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Long Life Technology of Grease for Journal Bearing

5. 転がり軸受を用いたグリース耐久試験 1 試験方法

遠心油分離率の異なる5種類のグリースM1-12%

(表記は,グループ-増ちょう剤量),S2-17%,

S3-22%,S4-16%およびS4-31%を転がり軸受の 保持器と内輪の間に20g封入して耐久試験した.図5 に試験機の概略図を,表2に試験条件を示す.試験軸 受には,円すいころ軸受(φ70×φ110×31)を2 個使用した.ラジアル荷重を10.78kN負荷し,回転

図2 遠心油分離試験概略図

Schematic diagram of centrifugal oil separation test グリース 分離油

遠心管

図3 供試グリースの油分離性(M1-M4)

Oil separation of test grease (M1 to M4)

00 5 10 15

M1 M2 M3 M4 20

25 30 35 40

10 20 30 40 50

増ちょう剤量 wt%

図4 供試グリースの油分離性(S1-S4)

Oil separation of test grease (S1 to S4)

00 5 10 15

S1 S2 S3 S4 20

25 30 35 40

10 20 30 40 50

増ちょう剤量 wt%

%

図5 耐久試験機概略図 Endurance test equipment

試験軸受

支持軸受 支持軸受 100kΩ

10kΩ 1.5V

金属接触率測定回路

軸受回転プーリ V

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速度3000min-1で軸受を回転させた.運転中,電気 抵抗法により転がり軸受の内-外輪間の金属接触率を 測定した.一定時間運転後に停止し,グリースの油分 減少率を測定した.金属接触率の算出方法を式(2)に,

油分減少率の算出方法を式(3)に示す.

絶縁時の電圧(V)−運転時の電圧(V)

金属接触率(%)= ————————————————×100 …(2)

絶縁時の電圧(V)

使用後グリースの増ちょう剤量(%)

油分減少率(%)=(1− —————————————————— )×100…(3)

初期グリースの増ちょう剤量(%)

5. 2 試験後グリースの状態変化

図6に耐久試験中のS4-16%グリースの挙動を示 す.グリースは,運転初期には軸受内部に全量が存在

図9 耐久試験後の軸受内部グリース油分減少率 Reduction rate of bearing inside grease after test

0 0 10 20 30 50

40

10

2000h運転後

20 30 40 50

遠心油分離率 %

% 図6 耐久試験中のS4-16%グリースの挙動

Change of grease amount by test duration

0 0 5 10 15

軸受内部に存在 シール部に付着 20

2000 4000 6000 8000 10000

試験時間 h

g

S4-16%

図8 耐久試験時間と油分減少率の関係 Relationship between test duration and oil reduction

図7 軸受運転時のグリース移動状態 Transfer state of grease in operation

しているが,軸受を回転させると,図7のように,シ ール部に移動する.また,運転後2000時間以降,グ リースはほとんど移動しないことがわかる.

図8に軸受内部に残存したグリースとシール部に付 着したグリースの油分減少率を示す.軸受内部に残存 したグリースの油分減少率は2000時間後も増加し続 けていることから,本試験において,これ以降は軸受 内部に残存したグリースから分離した油分で軌道面の 潤滑が維持されていると考える.

図9に耐久試験後の軸受内部グリースの油分減少率 と遠心油分離率の関係を示す.両者には指数関数的な 相関があり,本試験における軸受内部グリースの油分 離は,遠心力の作用によると考えられる.

シール部 軸受内部

0 0 20 40 60

軸受内部に存在 シール部に付着 100

80

2000

S4-16%

4000 6000 8000 10000

試験時間 h

%

鉄道車両車軸軸受用グリースの長寿命化

NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)

5. 3 試験後グリースの油分減少率

図10~14に5種類のグリース封入軸受の軸受外輪 温度と内-外輪間の金属接触率を示す.図10に示す S4-16%グリースは,3000時間経過後,金属接触 率,軸受温度とも不安定となった.図11に示すM1-12%グリースおよび図14に示すS4-31%グリース は,初期より金属接触率,軸受温度とも高かったため,

それぞれ2000時間,5000時間で試験を打ち切った.

これに対して,図12に示すS2-17%グリースおよび 図13に示すS3-22%グリースは7500時間以上安定 して運転可能であった.

