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水稲集団栽培における出役報酬決定要因   一組織形態の変化に関連して・−

第1節 はしがき   

前章において平等原則を検討したが,これほ本章でとりあげる分配問題においても重要な問題を提起する.   

ここで対象とする水稲集団栽灘とほ稲作の主要技術を協定し,圧】植や防除等の共同作菜を行うものである.集団  

栽培は土地または労働の生産性向上により,成員の農家所得の増大に寄与することを目標とする.前者は佐賀県   の,後者ほ愛知県の集団栽培に,その典当当をみることができよう.また機械化の程度についても小型の段階から中  

・大型機械化体系をもつものまであり,内容については技術信託との結合型や請負耕作化するものまでみられ,そ   の性格が次第に変質する傾向もみられる.   

さて,このような集団栽培において出役報酬を検討する意義は何であろうかくそれは出役報酬を含む分配問題が   生産共同組織の成立,発展,衰退,転形の基本的な一助因であるからである.組織はその存続のために,成員の寅   献意欲を刺敬するにたる利益を成員に提供しなければならない.その利益は余暇の増大等も含むが,中心は虚家所   得の増大で,稲作部門の粗生産額や受取出役報酬の増大,資本財費や支払賃金の減少等による稲作所得の増大が直   接的利益であり,稲作の労働節約を契機とする他作目部門や兼共部門の所得増大が間接的利益である.   

以上の利益のうち出役報酬はいかなる意味をもつかをみよう.集団栽培の成員は相互に雇主であり,かつ労働者   であり,一偏の相互雇用ともみられよう.そこで一一方では労働所得として,他方では費用として,ニ重の意味を出  

役報酬がもつわけである.ところで,苗代,臼1植,防除等の集団栽魔の費用の大半は成員の労働費が占める.した   がって集匝l栽培の費用は山役報酬水準の如何により変動をうけやすい.他方,所得としてみる場合,出役労働の塵   的・質的分化が問題になる.まず,畠的分化については単位面概当たりの山役基準日数よりも小経営は超過し,大   経営は不足し,階層別の出役.過不足が一般に認められる.この場合出役報酬は小経営には所得として,大経営には   費用としての意味が大きく,毘的分化が成員聞の問題になる.つぎに質的分化については功兼業農家問の労働の貿   の分化,リ・−ダ−やオペレータ・一等と一般成員聞の分化があげられる.組織の存続発展のためには,このような労  

働の質的・鼠的分化に対応した公正妥当な出役報酬の決定が要請される.   

このように山役報酬を蟄用としてみるか,所得としてみるかば成員の立場によって異なるが,短期の出役過不足   の少ない同質的労働による単純な共同作業ならば,山役報酬の意味は比較的小さいかもしれない.だが集団栽培が   長期継続し,山役過不足が野著になり,技術的に高度化するほど,労働報酬問題ほ組織の存続や解体の決定的要因   としての意味を強めるのである.それは肛役報酬が成員経済への影響を増すと同時に,報酬が妥当か否かは労働意   欲に鋭敏に反応し,組織目株の速成にも少なからぬ影野をおよぼすからである.さらに集団栽培の内外の条件はた   えず変動し,とくに兼業機会の増加は成員労働力を流出させるために,外部市場償金との関係が遥要な意義をもつ  

ようになることも考ガ岩二を要する.   

このように山役報酬ほ対内的にも対外的にも問題をもち,かつ雨者のl矧連は洗いのであるが,凍茸では出役報酬   の水準に重点をおいて考察したい.以下,第2節では出役報酬ほいかなる水準にきまるか,その実態を検討する   が,それは対外格差をもつような低い水準にきまる.それではその原因は何か.節3節で伝統的・地縁的要因と経   済的要因とについて検討する.最後に集団栽培の展開過程において主要な決定要因の変化にふれる.   

