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農業生産共同組織の構造と成員条件の同質性

一水稲集団栽培を中心として−   

第1節 はしがき  

農業生産共同組織の展開過程において成員の経営条件が同質的であるか否かば,きわめて重要な意味をもつと考   えられる.生産共同組織と類似した性格をもつ協同組合の存立基盤も成員の経営条件(以下,成員条件という)の   同野性にあるとみられる.すなわち,「農協が農民相互の組織として資本主義的な外囲に対抗するには,客観的に   も主観的にも・−・定の同質性の確認が不可欠の前提であり,同質性の確認は協同組合運動の中核である」49〉といわれ   る.そして兼菜化をはじめとする農民の異質化は農協の基礎である組織・運動原則の変更,修正を必要とするはど   に重大な問題を提起して−いるのである.   

このように協同組合においても成員条件の同質性が基本的に遷要であるが,もちろん厳密に考えれば,個々の成   員条件の完全な同質性を期待するのは額理である.だがその成員間の異質憾も資本主義的外囲との関係で生ずる全   体としての同野性に校べ,相対的に内部の異質性が小さい場合には協同組合内部に包摂しうるとされ50),また「期   待の同質性」Sl)があれば足りるという見方もある.   

流通や信用などの業務を中心とする協同組合に対し,農米生産共同組織においては生産面の組織化を行う関係   上,成員問により複雑な利害関係があるために,成員の同質性もより複雑な問題となる.須永頭光氏によれば,  

「共同作業は複雑な個別的差異をもつ農業者の各々を同一の労働者とし,それぞれの農作業能力を均一萬にみて,  

これを組織力によって十分に能率を発揮させる作業形式である.それに反し,実施される部落は,桝地がきわめて   複雑に細分され,かつ各地片は土質,水利,場所等によりその自然的差異が被雑になっている.さらに農家も家族   数,階級差,経営規模,経営形態,設備,尊・兼業の差,さらに個人の技能差により共同作菓の個人的均等化作用   と衝突する事態を発生し,共同作業により損失を招くと考える農民を生じ脱落を生じさせることさえある・従来の   多くの共同作兼ほかえって作業能率を低下させるのみならず,作共成損を悪化し,低位農家の集団たらしめた例の   多かったのは,これら復雑なぶ封凋藩の不均等性を無視するか,解決しえなかったためと考えられる」052)このよう  

に複雑な農村部落の不均等性の無視や,その解決の困難さが,共同作兼の失敗の原因であるとされる・   

以上は戦前の分析で,今よりも相対的に同雲那勺と思われる成員により,辛労働による比較的単純な共同作業が行  

われた場合であった.ところで,現在の生産共同組織のうち集団栽培が一つの主要な組織類型に含められるが,こ   れは共同作業とくらべて内容や利害関係がより複雑であり,また成員の経営条件を規定する環境条件も戦前にくら   べて変化がより著しいとみられる,このような生産共同組織における成員の同質性,異質性の問題を,次の諸点に  

関して検討しよう.   

第2節では生産共同組織における成員の同質憮とほ何か,またいかなる同質性の程度が必要であるか,これを組   織構造と関連させて検討する.第3節では成員の同質性と組織の発展について,第4節では内外の条件変化に対  

し,生産共同組織はいかなる対応と変化をするであろうか,というような点について,以下主として水稲集団栽培  

を中心に考察する.   

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第2節 生産共同組織の構造と成員条件の同質性   

組織の構造は抽象的,具体的に多様な次元をもっており,それぞれの次元についてもいろいろな構造のとらえ方   があるが,ここでほ封三産共同組織の株造を,目標,手段・要素,分配の三つの要素の面から考察する.これは生産共  

同組織の必要性,可能性,有利性の3条件に対応している.すなわち,組織化が個人単独で行うよりも「有利」であ   ると考える人びとが,共通の利害に結ばれて組織を「必要」とするとき,組織の統一・「目標」が設定される.「目標」  

を達成するには「可柁性」が不可欠であり,それは具体的にみれば労働,資本などの「要素」や「手段」である.   

つぎにこれらの要素や条件と成員の同質性との関係をみよう.それはまた共同組織と請負組織との差異をも明ら   かにするであろう.珪荏共同組織が形成維持されるためにほ組織化に伴う犠牲以上に利益があることが,まず必要   である.さらに珪産共同組織においては,成員間で利害が類似・同質的であることが必要になってくる.そのため   には,経営条件が類似するほど望ましいといえる.それは,経営条件の類似は組織目標の−・致をもたらしやすく,  

また提供要塞の質と義一における類似性を保障しやすいからである.ここで一応,次の3点が指摘できよう.   

(1)共通,類似の必要性なしには統一眉標を設定できない.   

r2)作付条件や出資,出役の可能性などの而で,経営内容が類似・同質的であるはど,集団栽培における大規   模生産に必要な条件が備わりやすい.請負や技術信託などの組織においては,作付条件の類似性ほ必要であるが,  

所有と経常,所有と労働が分離しているので出資や出役の必要はない.   

(3)生塵共同組織における利益の分配については,有利であり,かつ成員相互間に大きな不均衡がないことが   組織の維持にとり蛮要である.生産共同組織においては出資や出役とそれに対応する分配が平等原則に近づき類似   することが基本的に望■ましいとされている.これに反し,請負は当初の料金契約によって分配されるので,上述の  

平等性や類似性ほ必要でない.以上のように,各成員が目標,提供要素,分配などの面で相互に類似,同質的であ   るほど生産共同組織の形成や維持が容易となり,提供要素や分配の面で類似性が失われるにつれて,請負や技術信   託などの形態に接近する.   

ここで上記の3条件と同質性との関係について,より具体的に検討しよう.  

