第 2 章 位相差給電スロットアレー 11
2.5 むすび
小型な構成(0.833波長四方)で,9.5 dBi 以上の指向性利得の4 方向ビーム切換を実 現できることを示した.
第 3 章 クランク素子装荷ひし形アンテナ
3.1 まえがき
2 章では,本論文で提案するチルトビームアンテナの動作原理を利用したアンテナ構成と して基本的な構成の一つである位相差給電スロットアレーについて提案した.位相差給電ス ロットアレーは,2 つのスロット素子に位相差をもたせて同時給電することにより,チルト ビームを実現しているが,同時給電するためには分配器が必要になる.そこで本章では,分 配給電を用いずに 一点給電でチルトビームが得られるアンテナ構成について検討する.
これまでに反射板を有するアンテナ構成として,図 3.1 に示すような先端開放ひし形アン テナが提案されている [40],[41].このアンテナは,半波長の線状素子 4 本をひし形に配列し て給電点に対向する先端を開放とする構成である.電流分布は矢印に示すようになり,等価
的に半波長アンテナ 4素子のブロードサイドアレーとして動作する.これは,給電点に接続 されている 2 本の半波長素子と開放側の 2 本の半波長素子を図 1.4 に示す点波源のそれぞ れに当てはめて考えると,前者と後者との間に位相差を生じさせることによりチルトビーム を得ることができると考えられる.位相差を得る方法としては,素子間にリアクタンス素子 として集中定数を装荷する方法があるが [42],[43],本章ではアンテナ素子と一体に形成でき,
生産性の面からも有利であることから,折返し形状のクランク素子を半波長素子間に装荷す る構成について提案する.
本章の 3.2 節では,クランク素子を装荷したひし形アンテナの基本構成及び放射特性を示 し,1点給電によりチルトビーム特性が得られることを示す.3.3 節では,スロット素子を用 いることで,垂直Eθ 偏波が得られ,MSLから容易に給電できることを示す.3.4節では,ク ランク素子装荷ひし形アンテナを用いたマルチセクタアンテナ構成を提案し,最後に 3.5 節 で結果をまとめる.
3.2 アンテナの基本構成と放射特性
3.2.1 線状素子構成及び電流分布
図 3.2 に,反射板を有するクランク素子装荷ひし形アンテナの基本構成を示す.本提案ア ンテナは,同一面においてひし形に配列された長さが Lで素子幅が wの 4本の半波長素子
(#1, #2, #3, #4)の対向する一組の頂点に長さがLc,素子幅がwc,間隔がd のクランク素 子を接続し,それ以外の頂点の一方に給電点を設け,給電点と対向する頂点を開放するよう に構成している.さらに,寸法が Lrx×Lry の反射板を半波長素子から間隔 h を隔てて,ひ し形面に平行に配置している.このような構成とすることにより,半波長素子 #1 及び#3
と半波長素子 #2 及び #4 の間で位相差が生じ,+Z 軸方向から +X 軸方向へ傾斜した主 ビームが形成されることになる.なお,このときの隣り合う半波長素子間の挟角を 90 度に 設定している.次に,本提案アンテナにおける半波長素子 #1及び #2上の電流分布をモー メント法電磁界シミュレータ IE3D [32] を用いて計算した.半波長素子 #3 及び#4 の電流 分布は,半波長素子 #1 及び #2と同様の分布となるため,ここでは省略する.まず,クラ ンク素子の有無における電流分布を図 3.3 に示す.ここでは,電流の最大値を 0 dB として 正規化した振幅分布及び給電位置を 0度とした+Y 方向成分の位相分布を示しており,横軸 の (A) から (D) は図 3.2 に示すアンテナ素子上の位置を示している.このときのアンテナ 素子の各構成パラメータは,L = 0.481 λ,w = 0.024 λ,d = 0.0085 λ 及び h = 0.425 λ であり,反射板の寸法 (Lrx×Lry) は無限大である.また,クランク素子装荷時のクラン ク素子寸法は Lc = 0.136λ,wc = 0.0085λ である.図 3.3 から,クランク素子を装荷し ていない従来の先端開放ひし形アンテナにおいては,半波長素子の中央部で電流振幅は極大 値を示しており,極大値における位相は半波長素子 #1と #2 の間で折り返されているため
図 3.3: クランク素子の有無における電流分布
同相となっている.このため,主ビームが+Z 方向に向くブロードサイドアレーとして動作 する.一方で,クランク素子を装荷した場合,半波長素子 #1 上の電流振幅の極大値がクラ ンク素子側にシフトしているが,半波長素子 #1 と #2 の電流振幅の極大値間で 23 度の位 相差が生じていることが分かる.また,クランク素子上の電流は,折返し構造のため折返し 部で位相が逆相となるため相殺され,クランク素子からの放射はほぼ無視することができる.
