第 4 章 クランク素子装荷ループアンテナ 61
4.5 多段接続による高利得化
4.5.3 車載近距離レーダへの応用
図4.37 は,多段接続ループアンテナを用いたレーダシステムの構成例を示す.送信用と受 信用の 2つのアンテナ素子を用いた構成であり,アンテナ間の相互結合による特性劣化を抑 えるために無線回路の両側に配置する.それぞれのアンテナは,ビーム方向を切り換えるた め高周波スイッチを有しており,ビーム方向が同時に同じ方向にチルトするように切換動作 を行うことで,2 方向を検知できるようになる.本レーダ構成を実現するために,ここでは 高周波スイッチを用いた多段接続ループアンテナを試作し,特性の評価を行う.ビーム切換 回路を平面回路で構成するために,4.5.2 で示したスロット素子構成を用いた.
図4.38 にビーム切換回路構成を示す.ビーム切換回路は,低損失及び高アイソレーション を実現するために,接地された 4 つのPINダイオードを用いた SPDTスイッチとした.図 2.17 に示す SPDT スイッチ構成と異なるのは,動作周波数が 26 GHz と高いため,アイソ レーションが確保できないためである.PINダイオードには,M/A-COM製の MA4SPS402 を使用した.図 4.38 において,制御電圧+Vc を印加した場合,PIN ダイオード D3 及び D4がオン状態となり,点P から端子3 側は開放に見えるため,端子1 から入力された信号 は端子 2に出力される.このとき,PIN ダイオード D1及びD2は,オフ状態で開放となっ ている.同様に,制御電圧-Vc を印加した場合,PIN ダイオード D1 及び D2 がオン状態 となり,端子 1 からの入力信号は端子3 に出力される.図 4.39 に試作したビーム切換回路
の特性を示す.ここでは,PINダイオードD3 及びD4 をオン状態となるように制御電圧を 印加している.26 GHzにおいて,通過損失 S21 が 2.6 dB,アイソレーションS31 が 21 dB の良好な特性が得られている.このとき,PINダイオードによる損失は D3 及びD4で約 1
dB,D1及び D2で約0.4 dBであり,その他はMSLによる損失であることは確認している.
図 4.38: PIN ダイオードを用いたビーム切換回路
図 4.39: ビーム切換回路の特性
次に,4.5.2 で述べたスロット素子構成に,図 4.38 に示すビーム切換回路を実装したとき のアンテナ特性を評価した.図 4.40 に試作したアンテナ構成を示す.このとき,4.3 節でも 述べたように,非励振ポート側の MSL の影響を排除するために,スロット素子と MSL と の結合部において開放となるように,結合部から PIN ダイオード D1 及び D4 を実装して いる位置までの MSL の長さを λe/4 の奇数倍に設定している.また,図 4.40 中に記載の端 子番号と図 4.38 に記載の端子番号は一致している.図 4.41 に VSWR 特性の測定結果を示 す.計算では,オン状態の PIN ダイオードを短絡,オフ状態の PINダイオードを開放と仮 定して解析を行っている.図 4.41において,ビーム切換時の特性はほぼ同等であり,VSWR
< 2 における比帯域幅は 約 6 % である.また,測定結果と計算結果で多少の違いが見られ るが,PIN ダイオードの影響,誘電体基板の比誘電率のモデル化,製作誤差などが複合して 影響していると考えられる.
図 4.41: ビーム切換多段接続スロットループアンテナの VSWR 特性
図 4.42 に試作したビーム切換アンテナの垂直Eθ 偏波成分の放射パターン,表 4.1 に放射 特性を示す.図 4.42 において,測定結果は計算結果とほぼ同等の放射パターンが得られてお り,ビーム切換が実現できていることが分かる.ビーム切換時の放射パターンの差異は,PIN ダイオードの個体差及び実装誤差等による影響である.また,表 4.1 から,測定結果は計算 結果に比べて 3 dB 程度の利得低下が見られるが,これは給電ラインである MSL による損 失とPIN ダイオードスイッチによる損失である.
以上のように,車載近距離レーダの周波数帯である 26 GHzにおいて,ビーム切換可能な 多段接続ループアンテナを試作し,ビーム切換が実現できることを示した.測定結果から,10 dBi 以上の高利得(スイッチロス含む)で,車載搭載時の鉛直面である円錐面で狭ビーム化 が達成されており,車載近距離レーダに適していると考えられる.今後は,図4.37 で示した ような実際のレーダシステム構成とした場合に所望のアンテナ特性が得られるかを見極める 必要がある.
図 4.42: ビーム切換多段接続スロットループアンテナの放射パターン
表 4.1: ビーム切換多段接続スロットループアンテナの放射特性 Gain [dBi] Tilt angle [deg.] HPBW [deg.] F/B ratio [dB]