1 必要性   

生産共同組織が必要とされるには,まず関係農家の「共通の利害」がなければならない.この共通の利害を共同   で解決するために,組織の形成が要請される.水稲集団栽培ほ,一般に増収ないし省力のいずれかを,主たる目標   として形成される.周知のように,集団栽培の発生地である愛知県では,次のような契機で形成された.すなわち,  

兼業化や摘品作物生産の多様化につれ,水稲生産において品種や作付の時期,方法が次第に多様化する.それに伴   い,水の導入時期や防除時期が異なってくるが,その結果,次のような問題が発生する.  

・まず,早期栽児戯豪の水の導入によって,隣接農家は麦畑に浸水の損害を受ける.また生育期を異にするため防   除適期も異なるが,これは防除効果を減殺する.このように成員の技術的条件の多様化,異質イヒほ土地生産性向上  

の制約要因となる.この制約要因を克服する必要性が共通に認識されることが,集団栽培形成の基本的な実根とな   る.この場合,各戸の経営条件はある程度分化異質化しているのであるが,統一目標を設定しうる程度に同質的   であることが不可欠の条件である.各成員の共通の利害問題を解決するための組織の目標なり上組織の内容は成員   の経営条件の同質性の程度によってかなり規定されるであろう,その同質性が高度であるほど,組織の内容も必要   に応じて一定段階・までほ高度なものとなりうる.反対に異質性の一淀限度以上の増大によって,共同組織の形成は  

困難になり,むしろ請負耕作などの組織が形成されやすくなる.さらに異質性が増大すれば,請負組織も形成,維   持されがたくなると考えられる.   

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2 可能性   

つぎに可能性について検討するが,ここでほ主として目標達成の手段であり,同時に各成員の提供する要素の問   題である.  

(1)まず,技術協定は品種や作業の内容,時期などの協定をさすが,協定が実施可能となるためにほ土壌条件  

(少なくともブロックどとに)が類似し,作付方式も協定に関係する範囲内で類似することが必要である.この点   は,技術信託や請負耕作の場合においても同様で,無統制的に生産されるよりも集団栽培や,その他の方法により   技術協定が行われることが,有利であるのみならず,時にほその有無がその組織の存立にきわめて重要な影轡を与   えることも考えられる.零細新地の分散状態の基礎の」二に組織的に入坑楔巷産を遂行していくには,いかなる生産  

主体であっても上述の協定が必要であると考え.られる.   

(2)農家間の技術水準の格差が大きく,反収差が顕著である場合ほ,集団栽培の形成の障害となる.生産性の   著しい格差の存在ほ,むしろ請負耕作の形成要因になるとみられる$3〉.生産性の高い農家にとっては,低生産性の  

農家と集団栽培をして生産性を低下させるよりも,請負耕作の方がはるかに有利だからである.したがって−,篤農   家ほ一厳に集団栽培に消極的であり,西尾敏男氏によれば技術水準の分化が集団栽培形成の最大の障害になる嶺).  

しかし,このような技術水準の格差があるにもかかわらず,集団栽培が急速に普及し定着する場合がある.その代   表的事例として佐賀県における集団栽培の展開があげられよう.この場合も,農家間に各種条件の差異があり,利   害関係も同一・でほなかった.だが,新品種や密植多肥の新技術体系の増収効果が顕著で,その利益が仝戯家に及ぶ   と期待されたところに普及の原因があった(欝4節参照).   

(3)共同作業を伴う集団栽培においては,成員の提供する労働が質的,鼻的に類似するほど運営が円滑に行わ   れる.これは分配問題と最も密接な関係があり,生産共同組織に特有の平等原則ほ提供要素の質的,患的類似性を   基盤として機能すると考えられるからである.いま成員の提供労働の質鼻が全く等しい場合を想定すると,出役賃   金水準を決めたり,成員相互の出役労働の過不足に対して清罰する必要もない.これは生産共同組織の運営の面   で,最も望ましい状態であるともいえよう.この出役労働の質,鼻の分化をもたらす雷要な要周は米菓化であると   考えられるが,この分化は生産共同組織の変質,解消の主な原因となる.すなわち,兼業農家の労働が質的に低下   しても,平等原則に従って出役賃金に差異をつけがたいことに対して,啓発農家は不満をもつ.他方,兼菜農家は   出役が困難であったり,労働の苦痛皮が高いために,出役日数の増大を好まない.集団栽培の共同田植においては   部落内で労働力を調速す−る方針がしばしば採用されるが,そのさい田植期間が個人で行う場合よりも,はるかに延   長されるために,兼業農家の不満が増大する.これらの不満の増大は共同作兼の解消,または請負耕作への移行の   契機となる.このように出役労働の質的,盟的分化は共同作業の存続を困難にする.したがって兼業化が進展して   いる地帯においては,共同作業を伴う集団栽培が形成されがたく,愛知県において集団栽培が普及したのは,主と   して専業農家の比較的多い三河地方であって,より兼業化の進んだ尾張地方では請負耕作が普及したのも,上述の   理由による.   

(4)大型機械の共同導入や基盤整備事其の実施などについても,関係農家が同質的か否かで,その性格や成否   が左右されるように考えられる.まず,大型機械の共同導入についてほ,その機械に対する必要性のほかに,在来   の個人の小型機械の所有状況が問題となろう.すなわち,大半の農家が小型機械をまだ導入していないとか,ある   いは所有する機械が更新期にあるという点における類似性が,大型機械の共同利用の成否を左右する重要な要因と   なるのである脚.また兼業化や階層分化が進展し,農家間の異質性が顕著になると,共同利用は困難となり,同質   的な少数専業農家の共同利用組織が形成される.そして零細兼業農家は個人で行うか,または作業委託に依存する   というように分化する.