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会社の経営に参画する権利

ドキュメント内 インド会社設立手続き (ページ 52-68)

第 2 章 会社

第 3 節 会社の機関

3 会社の経営に参画する権利

株主が会社の経営に参画する方法には、大きく分けて①株主総会での議 決権行使、②少数株主権の行使の 2 つが挙げられる。そこで以下、株主総 会の場面と少数株主権行使の場面に分けて、株主の会社の経営に参画する 権利(いわゆる共益権)を概説する。

なお、①株主総会での議決権行使について、インド会社法170条1項は、

株主総会の招集、定足数、議決権行使方法等について定める同法 171 条か

26 たとえば、日本企業がインドに100%子会社の現地法人(非公開会社)を設立する場合、発行 株式数を1000株として、998株を日本企業が、残り2株を当初取締役(脚注21参照)となる者 が保有し、さらに当該当初取締役が日本企業のための名目的株主となることを宣言するなどの方 法がある。

ら 186 条を、公開会社については強行規定(条文上「附属定款で別の定め ができる」と明文で規定されている場合を除き、附属定款で別の定めをし たとしても無効)としつつ、非公開会社については任意規定(附属定款で 別の定めをした場合には、そちらが優先される)としている。そのため、

非公開会社については、附属定款に定めを置くことにより、下記に述べる インド会社法 171 条から 186 条の適用を排除し、自ら定めたルールにより 株主総会を運営することが可能である。

(1) 株主総会

ア 株主総会の種類と開催時期

インド会社法上、株主総会には、法定株主総会(statutory meeting)、定 時株主総会(annual general meeting)および臨時株主総会(extraordinary

general meeting)の3種類がある。

法定株主総会は、会社成立後 6 ヶ月以内に開催されなければならず、

法定報告と呼ばれる報告において、引受け株式数や取締役の情報等が当 初取締役(脚注21、本節の第2、1、(2)、イ参照)により報告される(165 条)27。法定株主総会を開催する必要があるのは公開会社のみであり、非 公開会社はこれを開催する必要がない(同条10項)。

定時株主総会(166条)および臨時株主総会(169条)は、日本の会社 法とほぼ同様の位置づけであり、前者は原則として年 1 回かつ前回の定 時株主総会から15ヶ月以内に(ただし、最初の定時株主総会は会社設立 から18ヶ月以内に)開催され、決算報告や取締役の選任等の決議が行わ れる。後者は必要に応じて開催され、開催の目的とされた事項が決議さ れる。

定時株主総会の開催時期については、インド会社法上特に規定はない。

もっとも、定時株主総会における決算報告は、日本の決算報告書に相当

するAnnual Returnと呼ばれる書類の総会への提出、株主による承認とい

うプロセスで行われるところ、Annual Return は会計年度28の末日から 6

27 法定株主総会は、会社成立後に開催されるものであって、開催が会社成立の要件というわけ ではないため、日本の会社法上の創立総会とは性質を異にする。

28 インド会社法上、一定の業法規制を受けている会社を除き、会計年度は原則として会社が定 款で自由に定めることができる。もっとも、インド税法上、法人税の課税年度が41日から3 31日までとされていることとの関係上、多くの会社は決算期を41日から331日までと 定めている(もし会計年度を41日から331日まで以外と定めた場合、Annual Returnを当 該会計年度に従って、税務上の決算書類を41日から331日までの期間に従って作成する 必要があるため、会計上の手間が2度生じることになる。)。なお、定時株主総会の開催頻度が

ヶ月以内に作成されたものでなければならないとされているため、会計 年度の末日から 6 ヶ月以内というのが事実上の定時株主総会の開催期限 となる。

定時株主総会は、原則として会社の登記住所または当該登記住所のあ る市町村内のいずれかの場所で開催されなければならない(166条2項)。 一方、臨時株主総会については、インド会社法上、開催場所の規定がな く、召集通知に場所を記載しさえすれば、外国で開催することも可能で あると解されている。

イ 株主総会の召集

いずれの株主総会も、取締役会の決議により召集され(165条2項、169 条1項。定時株主総会については明文規定はない)、召集通知は原則とし て開催の 21 日前までに株主に対して送付される(165 条 2 項、169 条 1 項、171条 1項)。ただし、定時株主総会においては議決権を持つ株主全 ての同意を得た場合、臨時株主総会においては 95%の株主の同意を得た 場合には、召集期間を短縮することも可能である(171条2項)。

召集通知の送付期限である開催21日前よりも前のいずれかの日に、株 主総会の基準日が設定され、当該基準日時点での全ての株主に対して召 集通知が送付される。ただし、株主が死亡した場合や破産した場合等は 当該株主の代理人に対して送付され、またインド国内に登録住所がない 株主において、当該株主が会社の監査役を書類の受取人として指定して いる場合は、当該監査役に対して送付される(172条)。

召集通知には、株主総会の開催日時、場所及び議案が記載され、議案 によっては議案の内容を説明する文書の添付が必要とされる(173条)。 ウ 株主総会の議長

株主総会の議長は、定款に規定(標準附属定款2950条では、「株主総会 の議長は取締役会の議長が務める」と規定されている)がある場合には それに従って、規定がない場合には出席株主による多数決により、その

