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事業譲渡(私的事業譲渡)

ドキュメント内 インド会社設立手続き (ページ 106-110)

第 2 章 会社

第 6 節 組織再編

2 事業譲渡(私的事業譲渡)

(1) 定義

事業譲渡に関する重要な定義は1961年インド所得税法において行われて いる56。具体的には、事業譲渡は同法 2 条 42C 項に定義されており、事業

(undertaking)は同条19AA項に定義されている。

それによれば、事業とは、全体として引き受けられている事業活動

(business activity taken as a whole)と定義されている。この事業の全部また

は一部を、他の事業体に対して移転するのが、事業譲渡となる。

(2) 手続

公開会社が譲渡会社となる事業譲渡を行う場合、全部譲渡であっても一 部譲渡であっても、譲渡会社は、取締役会決議および株主総会普通決議に おいて、事業譲渡契約の承認その他の形式で事業譲渡を承認しなければな らない(第293条1項(a))。さらに、この場合において、譲渡会社が上場会 社である場合、株主総会決議は郵便投票(postal ballot)で行われる必要があ るとともに、株主総会決議に先立って当該会社が上場している証券取引所 に対して報告が行われる必要がある。

一方、譲渡会社が非公開会社である場合、株主総会決議は不要であり、

事業の全部譲渡であっても取締役会決議で決定することが可能である。

また、譲受会社の側について、インド会社法上、譲受会社は、公開会社、

非公開会社を問わず、事業の全部譲受けの場合であっても株主総会決議ま では不要であり、取締役会決議のみを経れば足りるとされている。

事業譲渡の対価は、事業評価額相当の現金で支払われる必要があり、譲 受会社が株式を発行する方法による支払いは認められていない57

(3) 効果

ア 権利義務および契約上の地位の承継

56 インド会社法上の組織再編にかかる用語が1961年インド所得税法で定義されているのは、日 本と同様、組織再編に適用される優遇税制があるためである。

57 ただし、実務上、株式発行の方法により対価を支払う方法が取られる場合がある。この場合、

特に裁判所が関わる事業譲渡において、税務上の優遇措置を受けることができるかについて、解 釈が分かれている。

事業譲渡の効果は、譲渡対象事業における権利義務および契約上の地 位の包括的な承継である。

もっとも、私的事業譲渡の場合、日本法の場合と同様、事業譲渡の効 果を第三者に対抗するためには、原則として事業譲渡についての債権者 の個別同意が必要となる。

イ 登録、認可、事業ライセンス等の承継

私的事業譲渡であると裁判所の関与する事業譲渡であるとを問わず、

譲渡会社が保有していた登録、認可、事業ライセンス等が事業譲渡に伴 って譲受会社に移転することはなく、譲渡会社および譲受会社が、それ ぞれの監督官庁に事業譲渡による登録、認可、事業ライセンス等の移転 を申請し、それが認可される必要がある。

ウ 従業員の承継

譲渡事業に従事していた従業員は、以下の要件がみたされている場合 には、事業譲渡に伴って、原則として個別の同意なくして譲受会社に承 継される。

①事業譲渡後においても承継される労働者の従事する業務に変更がない こと

②労働条件が事業譲渡前よりも不利にならないこと

③労働者を承継する譲受会社が、事業譲渡契約上、退職金(当該事業譲 渡がなければ受領できていたであろう退職金と同額である必要があ る)の支払い義務を引き受けていること

上記の要件がみたされていない場合、譲受会社は個別の同意なくして 労働者を承継することができず、譲渡会社は退職を希望する労働者に対 して、1947年産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)25F条に従って退 職金を支払うなどの手続を行う必要がある58

58 1947年産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)25F条は、通常解雇一般を規定する条文であ る。同条によれば、会社が労働者を解雇(retrenchment)する場合、①1年以上継続勤務した労 働者に対する1ヶ月以上前の通告、②1年以上継続勤務した労働者に対する退職補償金(勤続年 数に各年の15日分の賃金相当額を乗じた額)の支払い、さらに③インド政府への届出が必要と される。なお、ここでいう「労働者」とは、インド労働法上の概念である「workman」を意味し ており、non-workman」については同条による保護対象とはならない。第7節、第41参照。

エ 税務上の効果

私的事業譲渡においては特筆すべき税務上の効果はなく、譲受会社は、

譲渡会社の繰越欠損金を引き継ぐことはできず、また事業譲渡に伴って 承継される固定資産の含み益に対するキャピタルゲイン課税を回避する こともできない。さらに、譲受会社は営業権の償却費を損金参入するこ ともできない。

(4) メリットとデメリット

組織再編手法として私的事業譲渡を用いることのメリットとしては、当 事者の合意のみで事業譲渡を行うことができることから、事業譲渡手続自 体を簡単かつ迅速に行うことができるという点が挙げられる。

