第 5 章 超音速縦渦による混合領域の拡大と 縦渦の崩壊
5.5 各実験パラメータが流れに及ぼす影響
前節で示したように,変動領域の拡大率は縦渦の循環に比例し,2つの縦渦中心間の距 離と変動領域の流れ方向速度に反比例することがわかった.そこで,各実験パラメータ(ラ ンプ角,噴射の種類,主流マッハ数,壁面粗度)が縦渦の循環値,縦渦間の距離,変動領 域の流れ方向速度に対してどのように作用するのかを以下で議論する.
また,縦渦を取り巻く渦輪状構造は縦渦対内部の低速流と主流との剪断により形成され ると考えられる.剪断応力は粘性係数と速度勾配の積で表されるため,本節では PIV 計測 により得られた速度分布から,渦輪状構造を生成すると考えられる速度勾配が各実験条件 でどのように変化するかについても考察する.プラントルの混合距離理論54)によれば,
y l u v
(5.4)である.ここで,v’はy方向の速度の変動成分,lは混合距離と呼ばれる関数,
u
は流れ方 向速度の平均値である.すなわち,式(5.4)は流れの変動が平均流の速度勾配に比例すること を表しており,流れの変動が大きければ噴射燃料の輸送や拡散が促進されるため,速度勾 配を調べることは重要である.5.5.1 ランプ角が流れに及ぼす影響
5.3節ではステレオPIV計測結果から,循環が大きい場合には噴射したヘリウムが早く広 範囲に輸送されることを示し,混合促進の点で循環値が大きい方がよいことを示した.図
5.42から = 14°, 30°, 7°の順に循環が大きくなっている.このようにランプ角により循環値
は変化し,循環は = 14°付近で最大となることがわかる.図5.44にランプ角が異なる場合
(図5.24,5.27,5.33中の(a),噴射なし条件)のx = 25 mmにおける速度分布および速度勾
配分布を示す.図(a)はz = 0 mmにおける流れ方向速度のy方向分布,(b)は縦渦中心近傍を 通る高さy ≈ 3 mmにおける速度勾配∂u/∂zのz方向分布である.図5.44(a)より,縦渦対中央
部に形成される低速領域の速度はランプ角の増加とともに減少することがわかる.この低 速領域は,バックステップの後流に位置するため,速度欠損領域となっている.さらに縦 渦の吹き上げ領域であるため,下壁近傍の低速流が吹き上げられることで,縦渦対中央部 には低速領域が形成される.ランプ角の増加とともに速度欠損量が大きくなるのは,ラン プ角の増加とともに膨張ランプで境界層が大きく剥離し,低速の流体を縦渦が吹き上げる ためであると考えられる.このようにランプ角の増加に伴い縦渦対中央部が低速になるた め,ランプ角の増加と共に変動領域の速度uflucは小さくなる.また図5.44(b)より,∂u/∂zも ランプ角の増加に伴い大きくなっていることがわかる.なお,z = 0 mmにおける速度勾配
∂u/∂yのy方向分布でも同様の結果となることを確認している.速度勾配が大きくなれば渦
輪状構造を生成する剪断も強くなるため,強い渦輪状構造が導入されると考えられる.実
際,図5.2 ~ 5.21の図中の(c)に示した変動実効値分布から,ランプ角の増加と共に輝度の変
動実効値が大きくなり,強い渦輪状構造が導入されていると考えられる.
5.5.2 バックステップからの噴射が流れに及ぼす影響
図 5.42より,噴射によって縦渦の循環は増加することがわかる.本章で用いた縦渦デバ イスは第 4 章で用いたものとは異なり,空気・ヘリウムを水平に噴射しているため,噴流 の速度が縦渦の旋回を助ける働きはないはずである.4.2.3 節で示したように,噴射の有無 で縦渦の形成過程に明らかな変化が見られたが,縦渦デバイス直後は非常に複雑な流れ場 で,不明な点が多い.今後,縦渦デバイス近傍を詳細に調べ,縦渦の形成過程や循環の増 加について詳しく調べる必要がある.
