第5章 建物の振動特性の統計的性質
5.3 建物の振動特性の変動
建物の振動特性は,建物自体や周辺地盤の非線形性の影響により,地震の継続中に変動する。また,
部材剛性等の歪依存性や経時変化の影響を受け,地震によって異なる振動特性を示すこともある。地 震により被害を受けた建物の振動特性の変化の抽出,振動特性の振幅依存性,観測の期間中の振動特 性の変化について,代表的な事例を以下に述べる。
5.3.1 地震継続時間中の振動特性の変動
図5.2は,1994年三陸はるか沖地震(M7.6)で観測された建物No.03の振動特性の地震時変動を示してい る。図は上から(a)建物Y方向の地下1階の加速度波形,(b)6階の加速度波形,(c)6階の地下1階に対する 相対変位波形,(d)固有周期及び(e)減衰定数の時間変動の推定結果である。ここで用いた相対変位の適 合による評価( )と比較するため,地下1階と6階の加速度記録の伝達関数に,1質点系の周波数応答関 数を適合させて推定した結果( )を併せて示す。いずれの推定方法も時間窓の幅は10.24秒,時間窓の移 動間隔は2秒である。
相対変位の適合による推定結果に着目すると,時間軸上で15秒から10秒間の地震動の主要動部分で 固有周期が2割程度延び,揺れが収まった後も元の固有周期までは回復していない。これは地震により この建物が軽微な被害を受けたためと考えられる4)。また,減衰定数も揺れの激しい区間では,その前 後の区間に比べて大きくなっている。なお相対変位の適合によって得られた固有周期や減衰定数は,
伝達関数の適合によって推定した値と調和的であり,固有周期の変動の様子は既往の報告5)とも整合し ている。
-10 0 10
Acc.(m/s2)
-10 0 10
Acc.(m/s2)
-0.05 0.00 0.05
Disp.(m)
0.2 0.3 0.4 0.5 T0 (s)
0 10 20
h0 (%)
0 10 20 30 40 50
Time (s)
Relative displacement fitting Transfer function fitting (a) Absolute Acceleration at BF
(b) Absolute Acceleration at RF
(c) Relative Displacement (RF-BF)
(d) Estimated natural periods
(e) Estimated damping ratios
図5.2 1994年三陸はるか沖地震で観測された建物No.03の観測波形と振動特性の地震時変動
5.3.2 振動特性の振幅依存性
本項では,固有周期の振幅依存性を検討する。建物の応答振幅は,建物頂部の基部に対する相対変 位の最大値を,地表面から建物頂部の加速度計までの高さで除した最大変位角θmaxで代表させる。推 定結果の一例として,建物 No.20について,最大変位角と各地震記録から推定された固有周期 T0及び 減衰定数hの関係を図5.3に示す。図5.3(a)のθmaxとT0の関係に着目すると,X方向,Y方向とも固有周 期Tは最大変位角θmaxの対数に対してほぼ直線に分布し,その勾配は0.1前後となっている。
一方,図5.3(b)の最大変位角θmaxと減衰定数 h0の関係を見ると,θmaxが0.01×10-3(rad)以下の小さな振 幅の領域ではばらついているが,θmaxが0.02×10-3(rad)以上の領域では振幅が増加するに従って減衰定数 が減少する傾向が見られる。
0 1 2 3
Natural PeriodT0 (s)
0.001 0.010.01 0.1 1
Max. drift angleθmax (10-3rad)
0 5 10
Damping ratioh0 (%)
0.001 0.010.01 0.1 1
Max. drift angleθmax (10-3rad) T0=2.268+0.102 logθmax
T0=2.170+0.076 logθmax
XY
XY
5 5
(a)θmax vs.T0 (b)θmax vs.h0
図5.3 建物No.20の最大変位角θmaxと固有周期T0の関係
全ての建物の観測記録にθmaxの増加に伴い固有周期が低下する傾向が見られたため,以下の回帰式 を仮定し,建物毎に回帰分析を行って,固有周期の延びを定量的に評価した。
0 log10 max
T = +C R θ (1)
ここで,C及びRは回帰係数である。この時,回帰係数Rは最大変位角θmaxが10倍になった時の固 有周期の延びの量を表す。各建物の固有周期の平均値T0*と回帰係数Rの関係を図5.4(a)に示す。図中,