図12 試験軸受の温度,金属接触率 (S2-17%) Bearing temperature and metal contact ratio (S2-17%)

00 20 40 60 100 80

0 20 40 60 100

80

2000

S2-17%

4000 6000 8000 10000 試験時間 h

˚C

%

図13 試験軸受の温度,金属接触率 (S3-22%) Bearing temperature and metal contact ratio (S3-22%)

00 20 40 60 100 80

0 20 40 60 100

80

2000

S3-22%

4000 6000 8000 10000 試験時間 h

˚C

%

図14 試験軸受の温度,金属接触率 (S4-31%) Bearing temperature and metal contact ratio (S4-31%)

00 20 40 60 100 80

0 20 40 60 100

80

2000

S4-31%

4000 6000 8000 10000 試験時間 h

˚C

%

図11 試験軸受の温度,金属接触率 (M1-12%) Bearing temperature and metal contact ratio (M1-12%)

00 20 40 60 100 80

0 20 40 60 100

80

2000

M1-12%

4000 6000 8000 10000 試験時間 h

˚C

% 図10 試験軸受の温度,金属接触率 (S4-16%) Bearing temperature and metal contact ratio (S4-16%)

00 20 40 60 100 80

0 20 40 60 100 80

2000

S4-16%

4000 6000 8000 10000 試験時間 h

%

˚C

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軸受耐久試験時の金属接触率から推測した潤滑状態 と遠心油分離率の関係を表3にまとめた.本条件で円 すいころ軸受を運転した場合,遠心油分離率が高いグ リースであっても極端に低いグリースであっても,軸 受の潤滑状態は不安定であることがわかる.

遠心油分離率が高いグリースでは,運転初期から多 量の潤滑油が転走面に供給されやすい.そのため,長 時間の運転では,潤滑油が枯渇して潤滑状態が悪化す ると推測される.遠心油分離率が極端に小さいグリー スは,転走面に潤滑油が供給されにくいため,運転初 期から潤滑が悪いと考えられる.

一方,適度な遠心油分離率を示すグリースでは,運 転中,潤滑油が転走面に供給され続けるため,枯渇が 起こりにくく,長時間良好な潤滑状態が維持されると 考える.

遠心油分離性が車軸軸受グリースの長寿命化に重要 なファクターと考え,鉄道車両車軸軸受の長寿命化に 適するグリース組成を検討した.今回得た知見を基に,

今後は,より実車の使用条件に近い条件で試験して,

適切な油分離を有するグリース組成の有効性を確認 し,鉄道車両車軸軸受の長寿命化と信頼性向上に寄与 したいと考える.

参考文献

1)一木剛:技術基準と保全技術 JR東日本の新しい車 両保全体系,鉄道車両と技術 No.79(2002) 6-11 2)高速車両用輪軸研究委員会編:鉄道輪軸,丸善,

175-179.

3)岡竜太郎:鉄道車両用新RCT軸受とシール付き絶縁 軸受,NTN TECHNICAL REVIEW No.74 (2006) 80-85.

4)(社)日本鉄道技術協会:20年後の鉄道システム,

213-221.

5)日本トライボロジー学会 グリース研究会編:潤滑グ リースの基礎と応用,養賢堂,82-83.

6)小松崎茂樹:第48回トライボロジー先端講座,潤滑 剤とトライボロジー,(1993)

三上 英信

先端技術研究所

執筆者近影

田中 崇剛

産業機械事業本部 建機・鉄道技術部

グリース記号 軸受運転時の

金属接触率 遠心油分離率

wt%

S4-16 38.0

S3-22 34.0

S2-17 22.0

◎ ○ △ ×

S4-31 4.2 ×

M1-12 3.6 ×

判定(金属接触率)

表3 グリースの遠心油分離率と金属接触率 Centrifugal separation ratio and metal contact ratio of grease

鉄道車両車軸軸受用グリースの長寿命化

6. おわりに

鉄道車両車軸軸受用グリースの長寿命化を目的に,

油分離性の異なるグリースを封入した円すいころ軸受 の耐久試験を行い,グリースの油分離性が軸受の潤滑 状態に及ぼす影響を調査し,以下の結果を得た.

1)遠心油分離率が40%に近いグリースは,初期は 良好な潤滑状態を示すが,長時間運転するとしだ いに潤滑性能が低下する.

2)遠心油分離率が5%以下と極端に小さいグリース は,油の供給性能が低いため,初期より潤滑状態 が悪い.

3)遠心油分離が20~35%のグリースは,長時間良 好な潤滑状態を示す.

4)車軸用円すいころ軸受のグリース寿命改良には,

グリースの油分離性の制御が重要な要素の1つで あるといえる.

NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)

[ 製品紹介 ]

超大型ダンプトラック・ホイール軸受の動向と高機能化