正弦・余弦関数の幾何学的意味は、単位円周上の点の座標を、座標軸との角度(=弧長) を変数とした関数として表すことである。例えば、正弦関数は弧長 θ に対し円周上の 点の y座標(正弦)を対応させる関数だが、これは θ ∈[−π2,π2]で全単射だから、この 範囲では逆に、円周上の点の y 座標(正弦)に弧長(arc length)を対応させる関数を 考えることが出来る。それが逆正弦関数(Arcsin)である:
命題 8.3.1 (逆正弦関数) sin : [−π2,π2] → [−1,1] は連続な全単射、狭義 ↗ (命題
8.1.2)。そこで、その逆関数を逆正弦関数と呼び、Arcsin と記す。このとき、
(a) Arcsin : [−1,1]→[−π2,π2] は連続な全単射、狭義↗である。
(b) y∈(−1,1) なら(Arcsiny)′ = 1/√
1−y2. (c) y∈[−1,1] ならArcsiny=
∑∞ n=0
bny2n+1
2n+ 1 ,但し bn = (2n(2n)!!−1)!! = 212n
(2n
n
).
π 2
−π 2−1 1
証明:(a): 狭義単調関数の逆関数定理(定理 3.5.1)による.
(b): Arcsiny ∈[−π2,π2] よりcos(Arcsiny)≥0. 従って (sin)′(Arcsiny) = cos(Arcsiny) =
√
1−sin2(Arcsiny) =√ 1−y2 y∈(−1,1)なら逆関数の微分(定理 7.6.1)より
(Arcsiny)′ = 1
(sin)′(Arcsin y) = 1
√1−y2.
(c): まず y∈(−1,1) とする。一般二項定理の応用例(例8.2.2)で見たように、
(1) 1
√1 +y =
∑∞ n=0
(−1)nbnyn,(右辺は絶対収束)。
(1) 右辺の絶対収束から、示すべき式右辺の絶対収束も分かるので、それを f(y) と置 く。巾級数の微分(例 7.1.7)より
(2) f ∈D1((−1,1)) かつf′(y) =
∑∞ n=0
bny2n.
故にy ∈(−1,1)なら
(Arcsin y)′ (a)= 1
√1−y2
(1)=
∑∞ n=0
bny2n(2)= f′(y).
以上と微分による増減判定(定理 7.5.1)より(−1,1)上Arcsin −f =c(定数). 更に 0 = Arcsin 0−f(0) = 0.
次にy =±1 を考える。示すべき式の両辺はyについて奇関数だから、y= 1 で言えれ ばよい。y∈(−1,1) に対する結果と 問6.3.3 よりy= 1 に対する結果を得る。\(∧2∧)/
注:双曲正弦関数 sh :R−→R に対し 命題8.3.1 と同様の結果を問 8.2.3(ii),(iii)で述 べた。問 8.2.3(ii),(iii)を 命題 8.3.1 の方法で示すことも可能。
命題 8.3.2 (逆正接関数) tan : (−π2,π2)→Rは連続な全単射、狭義↗(命題8.1.7)。
そこで、その逆関数を逆正接関数と呼び、Arctan と記す。このとき、
(a) Arctan :R−→(−π2,π2)は連続な全単射,狭義↗従って
y→±∞lim Arctan x=±π
2, (複合同順).
(b) y∈R なら(Arctany)′ = 1 1 +y2. (c) y∈[−1,+1] ならArctany=
∑∞ n=0
(−1)ny2n+1 2n+ 1 .
π 2
−
π 2
証明:(a): 狭義単調関数の逆関数定理(定理 3.5.1)による.(b): y∈R なら (tan)′(Arctany) = 1/cos2(Arctany)簡単な書き換え= 1 + tan2(Arctany) = 1 +y2.
従って逆関数の微分(定理 7.6.1)より (Arctany)′ = 1
(tan)′(Arctany) = 1 1 +y2.
(b): y = ±1 での証明は別の機会に譲り、y ∈(−1,1) のみ考える。このとき、示すべ き等式右辺は絶対収束するので、それをf(y) とおく。巾級数の微分(例 7.1.7)より (1) f ∈D1((−1,1)) かつy∈(−1,1)ならf′(y) =
∑∞ n=0
(−1)ny2n. 故にy ∈(−1,1)なら
(Arctany)′ (a)= 1 1 +y2
指数級数=
∑∞ n=0
(−1)ny2n(1)= f′(y).