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第2節 出役報酬の実態と検討   

集団栽培の出役報酬水準の検討には何らかの比較対象が必要であり,同一地域の非農薬賃金,農菜臨時雇賃金,  

稲作部門1日当たり家族労働報酬等が対象として考えられる.もとよりこれらの比較対象は比較上の多くの問題点   をもつものである・だが,ここでの比較目的はこうである.成員が農家所得の増大をはかる立場確立ち,集団栽培   の出役報酬と退択可能な外部市場賃金を比較することば集団栽培の出役報酬水準を知り,かつ集団栽培の展開の動   因として理解することに役立つのである.そして,ここでは現実に集団栽培において比較対象とされている田植雇   用賃金(田植期)と土工賃金(田植期以外)を主な比較対象とす■る.なお成員にとり資金比較以⊥に集団栽培によ  

る受益が重要であるが,この点は後にのべる.以下,愛知,佐賀両県の袋田栽培における昭和41年皮の実態からみ   よう.  

(1)愛知県桜井勒東町部落では,作菜種類(蘭代,田植),職能別(役員,オペレークー,−・般),性別を問わ   ず1日(8時間)700円に統一・されている.なお年齢差別もほとんどなく,貨幣額では均等である.ただ出役日数   の面で1日の出役日数をオペレータ・−は1.5日,田植1.2日,休日のみ出役する兼業農家は0.8日等,作巣の内容や   能力に応じ評価を異にし,この評価により各自の面積常応ずる義務出役目放から差引かれる.したがってオペレ=一   夕、−は一般成員にくらベ3分の2の出役日数ですむわけで,これを考慮すれば実質的には特定の職能や能力に応じ   て出役報酬に格差があるわけである.だが,現金清算はできるだけ回避して出役不足者には道修理等の「村仕事」  

を割当て調整する点に「ゆい」的労働交換の性格の残存をみることができよう.   

他方,田植雇用賃金は,2,000円内外であり,賄蟄等を加算すれば2,500円程度とみられる.また土工賃金は男で   1,200〜1,500円,女で600円程度である.したがって単純な内外賃金比較をすれば−戯確かなりの格差がある.   

(2)佐賀県の佐賀市F,.三日月村H,鳥栖市Ⅰの3普15落における報酬水準は,ほとんど同一・である.田植や防   除は大体1時間100円(田植は通常12時間),その他蔑代や炊乱託児所の労働は時間当たり70〜80円である.性別  

・年齢別差はなく鶉幾・兼巣別の差もない.職能別では役員の管理労働が−・般に無報酬で,県からの役員手当補助  

金(1集団年間6,000円,1/5補助)も個人的に受けとらず,年1回の県外視察旅行(1泊程度)が唯一の報酬であ   るといえる.またオペレータ・−は調査地では個人質桝であるが,同県では−・般に「時間当たり100〜150円程度で一・  

般の機械運転技能労務者の賃金水準より著しく低い」93)といわれる.また田植雇用賃金は1時間当たり180円であ   り,賄費を加えれば染田栽培の報酬の倍以上になろう.そして一般に出役報酬は「雇入れ労働の賃金より安いが,  

集団外の−・般労働に就業しえない労働力に対してほ評価が比較的高いJウ4〉といわれる.   

(3)以上,愛知,佐賀県の集団栽培の出役報酬水準を,1日8時間当たりに統一すると愛知県では700円,佐   賀県では560〜800円であり,いずれも外部市場賃金率と相当の差が開いており,後者ほ前者の2〜3イ割こ達する場   合がある.また昭和40年皮の稲作部門1日当たり家族労働報酬と比較すると愛知県では2,170円,佐資県でほ3,982   円であり9S),この点でも相当な差がみられる.このように出役報酬は外部賃金や稲作家族労働報酬にくらべて,  

一腰的にかなり低いといえる.   

つぎに内部の成員問の場合には,性肌年齢別の差異は少ないか皆撫で,能力別差異もつけない方が多い.かつ   時期的にみても農巣臨時雇賃金にくらべ,ほるかに平準化され,労働の非効用に応じ若干の格差をつける傾向にと   どまる.このような傾向は成員の能力よりも平等の人格に対して均等の報酬を給付しているとみられ,これを平等   基準とよぶことがで卓よう.集団栽培は機能集団であるが,これと表裏一体の関係にある部落共l司社会における人   格的結合の性格が平等基準を強化するといえよう.そして資本主義社会では貢献や能力に応じた貢献基準96J,によ   

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る分配がより重視されている事実と顕著な対照を示している.したがって集団栽培の外部社会が員献基準に従うと   すれば,集団栽培の展開過程において,単に報酬水準の対外格差のみならず,内部において平等,貢献の雨基準の   対立が大きくなり,集団栽培の性格自体に大きな変容がもたらされるのではなかろうか.   