以上のことから,半波長素子 #1 と#2 上の電流振幅の極大値を図 1.4 で示した 2 点波源モ デルと対応させることができ,主ビームは+Z 軸方向から +X 軸方向へ傾斜した方向に形 成されることになる.また,このときのアンテナ寸法は,X 軸方向の寸法が 0.706λ,Y 軸 方向の寸法が 0.689λ であり,1 波長以下の平面寸法であることが分かる.次に,反射板間 隔 hを変化した場合の電流分布を図 3.4 に示す.図 3.4 から,反射板間隔を変化することに より電流分布が変化していることが分かる.これは,反射板との電磁界結合による影響と考 えられる.このように,クランク素子や反射板により半波長素子の電流振幅の極大となる位 置や半波長素子 #1 と #2 との間の電流位相差が変化するため,良好なチルトビームが得ら れるようにクランク素子長及び反射板との間隔を調整する必要がある.
3.2.2 放射特性
ここでは,3.2.1で示したアンテナ構成における放射特性を述べ,チルトビーム動作を2点 波源モデルと比較する.
図 3.5 に反射板間隔 h を変化した場合の水平 Eφ 偏波成分の放射パターン,表 3.1 にそれ ぞれの反射板間隔における放射特性を示す.これらの結果から,3.2.1 で述べたように+X 軸方向へチルトした主ビームが得られており,このときの指向性利得は 10 dBi 以上である.
また,反射板間隔 h を 0.085 λ 変化させることで垂直面チルト角が 9 度変化していること から,反射板間隔は主ビームのチルト角を決定する支配的なパラメータであることが分かる.
また,円錐面パターンの半値角が約60度であることから,6セクタアンテナの基本アンテナ 素子に向いているといえる.セクタアンテナへの応用に関しては,3.4 節で述べることとし,
ここでの詳細な説明は省略する.
図 3.5: 反射板間隔 h に対する放射パターン
表 3.1: 反射板間隔 h に対する放射特性
h Directivity [dBi] Tilt angle [deg.] HPBW [deg.] F/B ratio [dB]
0.34 λ 10.6 38 60 10.9
0.425 λ 10.4 47 55 9.1
0.51 λ 10.9 56 50 6.5
図 3.6 は,図 3.4 で示した電流分布から求められた電流極大値の間隔及び位相差を 2点波 源モデルに当てはめたときの垂直(XZ)面における放射パターンを示している.図 3.5 に 示す実際のモデルの放射パターンと比較すると,+X 軸方向へチルトするパターンの傾向は ほぼ一致するが,バック方向である-X 軸方向の放射パターンについては大きな差異が見ら れる.これは,図 3.4 の電流分布に見られるように,実際のモデルでは電流極大値からの放 射だけではなく,それ以外に分布する電流からも放射していることが要因と考えられる.
次に,クランク素子長 Lc に対する放射パターンを図 3.7 に示す.図 3.7 から,クランク 素子長は-X 軸方向のパターンに大きな影響を及ぼしており,F/B 比の高いチルトビーム 特性を得るためにはクランク素子長は約 1/8 波長に設定することが望ましいと考えられる.
以上のように,先端開放ひし形アンテナにクランク素子を設けることで,半波長素子間に 位相差が生じ,チルトビーム特性が得られることを明らかにした.なお,アンテナ素子が非 対称な構成であるため,ビーム切換はできない.
図 3.6: 2 点波源モデルにおける垂直(XZ)面放射パターン