3.3 濃度・質量流束に関する熱線の較正
3.4.3 超音速混合層中の濃度・質量流束変動
図3.26, 3.27はy = y0における濃度・質量流束の時系列波形で,それぞれx = 30 mm,x = 100
mm における結果である.各図(a)は混合層上部,(b)は混合層中央部,(c)は混合層下部での 結果を表す.図より,濃度と質量流束の変化がほぼ対称であることがわかる.これは空気 とヘリウムの密度の違いから,ヘリウム濃度の低い(空気が多い)流れが熱線をよぎる場 合は質量流束が大きく,逆にヘリウム濃度の高い流れが熱線をよぎる場合は質量流束が小 さくなることを捉えていると解釈できる.図3.26 (a), 3.27(a)に示した混合層上部ではヘリウ ム濃度の高い流れが熱線を通過することを示すスパイク波形が得られ,逆に図 3.26(c), 3.27(c)に示した混合層下部ではヘリウム濃度の低い流れの通過を示す波形が得られており,
混合層の特徴を捉えることができている.
図3.28 に濃度と質量流束の共分散のy 方向分布を示す.図より濃度と質量流束の共分散 は,y0を頂点とする負の共分散を持ち,誤差の大きい混合層下側を除いて,流下に伴いその 絶対値が減少している.上述のように濃度と質量流束は対称的に変化するため,混合が不 十分な場合には負の分散をとる.しかし,混合が進むにしたがって濃度は一様になるため,
濃度と質量流束の時系列変化に対称性は無くなり,共分散は零に収束していくと予想され る.そのため,図 3.28の共分散の絶対値が流下に伴って減少するという結果から,本計測 手法により混合層内に空気流とヘリウム流が取り込まれ,混合が進んでいく様子を捉える ことができるといえる.
3.5 変動が大きい場合の PDR 算出方法
3.4.2 節に示したように可視化画像から求めた平均濃度分布との比較から,本手法で得ら
れる平均濃度は概ね妥当であることを検証した.しかし3.4.3節に示したように,変動成分 に関しては共分散や時系列波形から,定性的に計測結果が妥当であることを示すにとどま っている.そのため,濃度変動成分の定量的な妥当性の評価については今後の課題である.
一方,3.1節で述べた熱線の計測原理は,変動成分は微少量として扱い,二次以上の微少 量は無視できるものとした.しかし,本研究で主な計測対象となる縦渦が導入された流れ 場は流れの変動が大きく,さらに気流の濃度も変化するため,変動成分を微少量として無 視できなくなる可能性がある.そのため,ここでは変動が大きい場合のPDRの算出方法を 示す.
図3.4に示したCC-CVA回路の解析により次式が得られる.
F w
out V
w out
R R
R V
V dt M d V V dt M dy y
*
1 (3.58)
ここで,
Rw
R
y */ (3.59)
C R R R
M R A
B A
B
R (3.60)
C R R R R
M R A
D B A
B
V (3.61)
D B A
D B A
R R R
R R R R
* (3.62)
である.式(3.58)の右辺は Voutが計測により与えられたとき既知量である.したがって,式
(3.58)を解くことでRwが求まる.また,所望の量である PDRは,熱線の動特性を記述した
式,
dt dR R u C
B A R R R
I w
f w a
w w
w2 0.5 (3.63)
と式(3.11)より,次式で表される.
dt dR R C R V R
PDR R w
f w w w a
w
1 2 (3.64)
式(3.58)から得られるRwを用いれば,式(3.64)よりPDRが求まる.このPDRはCC-CVA回 路解析による式(3.58)と熱線の動特性の式(3.63)から得られるため,熱慣性による熱線の応答 遅れは適切に補償され,変動が大きい場合にも有効である.
今後,3.1節で提示した手法について,ここで述べた事項を踏まえて検証する必要がある.
3.6 まとめ
本章では2線式平行熱線流速計による濃度・質量流束の時系列同時計測手法について詳し く述べ,2次元超音速混合層の計測を通じて本計測手法の有用性を示した.得られた主な 結果を以下に示す.
・ 濃度・質量流束の同時計測手法を提案し,計測時に問題となる各熱線の捉える流れの 同一性を高めるために熱線同士の間隔が0.16 mmの2線式熱線流速計プローブを作成 した.さらにこの熱線プローブを用いて超音速縦渦による混合場の計測を行い,2つの 熱線がほぼ同じ流れを捉えることができることを示した.
