Evaluation of Local Mechanical Properties of High Strength Steels by Indentation Method
5. 実験結果および考察 1 軸受鋼の力学特性評価
新たに作成した118°圧子のΠ関数を使用して2圧 子法による力学特性評価を行った.180℃で焼戻を したSUJ2およびSUJ3に対してφ=115°と118°
および100°と115°圧子を用いた結果を図3に示す.
115°と118°圧子を用いた試験では引張試験結果に 近い結果が得られていることが確認できる.一方,
100°と115°圧子を用いた2圧子法では引張試験か
00 1000 2000 3000
2 4 6 8
True strain ε, %
0 2 4 6 8
True strain ε, %
True stress σ, MPa
0 1000 2000 3000
True stress σ, MPa
100˚ indenter 115˚ indenter
118 & 115˚
115 & 100˚
118˚ indenter Tensile test
100˚ indenter 115˚ indenter
118 & 115˚
115 & 100˚
118˚ indenter Tensile test (a)
SUJ2 180˚C SUJ3 180˚C
(b)
0 0.5
200 300 200 300
Tempering temperature C˚ Tempering temperature C˚
Work-hardening exponent n
0 0.5
Work-hardening exponent n
118 & 115˚
115 & 100˚
Tensile test
118 & 115˚
115 & 100˚
Tensile test
(a)
SUJ2 SUJ3
(b)
…(4)
σ
r118Π118 = C118
σ
r118= 43.25ln
( )
E* - 55.90*12_*15 12/10/16 17:59 ページ 3
ら大きく離れた結果となった.図4および図5に2圧 子法より求められた降伏応力
σ
yおよび加工硬化指数n を示す.115°と118°圧子での結果は引張試験結果 と近い値が得られており,力学特性の焼戻温度依存性 が評価できていることから,115°と118°圧子での 2圧子法の有効性が確認できる.100°と115°圧子を用いた試験結果が引張試験と 大きく異なる結果となった原因を検討するため,圧痕 の観察を行った.図6にそれぞれのφの圧痕写真と AFM観察結果を示す.稜間角φが小さくなるにつれ て圧痕周辺のパイルアップ(盛り上がり)の量が増加 していくことが確認できる.パイルアップはΠ関数を
図6 異なる圧子で形成された圧痕のAFM観察された高さ形状 (a)100°,(b)115°,(c)118°圧子 Shapes of impressions and height profiles measured by AFM formed by 100°(a), 115°(b)and 118°(c)indenters
0 20 40
Position µm 0
2
-2
Depth h, µm
0 20 40
Position µm
0 20 40
Position µm 0
2
-2
Depth h, µm
0 2
-2
Depth h, µm
φ=100˚
A-A’ B-B’ C-C’
A-A’ B-B’ C-C’
A-A’ B-B’ C-C’ (a)
(b)
(c)
SUJ2 180˚C
φ=115˚SUJ2 180˚C
φ=118˚SUJ2 180˚C
作成するFEM解析で十分にシミュレートできておら ず,顕著なパイルアップの発生が100°圧子を用いた 2圧子法で有効な結果が得られなかった原因と考えら れる.
5. 2 表層硬化部品の力学特性評価
炭素鋼S53Cに高周波焼入,クロム鋼SCr420に 浸炭焼入を施した部品から切り出した試料に対して,
局所力学特性評価を行った.このような試験片に対し て局所力学特性評価を行うにあたり,熱処理の影響が 及んでいる範囲を特定する必要があるため,硬さ分布 を調べた.ビッカース硬さHVの分布を図7および図8 インデンテーション法による高強度鋼の局所力学特性評価
NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)
を「低硬度」と定義して2圧子法により局所力学特性 評価を行った.インデンテーション試験には115°お よび118°圧子を用いた.図9および図10にその結 果を示す.高硬度領域での試験結果は降伏応力が大き く,硬さの大小と降伏応力の対応関係が確認できる.
また,高周波焼入部品と浸炭焼入部品の高硬度領域を 比較したところ高周波焼入部品の硬さが高く,降伏応 力も大きくなった.低硬度領域では高硬度領域とは異 に示す.測定にはAKASHI製マイクロビッカース硬度
計MVK-G3 を用いた.試験力は2940 mN(300gf)
であり,各図の写真中に示した矢印の方向に等間隔で 測定した.図7に示す高周波焼入部品のHVが304~
746であるのに対し,図8の浸炭焼入部品のHVは 383~744の分布となっており,熱処理方法による HVの差異が確認できる.
HVが700以上の領域を「高硬度」,450以下の領域
図7 高周波焼入試験片の形状と硬さ分布
Shape and hardness distribution chart of induction-hardened specimen
0 200 400 600 800
0 2 4 6
Distance from edge, mm
Vickers hardness
図8 浸炭焼入試験片の形状と硬さ分布
Shape and hardness distribution chart of carburized specimen
0 200 400 600 800
0 2 4 6
Distance from edge, mm
Vickers hardness
図9 高周波焼入試験片の応力ひずみ曲線 Stress-strain curves of induction hardened specimen
00 1000 2000 3000
2 4 6 8
True strain ε, % True stress σ, MPa
115˚
118˚
Hard
Soft
図10 浸炭焼入試験片の応力ひずみ曲線 Stress-strain curves of carburized specimen
00 1000 2000 3000
2 4 6 8
True strain ε, %
True stress σ, MPa
115˚
118˚
Hard Soft
*12_*15 12/10/16 17:59 ページ 5
なり,浸炭焼入部品の方が硬さも降伏応力も大きくな っていることが確認できる.
高周波焼入は表面のみを硬化させ,内部はもとの組 織のままである.一方,浸炭焼入は表面が硬化し,内 部の硬度もやや高くなる.得られた試験結果はそれぞ れの熱処理の特徴をよく示しており,熱処理の影響に 応じて局所的な
σ-ε
曲線の明確な差として示すこと ができた.5. まとめ
様々な熱処理を施した高強度鋼の試験片に対して,
稜間角が115°と118°の三角錐圧子での2圧子法に より引張試験の結果とほぼ同等な応力ひずみ特性を得 ることができた.
表層硬化部品の力学特性評価において,高周波焼入 および浸炭焼入の熱処理の相違が局所的に求めた応力 ひずみ特性から確認できた.
100°圧子の圧痕周辺にはパイルアップ(盛り上が り)が確認された.圧痕周辺にパイルアップがあると,
押し込み力と押し込み深さの関係が影響を受け,2圧 子法が適用できなくなる.
2圧子法により得られた応力ひずみ特性を実機の解 析に使用することで,従来よりも詳細な弾塑性解析を 行うことが可能になる.
参考文献
1)小笠原永久,巻口和香子,千葉矩正,“複数の三角錐 圧子押込みによるべき乗硬化材の塑性特性評価法”,
日本機械学会論文集A編,Vol. 70, No.698 (2004),pp.1529-1534.
2)Akio Yonezu, Takeshi Ogawa and Mikio Takemoto, Key Engineering Materials,Vols.
353-358,pp.2223-2226 (2007).
3)大野卓志,米津明生,小川武史,秋光 純,“インデ ンテーション法による微小領域の力学特性および強 度評価”, 材料試験技術, Vol.49, No.3(2004), pp.149-156.
小川 武史
青山学院大学 理工学部機械創造工学科教授
執筆者近影
坂中 則暁
先端技術研究所
松原 幸生
先端技術研究所
インデンテーション法による高強度鋼の局所力学特性評価
NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)