Rolling Bearing for Environments of Ultrahigh Temperatures
3. 真空超高温用転がり軸受の紹介
(ウルトラクリーンWB軸受とその改良軸受)
高温真空下で使用される転がり軸受の潤滑は,油や グリースを使用できないため,固体潤滑剤を適用して いる.固体潤滑剤を転動部へ供給するために,スパッ タリングなどにより直接軌道面に固体潤滑膜を成膜す る方法がある.この方法は,軸受の回転初期から機能 するため多用されているが,軌道面の被膜が摩滅する と急激に摩耗が進み,焼付きに至るので長寿命は期待 できない.
NTNでは,固体潤滑剤を継続的に供給するために,
鋼球1個を二硫化タングステン焼結球(以下WS2球)
に置き換えた,『ウルトラクリーンWB軸受』(図7)
を商品化している 2).
NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)
WS2
60% WS2
80% WS2
90% WS2
95%
0.01 0.1 1 10 100 1000
h
MoS2
60% MoS2
95%
打ち切り
運転 時間
図8 固体潤滑剤焼結球の耐久性評価結果 Test results of endurance test for solid lubricants
ウルトラクリーン
WB 軸受 特殊 PTFE 被膜 仕様軸受 0
10 20 30
mN・m 回転 トル ク
図9 回転トルク測定結果 Results of rotating torque 図7 ウルトラクリーンWB軸受
Ultra-clean WB bearing
WS2焼結球 本項目では,ウルトラクリーンWB軸受の紹介と真 空超高温(400℃)下で耐久性向上への改良開発の 状況について紹介する.
試験軸受 真 空 度 回転速度
寿命判定 温 度 スラスト荷重
608(φ8×φ22×7)
10-5Pa
200˚C 1550min-1
83.4N
急激なトルク上昇が発生した時点 表4 固体潤滑剤焼結球の耐久性評価条件 Test conditions of endurance test for solid lubricants
試験軸受 真 空 度 回転速度
寿命判定 温 度 スラスト荷重
608(φ8×φ22×7)
10-5Pa
300˚C 1550min-1
9.8N
急激なトルク上昇が発生した時点 表6 高温耐久性評価条件
High temperature endurance test conditions 試験軸受
真 空 度 回転速度 温 度 スラスト荷重
608(φ8×φ22×7)
10-5Pa
常 温 500min-1
196N 表5 回転トルクの評価条件 Measurement conditions of rotating torque
3. 1 固体潤滑剤焼結球の高温耐久性
表4に示すように,固体潤滑剤焼結球を組み込んだ 軸受について,固体潤滑剤の種類および配合量の検討 を行った.その結果,図8に示すようにWS2球の高温 耐久性は,MoS2球よりも優れ,WS2を95%配合し たものが最も長寿命であった3).
3. 2 各種性能評価
WS2を最適量配合した焼結球を組み込んだウルトラ クリーンWB軸受の各種性能評価結果を以下に示す.
3. 2. 1 回転トルク
表5に示す評価条件で,真空中におけるウルトラク リーンWB軸受の回転トルクを測定した.その結果,
図9に示すように従来の特殊PTFE被膜仕様より低ト ルクであることを確認した.
3. 2. 2 高温(300℃)耐久性
表6に示す評価条件でウルトラクリーンWB軸受の 高温耐久性を評価した.その結果,図10に示すよう にウルトラクリーンWB軸受の高温耐久性は,従来の 特殊PTFE被膜仕様と比較して,約5倍以上の性能で あった.
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超高温環境用転がり軸受
3. 3 ウルトラクリーンWBの改良開発
今後,太陽電池パネル製造装置に用いる真空超高温 用軸受の使用温度は400℃まで上がると予測されて いる.NTNが開発,商品化したウルトラクリーンWB 軸受(以下,従来品)の真空環境連続使用は,300℃が 限界であるため,400℃に対応可能な軸受を開発し ている.
3. 3. 1 軸受仕様
下記2つの仕様にて,耐久性を評価した.
仕様 ①:従来品のステンレス鋼球をセラミック球に 変更(WS2焼結球1個)
仕様 ②:仕様①のWS2焼結球を1個追加し,2個使用
(図12参照)
3. 2. 3 高荷重耐久性
表7に示す評価条件でウルトラクリーンWB軸受の 高荷重耐久性を評価した.その結果,図11に示すよ うにウルトラクリーンWB軸受の高荷重耐久性は,従 来の特殊PTFE被膜仕様と比較して約9倍以上の性能 であった.
ウルトラクリーン
WB 軸受 特殊 PTFE 被膜 仕様軸受 10
100 1000 10000
h 運転 時間
打ち切り
図10 高温耐久性評価結果 Results of high temperature endurance tests
WS2焼結球 セラミック球
図12 開発軸受②の転動体と焼結球の配置 Arrangement of ceramic balls and WS2balls of
development bearing ②
ウルトラ
クリーン WB 軸受 特殊 PTFE 被膜 仕様軸受 10
100 1000
10000 打ち切り
h 運転 時間
図11 高荷重耐久性評価結果 Results of heavy load endurance tests 試験軸受
真 空 度 回転速度
寿命判定 温 度 スラスト荷重
608(φ8×φ22×7)
10-5Pa
常 温 500min-1
256N
急激なトルク上昇が発生した時点 表7 高荷重耐久性評価条件 Heavy load endurance test conditions
試験軸受 真 空 度 回転速度
寿命判定 温 度 スラスト荷重
608(φ8×φ22×7)
10-5Pa
400˚C 1000min-1
196N
急激なトルク上昇が発生した時点 表8 超高温耐久性評価条件
Ultra-high temperature endurance test conditions 3. 3. 2 超高温(400℃)耐久性
表8に示す評価条件で開発品と従来品の超高温耐久 性を評価した.その結果,図13に示すように従来品 と比較して開発品の仕様①で約2倍以上,仕様②で約 60倍以上となった.
NTN TECHNICAL REVIEW No.80(2012)
執筆者近影
有鼻 美葵 産業機械事業本部
産業機械技術部
川村 隆之 先端技術研究所
ウルトラクリーン WB 軸受
(従来品)
開発軸受
① 開発軸受
② 10
100 1000 10000
h 運転 時間
図13 超高温(400℃)耐久性 Results of ultra-high temperature endurance test
at 400˚C
4. まとめ
本稿では,大気で400℃超高温環境下で使用可能 なULTAGE大気・超高温環境用深溝玉軸受を紹介し た.今後,フィルム延伸機テンタクリップやガラス製 造装置の用途をはじめ,さらなる適用用途の開拓に取 り組んでいく.
また,グローバルな市場拡大が進む太陽電池用パネ ル製造装置に用いられる真空・超高温環境用軸受とし て,ウルトラクリーンWB軸受および,現在開発中の 真空下400℃対応軸受を紹介した.
今後も市場ニーズに合致した新商品を開発し,各種 超高温環境用装置のメンテナンス期間の延長や信頼性 の向上,省エネルギー化に貢献する所存である.
参考文献
1)社団法人 日本トライボロジー学会 固体潤滑研究会,
新版 固体潤滑ハンドブック,第一版,養賢堂,P56,
(2010)
2)中島 良一,本多 正明:クリーン環境用ウルトラクリ ーン軸受,NTN TECHNICAL REVIEW No.74 (2006) 76-81
3)筒井 英之,平田 正和:二硫化タングステン焼結ボー ルを組み込んだ軸受の真空中での耐久性,日本トラ イボロジー学会 トライボロジー会議2007-5予稿集 (2007) 173-174
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