・ 少ない流量で広範囲の質量流束に対して較正が可能なソニックノズルを用いた較正方 法を提案し,従来の超音速乱流境界層による較正結果と比較することで,ソニックノ ズルによる較正結果が超音速流中での計測に適用可能であることを示した.
・ 濃度・質量流束に対する熱線の較正を行い,計測時の誤差が±10%程度となること,PDR が小さい領域では質量流束が小さいため熱伝達量が減少し,濃度別の違いが生じにく くなり誤差が大きくなることを示した.
・ 空気・ヘリウム超音速混合層の計測を行い,Mie散乱法による濃度計測結果と比較する ことで計測結果の妥当性を確認した.また,濃度・質量流束の時系列計測結果から,
超音速混合層の特徴を捉えていることを確認するとともに,流下に伴い混合が進んで いく様子を捉えることに成功した.
図3.1 B-CVA(Basic CVA)回路
i
w2[A]
1/ R
w[1 / ]
0 0.001 0.002 0.003 0.004 0.15
0.2 0.25 0.3 0.35
V
in= 4 V V
in= 5 V
V
in= 6 V 1/R
aMeasurement result 1st approximation
図3.2 熱線の非加熱抵抗Raの算出
図3.3 C-CVA回路
図3.4 CC-CVA回路
Time [s] Time [s]
V
in[V] V
out[V]
(a) (b)
0 0.002
3.9 4 4.1
0.632 0 1
M
0 0.002
-7 -6.8 -6.6
図3.5 ステップ入力に対する熱線の応答,(a)ステップ入力波形,(b)回路出力波形
Hot wire 1 (5 tungusten wire)
Hot wire 2 (5 tungusten wire) 0.5 mm
0.16 mm Flow
図3.6 二線式平行熱線流速計プローブの概略
図3.7 3.2.2節で使用した縦渦が導入された超音速混合場,(a)側面図,(b)断面図
100 110 120
70 80 90
0 5 10 15 20
y[mm]
x[mm]
Knife edge:
◒
100 110 120
70 80 90
0 5 10 15 20
y[mm]
x[mm]
Knife edge:
◒
図3.8 図3.7に示した流れ場の瞬間シュリーレン画像(ナイフエッジ:水平),白線は熱線流
速計による計測位置を示す.
Correlation coefficient [-]
y [mm]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
3 6 9 12 15
図3.9 2つの熱線出力Voutの相関係数,黒点はローパスフィルタなし,赤点は300 kHzロ
ーパスフィルタを施している.
Frequency [Hz]
Power spectrum [dB]
(a)
102 103 104 105
-90 -80 -70 -60 -50 -40
Frequency [Hz]
Power spectrum [dB]
(b)
102 103 104 105
-90 -80 -70 -60 -50 -40
I-type meas., W-type meas.
I-type noise, W-type noise
図 3.10 1線式熱線(青線)と2線式熱線(赤線)でのスペクトル比較,破線はノイズスペクト
Flow Pitot tube P0, P, M
Ppitot Bow shock
Cannel lower wall
図3.11 ピトー計測概略図
260 270 240 250
220 230 200 210
190 0 5 10 15
x[mm]
y[mm]
図 3.12 主流マッハ数 2.4 の超音速流壁面に発達する乱流境界層の平均シュリーレン画像
(ナイフエッジ:水平)
u [kg/(m2s)]
y [mm]
0 20 40 60 80 100 120
1 2 3 4 5 6 7 8 9
図3.13 ピトー計測により得られたx = 262 mmにおける乱流境界層の質量流束分布
Supersonic turbulent boundary layer Sonic nozzle
PDR [W/]
(u)1/2 [{kg/(m2s)}1/2]
6 7 8 9 10 11 12
0.01 0.012 0.014 0.016 0.018 0.02 0.022
図3.14 ソニックノズルと乱流境界層による較正結果
( u)
1/2[{kg/(m
2s)}
1/2] P DR
1[W / ]
c = 0.0, c = 0.2, c = 0.4, c = 0.6, c = 1.0
(a) (b)
4 6 8 10
0.01 0.015 0.02 0.025
( u)
1/2[{kg/(m
2s)}
1/2] PD R
2[W / ]
4 6 8 10
0.002 0.004 0.006 0.008
図3.15 濃度・質量流束に対する二線式熱線の較正結果,(a)5 mタングステン線,(b)3.1
mタングステン線
A1(c) B1(c) A2(c) B2(c) c [-]
Ai(c) [W/] Bi(c) [W/(kg/m2 s)]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-0.01 -0.005 0 0.005
図3.16 各熱線の式(3.36)における濃度関数Ai, Bi,実線は濃度の3次関数近似式