菱形の記号( と )はX方向に,四角の記号( と )はY方向に対応し,またRC造及びSRC造のコン クリート系の建物の記号は塗り潰し( と ),S造の建物の記号は白抜き( と )で示している。
全体的にRの値はばらつき,0.01から0.12程度の値となっている。大局的には固有周期が長くなると Rも大きくなる傾向が見られ,RC/SRC造とS造建物では周期の延びの比率が異なっている。
図5.4(b)には,Rをその建物の平均固有周期T0*で基準化して示す。T0*に対する比率で見ると,低層 のコンクリート系(RC/SRC 造)の建物の建物周期の延びは大きくばらつくが,鉄骨系(S 造)の建物の周 期の延びに比べて大きめの値となっている。
0.0 0.1 0.2
R
0 1 2 3
Ave. Natural PeriodT0* (s)
0.0 0.1 0.2
R/T0*
0 1 2 3
Ave. Natural PeriodT0* (s) RC/SRC X
RC/SRC Y Steel X Steel Y
RC/SRC X RC/SRC Y Steel X Steel Y
(a)T0* vs.R (b)T0* vs.R/T0*
図5.4 各建物の平均固有周期T0*と回帰係数Rの関係
5.3.3 観測期間中の振動特性の変化
同一の建物で長期間にわたり強震観測を続けると,その間の建物の振動特性の変化を観察すること
ができる。代表的な2例について以下に述べる。
図5.5は,建物No.03の観測期間中の固有周期と減衰定数の経年変動を示している。図中,菱形( )は X方向,四角( )はY方向で,横軸には観測期日を採っている。また記号が大きく,色が濃いほど最大 変位角θmaxが大きい。前述したように,この建物は1994年12月の三陸はるか沖地震を経験しており,
地震以前には0.3秒程度であった固有周期がこの地震や余震で0.4秒程度に延びており,その後0.35秒か ら0.37秒程度に回復している。減衰定数については若干ばらつきが大きいものの,三陸はるか沖地震や その余震では,他の振幅レベルの小さい地震と比較して大きな値となっている。この現象は大きな地 震動を受けた建物の非線形挙動によって,履歴減衰が付加されたことが一因となっていると考えられ る。
0.2 0.3 0.4 0.5
Natural periodT0 (s)
0 5 10
Damping ratioh0 (%)
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
Year 1994 Far Off Sanriku Eq.
(b) Damping ratioh0
(a) Natural periodT0 θmax≥ 10-3
10-4≤θmax < 10-3 10-5≤θmax< 10-4 θmax < 10-5 X Y
図5.5 建物No.03の固有周期T0 (上図)と減衰定数h0 (下図)の観測期間中の経年変動
図5.6に建物 No.18の固有周期と減衰定数の観測期間中の経年変動を示す。この建物は広島市内に立 地する11階建てのSRC造建物で,11階と地下1階に加速度計が設置されている。ここでの地震の頻度は さほど多くなく,15年間で観測した強震記録は17記録に過ぎない。しかし,2001年3月24日の芸予地震 (M6.4,深さ60km)で,地下1階で117cm/s2,11階で397cm/s2の大きな地震動を経験した。ちなみにこの 建物の震央距離は39km,地下1階の記録から算出した計測震度は4.8であった。図5.6からは,芸予地震 の前には0.7秒から0.8秒ほどであった固有周期が,芸予地震の地震動を受けて約0.95秒に延び,その後 回復していない様子が観察できる。またこの建物では,減衰定数が比較的安定して推定されており,
芸予地震の記録から得られた減衰定数は6%程度で,他の地震の場合(2%から4%)に比べて大きい。
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
Natural periodT0 (s)
0 5 10
Damping ratioh0 (%)
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 Year
2001 Geiyo Eq.
(b) Damping ratioh0 (a) Natural periodT0
θmax≥ 10-3 10-4≤θmax < 10-3 10-5≤θmax< 10-4 θmax < 10-5 X Y
図5.6 建物No.18の固有周期T0 (上図)と減衰定数h0 (下図)の観測期間中の経年変動