以上と微分による増減判定(定理 7.5.1)より (−1,1)上Arctan −f =c(定数)。所が
c= Arctan 0−f(0) = 0. \(∧2∧)/
注:双曲正接関数th : R−→(−1,1)に対し 命題8.3.2と同様の結果を問 8.1.7 (ii),(iii) で述べた。問8.1.7 (ii),(iii) を 命題8.3.2 の方法で示すことも可能である。
問 8.3.1 (逆余弦関数) cos : [0, π] −→ [−1,1] は連続な全単射、狭義単調減少(命題
8.1.2)。そこで、その逆関数を逆余弦関数と呼び、 Arccos と記す。このとき、狭義単
調関数の逆関数定理(定理3.5.1)よりArccos : [−1,1]−→[0, π] は連続な全単射、狭 義単調減少である。y∈[−1,1] に対しArcsiny+ Arccosy= π2 を示せ。この式により、
Arccos に関する性質は全て Arcsin のそれらに帰着する。
問 8.3.2 a∈C, Ta(x) = cos(aArccosx) (x∈[−1,1]) とおく。以下を示せ:
(i) (1−x2)Ta′′(x)−xTa′(x) +a2Ta(x) = 0.
(ii) n ∈Nなら Tn は n 次多項式であり、Tn(cosθ) = cosnθ, Tn(−x) = (−1)nTn(x).
Tn をチェビシェフ多項式 という。
問 8.3.3 以下を示せ:
(i)x >0 に対し、π2 = 2Arctanx−Arctan x22x−1.
(ii) (⋆) tan(π/16)< x < tan(3π/16) なら、π4 = 4Arctanx+ Arctan xx44+4x−4x33−−6x6x22−+4x+14x+1. (ii) よりπ4 = 4Arctan 15 −Arctan 2391 . 右辺の Arctan を命題 8.3.2の巾級数で表した とき、その収束は速い。従って、それら巾級数の部分和はπ の良い近似値を与える。
8.4 (⋆) 対数の主値
命題 8.4.1 (対数の主値)z 7→ez は{z ∈C; Imz ∈(−π, π)}上C\(−∞,0]への 全単射。この逆関数を対数の主値と呼びLog と記す。このとき、
(a1) z 7→Logz は C\(−∞,0]上{z ∈C; Imz ∈(−π, π)} への全単射, (a2) z ∈C\(−∞,0]なら eLogz =z.
(a3) z ∈C, Imz ∈(−π, π) ならLog (ez) =z,
(a4) z =|z|eiθ ∈C\{0}, θ∈(−π, π) ならLogz = log|z|+iθ.
(b) z 7→Logz は C\(−∞,0]上連続。
証明:(a0): 系8.1.4よりz 7→ez は{z ∈C; Imz ∈[−π, π)}上C\{0} への全単射。ま た、直線 :Imz =−π の像は(−∞,0). 従って所期の全単射性が判る。
(a1)–(a3): (a0) の帰結。
(a4): (a3) の言い替え。
(b): θ :C\(−∞,0]−→(−π, π) を次で定義12:z =x+iy (x, y ∈R)に対し
θ(z) =
Arctan (y
x
), x >0, π/2 + Arctan xy, x≤0, y >0,
−π/2−Arctan xy, x≤0, y <0.
このとき、以下は容易に確かめられる(問 8.4.1,問 8.4.2):
(1) eiθ(z) =z/|z|, (2) θ∈C(C\(−∞,0]).
(1), (a4)よりz ∈C\(−∞,0]に対し
Logz = log|z|+iθ(z).
上式と (2) より所期連続性を得る。 \(∧2∧)/
注:系 8.1.4 より、z 7→ez は {z ∈C; Imz ∈[−π, π)} 上C\{0} への全単射。従って、
逆写像は (−∞,0) 上でも定義可能ではあるが、(−∞,0]上では連続にならない。この 理由から(−∞,0] は Log の定義域から除く。
例 8.4.2 逆三角関数を、対数の主値を用いて表示出来る。例えば x ∈ [−1,1] に 対し
Arcsin x= 1
iLog (√
1−x2+ix).
証明:Arcsinx∈[−π/2, π/2] よりcos(Arcsinx) =√
1−x2. 従って
eiArcsinx = cos(Arcsin x) +isin(Arcsinx)
12θ(z)は、z と正の実軸との角度を(−π, π)で表したもの。従って、(1), (2)はごく自然。
= √
1−x2+ix∈C\(−∞,0].
上式両辺の Log をとれば結論を得る(命題 8.4.1(a4))。 \(∧2∧)/
例 7.5.4 は次のように一般化出来る:
命題 8.4.3 z ∈C,|z|<1ならLog (1 +z) =
∑∞ n=1
(−1)n−1zn
n (右辺は絶対収束).