一方、私的事業譲渡のデメリットとしては、まず、事業譲渡に伴う権利 義務および契約上の地位の移転について、債権者の個別同意が必要となる ため、債権者が多数いる場合には、同意取得のために多大な手間がかかる という点が挙げられる。また、税務面でのデメリットとして、私的事業譲 渡の場合、譲受会社が譲渡会社の繰越欠損金を引き継ぐことができないこ と、事業譲渡に伴って承継される固定資産の含み益に対するキャピタルゲ イン課税を譲受会社が回避することができないこと、および譲受会社が営 業権の償却費を損金参入することができないことなどが挙げられる。

第 3 裁判所が関与する組織再編

1 概観

(1) 裁判所が関与する組織再編の種類

インド会社法上、裁判所(高等裁判所)が関与する組織再編には、合併

(amalgamation)、会社分割(demerger)および裁判所が関与する事業譲渡が

ある。これらの組織再編は、裁判所への申請、認可という手続を経て行わ れる59

59 2002年の会社法改正により、上記各組織再編の申請先は、裁判所(Court)から内国会社法裁

定所(National Company Law Tribunal)に変更されているが、20085月現在、同改正は未施行 であるため、現時点でも組織再編の申請先は裁判所である。なお、脚注39参照。

事業譲渡を行う場合、裁判所が関与する事業譲渡のほか、上記第 2 で述 べた私的事業譲渡の方法によることも可能であるが、合併および会社分割 については必ず裁判所に対する申請により行う必要がある。

(2) 共通のメリットとデメリット

裁判所が関与する組織再編に共通するメリットは、以下のとおりである。

①譲渡会社、合併消滅会社または分割会社の権利義務及び契約上の地位が、

債権者による個別同意の取得その他の行為なくして、自動的に譲受会社、

合併存続会社または分割承継会社に移転する。

②合併消滅会社または分割会社の全ての登録、認可、事業ライセンス等が、

特段の手続なくして、合併存続会社または分割承継会社に移転する(事 業譲渡の場合、裁判所が関与する事業譲渡であっても、これらは移転し ない)。

③組織再編計画(裁判所が関与する組織再編において裁判所に提出される 組織再編の計画書)は、一度裁判所で認可されると会社の株主および債 権者を法的に拘束するため、手続が進めやすい。

一方、裁判所が関与する組織再編に共通するデメリットは、以下のとお りである。

①裁判所の審査および認可、公告、利害関係人による異議申立て等のプロ セスを経ることが必要となるため、時間がかかる。裁判所が関与する組 織再編を行う場合、規模が小さいものであっても少なくとも 4 ヶ月から 半年程度かかるのが通常である。

②事業譲渡契約、合併契約および分割契約の内容や、交渉の結果等、重要 な事項が裁判所において全て公開されてしまうため、秘密保持が確保で きない。

③組織再編計画が、認可の過程で裁判所に修正される可能性があり、その 修正が当事者にとって好ましくないものである可能性がある。ただし、

組織再編の当事者は、裁判所による修正が受け入れ難いときには組織再 編計画を撤回することができる。

(3) 上場会社の場合

上場会社が、裁判所が関与する組織再編を行おうとする場合、その計画 について裁判所の認可を得るだけでは足りず、裁判所に組織再編計画が提

出される少なくとも 1 ヶ月前までに、当該上場会社が上場している証券取 引所に組織再編計画が提出される必要がある。さらに、証券取引所におけ るさまざまな段階での開示規制に服するとともに、インサイダー取引規制 にも注意する必要がある。

裁判所が関与する組織再編において、上場会社が合併消滅会社または分 割会社となり、非上場会社が合併存続会社または分割承継会社となる場合、

一定の条件をみたせば、合併存続会社または分割承継会社は、新規に株式 上場の手続を経ることなく、合併存続会社または分割承継会社が上場して いたのと同じ証券取引所に上場することができる。かかる条件には、合併 存続会社または分割承継会社の株式資本の少なくとも 25%が合併消滅会社 または分割会社の一般株主に割り当てられること、合併存続会社または分 割承継会社の合併前の株式資本について 1 年間譲渡が禁止されること、さ らに合併存続会社または分割承継会社の発起人の保有する株式資本につい て3年間譲渡が禁止されること、などが含まれる。

一方、上場会社が合併存続会社または分割承継会社となる場合、通常、

合併存続会社または分割承継会社が合併または分割に際して発行する株式 の譲渡が禁止されることを条件に、当該新規発行株式の自動上場が認めら れる。

以下、組織再編行為ごとに分けて解説を行う。

2 事業譲渡

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