15ヶ月に1回以上とされていることと対応して、会計年度も15ヶ月まで延長することが可能で ある。定時株主総会の開催期限、会計年度ともに、さらに3ヶ月を上限として延長することも可 能であるが、その場合、会社登記局(Registrar of Company)の事前承認が必要となる。

29 インド会社法の法令に別紙(Schedule 1, Table A)として添付されている附属定款。会社がそ の適用を一部または全部排除することを明示した独自の定款を採用しない限り、会社の附属定款 として適用される(第28条)。第1節の第32(4)、ウ参照。

都度選任される。議長の選任は、定款に議決権数を基準として選出する 旨の規定がない限り、出席株主の議決権数ではなく挙手人数を基準とし た多数決により行われる。

なお、インド会社法では、議長の選任のみならず、株主総会の議案自 体についても、挙手人数による多数決での決議が原則とされている(下 記オ、(イ)参照)。日本の会社法下では、株主総会の議長は基本的には議事 の進行役にとどまり、その権限も議事進行に必要な限度でのみ認められ ているのに対し、インド会社法下での株主総会の議長には、決議の成否 を最終的に判断する権限が与えられており(178条)30、また標準附属定 款の規定上、賛否が拮抗した場合の決定権が与えられているなど(下記 カ、(エ)参照)、決議の成否自体に影響しうる強い権限が与えられているた め、議長の決定は日本の場合と比べてはるかに重要な事項となる。

エ 議事録の作成および会社登記局への報告

株主総会開催日から30日以内に、株主総会の審議、決議についての議 事録を作成し、株主総会の議長が署名する必要がある(193 条)。また、

株主総会における決議内容は、同様に株主総会開催日から30日以内に会 社登記局(Registrar of Company)に提出されなければならない(議事録を 添付する形式でも良い)。

特に、定時株主総会においては、決算承認が行われるため、貸借対照 表および損益計算書についても、株主総会開催日から30日以内に会社登 記局に提出されなければならない(220 条)。公開会社については、提出 した貸借対照表および損益計算書のいずれも、株主以外の者が閲覧する ことが可能である。一方、非公開会社については、貸借対照表は公開会 社と同様株主以外の者の閲覧対象となるものの、損益計算書は株主以外 の者の閲覧対象となることはない(220条1項)。

オ 定足数および決議方法

(ア) 定足数

いずれの株主総会についても、その定足数は、公開会社については5 人以上の株主、非公開会社については2人以上の株主となる。ただし、

30 178条は、議長が宣言した決議の成否やその内訳(全員一致、過半数の賛成等)は、議長 の宣言以外の他の一切の証拠なくして事実とみなされる旨規定している

定款でこれより多い人数を定めている場合、それに従う(174条1項)。 日本の会社法と異なり、保有する議決権の数ではなく、株主の人数で 定足数が定められていることに十分な注意が必要である。

たとえば、合弁会社において、出資比率(保有議決権数)が日本企 業側60%、インド企業40%である場合(この場合、当該合弁会社は必 ず公開会社となる。第2節の第2、2、(1)参照)であっても、株主の人 数(名目的株主を含む。)が日本側2人、インド側5人であれば、定款 に定足数の加重規定がない限り、インド側の株主が全員出席するだけ で定足数がみたされてしまう。3で述べるとおり、株主総会決議は出席 株主のみによる議決権行使により行われるのが原則であるため、公開 会社である合弁会社においてインド側の株主の人数が 5 名を超えてい る場合、意見の不一致等を理由として日本側の株主が株主総会をボイ コットしたとしても、インド側の株主のみで株主総会を開催し、普通 決議事項および特別決議事項ともに決議できてしまうことになる。

そのため、インドで合弁会社を設立する場合、議決権数のみならず 株主数にも注意する必要があり、定款で定足数を加重するなどの対応 が必要となる。

(イ) 決議の方法

①挙手(showing hands)か投票(poll)か

株主総会決議は、出席株主による挙手(showing hands)により行 われるのが原則である(177条)31。決議要件は、下記カで述べると おり、普通決議につき出席株主の過半数の賛成、特別決議につき出 席株主の 4 分の 3 以上の賛成であるが、挙手による決議が行われる 場合、保有議決権数ではなく挙手人数により決議の成否が決まる。

この点、どのような場合でも保有議決権数を基準として多数決を行 う日本の会社法と大きく異なるため、十分な注意が必要である。

たとえば、上記(ア)の例の合弁会社において、日本側株主およびイ ンド側株主の全員が株主総会に出席した場合で、インド側株主全員 が賛成挙手し、日本側株主全員が反対挙手した場合、5対2で賛成挙 手者が過半数を超えているため、保有議決権数は日本側株主の方が 上回っているにもかかわらず、普通決議が成立してしまう。また、

31 現在のインドの実務上、上場会社であっても、投票による決議が行われる場合はまれであり、

ほとんどが挙手による決議となっている。

ドキュメント内 インド会社設立手続き (ページ 52-68)

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