証明:x, y ∈R,z =x+iy, |z|<1,
f(z) = Log (1 +z), g(z) =
∑∞ n=1
(−1)n−1zn n とする。命題8.4.1 (a4) より
f(z) = 12log((1 +x)2+y2) +iArctan y 1 +x. これを用いた直接計算(問 8.4.6)より、
(1) ∂f
∂x(z) = 1
1 +z, ∂f
∂y(z) = i 1 +z. 今、|z|<1 ならg(z) は絶対収束。故に
(2) ∂g
∂x(z) |{z}=
例7.2.5
∑∞ n=1
(−z)n−1 = 1
1 +z |{z}=
(1)
∂f
∂x(z).
同じく |z|<1 で
(3) ∂g
∂y(z) |{z}=
例7.2.5
i∂g
∂x(z) =|{z}
(2)
i
1 +z |{z}=
(1)
∂f
∂y(z).
故に、|z| < 1 の範囲で f(z)−g(z) = c (定数)。所が z = 0 で c = f(0)−g(0) = 0
\(∧2∧)/
問 8.4.1 命題 8.4.1 証明中の(1) を示せ。
問 8.4.2 命題 8.4.1 証明中の(2) を示せ。
問 8.4.3 次を示せ:z ∈ C, 1 +z2 ̸∈ (−∞,0]とするとき,1 ±iz ̸∈ (−∞,0] かつ Log (1 +z2) = Log (1 +iz) + Log (1−iz).
問 8.4.4 α, z ∈ C, |z| < 1 とする。exp(αLog (1 +z)) = ∑∞
n=0
(α
n
)zn (絶対収束) を 示せ。
問 8.4.5 x∈R に対し次を示せ:Arctanx= 2i1Log (1+ix
1−ix
).
問 8.4.6 命題 8.4.3 証明中、(1) を確かめよ。
9 (⋆)極限と連続 III — 積分への準備
(2013年3月21日更新)
第9節では,コンパクト集合上の連続関数に関する幾つかの事柄を述べる.これら は第10節で積分を厳密に論じるための準備であるが,第10節の(⋆)付き項目でのみ必 要なので,それらを飛ばすのであれば,第9節も飛ばしてよい.
9.1 ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理II (コンパクト集合)
ここでは、ボルツァーノ・ワイエルシュトラス の定理(定理 9.1.4)を通じ「コンパク ト」という概念を導入する。また、定理9.1.4 から、連続関数に関する最大・最小値存 在定理 (定理 9.2.1) を導く。
定義 9.1.1 (閉集合) A⊂Rd とする。A が、A 内の点列の極限になりうる点を全 て含むとき、A は 閉 であると言う。
例 9.1.2 (多次元区間)区間 I1, ..., Id⊂R の直積:
I =I1× · · · ×Id ⊂Rd.
を Rd の区間 と呼ぶ。特にI1, ..., Id が全て閉(開)区間ならI を閉(開)区間 と
呼ぶ。
定義 9.1.3 (部分列) (an) を Rd の点列とする。自然数列 ℓ(0) < ℓ(1) < ... を用い て(aℓ(n))と表される点列を(an) の部分列 と言う。
次の定理の中で「コンパクト」という概念を述べる。コンパクト集合上の連続関数が 持つ性質(最大・最小値存在や一様連続性)は微分積分学において大変有用な道具と
なる。
定理 9.1.4 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理 II) A⊂Rd とする。以下
の条件 (a), (b) について、A の有界性は(a) と同値、また、A が有界かつ閉である
ことは (b) は同値である。
(a) A 内の任意の点列が収束部分列を持つ(その極限は A の点でなくてもよい)。
(b) A 内の任意の点列が、 A の点に収束する部分列を持つ(このとき、A はコン パクト であると言う)。
注:定理9.1.4 より、Rd ではコンパクト性と「有界かつ閉」は同じで、両者を区別す
る必要はない。「コンパクト集合」とは、「有界閉集合」の別名で、特にコンパクト性 を強調したいときに使うものと考えればよい。
定理 9.1.4 の証明:有界⇒ (a): A は有界だから十分大きな ℓ に対しA⊂ [−ℓ, ℓ]d. A の点列 (xk)k≥0 を任意に取り、収束部分列の存在を言う。
d= 1 の場合: 区間[an, bn]⊂[−ℓ, ℓ],n = 0,1, ...を以下のように定める:[a0, b0] = [−ℓ, ℓ].
更にcn= (an+bn)/2に対し [an+1, bn+1] =
{
[an, cn], xk∈[an, cn]となる k が無限個あるとき, [cn, bn], xk∈[an, cn]となる k が有限個であるとき.
こうすると、任意の n に対し xk∈[an, bn]となるk が無限個存在するから、そのひと つをk(n) と書く。このとき、
an は有界かつ ↗, bn は有界かつ ↘, bn=an+ 2−n+1ℓ.
