第 2 章 会社
第 2 節 株式
3 優先株式
(1) 優先株式の内容
優先株式は、当該優先株式につき附属定款上認められた権利についてし か議決権が認められない一方、利益配当や残余財産分配について優先的権 利を有する(87条)。
優先株式に議決権が認められる事項は以下のとおりである。なお、下記
①から④までの事項について議決権を認めることは、当該株式が優先株式 として認められるための要件とされており、したがってこれらについて議 決権を認めない優先株式の発行は認められない。
①利益配当
②減資
③会社の解散
④残余財産分配
⑤その他附属定款において優先株式の権利として認められた事項
優先株式の最大の特徴は、発行から最長でも20年以内に償還され、また は資本株式に転換されなければならないという点である(80条5A項)。償 還が予定されている優先株式(preference share)は、redeemable preference
shareと呼ばれ、普通株式(equity share)への転換が予定されている優先株
式(preference share)は、convertible preference shareと呼ばれる。
すなわち、優先株式については、20 年を最長として、または定款でそれ よりも短い償還(転換)期間を定めた場合、その期間に従って償還または 転換される必要がある。
そのため、優先株式を恒久的に保有することはできず、どこかの時点で 必ず償還または転換しなければならないということになる。この「必ず償 還される」という優先株式の性質は、社債に類似する。
(2) 優先株式と「資本株式のクラス株式」との相違
上記 2 で述べたとおり、資本株式については、配当および議決権に関す る権利を普通株式を異ならせたクラス株式を発行することができる(86 条 (a)(ii))。
そこで、86 条(a)(ii)に基づいて、「配当優先権が認められる、議決権を一
定事項に制限した資本株式」というクラス株式を発行した場合を想定し、
このクラス株式(以下、説明の便宜上、「配当優先議決権制限クラス株式」
という)と、大カテゴリーとしての優先株式(preference share)との相違を 以下に解説する。
ア 残余財産分配への優先権の有無
上記 2 で述べたとおり、クラス株式において異ならせることができる のは、配当および議決権に関する権利のみであることから、配当優先議 決権制限クラス株式は、破産や会社解散の際の残余財産分配については 優先権を有しない。
イ 法定議決権保有事項の有無
上記3(1)で述べたとおり、優先株式には、法定議決権留保事項(①利益 配当、②減資、③会社の解散、④残余財産分配についての決議)が定め られているが、資本株式のクラス株式については、そのような議決権留 保事項は存在しない。したがって、配当優先議決権制限クラス株式につ いては、これらについても議決権なしとすることが可能である。
ウ 20年以上の償還(転換)義務の有無
上記3(1)で述べたとおり、優先株式は発行から最長でも20年以内に償 還され、または資本株式(普通株式)に転換される必要があるが、配当 優先議決権制限クラス株式はあくまで資本株式の一種であることから、
そのような時限の償還(転換)義務は存在しない。
エ 株式資本上の分類
資本株式と優先株式(preference share)とは、株式資本レベルでも区別 されており、前者により構成される資本金は普通株式資本(equity share
capital)、後者により構成される資本金は優先株式資本(preference share
capital)として、定款や登記上も区別されている。
したがって、配当優先議決権制限クラス株式の権利内容をいかに優先 株式に近づけたとしても、両者は株式資本上別物と分類されているため、
配当優先議決権制限クラス株式の発行金額を優先株式資本にカウントす ることは認められず、その逆もまた認められない。
第 2 株式の譲渡制限
資本株式、優先株式ともに、定款で規定することにより、会社(取締役会)
の承認なくして株式を第三者に譲渡することを禁止することができる。
非公開会社については、この譲渡制限が非公開会社として認められるための 要件となっていることは、第1節、第2、2、(1)に述べたとおりである。
第 3 新株の発行(会社設立後の株式発行)
設立の際の株式発行については、設立手続の際の中での資本金の払い込みに より行われるが、会社設立後に株式を追加で発行する場合、以下の新株発行手 続によるべきこととなる。
普通株式、優先株式を問わず、会社設立後に追加で新株を発行する場合の手 続は、大きく分けて、①会社設立後一定期間経過後の既存株主への発行、②会 社設立後一定期間経過前の既存株主への発行または時期を問わない第三者への 発行、③役員および従業員への発行の3つに分類される。
①から③の場合で、それぞれ手続が異なるため、以下、場合を分けて手続の 概要を解説する。