c = 0.0 c = 0.2 c = 0.4 c = 0.6 c = 0.8 c = 1.0
PDR2 [W/]
PDR1 [W/]
u = 20 kg/(m2s)
u = 40 kg/(m2s)
u = 60 kg/(m2s)
u = 80 kg/(m2s)
u = 100 kg/(m2s)
u = 120 kg/(m2s)
u = 140 kg/(m2s)0.002 0.004 0.006 0.008
0.01 0.015 0.02 0.025
図3.17 等濃度線(実線)および等質量流束線(破線)
c = 0.0, c = 0.2, c = 0.4, c = 0.6, c = 1.0 PDR
1[W/]
c
actu- c
meas[% ]
0.01 0.015 0.02 0.025 -10
0 10 20 30
PDR
1[W/]
u
actu- u
meas[k g /m
2s]
0.01 0.015 0.02 0.025 -20
-10 0 10
図3.18 計測時に見込まれる計測誤差,(a)濃度,(b)質量流束
c = 0.0 c = 0.2 c = 0.4 c = 0.6 c = 0.8 c = 1.0
PDR
2[W/]
PD R
1[W/ ]
u = 20 kg/(m2s)
u = 40 kg/(m2s)
u = 60 kg/(m2s)
u = 80 kg/(m2s)
u = 100 kg/(m2s)
u = 120 kg/(m2s)
u = 140 kg/(m2s)0.006 0.009 0.012 0.015
0.01 0.015 0.02 0.025
図3.19 5 mタングステン線と m白金線を使用した場合の等濃度線(実線)および等 質量流束線(破線)
M = 2.4 Air
M = 0.4 Helium 18 mm
35mm Mixing Layer
o x y
図3.20 二次元超音速混合層の概略
x[mm]
0 10
-10
70 60 50 40 30 20 10
0 80 90 100
0 10
y[mm]
-10 (a)
(b)
図3.21 超音速混合層の瞬間シュリーレン画像,(a)ナイフエッジ:水平,(b)ナイフエッジ:
垂直
x = 30 mm, x = 100 mm c [-]
y - y0 [mm]
(a)
0 0.5 1
-5 -2.5 0 2.5 5
u [kg/m2s]y - y0 [mm]
(b)
50 100
-5 -2.5 0 2.5 5
図3.22 濃度(a)および質量流束(b)の平均値分布
c = 0.0 c = 0.2 c = 0.4 c = 0.6 c = 0.8 c = 1.0
PDR2 [W/]
PDR1 [W/]
u = 20 kg/(m2s)
u = 40 kg/(m2s)
u = 60 kg/(m2s)
u = 80 kg/(m2s)
u = 100 kg/(m2s) x = 30 mm x = 100 mmHe
Air y
0.002 0.003 0.004 0.005
0.01 0.012 0.014 0.016 0.018 0.02
図3.23 図3.17上にプロットした混合層計測結果
0 -2 4 2
30
15 20 25 35 x[mm]
y[mm]
図3.24 レーザシートによる混合層の可視化画像,白い粒子が空気流を表す.
Hot wire, Mie scattering c [-]
y - y0 [mm]
0 0.5 1
-3 -2 -1 0 1 2 3
Time [msec]
c [- ] u [k g /( m
2s)]
(b) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100 Time [msec]
c [- ] u [k g /( m
2s) ]
(a) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100
Time [msec]
c [- ] u [kg/ (m
2s)]
(c) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100
図3.26 x = 30 mmにおける濃度・質量流束の時系列波形,(a)y - y0 = 1 mm, (b)y - y0 = 0 mm, (c)y - y0 = -1 mm
Time [msec]
c [- ] u [k g /( m
2s)]
(b) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100 Time [msec]
c [- ] u [k g /( m
2s) ]
(a) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100
Time [msec]
c [- ] u [k g /( m
2s)]
(c) 0 0.1 0.2
0.5 0 1
0 50 100
図3.27 x = 100 mmにおける濃度・質量流束の時系列波形,(a)y - y0 = 2 mm, (b)y - y0 = 0 mm, (c)y - y0 = -2 mm
x = 30 mm, x = 100 mm Covariance between c and u [kg/m2s]
y - y0 [mm]
-10 -5 0
-5 -2.5 0 2.5 5
図3.28 濃度・質量流束の共分散分布