図5.27 ~ 図5.32より,4.2.3節で示したように,噴射によって縦渦同士の間隔dが噴射し
ない場合よりも広がって形成されるが,流下に伴って噴射なしの場合との違いがなくなっ ていくことがわかる.図5.45 に噴射条件が異なる場合(図 5.27中の(a)に示した噴射なし,
空気噴射,ヘリウム噴射)のx = 25 mmにおける速度分布および速度勾配分布を示す.図(a) は縦渦中心近傍を通る高さy ≈ 3 mmにおける流れ方向速度のz方向分布,(b)はy ≈ 3 mmに おける速度勾配∂u/∂zのz方向分布である.図5.45(a)より,1 mm ≤ z ≤ 4.5 mmでは噴射なし に比べて,空気噴射の場合は低速の領域が,ヘリウム噴射の場合は高速の領域が形成され ている.これは,空気とヘリウムは音速噴射され,その速度はそれぞれ 310 m/s,860 m/s 程度であるため,主流流速の約480 m/sと比較して空気の場合は低速,ヘリウムは高速で噴 射されていることになり,これらの噴流が縦渦に取り込まれることで縦渦内の流速が低速 側あるいは高速側に引っ張られていると考えられる.この噴射による流速の減少もしくは 増加の影響は下流においても残っていることが図5.27 ~ 図5.32中の(a)に示した速度分布か
射では同程度で,ヘリウム噴射はこれら2つよりも速くなっている.そのため,ヘリウム を噴射した場合には,空気噴射や噴射なしに比べて,変動領域の流れ方向速度uflucは大きく なる.
図5.45(b)から,∂u/∂zの極大値は噴射によりわずかに大きくなるが,その差は小さく,そ
の極大値に空気噴射が及ぼす影響はほとんどない.速度勾配が大きければ強い渦輪状構造 が形成されると考えられるが,図5.2 ~ 5.21の図中の(c)では空気噴射により輝度の変動実効 値が小さくなっており,渦輪が弱くなっていると判断できる(ヘリウム噴射では気体の密 度の違いから判断できなかった).剪断応力は粘性係数と速度勾配積であるため,温度や 濃度の関数である粘性係数が関係することや,速度分布の形状によっても流れの安定性が 異なる可能性があり,今後より詳細に調べる必要がある.
5.5.3 主流マッハ数が流れに及ぼす影響
図5.42より,M∞ = 2.4の方がM∞ = 1.85よりも循環は小さくなっている.このように本研
究で使用したマッハ数の範囲ではマッハ数の増加により,縦渦の循環は減少する.図 5.46 に主流マッハ数が異なる場合(図5.27,5.36中の(a),噴射なし)のx = 25 mmにおける速度 分布および速度勾配分布を示す.図(a)はz = 0 mmにおける流れ方向速度のy方向分布,(b) はy ≈ 3 mmにおける速度勾配∂u/∂zのz方向分布である.図5.46(a)から,M∞ = 2.4の方がM∞
= 1.85よりも主流流速が増加したことで,全域で流速が増している.このようにM∞ = 2.4
はM∞ = 1.85に比べて循環が減少し,変動領域の流れ方向速度uflucが増加する(M∞ = 1.85の
場合約400 m/s,M∞ = 2.4の場合約500 m/s)ために変動領域の拡大率は大幅に減少している.
また,図5.46(b)より∂u/∂zは主流マッハ数の増加により小さくなっており,速度勾配が小さ
くなることで剪断応力が減少し,導入される渦輪状構造が弱くなると考えられる.実際,
図5.2 ~ 5.21の図中の(c)に示した輝度の変動実効値はマッハ数の増加により大幅に小さくな
っていることから,渦輪状構造が弱いことがわかる.また,主流マッハ数が増加すると気 流の温度が低下するため,粘性係数が小さくなり,剪断応力も低下するはずである.その ため,主流マッハ数の増加により渦輪状構造が弱くなるという結果は,粘性係数の減少も 原因として考えられる.
5.5.4 壁面粗度が流れに及ぼす影響
図 5.42より循環値は表面粗度の有無で大きな違いがないことがわかる.すなわち,デバ
イスに流入する境界層の状態は循環値に大きな影響を及ぼさない.図 5.47に流入する境界 層が異なる場合(図5.27,5.39中の(a),噴射なし)のx = 25 mmにおける速度分布および速 度勾配分布を示す.図(a)はz = 0 mmにおける流れ方向速度のy方向分布,(b)はy ≈ 3 mmに おける速度勾配∂u/∂zのz方向分布である.図5.47(a)より,縦渦対中央部の低速領域の流速 は粗度の導入(乱流境界層のデバイスへの流入)により減少している.これは境界層が厚 くなったため縦渦が低速の流体を巻き込みやすくなったと考えられる.一方,低速領域の 流速と主流流速の平均として定義した変動領域の流れ方向速度 uflucは粗度の有無でほとん ど変化しておらず,循環にも大きな違いがなかったことから粗度の有無では拡大率に大き な違いは表れなかったものと考えられる.図5.47(b)より,∂u/∂zは粗度の導入により若干大 きくなっており,速度勾配が大きくなることで剪断応力が増加し,導入される渦輪状構造 は強くなると考えられる.しかし,図5.2 ~ 5.21の図中の(c)から,粗度の導入により輝度の 変動実効値は若干大きくなっているか,もしくは同じ程度に見えることから,渦輪状構造 の強さは大きく違わないといえる.