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監査役

ドキュメント内 インド会社設立手続き (ページ 89-93)

第 2 章 会社

第 3 節 会社の機関

1 監査役

(1) 定義および人数

インド会社法上、監査役(auditor)は、会社の会計監査および監査意見の 表明の権限を有する一方、業務監査権限は有していない(227 条)。この点 で、インド会社法上の監査役は、原則として業務監査権限を有する日本の 会社法上の監査役とは大きく異なっており、むしろ会計監査人に近い存在 であるといえる。

インド会社法上、業務監査を行うとされているのは、後述の監査委員会

(基本的に取締役により構成される)である。すなわち、インド会社法上 の監査役および監査委員会は、日本の会社法上の会計監査人および委員会 等設置会社における監査委員会に相当するといえる(なお、インド会社法 上、会計監査人という機関は存在しない)。

その会計監査人としての性格から、インド会社法上、監査役は 1 人で足 りると解されている。

(2) 適格要件および不適格要件

インド会社法上の監査役は、日本の会社法上の会計監査人に相当するこ とから、個人で監査役となりうるのは、原則として1949年インド勅許会計

士法(Chartered Accountants Act, 1949)に基づく勅許会計士の資格を有する

者のみとされている(226条)

また、日本の会社法上は監査役になりうるのは個人だけであるが、イン ド会社法上は個人のみならず会計事務所(firm)自体も監査役になることが 可能である。この点も、インド会社法上の監査役の会計監査人としての性 格を示唆するものである。

なお、上記要件をみたすものであっても、以下のいずれかに該当する者 は、監査役に就任することはできない(226条 3項)。監査役に選任された 後にこれらの不適格要件をみたすに至った場合、その時点で任期が終了し たものとみなされ、監査役を退任したものとみなされる。

①企業(body corporate)

②当該会社の役員または従業員

③会社の共同出資者または被雇用者

④会社から1000ルピー超の貸付または保証を受けている者

⑤当該会社の議決権付証券(株式など)を保有している者 (3) 選任および解任ならびに任期

監査役は、定時株主総会における普通決議により選任され、その任期は

次回の定時株主総会までの1年間とされている(224条1項)。ただし、会 社設立後最初に選任される監査役は、会社登記後 1 ヶ月以内に取締役会に より選任され、その任期は最初の定時株主総会までとされる(同条 5 項)。 取締役会が選任しなかった場合、最初の株主総会(法定株主総会を除く)

において、最初の監査役が選任されることになる。

監査役の選任においては、会社が一方的に監査役を選任するということ はできず、選任の前に監査役候補者から選任についての同意書面を取得し ておく必要がある。会社は、選任から 7 日以内に監査役として選任した者 に対して選任通知を送付する(224条 1項)。会社から「監査役」として選 任された者は、選任通告から 1 ヶ月以内に、会社登記局(Registrar of

Company)に対して書面で当該選任を受諾したか辞退したかを通知する必要

がある(同条 1-A)。もっとも、上述の通り、選任前に監査役候補者の同意 書面を取るため、実際に辞退が生じるのは、健康上の問題など急な事情の 変化が生じた場合のみであるのが通常である。

1 人の個人または会計事務所が監査役を兼任できる会社数には制限があ る(同条1-B、1-C)。一般的には、公開会社の監査役となる場合、他に監査 役に選任されている会社の数が、当該公開会社自身も入れて10社以下であ る必要がある。ただし、他の全ての会社の資本金が 250 万ルピー以下であ れば、20社まで兼任可能である46

監査役は再任が原則とされており、以下の各場合に当てはまる場合を除 いて、監査役は再任されなければならないとされる(224条2項)。

①監査役が再任不適格となった場合

②監査役が自ら再任を辞退する書面を会社に提出した場合

③株主総会において、前任の監査役を再任しないこと、およびその代替と して新たな監査役を選任することを明示的に決議した場合

④新任の監査役を選任するための決議を、当該監査役の死亡等の理由によ り行うことができなかった場合(その後に、さらに別の者を新任の監査 役として選任する意図があることを想定)

また、会社が定時株主総会で監査役を選任しなかった場合、インド中央 政府が会社の代わりに監査役を選任する(224条 3項)。このインド中央政 府による選任権限行使のため、会社は、監査役を選任しなかった定時株主 総会から7日以内に、その事実をインド中央政府に通知しなければならず、

46 このような兼任制限から、個人会計事務所においては、実務上、事務所の若手勅許会計士を 顧客企業の監査役に選任させつつ、実際の会計監査は当該会計事務所の経験ある勅許会計士が行 う(あるいは若手勅許会計士を監督して監査させる)ということが行われている。

これを怠った場合には取締役に対して5000ルピーを上限とした罰金が課さ れる(同条4項)。

監査役が、不適格要件をみたすに至った等の理由で退任した場合、取締 役会が代わりの監査役を選任する。この代わりの監査役の任期は、退任前 の監査役と同じであり、したがって、次回の定時株主総会までである(224 条6項)。一方、監査役が、自発的に辞任した場合、取締役会が代わりの監 査役を選任することはできず、再度の選任は株主総会の普通決議でのみ行 うことができる。そのため、監査役が任期途中で自発的に辞任した場合、

会社は臨時株主総会を招集して代わりの監査役を選任する必要がある。

会社が監査役を自由に解任することはできず、監査役をその任期中に解 任する場合、株主総会普通決議に加えてインド中央政府の事前承認が必要 となる(224条 7項)。実務上、この事前承認を得るためには一定の正当な 理由(監査役の職務怠慢、会計監査事務上の過誤の存在等)が必要であり、

特に理由もなく解任することは事実上認められていない。

(4) 監査役の権限および責任

監査役は、会社の会計監査を遂行する義務を負っており、そのために必 要な行為を行う権限を有している。

具体的には、監査役は、本社に保管されているものであるかどうかを問 わず、いつでも会社の会計帳簿(books and accounts and vouchers)を閲覧す ることができる。また、取締役に対し、監査義務を果たすために必要と考 えられる資料や情報の提供を要請することができる(227条 1項)。また、

会計監査を遂行するために特に情報を入手することが重要と考えられる、

会社の借入れ状況や投資状況等の一定の事項については、質問権限が明文 で認められている(同条1A項)

さらに、監査役は、これらに基づいて監査報告書を作成する義務をおっ ており(227条 2項)、監査報告書には、一定の事項および監査意見を付す ることが求められる(同条3項)。

監査役が、これらの義務の履行を怠った場合、1万ルピーを上限とした罰 金が課される(233条)47

(5) 監査役の報酬

47 なお、会社は、監査役の会計監査の遂行に協力する義務を負っており、この協力義務を怠っ た場合、その義務懈怠についての責任者には、5000ルピーを上限とした罰金が課される可能性 がある(第232条)。

ドキュメント内 インド会社設立手続き (ページ 89-93)

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