − + −
= + +
∫ ∫ ∫
∫ ∫ ∫
x (105)
ここでwB,wR,wSはdB,dR,dSの振幅レベルを調整するための重み係数で,各最大変位の二乗が 同じになるように設定する。dB,dR,dSの肩付きのsは探索で得られたパラメータを使った数値解析に よる変位であることを,oは観測された(ここでは正解値を使った数値解析によるによる)変位であるこ とを表す。また,Tfは適合度を判定する時間区間で,建物頂部の変位(dB+dR+dS)が最大となる時間 の前5秒と後15秒の計20秒間を採っている。
(2) 解析対象強震記録
解析の対象としたのは,表2.2に示す13個の強震記録である。これらの記録は2004年新潟県中越地震 とその余震で得られたもので,最も大きな計測震度は本震で記録した3.5であり,最も大きな地表最大 加速度はやはり本震の30.9cm/s2である。なお,これらの値は図2.14(c)のA01の地点に設置された加速度 計の記録から算出している。
表2.2 解析対象強震記録
番号 日時 深さ
(km) M* 計測 震度
PGA**
(cm/s2) 1 2004/10/23 17:56 13 6.8 3.5 30.9 2 2004/10/23 18:03 9 6.3 2.6 7.9 3 2004/10/23 18:07 15 5.7 1.3 2.8 4 2004/10/23 18:11 12 6.0 2.3 6.6 5 2004/10/23 18:34 14 6.5 3.2 18.1 6 2004/10/23 18:57 8 5.3 1.0 2.4 7 2004/10/23 19:36 11 5.3 1.7 4.0 8 2004/10/23 19:45 12 5.7 1.9 5.0 9 2004/10/23 23:34 20 5.3 1.4 4.0 10 2004/10/25 00:28 10 5.3 1.5 3.7 11 2004/10/25 06:04 15 5.8 1.5 3.6 12 2004/10/27 10:40 12 6.1 2.4 9.3 13 2004/11/01 04:35 8 5.0 1.0 1.8
* M: 気象庁マグニチュード,**PGA: 地表最大加速度
(3) 数値解析結果を目標とした最適化
ここでは,正解値を使った数値解析結果を最適化の目標(観測値)として,正解値の探索が可能かを検 証する。前述のように進化戦略では,適合度を表す関数の形状の性質がよければ最適化対象の変数の 数は6程度でも最適値の探索は可能であるが,値の近い極値が複数存在するなど条件が悪い場合は3か ら4程度に抑えるのが望ましい。このため,k1,kR,kS,h1,hR及び hSのすべてを最適化の対象にする 場合(Case:1)と,hR,hSを一定値に固定してk1,kR,kS及びh1の4つを最適化の対象にする場合(Case:2) の2例を考える。
進化戦略のパラメータは( , )µ λ =(15,100)とし,成分間の相関は考慮しない。また,終了条件は定め ず,100世代の探索を行って最も適合度の高い個体を採用している。図2.15は,Case:1について,進化 戦略によって求めた剛性及び減衰定数の最適値の正解値に対する比を解析対象のすべての地震につい てプロットしたものである。横軸には地震番号を採っている。図(a)は剛性の比,及び図(b)は減衰定数 の比であり, 印は建物, 印はロッキング, 印はスウェイを表している。剛性の比及び減衰定数の 比の正解値は1であり,図(a)の値は全て1近傍に分布していることから,各部の剛性はほぼ正確に推定 できている。一方,減衰定数の比は0.3から2.0程度の範囲でばらつき,正しく推定できているとは言え ない。
0.5 1 2
k/kT
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Eq.#
0.2 0.5 1 2 5
h/hT
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Eq.#
h1/hT1 hR/hTR hS/hTS (a) Case:1 Stiffness k1/kT1 (b) Case:1 Damping
kR/kTR kS/kTS
図2.15 進化戦略で推定した剛性と減衰定数の正解値に対する比(Case:1)
図2.16はCase:2について,推定された剛性及び減衰定数の最適値の正解値に対する比を,すべての地
震に対してプロットしたものである。図(a)は剛性の比,及び図(b)は減衰定数の比である。記号の意味 は図2.15と同じである。hR,hSを固定した場合はどの地震でも,各部の剛性k1,kR,kS,及び建物の減 衰定数h1のいずれも極めて正確に正解値の探索に成功している。
0.5 1 2
k/kT
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Eq.#
0.2 0.5 1 2 5
h/hT
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Eq.#
k1/kT1 kR/kTR kS/kTS
h1/hT1
(a) Case:2 Stiffness (b) Case:2 Damping
図2.16 進化戦略で推定した剛性と減衰定数の正解値に対する比(Case:2)
2.5 2章のまとめ
本章では,2.1節で強震観測記録の基本的な性質の分析に用いる各種の解析方法を概説し,2.2節では 建物の地震時の挙動のシミュレーションに用いる地震応答解析手法を述べた。また2.3節で動力学的パ ラメータの同定に用いる2つの方法を説明した。更に2.4節では進化戦略に関して,多極値を有する関数 及び1質点系SRモデルを用いて,進化戦略の性能と適用性を検証した。進化戦略の適用性については,
以下のような結果が得られた。
i) 多極値を持つ関数の最小化問題(2.4.1項)では,最小化対象の関数の極が明瞭で,性質がよい関数 (c=1.0)の場合,進化戦略は極めて高い探索性能を発揮し,変数の数(n: 関数の次数)が6と多くても 問題なく機能する。一方比較的値の近い極が多数存在するような関数(c=0.5やc=0.25)に適用した場 合,nが大きいと最小値以外の極に収束する可能性が生じる。この場合,安全に進化戦略を適用で きる目安はn=3からn=4程度である。
ii) 成分間の相関を考慮するパラメータαを導入すると,導入しない場合に比べて探索空間を拡大する 効果がある。しかしながら,ここで扱った関数の場合は探索の速度は低下し,探索性能の大幅な向 上は認められなかった。複数の極が存在し,他の極に収束してしまう可能性がある場合には,αを 導入する意味はあるであろう。またαは本来,2つの成分間の相関を考慮する操作のためのパラメ ータであり,事例によっては探索効果を高める可能性がある。
iii) 対象関数の形状が複雑な場合(c=0.5やc=0.25),個体数を増やすことは探索性能の有効な改善手段で ある。一方で計算コストも増加するので,必要な個体数は事例に応じて判断する必要がある。
iv) SRモデルを用いた数値解析(2.4.2項)では,建物,ロッキング及びスウェイの剛性と減衰定数の6つ のパラメータを同時に推定すると(Case:1),各部の剛性は妥当な値が得られるが,減衰定数の推定 値はばらつく結果が得られた。
v) 一方Case:1において,減衰定数の推定値がばらつきながらも剛性は適切に推定できたことを考慮す
れば,Case:2のようにロッキングとスウェイの減衰定数をある程度妥当な値に固定すれば,他のパ
ラメータを精度良く推定できる。
以上の結果,次章以降の解析で進化戦略を用いる場合,最適化の対象の変数の数は4程度に抑制し,
成分間の相関を考慮する場合の個体数( , )µ λ =(30, 200),成分間の相関を考慮しない場合の個体数 ( , )µ λ =(15,100)とする。