従って、区間縮小法(系 3.3.2)より(an), (bn) の極限は存在し等しい。更に、はさみ うちの原理より(xk(n)) は収束する。
d≥2 の場合: 次のようにして、d = 1の場合に帰着する。(xk)k≥0 の第1座標(xk,1)k≥0 にd= 1の結果を適用すれば、(xk)の部分列(xk1(n))n≥1であり、その第1座標(xk1(n),1)n≥0 が収束するものの存在が分かる。次に (xk1(n))n≥0 の第2座標 (xk1(n),2)n≥0に d = 1 の 結果を適用すれば、(xk1(n))n≥0 の部分列(xk2(n))n≥0 であり、その第2座標 (xk2(n),2)n≥0 が収束するものの存在が分かる。この際、(xk2(n))n≥0 の第1座標 (xk2(n),1)n≥0 は収束 数列 (xk1(n),1)n≥0 の部分列だから、これも収束する。従って 部分列(xk2(n))n≥0 は第1、
第2 座標が共に収束する。このようにして、順次部分列を選ぶことにより、全ての座 標が収束する部分列 (xkd(n))n≥0 を得る。これが、所期のものである。
(a) ⇒ 有界: 対偶を示す。Aが非有界なら、任意のn に対し n <|xn|を満たす xn∈A が存在する。(xn)の任意の部分列(xk(n))は k(n)≤ |xk(n)|をみたすから、収束しない。
有界かつ閉 ⇒ (b): A が有界なら、(a) より、A 内の任意の点列が収束部分列を持つ。
一方、A は閉だから、その極限はA の元である。
(b) ⇒ 有界: (b) ⇒(a) による。
(b) ⇒ 閉: xn∈Aかつ limn→∞xn=xとする。(b)より (xn)はlimn→∞xℓ(n) ∈Aとな る 部分列 (xℓ(n)) を含む。一方、(xℓ(n))は (xn) の部分列だからlimn→∞xℓ(n) =x よっ て x∈A. 以上よりA は閉である。 \(∧2∧)/
問 9.1.1 例 9.1.2 で、閉区間は閉集合であることを示せ。
問 9.1.2 (⋆) A ⊂ Rd とする。 A 内の点列の極限になりうる点 x ∈ Rd をA の触点 (adherent point) と呼ぶ。また、A の触点全体の集合を A と記し、A の閉包(closure) と呼ぶ。A, B ⊂Rd に対し以下を示せ:
(i)A は閉。
(ii)A ⊂B ならA⊂B.
(iii)A∪B =A∪B,A∩B ⊂A∩B. また、A∩B ̸=A∩B となる例を挙げよ。
(iv) A, B が閉なら、A∪B, A∩B も閉。
問 9.1.3 (⋆) f :Rd→Rk について次の条件(a)–(c) は同値であることを示せ:
(a) f ∈C(Rd →Rk).
(b) F ⊂Rk が閉なら f−1(F)⊂Rd は閉。
(c) G⊂Rk が開ならf−1(G)⊂Rd は開。
問 9.1.4 (⋆) A ⊂ Rd とする。任意の ε > 0 に対し有限個の点 xi (i = 1, ..., N) が存 在し、A⊂ ∪Ni=1B(xi, ε) となるとき、A は全有界であると言う(但し、B(x, ε) ={y ∈ Rd; |y−x|< ε}.) 有界であることと全有界であることは同値であることを示せ。
問 9.1.5 f ∈C(Rd −→Rk) に対し以下を示せ:
(i)F ⊂Rk が閉ならf−1(F)⊂Rd は閉。
(ii) K ⊂Rd がコンパクトなら f(K)⊂Rk はコンパクト。
問 9.1.6 (⋆) 次のような例を挙げよ:
(i)K ⊂Rはコンパクト、f ∈C(R→R), f−1(K)はコンパクトでない。
(ii) F ⊂R は閉、f ∈C(R→R),f(F) は閉でない。
問 9.1.7 0≤r≤R <∞ とするとき、以下を示せ:
(i) Ar,R = {x ∈ Rd ; r ≤ |x| ≤ R} はコンパクトである。特に A0,R は半径 R の球、
AR,R は球面である。
(ii) {x∈Rd; r <|x| ≤R}はコンパクトでない。
問 9.1.8 K1, K2 ⊂Rd に対しK1 +K2 ={x+y ; x∈K1, y ∈K2} とする。
(i)K1, K2 が共にコンパクトならK1+K2 ={x+y; x∈K1, y ∈K2}もコンパクトで あることを示せ。
(ii) (⋆) K1, K2 ⊂Rd が共に閉でも、K1+K2 は閉と限らないことを例示せよ。