ともかく,このような平等基準により,より高い能力をもつ青壮年男子労働の報酬は外部賃金率との格差が大で   あり,就業機会の乏しい老人や未熟練者の場合には外部と差がないか,時には有利である場合もある.さらに集団   栽培の労働費が抑制される傾向があるが,その傾向が強いほど平等基準によって労働能力のある成員の報酬水準と   外部賃金率との差が拡大される.   

さらに,リーダーをはじめ役員の管理労働に対し貨幣的報酬を給付しない傾向は普遍的であり,・一般労働と同一・  

評価をうける桜井叫のような例は少数であると思われる.その原因は名誉職と棺神労働に対する農村の伝統的観念   によるものであるが,その米審の内容は封画,指弧労働調達,柄算等で,その従事日数はたとえばある集団では  

9人の役員で年間10日前後である.問題は単に醸償労働のみでなく,労働調達,収盛上の式任,成員の不満の調整   等の精神的負担や見学者の応待による時間的,経済的損失等も無視できない.このような役員,とくにリーダ・−の   負担は役員忌避の傾向も生みだしている.高い能力と努力を要求される職能ほど壬宣幣的報酬が少なく,表面化しな  

い負担が大きい事実は農村の共同組織に広くみられ,近代社会において高い能力を要する職位と貨幣的報酬が比例   する傾向と顕著な対照を示すのである.そして,この傾向は共同組織の一定限度以上の継続と発展の制約要因とし   て作用してきたのである.  

第3節 出役報酬の決定要因   

完全競争の場合には同一・労働ほ同一償金をうけ,名人の労働の非効用に応じて賃金格差が存在するのみである.  

ところが,集団栽培では以上のように出役報酬が対外的に低く,内部的にも問題が多いとすれば,その原因は何で   あろうか.さて,以下その要因を検討するのであるが,現実の分配問題ほその社会の支配的価値理念や伝統と密接   な関係をもつものである.そして集団栽培は前近代性の残存する部落を母体として成立しているだけに伝統的・地   縁的要因の比重も大きい.■また経済的要因は社会的要因と密接に関連しているために,両者の純粋な分離は困難で  

ある.だが,ここでは伝統的・地縁的要因と経済的要因に大別して考案しよう.  

1 伝統的・地縁的妾困   

出役報酬問題がその社会の価値理念と深い関連をもつとすれば,集団や農家がいかなる価値体系をもち,いかな   る程度の「経済人」であるかが問題となろう.ここで農民性をみると,かつて「利」は慣習的秩序に従うことを  

「利人」に要請し,「村人」の自主的な要求は抑えられ,「分に甘んじることによって集団の和を保持」し「慣習を  

歪んじ樅威に服従する」性格が形成され,農民の利己心は抑圧されていた.貨幣経済の浸透は利己心を育成してい   くが,農民の利己主義が顕在化するのは農地改革後およびその後の兼業化によるとされる97)。このように農民性ほ  

変化し部落の秩序や規制力も弱化したが,反面生産上で部落から完全に自立することも困難である・   

さらに集団栽培が凪現すると品柾や技術を協定し,出役を義務づける点で生産面の秩序と規制力が強化されて−く  

る.こうして集団栽培の成員は自己の利益追求の欲求を強くもちながら,反面では集団(本来,成員の利益を助長   する役割をもつ)の秩序や規制に従わざるをえないし,伝統的農民怯も程度の差ほあれ残存しているとみてよいで   あろう.そして成員の価値体系において,経済的および非経済的要因のいずれが,どの程度の比重をもつかは,そ   の立場(役職の有無)や利害関係,また時間の推移により変るであろう.そして兼業化の進展は成員の価値体系   中,経済的要因を強めるものであり,−㈲こ時間の推移につれて経済的要因がより強くなると考えてよいようであ