第3章 建築研究所の強震観測
3.3 最近の主な観測成果
3.3.1 1993年釧路沖地震
1993年1月15日に発生した釧路沖地震(M7.5,深さ101km)で,当時釧路地方気象台(震央距離7km)の敷 地内地盤上に設置してあった建築研究所の強震計は,711cm/s2もの大きな最大加速度を記録した7)。図 3.8に釧路地方気象台で観測された加速度記録を示す。この地表最大加速度は,それまでに経験したこ とのない大きな値であったこと,大きな加速度の割には気象台庁舎や周辺の建物の被害は軽微であっ たことから,この記録は地震工学分野の注目を浴び,その後関連する研究が多数行われることになる。
その後深さ20m 程の岩盤層への地中加速度計の埋設と,得られた観測記録の分析が行われ,厚さ20m 程の火山灰を主体とした表層地盤の増幅効果で大きな加速度が生じると実証した8),~10)。また建物被害 との関連についても詳細な分析を行った11)。
Acceleration
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N063E-GL (peak:- 711.4 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N153E-GL (peak:- 637.2 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
Time (sec)
UP-GL (peak: 363.4 cm/s/s)
図3.8 1993年釧路沖地震による釧路地方気象台地表の記録 3.3.2 1994年三陸はるか沖地震
1994年12月28日に発生した三陸はるか沖地震(M7.6,深さ0km)は,八戸市を中心に大きな被害をもた らし,八戸市庁舎の本館建物(当時)は大破した。建築研究所は市庁舎本館に隣接する新館(震央距離 191km)に強震計を設置しており,地下1階と6階に加速度計を有する。図3.9に観測された加速度記録を 示す12)。上段が地下1階(B1F)の3成分,下段が6階(06F)の3成分の記録である。この地震で得られた記録 の最大加速度は地下1階で416cm/s2,建物6階で963cm/s2に及んだ。強震計が設置してあった新館建物の 被害は軽微であり,現在も使用されている。一方,大破した本館建物は免震構造を採用した新しい庁 舎に建て替えられ,建築研究所はこの新しい免震庁舎でも強震観測を行っている。
Acceleration
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N164E-B1F (peak:- 415.9 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N254E-B1F (peak: 319.7 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
UP-B1F (peak: 118.8 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N164E-06F (peak: 962.6 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
N254E-06F (peak: 718.2 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
Time (sec)
UP-06F (peak: 227.1 cm/s/s)
図3.9 1994年三陸はるか沖地震による八戸市庁舎新館の記録
3.3.3 1995年兵庫県南部地震
1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.4,深さ16km)は神戸市を中心に甚大な被害をもたらし,
6,433人に及ぶ犠牲者を出した。建築研究所は神戸市内に観測地点を持たなかったが,大阪市内に立地 する大阪第3合同庁舎(震央距離45km)でこの地震の揺れを観測した。この建物は15階建てのS造建物で,
地下3階と塔屋3階(通算18階)に加速度計が設置されている。図3.10に観測記録を示す。上段が18階(18F) の,下段が地下3階(B3F)の,それぞれ3成分の加速度記録である。水平成分の最大加速度は地下3階で
80cm/s2程度であったが,建物18階では412cm/s2に増幅している。また,神戸市内で観測された強震記
録の主要動の継続時間は10秒程度であったが,大阪に建つこの庁舎では,大阪平野の地形的な影響で 地震動に長周期成分が含まれること,また建物の減衰が小さいことから,長い時間に渡って建物の揺 れが継続している。
Acceleration
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
N189E-18F (peak: 412.3 cm/s/s)
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
N279E-18F (peak:- 316.3 cm/s/s)
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
UP-18F (peak:- 209.4 cm/s/s)
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
N189E-B3F (peak: 90.2 cm/s/s)
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
N279E-B3F (peak:- 82.5 cm/s/s)
-500 0 500
Acc. (cm/s/s)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
Time (sec)
UP-B3F (peak:- 108.8 cm/s/s)
図3.10 1995年兵庫県南部地震による大阪第3合同庁舎の記録 3.3.4 2003年十勝沖地震
2003年9月26日に発生した十勝沖地震(M8.0,深さ42km)では,北海道の南東部の広い範囲で被害が発 生した。建築研究所の観測網も多くの観測地点で記録を得たが,中でも北海道の広尾町役場(震央距離 84km)や免震建物である釧路合同庁舎(震央距離136km)で大きな加速度記録を採取した。広尾町役場で は建物の1階のみに強震計を設置しているが,同じ敷地内にある K-NET の観測記録13)と比較すること により,建物へ入力する地震動の入力損失を議論することが可能となる14)。
図3.11はK-NET広尾(観測地点コード: HKD100)及び広尾町役場内で観測された加速度記録である。
上段が地盤上にあるK-NET広尾の3成分の加速度,下段が建物の1階にある建築研究所の強震計の加速 度で,地盤上の記録の最大加速度が建物内に比べて2倍程度大きくなっている。地盤上の記録を分母に 採った両者のフーリエスペクトル比を図3.12に示す。2Hz以下の低振動数領域ではスペクトル比はほぼ
1だが,2.5Hz 付近で若干大きくなり,3Hz 以上の高い振動数領域ではスペクトル比が著しく低下して
いる。最大加速度の差の原因は3Hz 以上の振動数成分の低減であることが判る。これは地盤上の記録 は,表層に堆積する厚さ6m程度の火山灰質シルト層の増幅の影響を直接受けているのに対し,建物内 の記録では建物の拘束効果と杭基礎の影響で表層地盤の影響が限定的だったからと考えられる。この ような現象は建物の応答を評価する場合重要な鍵となる。なお,釧路合同庁舎の強震観測記録につい ては第6章で詳細に分析する。
Acceleration
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
NS-GL (peak:- 809.5 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
EW-GL (peak:- 969.9 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
UD-GL (peak: 461.2 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
NS-1F (peak:- 458.6 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
EW-1F (peak: 386.7 cm/s/s)
-1000 0 1000
Acc. (cm/s/s)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
Time (sec)
UD-1F (peak: 242.8 cm/s/s)
図3.11 2003年十勝沖地震によるK-NET広尾(HKD100,上段)及び広尾町役場(下段)の記録
Fourier Spectral Ratio
0.1 0.5 1 5 10
Spectral Ratio
0.1 0.5 1 5 10
Frequency (Hz)
1F/GL (NS) 1F/GL (EW) 1F/GL (UD)
図3.12広尾町役場の記録のK-NET広尾(HKD100)の記録に対するフーリエスペクトル比(1F/GL)